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半導体製造のコア技術を武器に企業を転々

自分の責任でできる仕事にたどり着いたT・Kさん(40歳)

短期間での内定獲得や引き抜きなど一見、順調にステップアップしてきたかに見えるT・Kさん。しかし、納得して働いている現在の企業にたどり着くまでには、市況の変化、揺らぐ上昇志向、入社時の約束と異なる業務、過労による入院と、苦難続きだった。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田せいめい)作成日:05.01.26

プロローグ編
思わぬ事態で、突然リストラされてしまった!

半導体製造のコア技術を身につけられた

 A社は半導体の分野では名の通った企業だ。装置産業と呼ばれる半導体業界の中にあって、LSIの集積度を決定する最も重要な装置の開発メーカーだったからである。そこでプロセスエンジニアとして10年近く働いてきた。そのおかげでプロセスに関する幅広い技術に加え、前工程に必要な製造装置全般の知識を身につけることができた。さらに国外ユーザー対応のために何度も海外出張しなければならなかったため、仕事を通じて語学力を磨くこともできた。

 ところが、これから半導体業界の中で存分に活躍していこうと考えていた矢先、突然リストラされてしまった。好不調の波が激しい半導体業界特有の状況のせいではない。日本の半導体大手が一斉にメモリから手を引き、A社自体の売り上げが大幅に落ち込んだことが原因だった。

リストラに落ち込む間もなく、次の企業へ

 それでもA社で市場価値の高い技術を身につけたかいあって、次の会社はすぐに決まった。外資系の半導体製造装置メーカーB社である。B社の製品は世界的にも知られ、12インチサイズのウエハに対応した製品をいち早く開発していた。私はそこでプロジェクトリーダーを任された。新たに12インチウエハ対応の製造ラインを組み上げようとする半導体メーカーに対し、B社の製造装置を提案し、導入の際にはさまざまな技術支援を行っていくという仕事内容だった。

 今までのスキルを存分に生かせることができ、仕事も評価も上々だった。海外の製品開発エンジニアと技術的な協議を行い、自分の意見もかなり製品づくりに反映された。何より、自分の考えで、導入の際の概要設計や顧客対応の指針が決定でき、一から十まで任せてくれたことがうれしかった。
PROFILE
半導体製造装置メーカー
技術コンサルタント
T・Kさん(40歳)

1988年に国立大の工学部を卒業。世界的に知られる半導体製造装置メーカーに10年近く在籍し、プロセスエンジニアとして半導体製造の前工程に関する幅広い技術スキルを磨く。
T・Kさんの転職活動DATA
前勤務先 半導体メーカー
プロセスエンジニア
転職した時期 2002年 5月
活動期間
(決意〜内定)
約3週間
転職理由 徹夜続きの激務から逃れ、体調を整えて仕事に臨みたい
会社選びで優先したこと 仕事内容、企業風土
実際に応募した社数 1社
内定社数 1社
落ちた社数 0社
辞退した社数 0社

応募からの日数
書類選考
4日
1次面接
7日
2次面接
9日
3次面接
11日
4次面接
14日
(内定)

キッカケ編
プロセスをやりたい!しかし現実は……

かつての顧客からの誘い

 B社でリストラショックも忘れて仕事に没頭していたある日、同業の知人D氏と遭遇した。この世界は狭いと今でも感じることがある。最先端の半導体製造技術を追いかけている企業に所属していると、意外なところで旧知と再会することが多いが、D氏もまた、以前勤めていたところの同僚だった。

 その彼は、私がB社にいることを惜しんだ。「プロセス技術を生かしていないのはもったいない」と。そう、B社の製品は半導体製造の前工程において、プロセスに直接は関与しない製品だったのである。実はうすうす、自分でもこのままでいいのかと思っていた。確かにB社は居心地がよいが、エンジニアとして刺激的な局面は少ない。何よりプロセスエンジニアと語れる仕事ではない。「ウチに来ないか?」。そう言ってくれたD氏の言葉は渡りに舟のように思えた。「英文のレジュメを書いてほしい。米国本部に持っていくから」。彼に言われるままに自分の身が大きな流れに乗りだしたのを感じた。

えっ、話が違う……

 彼から誘いがあって内定に至るまで3カ月とかからなかった。B社には本当にお世話になった。少々申し訳ない気もしたが、今度は念願のプロセスにかかわれる。エンジニアとして着実なステップアップだ。

 ブランクを置かず、すぐにC社に入社した。肩書はプロセスエンジニア。しかし、入社早々に直属上司は申し訳なさそうに次のように言った。「今は猫の手を借りたいぐらい忙しい、そこで当初は装置類のサポートをお願いできないか」。新入社員なので仕方がない。いずれ新しいプロセスの開発を任されるだろうと踏んで、手慣れた製造装置のメンテナンスに没頭した。

 ところがいつまでたっても装置サポートばかりやらされた。工場は24時間稼働。いつ不具合が起きるかわからない。複数の工程をつきっきりで担当した。一時帰宅しても、装置の具合が悪いと、突然電話がかかってくる。休日も同様だ。ラインがストップしたら大損害になる。急いで駆けつけなければならない。半年ぐらい、そんな1日20時間の勤務が続いた。ある朝、起きると体が言うことを聞かなくなっていた。金縛りにあったみたいで、無理やり立ち上がるとめまいがする。医者に直行すると疲労およびストレスによる自律神経失調症と診断された。

失態を自分のせいに……

 6カ月ほど休職しなければならなかった。それでも何とか回復し、職場に復帰すると、大変な事態が持ち上がっていた。ラインの混乱はいっそうひどくなっており、稼働率が極端に低下。そして、その原因を私のミスにされていたのだった。

 もう我慢ができない。ただでさえ、このまま続けていると病気が再発すると思っていたうえに、稼働状況の悪化をすべて自分に押し付けられたのではたまらない。翌日、辞表を提出した。
転職活動編
本当にやりたいことは?
失敗を繰り返さないために

 辞表を提出し、すぐに人材紹介のエージェントに登録した。日を空けず、すぐにレスポンスが届いた。今度も外資系ながら日本に進出して日が浅い半導体製造装置メーカーE社だった。同社から、B社と同様のプロジェクトマネジャーを期待されていると聞いて、興味をもった。そして履歴書と職務関連の資料をエージェントに送ったところ、四度の面接(電話ミーティング含む)を経てわずか2週間で採用となった。

 今度は失敗したくないだけに、業務内容、自分に対する評価、事業の状況、社風などを詳しく聞くことにした。まずA社でリストラされた経験から、日本市場参入に対するスタンスと人材観、さらに半導体業界特有の景気の波への対処についてうかがう。それによると、何より社員を大切にするポリシーだそうで、市場の好不調の波は外注化や代理店の活用で切り抜けるという。また、日本市場はグローバル戦略の中でも重要なポイントに位置付けているから、長期的な視野で定着を図っているそうだ。それを聞いて、日本市場進出に万が一失敗しても、この会社なら欧米市場で活躍の場を与えてくれそうだと考えた。

 次に自分のミッションについて、あたかも契約事項の確認かのように詰めた。それによると、技術サポートのマネジャー職として、D社製品の採用を検討する顧客に向けた導入コンサルタントを任せたいらしい。話が進むうちに自分のすべきことが明快で、かつやりがいに満ちたもののように見えてきた。
 結論としては、自分でもやってみたい仕事だと思い、オファーに対して快諾した。甘い誘惑による引き抜きではないだけに、こちらも慎重に対応することができたと思う。

「自分で責任を負える仕事」がベストだった

 今、面接での言葉にうそはなく、プロジェクトマネジャーとして多忙な日を送っている。だが、C社のときのようなストレスがたまるようなものではない。自分で考え、周囲と相談して決めたことを自分で実行していくのは、大変ながらもやりがいに満ちたものだ。ラボラトリーの開設も任され、仕様書やマニュアルも自分で整備するなど、仕事の中身は濃く、高度な知識が要求される。そう、私は自分が決めて、自分で責任をもってやり遂げる仕事が性に合っていたのである。B社のときもそうだった。プロセスとは少し離れたが、もう迷っていない。今の会社でどこまでやれるか自分でもワクワクしている。
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