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青色LED裁判を終えた今、Tech総研読者へメッセージを送る 緊急取材 中村修二氏が語る 「エンジニアはジャパニーズドリームを見よ」 中村修二氏
青色発光ダイオード(青色LED)の発明対価を巡る裁判が、東京高裁の和解勧告により終了した。604億円という一審の判決から1年、和解額は一転して約6億800万円となった。裁判を終えた中村修二氏が今、エンジニアに向けて語る。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ) 作成日:05.02.02
中 村修二氏と日亜化学工業との間で争われていた「発明の対価」が、2005年1月11日に和解という形で決着した。控訴審である東京高裁の和解勧告の金額は6億857万円。昨年1月の東京地裁が下した604億円からは、約100分の1という激減である。しかも、この金額は主たる争点であった青色LEDのみならず、中村氏が日亜化学工業(以下日亜)時代にかかわった発明、特許、ノウハウのすべての対価を含んだもの。これにより、足かけ4年におよぶ裁判は完全に終わったのである。
 しかし、中村氏が和解翌日の記者会見で「日本の司法制度は腐っている」と発言したのはまだ記憶に新しいところ。和解には納得していないし、大いに不満があるという。Tech総研では緊急取材を敢行した。中村修二氏が今、エンジニアに向けてメッセージを送る。
01 「準備書面」を読んでもらえればすべてがわかる
――和解後の記者会見では「最高裁で争っても勝つ確率がほとんどゼロ。仕方なく和解した」とおっしゃっていました。二審で勝訴する自信はどのくらいありましたか?
 1000:1の確率で間違いないと信じていました。なぜなら、高裁での日亜側の主張は、地裁のものとほとんど同じだったのです。つまり、一審を覆すだけの証拠や論拠がないわけです。
  また、東京高裁に対する青色LEDの技術説明会が、12月14日に行われました。私と日亜の双方が説明をしましたが、日亜側は裁判官からの質問に困惑している様子も見られ、技術を立証できる能力の差も伝わったと実感しました。
  和解どころか、完全な勝訴だという確信があったのです。
―― 一審判決の後、「青色LEDの404特許には代替技術がある」「ツーフロー方式には先例があった」などと語る人も現れました。
 よからぬうわさを流した人がいるのでしょう。私が裁判所に出した準備書面を読んでください。普通に読んで理解してもらえれば、私の主張が正しいとわかるはずです。ただ、1000ページ以上あるので大変ですけど(笑)。
――準備書面とはどのようなものですか? われわれも読めるものですか?
 準備書面とは被告と原告の双方が裁判所に提出する書類で、これに基づいて裁判官が審理を行います。裁判所でだれでも閲覧できます。私が記者会見で「裁判官は用意した書類を読んでいない」と言ったのは、この行為がなされていないと思ったからです。
中村修二氏
米国カリフォルニア大学
サンタバーバラ校
材料物性工学部教授

中村修二氏

1954年生まれ。79年に徳島大学工学部電子工学科修士課程修了。日亜化学工業株式会社へ入社。93年に世界初の高輝度青色発光ダイオードの実用製品化に成功。95年に青色半導体レーザーの室温発光に成功。99年に同社を退社し、2000年2月より現職。『成果を生み出す非常識な仕事術』(メディアファクトリー)など著書多数。
02 貢献度は5%というが計算ではわずか0.1%
――前回の一審では貢献度が50%という判断でしたが、今回は5%とかなり低い評価です。ほかの特許裁判で貢献度を5%とした判例もあり、今後は「上限5%」が定着するという見方もあります。
 残念ながら5%もないのです。一般的に発明対価の金額は、超過利益×発明者の貢献度で算出されます。超過利益は簡単にいえば、「職務発明が生んだ通常の利益分を超えた企業の利益」で、一審では日亜の超過利益が約1200億円、私の404特許への貢献度が50%で600億円となりました。この1200億円は2003年までのことで、2004年を含めると2000億円になる計算です。しかし東京高裁の算定では、すべての職務発明による超過利益が120億円でした。理由はわかりません。
――120億円×5%で算出された対価が約6億円なのですね。
 そのようです。仮に404特許だけの対価を3分の1の2億円として(日亜側は1000万円程度と推測)、超過利益を2000億円とすれば、貢献度はわずか0.1%です。私の貢献度は5%となっていますが、大きな間違いなのです。
  そもそも、日亜くらいの儲け方をしないと超過利益は出ません。一般的な特許では超過利益は出ないか少ないので、対価の金額はどうしても低くなります。一審の600億円という数字に日本の多くの企業は反感をもったようですが、この発明自体がかなりのレアケースなのです。
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  毎朝7時には大学に到着しているという中村氏   緑と花が多く広々としているUCSBのキャンパス
03 一般的な日本のエンジニアの意見が聞きたい
――今のお話にありました産業界の反応をどう思いますか?
 裁判所が審理の参考にと、有識者に話を聞く場合があります。多くの場合は企業の偉い人ではないですか? そうであれば裁判に不利になったかもしれません。私は日本の普通のエンジニアや、一般的な会社員のためにこの裁判を起こしました。結果を出しても報われない環境を変えたかったからです。
 ですから私は、エンジニアや会社員の声が聞きたい。特に同胞であり同じ苦労をしている日本のエンジニアです。本当は、裁判官個人が判断する日本のやり方ではなく、アメリカの陪審員制度のように一般の人の意見を取り入れた、「世論の判決」にしてほしかった。
――エンジニアの関心のひとつに、この4月から施行される改正特許法35条があります。職務発明についての契約を労使間で事前に結ぶという趣旨です。
 エンジニアの立場を変えるものとは思いません。日本では社員は企業に尽くすという、滅私奉公の精神が抜けきれてないでしょう。対等の立場で話し合いができるとは思えない。これは、技術者や研究者が、退社後に特許裁判を起こしていることからもわかります。エンジニアに不利な状況は続くでしょう。
04 ほかの分野と比べたらエンジニアの地位はまだまだ低い
――この裁判をきっかけに多くの技術者や研究者が特許裁判を起こし、発明報奨金の上限を引き上げる企業が続出しました。エンジニアにとっては朗報です。
 非常に大きな意義を感じています。報奨金を天井知らずにした企業もあり、裁判を始めてよかったと思っています。ただ、高裁の判断はこの動きに逆行するもので、「もらっても6億円止まり」になりそうです。それはとても残念です。
――普通のエンジニアからすれば6億円は大きいですよ(笑)。
 そうでしょうか。エンジニアが一生を掛けて、どれほど素晴らしい発明をしても6億円ですよ。スポーツや芸能の一流プレーヤーなら年俸で6億円でしょう。エンジニアの地位は多少上がりましたが、ほかの分野と比べたらまだまだ差があるというのが実感です。
  私は仕事の評価はお金だと思っています。もちろん人間の評価は全く別で、素晴らしいスキルをもった人が進んでボランティアに参加しているケースもあります。しかし、生活のためにする仕事の評価は、金額だと思うのです。私が一貫して主張してきたのは、「きちんと評価をしてほしい」ということです。
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  UCSBは海沿いの断崖にあり、眺望が素晴らしい   リゾート地でもある気候が温暖なサンタバーバラ
05 ジャパニーズドリームが見られる企業に転職すべきだ
――望んだ結果ではないにせよ、裁判は終わりました。
 アメリカでの裁判も終わりましたから、日米でのすべての裁判が決着しました。このためにかなりの時間とエネルギーを取られていましたから、正直なところ気が楽になったという気持ちです。これからは本来の研究に没頭できます。新しい材料の研究を始めたいと思っています。
―― 一応お聞きしますが(笑)、将来日本で働く考えはありますか?
 それは絶対にありません。私は日本の文化を愛していますし、食事も和食です。アメリカでも日本人として生きているつもりです。たまに里帰りをしたり、リタイア後は日本に帰ってのんびりするかもしれません。ただ、日本で仕事をすることはありません。
――中村さんの裁判は、日本中のエンジニアが注目していたと思います。そんなエンジニアにエールをお願いします。
 きちんと評価をする企業で、好きな仕事をしてほしい。今の勤め先で無理ならば、それができる企業への転職を考えてほしい。
 また、研究・開発職の人であれば、報奨金の上限を撤廃した企業に行ってほしい。なぜなら、優秀な人材がそんな企業にこぞって転職すれば、ほかの企業も上限を上げざるを得なくなり、日本の企業全体で発明や特許への評価が高くなるからです。そして、エンジニアの報酬が上がるという相乗効果が生まれます。もちろん報酬だけで決めるべきではありませんが、ジャパニーズドリームの見られる企業で働いてほしいと思います。
 私の裁判は終わりましたが、この裁判を契機にして多くの人が動き、日本の企業とエンジニアが変わっていけば、この4年間の意味は十分にあったと思います。
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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中村先生が住むサンタバーバラは、清潔で、こぢんまりとしていて、海が近く、魚料理がおいしい街です。そんな街の中心部から、車で30分ほどの場所にUCSBがあります。裁判が終わり、こんな充実した環境の中で研究に打ち込める中村先生を考えると、確かに日本に戻るメリットはないかもしれません。本当にお疲れさまでした。
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