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日立、ソニー、NEC続々参入!産学連携の現場ルポ 大学に潜むヒット技術の原石は技術者が磨く
大学に埋もれている技術シーズを掘り出せ!――企業の研究開発の可能性を広げ、「技術立国・日本」の国際的競争力を高めるため、盛んになりつつある産学連携。そこで技術者が活躍できる場を探ってみた。
(取材・文/川畑英毅 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/大寺聡)  作成日:04.11.10
Part1 技術進化やコストの競争激化、少子化対策……。産学連携ブームとその背景
 一企業の中だけでは限界感がある新技術創生の可能性。その幅を広げるために欠かせないのが「産学官」の連携だ。その中でも特に、産学=企業と大学との連携が急激に加速している。

 特にアメリカでは、大学発ベンチャーが盛んに生まれることも含めて、産学の密接な関係が、その国際的競争力の大きな強みとなっている。対して、日本は「大学はあくまで研究と教育の場」とする風土にも阻まれ、それがなかなか進まない状況があった。

 しかし昨今は、そうした状況が大きく変わりつつある。図1を見てもわかるように、特に国立大学だけを見ても、産学連携の典型的ケースである共同研究の件数は「うなぎ上り」。これには、国による環境整備も手伝っている。1987年以降、国立大学と産業界などとの連携・協力を進めるため、大学側の窓口として「共同研究センター」の設置が行われ、さらには、1998年からは、研究成果の特許化や産業界への移転を促進するために、技術移転機関(承認TLO)も整備されている(2004年4月現在37機関)。その共同研究も図2のように、さまざまな分野で行われている。

 こうした背景には、技術競争力を高めたい国の方針、バブル崩壊以降基礎研究にかける予算を縮小せざるを得なかった企業側の産学連携への要請、さらには少子化が進む中で(法人化される国立大学はなおさら)経営の質が問われる大学の事情など、さまざまな要因がある。

 しかしいずれにせよ、産学連携が今後ますます重要なテーマとなってくるのは間違いない。企業で働く個々のエンジニアにとっても、自分の仕事に、直接・間接に“学との連携”がかかわってくることは大いにありえる。それは新しい技術に触れる機会でもあり、働き方の幅を広げる機会にもなるに違いない。
図1.国立大学などの共同研究実施状況の推移

図2.国立大学などの共同研究の分野別研究状況
PART 2 次々と発表される大企業と大学の産学連携。企業側の真意とは?
有力大学と「包括的産学連携協定」を積極的に推進
 日立製作所および日立グループは、もともと産学連携を積極的に行ってきたことでは定評がある。それに加えて、2002年4月には、おそらく日本の大手技術系企業の中では初めて、連携のための推進専任組織である「研究アライアンス室」を立ち上げ、その連携の体制を強化している。
日立製作所の包括連携体制
日立製作所の包括連携体制
武田健二氏
株式会社日立製作所
研究開発本部 研究アライアンス室
武田健二 室長
「かつては“エクセレント・カンパニー”の企業内研究所に人材が集積され、技術革新の担い手となってきた。けれども、特定の分野で、既存の技術の延長線上で新しい技術が生まれるのではなく、さまざまな技術の融合によって革新が起きるといったように、時代は移り変わってきた。それをすべて1社で網羅できるのかといえば、非常に難しい。われわれは、そんな大きな岐路に立っていると思う」(研究アライアンス室 室長 武田健二氏)

 そんな危機意識からも、積極的に進めてきた産学連携。研究アライアンス室立ち上げ後、2002年8月に、5社との共同プロジェクトとして京都大学と包括的産学連携協定を結んだのを皮切りに、今年9月には立命館大学、早稲田大学とも包括的産学連携協定を締結。こうした形式での連携も、すでに8大学に及んでいる。
日立製作所の包括連携の状況
大 学 当初の狙い 包括連携で誕生した内容
京都大学 有機エレ関連
異業種連携
異業種5社の共同プロジェクト、5年契約、色素増感形太陽電池の試作
電気通信大学 高度技術者育成 先端情報分野での日立講座
北海道大学 総合的連携体制 1年で共同研究8件、日立講座1件
慶応義塾大学 医工連携 医学部・工学部と共同研究
筑波大学 ロボティクス、地域協力 ロボティクス共同研究(愛知万博出展)
東京大学
(生研、機械、情報理工)
社会ビジョン提起型連携 IHI、東芝、三菱重工と「持続型社会のための連携協議会」
立命館大学 人材育成交流 日立講座「技術者のキャリア」、e-Learningの連携
早稲田大学 大型共研、
国際人養成
共研(SH並列コンパイラ)、国際教養学部での日立講座
「従来も産学連携は積極的に行ってきましたが、それは、主に特定の先生や研究室を対象とした“交流”レベルにとどまっていたと思う。しかし、“技術戦略上のパートナー”として考えるなら、より大規模かつ密接な関係を構築する必要があります。
それを可能にする環境が、日本でも整ってきたこと。それが、最近になって『包括的産学連携協定』を進める背景にあります。

 包括的といっても、それは排他的に関係を結ぶということではなくて、先生・研究室という“個”のレベルでなく、組織対組織として連携を強化するという意味。それによって、大学からのプロモーションやマーケティングも期待できる。そんな“ホットライン”を結ぶことととらえています」(武田氏)

 したがって、包括的連携協定を結ぶのは、そうした態勢を自ら整えつつある大学が相手、ということになる。日本において、こうした大規模な連携はまだ過渡期。それだけに、今後のモデルケースともなり得るよう、「手塩にかけて育てる」必要があるという。一方で、連携の強化はエンジニア個人にとっても可能性を広げる意味をもつ。
「産学連携が今後ますます広がり、濃密にもなっていく中で、例えば日立で働く技術者にとっても、ただ“大学発の技術に触れる”というだけでなく、実際に大学の研究者に会ったり、優れた研究者のもとで共同研究を行ったりという機会は増えると思う。

 単に刺激になるというだけではありません。企業内でだけ活動していると、非常にニーズ・オリエンテッドな見方になりがちですが、価値観もやり方も違う場も経験できれば、技術者としての奥行きが違ってくる。自分の価値、自分のキャリアを見つめ直す、大きな手がかりになると思っています」(武田氏)
ソニー、NEC、キヤノン、日本IBM 産学連携に乗り出す大手企業
 さまざまな分野で進む産学連携。それを積極的に進める代表的な企業に、連携の狙いや内容、求められる人材像などについて尋ねてみた。


■株式会社ソニー
最高の商品を実現するには最先端・最新の技術が不可欠。産学連携もそれを得るためのひとつの方法で、ソニー黎明期のテープレコーダーのフェライトヘッドも、東北大学との共同研究から生まれた。以後、国内外の多くの大学と協力関係を築いている。今後も、こうした協力は不可欠。産学連携について前向きに取り組んでいきたい。

■NEC
新技術創出や「死の谷」克服上、産学連携が重要と判断。そのための新しい仕組みとして、大学研究室と企業研究所が一体となって研究を進める「連携ラボ(研究室)」を国内で初めて開始した。「連携ラボ」は奈良先端大とおこなっており、「カメラ付き携帯機器による広視野・高精細画像の入力方式」などの成果を得ている。また「連携ラボ」以外にも、共同開発として、東北大との「フォトニック結晶を用いた光通信用合分波器で実用性能を実証」、高知大と共同で「C型肝炎を標的とするペプチドワクチン候補を発見」など、いくつもの成果を得ている。

■キャノン株式会社
ナノテクやバイオなど、業界/技術の壁のない「境界領域」にこそ新しい競争力の原点がある。東京大学、東京工業大学、東北大学、九州大学といった有力国立大学や、海外の有力大学(スタンフォード、MIT等)とも連携を進めている。大学の技術とキヤノンの技術を融合させ、新領域を開拓したい。そこで働く技術者は、新しい事業/製品を生み出したいという強い意志をもち、それを実現させるために必要な技術を獲得するという視点が必要。それがあって、初めて技術融合が起き、新たな競争力が生まれてくると思う。

■日本アイ・ビー・エム株式会社
大学に対し研究支援を行う一方で、IT産業活性化を目指すのが産学連携を進める狙い。IT分野をメインとして、国内でも多くの大学と連携を行っている。大学の技術をビジネス化するにあたっては、技術者は技術的センスはもちろん、ビジネスセンスも兼ね備えていることが重要。
「求めるモノが明確か」が連携のカギ──ネクステック株式会社
 製造業向けに特化して、開発・設計から生産・流通に至るまでの基盤となる、BOM(Bill Of Materials:部品表)を主要なテーマとして、コンサルティングやシステム開発を行っているのが、ネクステック。いまの日本の製造業が抱える課題に深くかかわるとともに、代表取締役社長の山田太郎氏は、東京大学大学院工学系研究科で講師を務める。さらに、ネクステックは今年初めに早稲田大学及び早稲田大学の教授陣を中心に運営される、ベンチャーキャピタルからの投資も得て、技術経営理論に対する研究・教育等での提携を深めている。

「当社の場合でいえば、技術シーズを求めての連携ではないが、技術経営に関してスキームを組み立てていく際に、大学側に“レビュー”をしてもらうというところに、最も大きなメリットを感じている。例えば要素開発から企画、設計にいたる製造の前段にある前工程を短縮したいという課題がある。それに対して、ある手法を導入したときに、それがどれくらい有効なのか、客観的な目で判断してもらう。ただ、『大学の中には“何か”素晴らしいものがある』という漠然とした期待や、産学連携という言葉に踊らされての連携ではうまくいかない。当社の場合も、顧客に持っていくべき確固たるビジネスモデルの仮説やソリューションがあって、そこで補えるものが大学にあるなら活用しましょうという姿勢だ。大学の知見を顧客に提供するモデルやソリューションの一部に組み込める点は、産学連携していない同業他社にはない利点といえるであろう。現在、ある大手メーカーのプロジェクトで早稲田大学発の設計開発プロセス革新の手法を取り入れるか具体的に検討しているケースもある」(山田社長)
 
山田太郎氏
ネクステック株式会社
代表取締役社長 山田太郎氏

慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院博士後期課程。アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)、ERPベンダーであるBaan、PwCコンサルティング(現IBM BCS)、米国PTC副社長を経て現職に。東京大学大学院工学系研究科・工学部 非常勤講師も務める。
岡田和典氏
ネクステック株式会社
ディレクター 岡田和典氏
   海外での産官学連携の事情にも詳しい、同社ディレクターの岡田和典氏によれば、 「アメリカや中国では産官学がほとんど一体化し、それぞれが密接にかかわり合いながら課題に向かう姿勢ができているという。日本でも環境の整備はされつつあるが、まだそこまでには至っていない。法人化、少子化の問題もあり、今後ますますドラスティックな変化が確実な中、大学側としては“産”に対して積極的にアプローチしなければ存続の危機だという意識があります。とはいえ、まだまだ吹っ切れていない部分がある。産学官の連携といっても、今の日本ではまだ過渡期にあるといえるでしょう。ただし、変化が起きていることは確かで、今後、もっといい方向へと行ってくれればと思います」(岡田ディレクター)

 一企業の枠を超えて新しいものを生み出すのであれば、産学官の連携だけでなく、異業種間の産産連携という形もあり得る。単にそれが“ブーム”だからでなく、柔軟に考えて、より良いかたちを求めていくこと、それは企業だけでなく、個々のエンジニアに求められている姿勢かもしれない。
Part3 広がる産学連携の中でエンジニアの活躍する場は?
出川通氏
株式会社テクノ・インテグレーション
代表取締役社長 出川 通氏
1974年三井造船株式会社入社、研究開発部門を経て、産学やベンチャーとの連携にて新規事業、社内起業、社外ベンチャー等を経験。東北大学客員教授(未来科学技術共同研究センター)を歴任。現在は、早稲田大学の客員教授(知的財産戦略研究所)兼任。担当は社会人教育の「ナノ・IT・バイオ知財経営戦略講座(スキルアッププログラム)」
 新事業を目指した研究開発および事業化や起業のコンサルティングを行うテクノ・インテグレーション代表取締役であり、早大知的財産戦略研究所客員教授でもある出川通氏は次のように語る。
「日本では、研究から開発、事業化、産業化へと至る流れの中で、特にバブル以降、企業はますます開発・事業化よりも産業化(工場での低コスト生産)寄りにシフトし、大学は研究に閉じこもるというふうに、ますます乖離が進んでいた。産学連携は、そのギャップを埋めていく大切なプロセスでもあります。もちろん、現状では課題もたくさんあります。しかし、大学も、また企業の中も変わりつつあるのは確かです」

 ではエンジニアにとって、どのような活躍の場が考えられるのだろうか。「産学連携」というと、あくまで企業と大学との問題で、エンジニア個人にとってはあまりかかわりのない問題と映るかもしれない。しかし、出川氏はこう語る。
「これまでは、企業内でエンジニアの取り得る道は、ゼネラリストか、あるいはスペシャリストかの2つの道しかないように思われているが、第三の道として、自ら手を挙げてコーポレート・ベンチャー(企業内起業)を起こすという手もある。企業の中にいても、自分の大学の先生との産学連携の枠組みを使うなど、その他、社外のネットワークを張り巡らせていれば、自分から提案していく機会が見つかるし、会社もそれを望んでいる」

 技術発掘の尖兵となるだけでなく、産学連携で、風土の違う二者の間に身を置くこと自体、自身のセンスを磨く糧にもなる。「『じゃあ、オマエやってみるか?』と言われたら、大きなチャンス」(出川氏)ととらえる心構え、さらには一企業の枠を超えた広い視点をもつことが、エンジニアにとって今後ますます重要になってくるだろう。
表
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
最近、新聞でよく見かける産学連携や、大学発ベンチャーの記事が気になり、調べてみましたが、現実はまだまだ課題が多いようです。大学で生まれた先端技術を企業がビジネス化する。またはベンチャーを立ち上げてヒット技術を生み出す。どちらもリスクが高いだけに、成功したときのメリットも大きいはず。それだけにそんな喜びを手に入れるために、新たな分野に挑戦するのも面白いと思いませんか?

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