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人に優しく!バリアフリーソフトを作る仕事
障害者が、より快適にパソコンやインターネットを利用できる「バリアフリーソフト」。例えば全盲や弱視などの視覚障害者のためのソフトだ。ネットが社会インフラとして欠かせないものになるのに従い、障害者の社会参加の側面からも、ますます注目を集めている。果たして、バリアフリーのソフト開発は、エンジニアにとってどんな醍醐味があるのだろうか。
(文/大河原克行 総研スタッフ/根村かやの イラスト/大寺聡) 作成日:04.12.15
Part1:“必要とされる商品”を作る喜び
障害者の社会参加を支援するバリアフリーソフト
 いまやわれわれが社会生活を送るうえで、ITが欠かすことができないツールになっているのは、多くの人に共通した認識だろう。特にインターネットは、生活のさまざまな局面で有効なツールと位置づけられている。
 だが、残念ながら、ITは健常者にとっては使いやすくとも、視覚、聴覚、身体不自由などの障害者には、まだまだ使いにくいツールの域を抜け出ていない。
 インターネットに関しても、健常者より、むしろ障害者こそメリットが享受できる部分が多く、障害者の積極的な社会参加をもたらすきっかけになっている。それにもかかわらず、バリアフリーという観点からすれば、ユーザーインターフェースひとつとっても、改善の余地はあまりにも多いといわざるを得ない。
トレンドに左右されないモノづくりが評価される
 こうした問題解決に乗り出しているエンジニアたちがいる。
 バリアフリーあるいはアクセシブル、ユーザブルといわれる環境を実現するソフトやツール、技術を開発しているエンジニアたちである。
 彼らは、障害者の社会参加を支援する方法のひとつとして、ソフト、ツールを開発するという形でのエンジニアとしての活躍の場があると確信している。
 一般的に、コンシューマ向けの製品は、出荷数量やシェアといった点で評価を受けやすい。だが、バリアフリーソフトの場合、一部の限られた市場に向けて出荷されるものであり、その時々のトレンドには左右されない、しっかりしたモノづくりが評価の対象となる分野である。
 この分野で活躍するエンジニアに聞くと、共通した指摘として挙がってくるのが、ユーザーからの反応の早さである。製品に対する手厳しい意見、利用した感想、そして感謝の意見、それがすぐに開発者の元に跳ね返ってくるという。
 そこにもエンジニアとしてのやりがいと醍醐味があると、彼らは異口同音に話す。
Part2:「バリアフリーソフト」を作るエンジニアたち
視覚障害者の立場で開発するバリアフリーソフト 株式会社アメディア「ボイスサーフィン」
 視覚障害者向けパソコンソフトを開発しているアメディアは、創業者であり開発の中心となっている望月優社長自身が、視覚障害者だ。そのため、まさに、視覚障害者の立場でのソフト開発が行われているのが特色である。

 望月社長は、かつて高校で非常勤講師を務めていた際に、初めて日本語ワープロに出合い、視覚障害者のIT利用に大きな可能性を感じたという。
「視覚障害者にとって、ワープロが使えるということは、晴眼者(見える人)が、文章を清書できるというレベルとは比較にならないほどの大きな意味がある。視覚障害者が社会参加できるようになる革命的なツールだと感じました」
 望月社長がソフト開発のために会社を設立したのも、この感動がきっかけだった。いまアメディアは、バリアフリーソフトの独立系ソフトメーカーとしてはリーダー的役割を果たすまでに成長している。

 1989年の会社設立後、まず市場に投入したのはスキャナーとの連動で活字印刷物を読み上げるパソコンソフト「ヨメール」。これを専用機化した「よむべえ」を昨年8月から発売し、パソコンの知識がない人にも簡単に使える環境を提供した。
 一方、99年からはインターネット時代の到来に合わせて、サイトに表示された文字を読み上げる音声ブラウザ「ボイスサーフィン」を製品化。今年11月1日に発売したばかりの最新バージョン「ボイスサーフィンVer.3」では、本当に読みたいところを探すことができ、行きたいリンク先もすぐに検索できる機能を搭載した。
株式会社アメディア 代表取締役望月優 氏
柔軟な発想を製品につなげる技術力
「健常者は、既存の製品の延長線上で、障害者向けの製品を作ろうとする。だが、これでは、障害者が使いやすいものは提供できない」と望月社長は話す。
 同社には、バリアフリーソフトの企画提案が持ち込まれることが多い。だが、持ち込まれた企画は、すべて晴眼者の立場から、“きっと視覚障害者が使いやすいだろう”という発想で企画されたものであり、視覚障害者にとって決して使いやすいものばかりではなかったという。

「例えば、当社の製品はキーを2回押さないと目的の機能が実行されない。これは、視覚障害者が目的の機能に適切なキーを押しているかどうかを確認するための操作体系。こうした仕様は健常者には不要ですが、視覚障害者には必要不可欠となります」(望月社長)
 このような、既存の延長線上ではない発想に加えて、それを製品として実現するには技術力が求められる。「健常者向けのソフト開発では、OSのコンポーネントが利用できることもあると思いますが、それを自作していくような作業がバリアフリーソフトの開発です。エンジニアに対しては、システムの深い階層に関する知識や技術力を求めることになります」と望月社長が言うのもうなずける。
ユーザーの近さが「やりがい」に
「一般のソフトに比べて、バリアフリーソフトは、ユーザーからの意見がすぐにフィードバックされる傾向が強い。その点でやりがいがある仕事」と望月社長は話す。続けて、「これこそがバリアフリーソフト開発の醍醐味です」と話す。

 いま、オンラインショッピングが世の中に定着しつつある。「視覚障害者にとってみれば、買い物のために外に出るのは大きな壁でした。これがオンラインショッピングで解決されるようになる」と望月社長は言い、この分野向けソフトの開発にも力を注ぎたいとの抱負を語ってくれた。
視覚障害者がサイトを閲覧しやすいように、大幅な改良を加えて製品化した「ボイスサーフィンVer.3」。Tech総研のトップページを読み上げている画面。反転しているのが、読み上げ中の文。
将来の社会基盤の広がりを支える技術開発の醍醐味 日本アイ・ビー・エム株式会社「aDesigner」
 日本アイ・ビー・エム(IBM)は80年代から、コンピュータのユーザーインターフェース研究の一環として、アクセシビリティの研究に着手している。東京基礎研究所内には、要素技術の研究を行うアクセシビリティ・リサーチグループと、それらの技術を活用した製品化およびマーケティングを行うアクセシビリティ・センターを配置している。
 IBMは全世界8カ所に基礎研究施設をもつが、その多くにおいて、音声認識・合成などを含めた関連技術の研究開発が進められているという。
日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所アクセシビリティ・リサーチグループ高木啓伸 氏
視覚障害者の状況を理解するためのツール
 日本IBM東京基礎研究所の高木啓伸副主任研究員は、99年の入社以来、一貫してアクセシビリティの研究に従事。最近では、アクセシビリティ評価ツール「aDesigner」を開発した。現在、同社のサイトalphaWorks(http://www.alphaworks.ibm.com/)で一般公開され、90日間の試用が可能となっている。

「aDesigner」は、アクセシビリティ・デザイナーを由来とした名称からもわかるように、アクセシビリティを意識したウェブサイト作成を支援するために、全盲、弱視、色弱といった視覚障害をシミュレーションするソフトだ。

 一般的にサイトの情報は、大きな見出しに目がいくように設計されているため、晴眼者は、ひとめで目的の情報に到達することができる。しかし、視覚障害者が利用している音声による読み上げソフトでは、文字の大小にかかわらずページの上から順番に読み上げるため、もっとも大きな文字で表現された、もっとも重要な見出しに到達するまでにも、1分以上かかることが多いというのが実態だ。
 そこで、視覚障害者にとって使いやすいサイトになっているかどうか、晴眼者にわかるように視覚的にシミュレーションするのが「aDesigner」だ。サイトの表示から音声読み上げがすぐに行われる部分を明るく、なかなか到達できない部分を暗く表示する。90秒以上かかる部分はいちばん暗い色で表示され、きわめて読みにくくなる。さらに、評価をA+、A、B、Cの4段階で行い、アクセシビリティの対策レベルがわかるようになっている。
 11月に発売されたオーサリングソフト「ホームページビルダー V9」では、「aDesigner」の情報をもとに「ホームページビルダー」が連動して修正ウィザードを稼働させ、アクセシブルなサイトへと簡単に修正できる機能を実現している。

 高木氏は、「まだまだ日本にはアクセシビリティに配慮したサイトが少ない。『aDesigner』でAランクの評価を得るサイトは、残念ながら1%に満たないのでは」と嘆く。
 だが、「『aDesigner』によって、アクセシビリティに配慮したサイトが増えれば、それはまさにエンジニア冥利につきる」とも語る。事実、「aDesigner」の公開後、それを利用してサイトの構成を見直すケースも増えているという。
将来の社会に向けて
 高木氏は、「将来は、アクセシビリティに配慮したサイトやユーザーインターフェースが世の中の標準となるのは間違いない」と言い切る。続けて、「電子政府化により各種電子申請が一般化する、オンラインバンキング、オンラインショッピングが広がるなど、ITインフラは社会基盤としてますます重要性を増しています。いま、われわれが行っている技術開発は、将来の社会基盤の広がりには必要不可欠なものであり、それを開発しているんだという自負が、アクセシビリティソフトを開発しているエンジニアとしての醍醐味につながっていると思います」と語る。
 ソフトの出荷本数やシェア、一時的な注目度といったものではなく、「社会的な価値を高める技術」を開発しているという意識が、高木氏の高いモチベーションを維持しているというわけだ。
「いまの仕事は、楽しく、やりがいがありますよ」と、高木氏は笑顔で話してくれた。
Tech総研のトップページを、「aDesigner」で実際にチェックしてみた。晴眼者は、「エンジニアに言われて『ムカついた』ひと言」のところにまず目がいく(画面左)が、一般的な読み上げソフトでは、その見出しにたどりつくまでに35秒かかる(画面右)。高木氏いわく「比較的良いページですが、ナビゲーションに関する配慮はまだ不十分です」。
Part3:求められるのは「聞く力」と柔軟な発想
 バリアフリーソフトを開発するエンジニアに共通しているのは、社会的な使命を果たしているという責任感だといえる。ここに価値観を見いだすことができるエンジニアが、バリアフリーソフトの開発者には適任だといえよう。

 同時に、障害者の声を的確に反映できる「聞く力」も必要だ。「独り善がりの発想では、障害者が欲しいソフトは開発できない。既成概念にとらわれない柔軟な考え方が必要」とアメディアの望月社長は語る。また、日本IBMの高木氏も、「バリアフリーソフトの開発者に求められるのは聞く能力。ユーザーがなにを欲しているのかを判断し、それを技術や製品として反映できる能力が必要だ」と語る。
 もちろん、一般のソフトでも顧客の声を聞くのは重要なこと。だが、バリアフリーソフトでは、健常者では理解できないニーズを理解することが製品開発のベースとなるため、そうした能力が、基本能力のひとつとして強く求められるのである。

 社会的責任に価値を見いだすことができ、ユーザーの声を聞く力と、柔軟な発想をもつことが、バリアフリーソフトのエンジニアとして成功する道だといえる。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
 今、目の前でたくさん作った!たくさん売れた!だけで、わけもなくうれしくなってしまう、人間って単純な動物だったりします。でも一方で、もう少し複雑で深みのある手ごたえの得られる仕事というものが、きっとどんな業界にもあるのだと思います。

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