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国内IT→米国ネットワーク、国内SI→台湾日系SI /海外転職エンジニアが得たもの・失ったもの
技術は万国共通のプロトコル──。そんな技術を追求するエンジニアの仕事において、海外との関係は非常に密接だ。海外に活躍場所を求めて転職したエンジニアの実態を紹介する。働くフィールドを海外まで広げて、将来の夢やキャリアを考えてみてはどうだろうか。
(取材・文・撮影/田中裕美、石野真理、片倉佳史 総研スタッフ/関洋子) 作成日:05.1.19 
実例:海外に転職したエンジニアたち
 エンジニアの中には、世界を舞台に活躍したいと思っている人も少なくないはず。そしてこれを実現する第一歩が、海外転職ともいえる。では実際に海外転職したエンジニアたちは、どんなスキル・経験を生かし、現地でどんな活躍をしているのだろうか。見ていこう。
Case 1/米国へ転職 英語と技術力を生かして、自らのスペシャリティを確立
●元上司への意思表明がアメリカ転籍のきっかけ
 大手IT企業でSEとして順調にキャリアを進めていた村上さんが、転職を意識し始めたのは、社内で部門の切り売りが始まった2000年ごろ。自分の所属していた部署も、米国企業と合併することになったからだ。転籍先のPinacle Systems社では日本法人立ち上げにテクニカルサポートマネジャーとして参加。「十数人の会社では、担当部署以外の仕事も幅広くこなしていく必要があったので、貴重な経験でした」と村上さん。

 しかし長時間労働は続き、また家庭では第1子が誕生。もう少し違った働き方ができないか?と考え始めた。そんなとき米国へ出張した際、前職での元上司と会う機会があった。
「英語ができて技術もわかる自分は今、市場価値もあるのではないか?」──。そういう気持ちを転職の意思とともに伝え、米国でのチャンスをうかがった。すると帰国後、「担当プロジェクトを終えれば」の条件付きで、1年後には米国本社での採用が決まった。
●日米のサービスに対するとらえ方の違いに奮闘中
 本社ではプロダクトマネジャーとして、日本向け製品づくりへのインプットを期待されての転職だった。しかし入社した年に9.11テロが起こり、その後の米国経済の落ち込みは、同社の経営にも影響を及ぼし、給与カット、人員整理など、職場の様子は急激に変わった。
「米国に3年はいる決意だったのと、幸い転職可能なH1ビザを持っていたので、早速レジュメを企業へ送ったり、知人へ紹介を頼んだりなどして、数社面接を受けました」と村上さん。

 すると「前職場での同僚が“日本語ができる人を探している”と現在の会社を紹介してくれた」という。「ストレージ業界は今後需要が伸びる」という読みと「日米間のビジネスにセンスある会社」の2点が決め手となり、オファーを受けた。ポジションや給与レベルには多少不満を感じたが、自分のスキル向上の場として価値があると判断した。

 現在の仕事は日米両方の顧客サポート。しかしサービスで求められる質もレベルも日米では違いが大きい。
村上宗隆さん
村上宗隆さん(37歳)
Network Appliance,Inc.
テクニカルサポートエンジニア。

米国の大学に2年間留学した後、日本の大学を卒業。横河ヒューレッド・パッ カードへ入社し、SEとして9年間勤めた 後、他社との合併によりPinacle Systems社へ転籍。1年後には米国本社 勤務するも、9.11テロ以降同社の業績 の低下により、転職活動開始。2002年 よりNetwork Appliance社にて勤務。
週末の早朝はテニスサークルに参加。 社外での貴重な情報交換の場
週末の早朝はテニスサークルに参加。 社外での貴重な情報交換の場
「日本とのビジネスにはきめ細やかなサービスが不可欠ですが、それは数字では表しにくく、評価されにくい部分でもあります。米国企業は徹底的に合理主義。常に数字で結果を求めてくるので、そのギャップをどう埋めるかがいつもジレンマ。日米双方の妥協点を見つけていくことが、この仕事の面白みともいえますね」

「シリコンバレーには本当に優秀な人たちが世界中から集まっていて刺激になる」と村上さん。 「日本にいるエンジニアにも、ぜひ、積極的にチャレンジしてほしいです」。
★村上さんが海外転職で得たもの
グローバル市場に向けた製品&サービス提供に携われるダイナミックな環境
アメリカでのビジネス経験、英語でのコミュニケーションスキル
大変優秀で技術力のある人たちと、共に働ける環境(刺激を受け、勉強になる)
★村上さんが海外転職で失ったもの
昇進機会の取得(米国人と同等ではない)
現地採用と生活費アップにより、可処分所得ダウン
都会の生活(飲みに行く場所など)
他部署との接触や交流などの人的ネットワーク
■Network Appliance社 会社概要
1992年設立。ストレージ・ソリューション分野のリーディング・カンパニー。データ・アクセスとコンテンツ管理に特化し、ネットワーク・ファイル・サーバーとキャッシュの分野でデータ・アクセス・ソリューションを提供する。Nasdaq100指数の指標銘柄にも選定されている。
Case 2/台湾へ転職 海外で働くという夢を実現。日本人ひとりという環境で奮闘する日々
●結婚を機に海外転職を実現
 日立製作所の台湾現地法人に勤務する倉前さん。日本ではソフトウェア会社から日立製作所に出向し、SEとして活躍していた。「いつかは海外で働いてみたい」と夢を抱いていた倉前さんだが、台湾人女性との結婚を機にそれを実現させた。

「まずは中国語の勉強から始めなくちゃいけないなと考えていた」という倉前さん。しかし、就職活動を始めてみると、あっという間に現在の会社へ就職が決まった。語学力ではなく、日本での経験と技術力が買われたのである。そして、目下の課題は中国語力のアップ。
「社内では中国語で会話しますので、辞書を片手に働く毎日です」

 海外転職について振り返ってもらうと、「言葉ができないからとしり込みするよりも、海外に出て挑戦したいという気持ちが強かったですね。日本では方向性を見失ってしまう人も少なくないようですが、私の場合、一歩前へ出て正解でした」という言葉が返ってきた。最初はだれもがゼロからのスタート。一歩を踏み出す勇気がキャリアアップへとつながったのだ。
●周囲の期待が自らの成長を促している
 現在、倉前さんはATMの開発と部品発注、修繕の管理を担当し、台湾人が不得意とする解析の仕事もこなす。社内では管理職以外、現地採用の日本人はただひとり。周囲からの注目度も当然ながら高い。しかし、このプレッシャーも「心地よい緊張感となって気が引き締まります」とのこと。頼りにされているという実感が、自らの成長を促す。これには日本でも台湾でも違いはない。

 もちろん、日本と台湾では仕事の進め方は異なる。スピードを重視し、無駄のない台湾人の仕事ぶり。これには倉前さんも感心させられることがあるという。
 また、「仕事とプライベートをきちんと分けるスタイルも日本人が見習うべき点」ではないかと語る。倉前さん自身、奥さんと過ごせる時間は確実に長くなった。週末は郊外へ出かけたり、ナイトマーケットを巡って食べ歩きをしたりと日常生活も充実。

倉前洋介さん
倉前洋介さん(26歳)
金融端末本部ATM部
技術主任

1978年生まれ。日本でソフトウェア会社に4年間SEとして勤務した後、結婚を機に台湾へ。
2004年9月、パソナアジアの紹介を
経て、に転職。
趣味はサーフィンとグルメ探索。目標はサーフィンで台湾全土の海を制覇すること。
サーフィンを通じて知り合った現地の 仲間たち。「遊びも充実しています」
サーフィンを通じて知り合った現地の 仲間たち。「遊びも充実しています」
「台湾暮らしを存分に楽しんでいますよ」と語る倉前さんの表情からは、大きな充足感が伝わってきた。
★倉前さんが海外転職で得たもの
唯一の日本人としての期待によるやりがいと心地よい緊張感
オンオフを明確に分けることで得られる充実したプライベートライフ
★倉前さんが海外転職で失ったもの
両親や友人とのひんぱんなネットワーク

1983年設立。88年に日立から15%出資を受け、96年に100%資本会社となって現在に至る。現在、台湾の銀行における通帳記帳システムの80%のシェアを誇る。台北本社のほか、台中と高雄の両都市に支社を持つ。また、在台日系企業のITパートナーとして、サポート事業においても高い評価を得ている。
日本人エンジニアたちの海外転職の実情
米国への転職は厳しい?
「海外で働きたい」──。そう考えるエンジニアは多いだろう。しかし現実に、先の事例のように海外に転職する日本人エンジニアは増えているのだろうか。

 米国で働きたい日本人の支援を目的に設立されたCHALLENGEUSAの高山敬史氏によると
「1998〜2001年(9.11同時多発テロ以前)に比べると、日本人エンジニアの米国への転職志向は、減少傾向にあるように見受けられます」とのこと。同じく米国のエンジニアリング専門人材コンサルタントであるTWI InfoTechの高津眞氏は「海外転職、特に米国への転職を希望するエンジニアは増えているが、非常に狭き門になっている」という。

 だからといってあきらめるのはまだ早い。高山氏、高津氏とも「機械系は米国では人不足。というのも米国の大学ではコンピュータサイエンスに人が流れ、機械系が減っていたからです。もうひとつの理由が、自動車関連など日系の機械系メーカーが米国に進出したこと。メーカーが進出すると、その関連の日系部品メーカーも続々と進出するからです。しかも、日本はこの分野に強い。したがって、日本の機械系エンジニアはチャンスがあるでしょう」と語る。

 またバブル以降低迷気味だった米国IT業界も、2004年度ぐらいから徐々に回復傾向が見られるというが、IT系の人材の転職事情はかなり厳しいという。もしITエンジニアが米国転職を考えるなら、「日本語を生かせる職場、例えば日系企業を顧客にしている企業や日本に子会社などがあり、日本語化(2バイト処理)が必要な企業などが狙い目」(高山氏)だという。
ビジネスレベルの英語力は必須
 気になる英語力についてだが、エンジニアといえども「ビジネスレベル(目安はTOEIC800点以上)は必要」だと高山氏。高津氏も「以前より、求められる英語力は高くなっている」という。というのも日系企業が米国にどんどん進出していた時代は、日本とのコミュニケーションを重視していたため、英語でのコミュニケーション力はそれほど求められなかった。しかし現在は、「日系企業とはいえ、現地(地元)の企業に入り込むビジネスをしなければならない。そこで現地の人たちと意思疎通し、商売できる人が求められているから」(高津氏)という。
アジア圏では日本人エンジニアが求められている
 アジア圏への海外転職の実情について、国際間での人材紹介を行っているパソナグローバル・代表取締役社長、畑伴子氏に話を伺った。
「金型や半導体、家電、電子部品など、さまざまな分野で日本人エンジニアを求めています。特に技術を指導する立場の人を求めているので、シニアの方にもチャンスがありますね」

 IT系においては、現在、中国が強いので日本人エンジニアのニーズはないかと考えられがちだが、「製造業向けのERPやMRPなど、業務に強いエンジニアであれば若手にもチャンスがある」と畑氏。むしろアジア圏においては、日本人エンジニアの需要に比べて、供給が少ないのが現状だ。もちろん、アジア圏においても、米国への転職ほどではないかもしれないが、英語力(もしくは中国語)は必須となる。

 アジア圏への転職の魅力は「最先端の技術には携われないことも多いが、自己の裁量範囲は広くなります。責任も重くなりますが、やった結果が自分の評価として返ってくる。やりがいがあるでしょう」(畑氏)。

 現地採用の場合、年収は低くなるが、「現地の物価水準も低いので、生活にゆとりはあるようです。また日系企業などでは最近、現地採用ではなく本社契約も増えています。そのような転職なら、国内と同等レベルの給与も期待できます」と畑氏は語る。
海外転職を成功に導く3つのポイント
 海外転職の最大の課題は、ビザの問題をいかにクリアするか。米国やアジアで働く場合、ワーキングビザが必要となる。つまりそれをスポンサードしてくれる企業を見つけなければならないのだ。そのため、第一の狙い目は日系企業だという。現地企業の場合は、かなり高い(特殊)スキルをもっている場合でないと、ビザをスポンサードしてくれる可能性は極めて低いという。

 次に現地を訪ねて転職活動をすること。遊びでもいいので、必ず1週間以上は現地に滞在し、「この地で働くんだ」というイメージをつかむこと。また現地の人たちとコミュニケーションをとることも重要だ。

 第三に面接の場面で、自分のやりたいことを明確に言えること。「これもできる、あれもできる」というのはNGだ。またレジュメも日本のようにフォーマットが決まっていない。したがって上から3分の1までで、関心を引けるかどうかが勝負だという。

 海外転職は決して、やさしいものではない。しかし海外で働きたいという気持ちがあり、それに向けて努力をしているなら必ずチャンスはある。「ここで働く」という強い気持ちをもつこと。それが海外転職を実現する最も重要なポイントではないだろうか。
高山敬史氏
CHALLENGEUSA, INC.
PRESIDENT
高山敬史氏

東京理科大学理学部数学科卒業後、A&A JAPAN(現RADIO SHACK JAPAN)に就職。1997年、Webサイト「challengeusa.com」を開設。米国に渡り、99年にCHALLENGEUSAを設立。米国で働きたい日本人の支援を行う。
高津 眞氏
TWI InfoTech, Inc.
高津 眞氏

日本で7年間、メカトロ系のエンジニアとして設計に携わる。その後米国に渡り、15年間システムのセールスを行う。2002年、TWI InfoTechを設立。現在は主に日系 企業向けに技術者を中心とした人材紹介を行う。
畑 伴子氏
株式会社パソナグローバル
代表取締役社長
畑 伴子氏

大学を卒業後、12年間、航空会社に勤務。1995年上海に渡る。97年、パソナ上海の立ち上げに参加。2000年、パソナアジア東京支社長に就任。 2004年12月、パソナグ ローバルに組織変更。代表取締役に就任する。
 
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
今回は海外転職といっても米国とアジアの転職事情となってしまいました。機会があれば、ヨーロッパの事情も探ってみたいと思います。みなさんは、どんな国の転職事情に興味がありますか?

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