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ベンチャー企業での実務経験を生かして製造装置メーカーから転職

家電へ需要が拡大 ガラス磁気メモリーディスクのHOYAへ

今やノートPCのハードディスク記憶媒体として常識になったガラス磁気メモリーディスク。デジタル家電でも用いられ始めたこの記憶媒体で、HOYAは世界トップクラスの技術力を誇る。今回はその開発と生産に不可欠な、成膜技術者の面接現場を再現する。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:04.10.20
HOYA
応募したエンジニア 企業の面接担当者
小林さん
小林 巧さん
(当時34歳)
堀川さん
MD事業部 技術開発部
マネジャー
堀川順一氏
当時の職種
真空成膜装置開発技術者
募集職種
成膜技術開発者
業務内容
ハードディスク記憶媒体用・MRヘッド用DLC保護膜成膜装置、およびPETボトル用ガスバリア膜コーティング装置の開発。
仕事内容
ガラス磁気メモリーディスク用磁性膜・保護膜の技術開発。
職務経歴
大学の理学部物理学科を卒業後、温度センサーメーカーで技術サポートなどを2年半。その後真空装置メーカーへ転職して開発を7年弱。
応募資格
磁気ディスクメーカーでの磁性薄膜・トライボロジーの研究開発経験、半導体メーカーや成膜装置メーカーでの薄膜技術経験。
志望動機
成膜のプロセス技術を突き詰めながら、一般消費者向け製品をつくりたい。
募集背景
ガラス磁気メモリーディスクのニーズ拡大に対して、開発力と生産技術力を強化するため。
面接の流れ
初めに人事部門の採用担当者が選考。次に採用予定部署の技術責任者が選考する。
技術責任者にあたるマネジャーかゼネラルマネジャー、またはその両者が面接する。所要時間は約1時間。
【通過率:約5割】
事業部長など事業責任者と人事部門マネジャーが面接する。事業部顧問が臨席することもある。所要時間は約1時間。
【通過率:7〜8割】
2次面接から1週間以内にメールで採否を通知する。
Part1
現在の仕事内容と客先対応
 
中小企業出身ならではの技術経験の深み
堀川:
 わざわざご来社いただき、ありがとうございます。早速ですが、最初に小林さんの現在の仕事内容を簡単に説明してください。
小林:
 私は○○○(真空装置メーカー)で開発グループのリーダーをしています。現在は、PETボトルのガスバリア性を高めるための、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)成膜装置を担当しています。
堀川:
 【Point1】ハードディスクに使われるDLC膜についての、技術的見識はおもちですか?
小林:
 はい。PETボトル用ガスバリア膜の前は、ハードディスク記憶媒体用DLC保護膜の成膜装置を担当していました。いかにしてDLC膜をつくるか、または高品位のDLC膜をいかにしてつくればよいのかについて、装置的な観点からのノウハウはもっています。
堀川:
 【Point2】成膜装置メーカーでの開発という仕事は、装置自体の設計と、装置完成後にプロセス条件を詰める改良とに大きく分けられるはず。つまり、設計とプロセスです。小林さんの主な仕事はそのどちらですか?
小林:
 プロセスのほうです。出来上がった装置を実際に使ってハード上の改良点を見つけて、設計へフィードバックする仕事です。
堀川:
 それは、装置をユーザーへ納品してから行うのですか? それとも、納品前や開発の試作段階において社内で行うのですか?
小林:
 【Point3】小さなベンチャー企業ですから、私はそのどちらも行っています。
機械と電気にまで通じていればベスト
堀川:
 装置の納品について伺います。客先には何人くらいで出向くのですか?
小林:
 機械設計、電気設計、それにプロセス担当の私という3人チームが普通です。
堀川:
 チーム上の小林さんの役割は?
河原:
 納品時にはやはりプロセスが主体になりますから、お客さんとの技術上の取りまとめは私が行うことになります。
堀川:
 必ず3人で行くんですか?
小林:
 最初の立ち上げ時には機械系エンジニアが欠かせませんが、その後のプロセスだけという段階になると、私ひとりでの対応になります。
堀川:
 【Point4】ひとりでの担当中にトラブルが起こったり、お客さんの要求を満たせなかったりといった事態が発生すると思うのですが、そのときはどう対応していますか?
小林:
 ケース・バイ・ケースですが、まずお客さんに最大限のご協力をいただきます。次に、私のバックに控えている機械設計や電気設計の者との連絡を密に取ります。そして、私としての最善を尽くして対処する。そうとしかいえません。
堀川:
 【Point5】機械図面や電気図面は読み取れますか?
小林:
 基本的なところはひと通りわかります。
堀川:
 例えば、何かトラブルが起きたとして、電気系が原因ではないかと思われたら、電気図面を追い掛けていって原因はここかなと、ある程度の同定はできますか?
小林:
 機種にもよりますが、単純な原因であれば見つけられます。
Point1
[面接官]DLC保護膜は、磁性膜とともにガラス磁気メモリーディスクの中核技術のひとつです。これについての物理・化学的理解と実体験の内容を語ってほしくて、こう質問しました。あえて漠然とした聞き方をしているのは、何をどのくらい知っているのかを強くアピールしてほしいからです。
[応募者]この質問の意図はすぐにわかりました。理論と実践の両方ともに自信があることを伝えねばと思いました。
Point2
[面接官]DLC成膜装置は、装置自体をどう工夫するか、それをどう使いこなすかという2点において非常に難しい。HOYAとしては、設計に通じた技術者とプロセスを熟知する技術者の、両方の人材がほしいのです。
Point3
[面接官]この答えを聞き、技術的には鍛えられているだろうと判断しました。中小企業のエンジニアは仕事の範囲が広いものです。ですから彼の場合、プロセスの担当だとしても、装置の仕組みまで知っているだろうと思いました。この点はあとからの質問で再確認します。
[応募者]堀川さんの推測どおりです。CADで設計したりはしませんでしたが、装置の仕組みは隅から隅まで知っていました。
Point4
[面接官]この質問の狙いは、お客さんの前にひとりで立ったとき、どれほどの度量を発揮できるかの判定にあります。結果のいかんにかかわらず、ひとりで何とか対応できる人材かどうかです。
[応募者]この質問を受けたとき、ユーザー企業のところで苦しんだシーンが脳裏をよぎりました。機械や電気にまで対応するのは大変でしたから、その場数が私の力を高めたのも事実です。
Point5
[面接官]この質問と次の質問はサブスキルを問うものです。装置にはトラブルがつきものですが、簡単な原因ならプロセスの技術者に対応してもらいたい。実は、小林さんの採用選考時に、山梨の長坂工場に新しい成膜装置が入る予定でした。その立ち上げのためにも、こうしたスキルをもつ技術者が必要だったのです。
Part2
DLC保護膜の知識レベル

実務の習熟度とともに必要な体系的知識
堀川:
 【Point6】DLCについてはどのくらい勉強してきましたか? 文献を読むとか、学会に出席するとか。
小林:
 【Point7】ここ2年ほどは忙しくて欠席していますが、応用物理学会には毎年出て、最新の研究をフォローしてきました。また、お客さんとの仕事内容によっては必要な情報が異なりますから、その都度、参考文献に目を通すようにしています。
堀川:
 ハードディスクにつけるDLCとPETボトルにつけるDLCとで、物性的もしくは物質的な違いはどんな点にありますか?
小林:
 DLCの密度が違います。ハードディスクのほうが密度が高く、よいDLCがつきます。
堀川:
 なぜ、そういう差が出るのですか?
小林:
 プラズマの立て方が違うからです。
堀川:
 同じくDLCをつけるにしても、装置がまったく異なるのですか?
小林:
 はい。装置の形状が違います。ハードディスクの場合はハードディスクの表面の周囲にプラズマを立てますが、PETボトルはPETボトルの中にプラズマを立てます。この違いがDLCの密度に大きく影響します。
DLC保護膜の評価法は当然の基礎知識
宮崎:
 DLC膜の評価は自社で行うのですか?
河原:
 はい。ラマン分光、固さ、膜中組成を中心に評価します。
宮崎:
 ラマン分光器が自社にあるのですか?
河原:
 いえ、外注で測定してもらっています。
宮崎:
 ラマンのデータを見て理解できますか?
河原:
 はい、基本的なところはわかります。
宮崎:
 【Point8】ハードディスクのDLCとPETボトルのDLCを比較すると、ラマンの分光特性はどんな違いになるのでしょうか?
河原:
 蛍光成分が違います。
宮崎:
 どちらが多いですか?
河原:
 PETボトルのほうが多いですね。
宮崎:
 膜の固さはどのようにして評価していますか?
河原:
 ひとつは、ダイヤモンドの針を膜の表面に押しつけたときにできる傷の大きさを測ります。もうひとつは、固さとともに耐久性を見るのですが、膜の表面にボールを走らせたときの磨耗具合を測定します。
宮崎:
 その測定も外注ですか?
河原:
 いいえ、これは社内に設備があります。
宮崎:
 ラマン分光に使っているのはビッカース硬度計の類ですか?
河原:
 はい。ヌープ硬度計です。
宮崎:
 でも、ハードディスクのDLC保護膜の場合、超薄膜だから役に立たないのでは?
河原:
 ええ。ですから、実際には厚膜で評価して推定値を出す形になります。
宮崎:
 そのデータはお客さんのほうの指標にもなっているのですか?
河原:
 それはお客さんによります。
 
Point6
[面接官]中小企業のエンジニアは、実践力やサブスキルが豊かな半面、体系的な知識やアップデートされた技術情報に欠ける場合もあります。小林さんに即していえば、DLCはつくれても、DLC自体の物性をどこまで理解しているのか。それを確かめるための質問です。ちなみに、体系的な知識と勉強法を身につけていれば、DLC以外の薄膜材料についても独学が可能なのです。
Point7
[面接官]この程度の勉強ではとても十分とはいえません。しかし、目の前の仕事に追われる中小企業では仕方がない面もあります。小林さんなら、勉強の時間を与えれば積極的に学習してくれるだろうと感じました。
Point8
[面接官]ここから続く質問に答えられれば、DLCの物性について基本的なところは理解していると判断できます。
Part3
転職動機と海外勤務への意欲

ニーズ拡大中の先端分野へ飛び込む覚悟
堀川:
 今回、当社への転職を希望する動機はどんなところにあるのですか?
小林:
 私はモノをつくる装置に携わってきたわけですが、装置を立ち上げるとその先はお客さんの領分ですので、私はかかわれません。装置メーカーのエンジニアが背負う宿命といってしまえばそれまでですが、私としてはもっとプロセスを突き詰めて、よりよい一般消費者向け製品のモノづくりをしてみたい。そういう希望から転職動機が生まれ、御社へ応募させていただきました。
堀川:
 【Point9】これら一般消費者向け製品の分野でも苦労が多いことは、これまでの小林さんの立場上、十二分に想像がついていると思います。それでもやりたいですか?
小林:
 もちろん、大変さは承知しています。しかし、ハードディスクをつくってみたいという気持ちのほうが強いです。
堀川:
 今、小林さんが実務を離れたら、会社のほうが困るのではありませんか?
河原:
 そうだと思いますが、3カ月ほどあれば何とか調整します。
堀川:
 HOYAへ入社したら、何をしたいですか?
河原:
  先ほどお話にあったような装置を使って、次世代ハードディスクの開発に携わることができればと考えています。
シンガポールの記憶媒体生産工場での勤務
堀川:
 ところで、英語は得意ですか?
小林:
 流暢には話せませんが、会話を成り立たせることはできます。今、英会話教室へ通ってもいます。英文メールは大丈夫です。
堀川:
 外国人と仕事をしたことはありますか?
小林:
 はい。営業担当者と同行してミーティングをしました。
堀川:
 それは海外へ出掛けてのミーティングですか?
小林:
 はい。米国、フィリピン、台湾、シンガポールへ行きました。
堀川:
 外国のお客さんともめたことはありますか?
小林:
 それはまだありません。
堀川:
 【Point10】もし小林さんが当社へ入社した場合、シンガポールの記憶媒体生産工場で働く機会が、近い将来に必ず巡ってきます。海外勤務の障害になることは何かありますか?
小林:
 まったく障害はありません。むしろ、そういうチャンスをいただきたいです。
Point9
[面接官]ガラス磁気メモリーディスクの将来性は有望と思いますが、技術は日進月歩であり、顧客からの要求を満足させるためにも、技術者の強い意思が望まれます。そのあたりの気持ちのありようを尋ねようとしました。
Point10
[面接官]成膜技術開発者として採用する場合、この質問は必ずします。家族の特別な事情で海外勤務は避けたいというときには、その旨を正直に話していただきたいです。
面接官はここを見た!
●ハードディスク開発に必要な成膜技術者かどうか。
●自律的に活動でき、表に立てる度量があるか。
●入社後に短期間で戦力となり、海外で活躍する気概があるか。
 技術面では、ガラス磁気メモリーディスクに用いる磁性膜か保護膜の、どちらかに長けていることを確かめる。また、入社後に短期間でどちらかの分野の即戦力になり得るだけの、技術経験と体系的知識があるかどうかをチェックする。人物面では、積極的に動く自律性と人前に立てる度量の大きさを見る。具体的には、チームを率いて主要顧客であるドライブメーカーと対応するなどだ。また、海外工場の現場を切り盛りしてみようという気概があるかどうかも重要。
小林さんはコレで決めた!
「ハードディスクの垂直磁気記憶媒体の開発に携われる。
これが面接で確認でき、心が弾みました。
また、海外勤務のチャンスも入社の決心を促しました」
 ハードディスクの記憶媒体保護膜を扱ってきた私としては、磁性膜まで担当できるという目的でHOYAへ応募したわけです。それが、入社後には垂直磁気記憶媒体の開発装置を立ち上げてほしいと聞かされて、本当にうれしくなりました。いきなり、次世代記憶媒体の磁性膜開発にかかわれるのですよ。また、近い将来の海外勤務の可能性も明言されました。海外勤務は、転職先を決めるうえでの希望条件のひとつだったのです。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
これほど企業とエンジニアの気持ちがマッチした転職も珍しいでしょう。小林さんは入社後に念願だった導入装置の立ち上げに携わり、現在はシンガポールで働いています。ポイントのひとつは堀川氏の経歴。彼には中小企業への転職経験があり、エンジニアの勤務事情を熟知していたのです。これからもさまざまな面接現場を紹介します。

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