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左遷、600万円の損失、部下が4カ月で退職……そのひと言が命とり☆自信過剰エンジニアが陥る罠


仕事に失敗はつきものだ。ふと発したひと言のために大失敗を招くということがよく起こる。なぜ、ひと言で大失敗は起こったのか、技術力に自信をもつエンジニアが陥りがちな罠とは何か。2つのケースをもとに考察してみよう。
(取材・文/植村恒有 総研スタッフ/山田せいめい) 作成日04.10.13
ケース1 データ修正を拒否したそのひと言で突然、左遷されたエンジニア
データ修正を拒否したため、上司や同僚との関係が最悪に
罠に陥るまでの経緯
 大学卒業後、下村さんは金属加工メーカーに入社し、技術部に配属。金属の定量分析と工程ラインの濃度管理を担当することになった。 金属分析の手法をマスターしたころ、問題が発生した。ある画期的な金属の表面処理を採用することになり、マニュアルどおり試料採取を行い、 試験ロットも指示どおり分析した結果、通常の100倍もの数値が出たのだ。

 新しい金属処理方法を採用するには主要設備の大半を更新する必要があり、設備投資額は億単位になる。 会社は、現在の設備で新しい金属表面処理を実施するつもりだった。 上司は「分析結果には誤差があるから、データを修正して報告しろ」と言う。 もともと正義感の強い下村さんは、次のひと言をいってしまった。
「データ改ざんという不正な行為は許せない!」
その後
 そのひと言で上司とは激しい口論になり、周囲からは冷たい視線が浴びせられた。
 下村さんの立場が決定的に不利になったのは、分析機器メーカー主催のセミナーに分析担当のメンバーと参加してからである。 分析数値には人為的問題、分析機器のクセ、サンプルの採取方法などにより通常データの10〜100倍の範囲で誤差が生じることがあると指摘されたのだ。 誤差が生じるのを知っていた上司は、いつものようにデータの修正を命じた。それを拒否した下村さんの立場は悪くなるばかり。

 その後、下村さんは突然、業務部への異動を命じられた。エース部門の技術部から支援業務が中心の業務部への異動は、 過去にほとんど例がなく、明らかに左遷であった。
下村設備工業代表 下村 隆さん〈38歳〉
下村設備工業代表
下村 隆さん〈38歳〉
大阪工業大学応用化学科卒業後、金属加工メーカーに入社し、技術部に配属。業務部、営業部に転属後、28歳で退職。その後、2回の転職を経て、34歳で独立し、現在に至る。
エンジニアも組織の歯車、上司や同僚とはうまくやらないと……
 下村さんは、左遷された当時を次のように振り返る。「たしかにデータの改ざんはいけないことです。ですが、上司がその指示を出す前に、分析結果には誤差があるからと言っていたことに注目すべきでした。彼は長い経験で、そのことをよく知っていたわけですから。彼の発言を気に留めていれば、もう一度外部の専門の会社に分析をやり直してもらっていたかもしれません」

 上司に逆らったヤツというレッテルを貼られた下村さんは、転属となった業務部でも営業部でも、彼だけ会社の車を貸与されないなどの制裁的な仕打ちを受けた。そして入社から5年半、下村さんは金属メーカーを退職した。「そのころにはエンジニアも組織の歯車なのだから、上司や同僚ともうまくやっていかないと生き残れないと反省していました」。

 下村さんはその後、技術力を磨くためにアルミ加工メーカー、営業力を磨くためにリフォームメーカーに転職し、34歳のときビルメンテナンス業を起業。その傍ら表面処理技術の研究開発を行い、成果を本業に生かしつつある。「金属の表面処理の分析で大失敗しましたが、その表面処理技術をビルの床面の滑り止め施工に応用し、今度、その工法を特許申請します。5、6年後が楽しみです」と意気軒高だ。


現在研究開発をすすめている表面処理技術に使われる薬品と、ビルメンテナンスに欠かせない仕事道具一式。
ケース2 最初の部下が4ヵ月で辞職。それがトラウマになったエンジニア
自分は上司にうまく育ててもらったのに……部下を育てられなかった痛恨のひと言
罠に陥るまでの経緯
 K.Iさんには、忘れられない大きな失敗が二つある。一つは、入社間もない1990年、新製品の交換機の仕様書作成を任されたときの失敗。顧客先でシステム提案をしていた営業から、ある機能の有無を問われ、自信たっぷりに「その機能はある」と答えた。当時はどこもその機能を装備していないこともあって、営業は受注に成功した。

 K.Iさんが書類を見直してみると、その機能の装備は今後の計画。真っ青になったK.Iさんは上司に報告し、部内でどう対処するか緊急会議が開催された。部長が「計画を前倒しにして開発しよう」と決断し、K.Iさんに仕様の取りまとめからソフトウェア製作部隊との調整まで任された。開発にかかったコストは約600万円。上司のサポートで納品は無事にすんだが、新人のK.Iさんは冷や汗の連続だった。

 もう一つの失敗は、K.Iさんが入社5年目のころのこと。K.Iさんにとって初めての部下だったが、当時は50億円を超すシステムの大プロジェクトに参画し、多忙をきわめていた。まったく余裕のないK.Iさんは、新人の立場に立って考えてやることができない。社会人として、エンジニアとして心構えができていない新人に対して、こんな言葉を発していた。
「そんな仕事でお客さまが満足すると思うのか」
その後
 そうこうするうちに新人は出社拒否。部長に相談したところ、「よくあることだ。オレに任せろ」と言って、いろいろ手を尽くしてくれた。しかし、新人はついに出社することなく、わずか4カ月で退職してしまった。
K.Iさん(37歳)
K.Iさん(37歳)
工学部応用化学科卒業後、大手通信機器メーカー入社。一貫して通信システムの開発に従事し、通信革命を最先端で支えてきた。技術のスペシャリスト的存在で、現在は主管待遇。
どんな犠牲を払ってでも部下とはしっかりコミュニケーションを取る
 エンジニアとしての自信も芽生えていたK.Iさんにとって、最初の部下である新人の退職はショックだった。余裕がないため相手が新人であることを忘れ、つい5年目の自分と同レベルのエンジニアとしての心構えを求めていたのだ。新人は、K.Iさんの言葉に当惑するだけだった。

 退職事件のショックを引きずったまま通信システム統合に携わっていたところ、ある日、部長に呼ばれた。その部長は抜群に仕事ができ、部下にも慕われ、スーパーマンのような人だった。部長は話し始め、昼食時になっても止まらない。結局、8時間説教が続き、夕方にやっとK.Iさんは解放された。頭の中が真っ白になり、直後はあの忙しい部長が自分のために8時間も話してくれたという思いだけが残った。

 時間がたつと、K.Iさんは部長が何を言いたかったのかわかってきた。「どんな犠牲を払ってでも部下とはしっかりコミュニケーションを取らなければならないと身をもって教えてくれたのだと思います。新人のとき大失敗した自分を、上司たちはどんなにいろいろ考え、どんなに気を使って育ててきたのか思い起こしてみろ。自分が独り立ちできるエンジニアに育てられたのなら、今度は自分が若い人を育てる番ではないか、と」

 しかし、その後もK.Iさんには部下が配属されなかった。「最初の部下の出社拒否がトラウマになっていて、部長から2回ほど打診があったとき、瞬間的に私の顔がゆがんだらしいのです」。部長はそれを見逃さず、部下の話を見送った。「若い人の立場や状況をよく理解してアドバイスするようにしています。部下を育てることで、企業人として成長したいですね」。K.Iさんは今、心の底から部下を持ちたいと思っている。
エンジニアが失敗から学ぶべきこととは?

 「失敗学」を創始した畑村洋太郎氏は「いずれの失敗も分析してみると、『未知』『無知』『不注意』『手順の不遵守』『誤判断』『調査・検討の不足』『制約条件の変化』『企画不良』『価値観の不良』『組織運営の不良』の10種に原因を分類することができます。どんな失敗でも、これらのいくつかが重なったために起こるものなのです」と指摘している。

 ケース1の下村さんの失敗は、明らかに『未知』『無知』と『価値観の不良』が重なったものだ。さらに畑村氏は、こう分析する。「検出のようなプロセスを担当していると、全体像を見ずに自分のやっていることからすべてを主張するようになってしまう。この人だけが特別なのではなくて、一つのことだけやっていて世の中とかかわりをもたなくなると、皆こうなる。上司は会社の目的や状況、その検出方法の誤差などを上手に説明しなければならない。上司が面倒くさがったり、説明が下手だったりすると、部下は不正を強要していると思い込んでしまう」。これは典型的な自信過剰から陥る罠だ。また畑村氏は「自分が社会とどうかかわっているかを実感できる場をもつことが非常に大切です。大学の研究室の仲間と定期的に会うのも有効でしょう」とアドバイスしている。

 またケース2のK.Iさんの場合も、畑村氏が分類した10種の原因に当てはめてみると、新人のときの失敗は『未知』『無知』『不注意』以外の何ものでもない。部下の退職は『手順の不遵守』、つまり下村さんのケース同様に部下に対するコミュニケーション不足が原因だ。せっかく素晴らしい上司たちに恵まれていたのに、いろいろな部下への接し方、コミュニケーションの取り方を吸収しなかった。有能なエンジニアが技術力を重視し、コミュニケーション力を軽視するという罠だ。畑村氏は「ヒラ社員のときは係長を、係長のときは課長をよく見ろ」とアドバイスしている。そうすることによって、自分が上司になったときのトレーニングになるからである。K.Iさんは自分のコミュニケーション力不足について十分反省しているので、これから奮起に期待したい。
畑村洋太郎氏
畑村洋太郎氏
東京大学大学院工学系研究科教授を経て、現在工学院大学国際基礎工学科教授。東京大学名誉教授。02年、失敗学会を立ち上げ、初代会長に就任。『決定学の法則』(文藝春秋)、『失敗学のすすめ』(講談社)など著書多数。最新の著書は『変わる!思考術』(PHP)で「これでもう言い尽くした」(畑村先生)とのことだ。
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山田せいめい(総研スタッフ)からのメッセージ
みなさんにとって、今までに仕事で犯してしまった大きな失敗とは何ですか?今回ご紹介したケースを「大失敗」と受け取るかどうかは人それぞれだと思いますが、お二人の話を聞いているうちに、失敗は必ず人を成長させてくれるものだと確信しました。ちなみに私も過去にちょっと厄介な失敗を犯した経験がありますが……。この場ではノーコメントとさせてください。

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