Embedded Linux／デジタル家電や車載端末開発で加速

週刊　やっぱりR&D 求人トレンド解析室　解析テーマ　Embedded Linux

デジタル家電、ポストPC情報端末などの開発で広く利用されているEmbedded Linux。
既に成熟市場と思われがちだが、本格的な活用時期はこれから。
この成長性に加えて、Linuxの開発経験があればまず参入可能というハードルの低さも魅力だ。

（取材・文／伊藤憲二　総研スタッフ／高橋マサシ）　作成日:04.11.10

　デジタル家電、自動車、情報端末などで、組み込み（Embedded：エンベデッド）OSの激しい覇権争いが続いている。その中で依然として注目度が高いのがLinuxの組み込み版、Embedded Linuxだ。
　用途に応じてOSのサイズや機能を自由に再設計可能という特性は、他陣営には脅威。マイクロソフトはWindows CEとTRONとの共闘を決断したが、それはEmbedded Linuxへの対抗という意味合いもあった。だが、TRONとLinuxの相性も非常によく、リアルタイムOSとして両者の融合体である、T-Linuxも提唱されている。

　Embedded Linuxがデジタル家電業界で広く支持されている理由はいくつもある。インターネットプロトコルへの親和性、さまざまなプラットホームに対応性、確実な安定性などだ。だが、何といっても大きいのは、オープンソースのLinuxそのものをベースにしているがゆえの、エンジニア層の厚さ。Embedded Linux業界では「Linuxのカーネルをいろいろいじった経験があれば、すぐにでもエンベデッド界でスキルをさらに磨く機会がある」という声が強い。

　デジタル家電業界ではソニー、松下電器産業などのけん引役が、次々にプラットホームにLinuxを採用することを表明。また、次世代のビッグマーケットである車載情報端末ではWindowsが激しい攻勢をかけているが、世界規模で見るとLinuxは欧州を主として、既にメインストリームの座を固めつつある。
　組み込みOS界の最有力陣営のひとつであるEmbedded Linuxの勢いは、ますます加速しそうだ。

　Embedded Linux業界での人材ニーズは、デジタル家電やポストPCの端末開発の加速を背景に、非常に高い状態が続いている。リクナビＮＥＸＴでは「Linux」で検索し、その中からエンベデッド関連を抽出すれば、かなりの数がゲットできるはずだ。
　求められるスキルは、何といってもLinuxの経験。カーネルを触って機能の付加、削除など、OS開発の基礎をひととおり経験していれば、最低限のスキルはあるとみなされることが多い。

　だが、Embedded Linux業界も近年ではクオリティ競争が激化しており、高いスキルをもつ人材にニーズがシフトし始めているのも事実。Linuxに加え、C言語やUNIXなどの他言語、コンパイル、デバッグといった、エンベデッドの実務レベルが要求されることもある。
　また、OS以外のテクノロジー、すなわちMIPS、RISC、PowerPCなど、Embedded Linuxによく用いられるプロセッサ、システムLSIなどの経験も、より高品質なエンベデッドOSを開発するのに役立つスキルとして歓迎される。

　Embedded Linuxは用途に合わせて機能を削減しても、OSとしてのパフォーマンスが落ちない点が特徴。今後は複雑な制御が必要なデジタル家電、携帯端末、POSなどの基幹系システムを中心に、採用が拡大していくと考えられている。
　もちろん、単一仕様のEmbedded Linuxがそれらすべてに適合するわけではない。機器に合わせて再設計し、さらに各種ドライバも開発する必要がある。つまり、エンジニアはEmbedded Linuxを手がけることで、自分のスキルの幅を拡大することができるのだ。
　Embedded Linux業界への転職のハードルは比較的低い。だが、その後の成功はエンジニア本人の才覚と努力次第である。競争の激しさはある程度覚悟しておくことが必要だ。