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JAXA、まいど1号、三菱重工業が語る今後 技術者が日本の宇宙開発を再建する
H-IIAロケットの打ち上げ失敗、環境観測技術衛星「みどりII」の運用断念など、昨年はトラブル続きだった日本の宇宙開発。しかし今、逆境をバネに各団体、企業、エンジニアが宇宙開発を大きく変えようとしている。落ち込んでいる場合じゃない!
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/早川俊昭、太田未来子、鈴木慶子) 作成日:04.09.22
Part1 JAXAが語る今後の宇宙開発ロードマップ
 昨年10月に、日本の3つの宇宙航空機関が統合されて生まれたJAXA(宇宙航空研究開発機構)。独立行政法人化もあって、産・学・官への技術移転や開発支援が進んでいる。今後のロードマップと技術開発について、経営企画部の田中哲夫氏に尋ねた。
「ETS-VIII」の想像図

「ETS-VIII」の想像図 提供JAXA
H-IIAは来年、人工衛星はまず「ひまわり」の後継機を

 まず気になるのは、昨年11月に失敗したH-IIAロケットの打ち上げ再開と、スタンバイ・開発中の人工衛星の今後だ。
「H-IIAは原因究明から対策の段階に移り、これから対策結果の確認試験を始めます。今年に具体的な予定を決めて、来年には打ち上げられるように目指したい。人工衛星は、まずは気象衛星『ひまわり』の後継機である『MTSAT-1R』(運輸多目的衛星新1号)を打ち上げたいですね。既に射場の種子島宇宙センターに到着していますし。その次は、今年打ち上げ予定だった『ALOS』(陸域観測技術衛星)と『ETS-VIII』(技術試験衛星VIII型)を考えています」
 前者は地形計測を行う衛星で、精密な地図作成、災害把握、資源探査を目的としている。後者は移動体通信の利便性を高める世界最大級の展開アンテナをもつ静止衛星。また、2007年度に打ち上げ予定の「GOSAT」(温室効果ガス観測技術衛星)は、来年から本格的な開発が始まるという。
「人工衛星については現在、地球観測衛星の単機能化と観測目的別のシリーズ化を検討中です。例えば昨年に観測運用を断念した『みどりII』は、多機能型の大型衛星でした。同時期に異なる機能を発揮できる点はよいのですが、人工衛星は一度データを取って終わりではなく、長期間にわたる定常的な観測が重要です。そのため、運用断念となるとすべてを失います。その点、機能別の中規模衛星ならリスクを分散できますし、バス(衛星本来の機能を維持するための制御機器や電源)を共通化すれば開発スピードは速く、信頼性の向上とコスト低減ができます」

人工衛星「ALOS」
人工衛星「ALOS」の熱試験用モデル提供JAXA
宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構
経営企画部 企画課長
田中哲夫氏

宇宙へのチャレンジは「どんどんやってくれ」

 JAXAでは産・学・官との提携や技術移転を積極的に進めている。例えばH-IIAロケットの製造は三菱重工業に移管、中型のGXロケットは民間主導で開発中、人工衛星「ALOS」では観測データの利用促進を目指す協議会を設立し、共同研究開発の窓口となる「宇宙オープンラボ」は6月に開設したばかりだ。
「JAXAの今までの技術成果やパテントを使ってもらう、産業界との連携・協力を進める、新規参入を積極的に呼びかけるが3つの柱です。宇宙利用をいかに社会に役立てるかがわれわれの使命。多くの分野でニーズを掘り起こしていきたいです」

 今後のエンジニアにとって、宇宙開発が身近になることは間違いなさそうだ。ただ、不安が残るのは、宇宙という特殊分野での技術力の差。
「私は心配ないと思います。確かに宇宙という特殊性はありますが、逆にいえばそれだけです。特に人工衛星であれば構成するハードウェアは機能的な違いは少ないですし、エレクトロニクスやソフトウェアを含めて、先端技術という意味でのレベルの差はさほどないでしょう。むしろ、他分野からの自由な発想をもち込んでほしい。 『どんどんやってください』というのが率直な意見です」


Part2 東大阪の町工場から人工衛星「まいど1号」を飛ばせ!
 東大阪の町工場が、その高い技術力を結集して開発中の人工衛星「まいど1号」。「夢で打ち上げるんや」のフレーズなどで話題を集める一方、実際の開発内容やプロジェクトの進捗状況を伝える記事は少ない。人工衛星の目的を含めて若いお二人に語ってもらった。
まいど2号に搭載予定のパネルのモデル

「まいど2号」に搭載予定のパネルのモデル
まいど1号から2号、そして「PETSAT」へ

 お話を聞いたのは東大阪宇宙開発協同組合(SOHLA)の技術開発グループに所属し、システム全般の取りまとめを行う菅原佳城氏と、マーケティング企画の丸川智子氏。菅原氏は大学院の博士課程で電子機械工学を学び、在学中からSOHLAに飛び込んできたエンジニアだ。
「現在のところまいど1号は、50cm四方の立方体に収まるほどの大きさで、八角柱をベースとした形、周囲に貼り付けた太陽電池を動力源とする予定です。概念設計はできているので、これから本格的なモノづくりに入る段階です」(菅原氏)
 ただ、まいど1号は実証実験機にすぎない。真の目的は「PETSAT」だ。これは東京大学の中須賀助教授チームが完成させたパネル展開型汎用小型衛星のことで、折りたたんだ複数のパネルを宇宙空間で開き、さまざまなミッションを行うもの。各パネルにはCPU、メモリ、太陽電池、センサーなどが埋め込まれている。
「そのほかにも、無重力状態で人工衛星を姿勢制御するためのリアクションホイール、大阪大学の河崎教授が開発している雷計測のための干渉計などがあります。中須賀先生にご相談してこのような形になったのですが、最初の人工衛星ですべてを行うのは無理との判断で、まずは実験機である1号を、次にパネルを搭載した『まいど2号』を打ち上げる予定です。2号機で要素技術の検証を済ませて、3回目にPETSATを飛ばしたいのです」

相関図

人工衛星から
ビジネスと産業を興したい

 実は、SOHLAのプロジェクトには多くの協力者がいる。まいど1号はJAXAから技術支援を受けており、JAXA開発の小型衛星「マイクロラブサット」を「技術の教科書にしている」(菅原氏)し、開発スタッフには大阪府立大学の学生たちが参加している。

「SOHLAの発起人であり理事長の青木豊彦が、最初にご相談したのが大阪府立大学の東久雄教授でした。青木が『東大阪の活性化のためにロケットをつくりたい』と持ちかけたところ、『ロケットは無理だが、人工衛星ならできそうだ』というご提案をいただき、プロジェクトがスタートしました。それ以来、学生さんたちを含めてご協力していただいています」(丸川氏)


東大阪宇宙開発協同組合
東大阪宇宙開発協同組合
マーケティング企画
丸川智子氏
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から5年間で7億円規模の、委託事業の採択が決まり、8月20日にオープンした「JAXAコンソーシアムラボ」(小型人工衛星開発の試験などを行う研究開発施設)の利用も決定した。順調に進む人工衛星開発だが、PETSATによる最終目標とは何だろうか。
「人工衛星の産業化です。受注生産型であった従来の衛星とは違い、機能別にモジュール化されたパネルを量産できればコストは安くなりますし、パネルの組み合わせによって多様なビジネスに対応することが可能です。もちろん、パネルはSOHLAを中心とした関係者で製造する予定ですよ(笑)」(丸川氏)
「胸を張って『俺がつくったぞ』といえる人工衛星で、宇宙産業を広げたいですね」(菅原氏)

Part3 エンジニアが進化させる三菱重工業のH-IIAロケット
 日本の宇宙開発を支え続けてきた三菱重工業。大型ロケットの製造を一貫して任されてきた高い技術力は世界屈指のものだ。H-IIAロケット6号機は打ち上げに失敗したが、エンジニアたちは次のステップに向けて着々と準備を進めている。
モニター窓

第2弾機体の上部。北山氏が指差している
中央部右側にあるのが「モニター窓」
宇宙空間で機体を飛ばす第2段推進系を開発

「宇宙戦艦ヤマト」を見て「自分の手でロケットを飛ばしたい!」と思った子供は何人いただろうか。当時小学生だった北山さんは、その夢を実現した数少ないひとりである。京都大学大学院で航空宇宙工学を専攻後、三菱重工業へ。そして憧れの名航(めいこう)へ。入社後は、H-IIAロケット第2段「推進系」のシステム設計を一貫して手掛けてきた。
「2段式ロケットであるH-IIAは、打ち上がった後に第1段を切り離し、第2段エンジンに点火して推進させますが、第2段にはエンジンのほか、推進薬である液体水素や液体酸素のタンク、姿勢制御用のガスジェット装置、誘導制御のためにエンジンの向きを動かす電動式駆動装置などがあります。私は機体を飛ばすための推進系システム設計を担当しています。具体的には、推進薬をエンジンが必要とする圧力・温度条件で供給するための、タンク・推進薬供給配管のサイジングや加圧系統の設計などです」
 第2段には推進系のほか、熱や振動などの環境条件やタンクを扱う「構造系」、電装品などの「電気系」、機体の誘導・制御を行う「誘導系」、発射台など種子島の打ち上げ射場設備を設計・整備する「設備系」がある。

第2弾エンジン

横から見た第2弾機体。
右側が第2弾エンジン「LE-5B」

ロケット開発には専門知識よりデータ読解力が必要

 北山さんが携わったロケットは、H-IIの4号機からH-IIAの6号機まで10機に上る。H-IIAロケットでは1号機から開発にかかわったが、システム設計と並行して取り組んだハードウェア設計の中で、最も印象に残る仕事は小さな「窓」の設計。飛行中には無重力状態にもなる第2段機体では、液体水素の挙動を把握することも重要な技術データになる。その様子を、直径5cmほどの「モニター窓」から監視するのだ。材料はサファイア。小さな部品だが、内面は−153℃、外面は照明で炙られる過酷な温度環境で、割れたらミッション失敗に至る。
「ロケットは飛行機や車と違って、発射後に異常があっても戻ってくることができませんから、発射前には心臓が飛び出そうになりました(笑)。いつもそうですが、特にH-IIA1号機には思い入れが強かったので、打ち上がったときは正直ホッとしました。ロケット開発の醍醐味って、打ち上がったときに感じる一瞬の感動にあるのだと思います」

三菱重工業株式会社
三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙システム製作所
宇宙機器技術部 装備設計課 主任
北山治氏

 機体の製造期間は、出来上がったタンクにバルブや配管を取り付け、機能試験を終えて完成するまでが約半年。北山さんのチームは4、5人で、必要があれば何カ月も種子島の射場や秋田県の燃焼試験場に詰めることもある。そんなロケット開発エンジニアに必要なスキルとは何だろうか。
「ロケット開発には専門的な知識というよりも、1つのデータを見て起きている『何か』を読み取り、定量的に説明できる能力のほうが大切だと思います」
 今後はJAXAからロケットの製造・営業が移管される。北山さんの仕事には、関連メーカーとの折衝業務などが加わることだろう。責任は重く、その範囲も広くなる。
「ただ、やはり開発にこだわりたいです。第2段は飛ばすだけではなく、長時間、数回のエンジン燃焼を経て、衛星を所定の軌道に送り届ける細かい技術が必要です。そのため、小ワザが使えるんです。新しい推進系の開発をして、世界に売れるロケットを開発したいですね。今が35歳ですから、そう、40歳までに」

 エンジニアにとって、宇宙はどんどん近くなっている

 宇宙開発プロジェクトは、大きくロケット系と人工衛星系に分かれるが、そのどちらにもエンジニア参入の余地が広がっている。ロケットでは、民間への本格的な技術・製造移管が大きな要因。数年間はJAXAと協力して進めるだろうが、5年を待たずに完全に企業主導で開発が行われるのではないか。もちろんロケット開発企業は三菱重工業だけではない。
 人工衛星にはよりチャンスが多い。人工衛星の開発で元気があるのは東大、東工大、千葉工大、北海道工大など大学の研究室だ。技術力の高さに加えて、民生部品が高性能化されてそのまま開発に使えるようになったことが大きい。そういった大学と民間企業が組んで、衛星を打ち上げる計画が急増しているのだ。多くの目的は商業化。このように宇宙に出資する企業が増えれば産業化が始まり、エンジニアの需要が増すのは間違いない。
 ここまでは「本体」の話。宇宙産業のすそ野は非常に広く、サプライヤーを含めると参画企業は数えられないほど多い。また、海外の宇宙関連企業で働くという選択肢もある。宇宙開発は技術の集大成であるから、自分の技術を転用できる分野が必ず見つかるはずだ。宇宙はエンジニアにとって、かなり近い存在になってきた。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
モノづくりがエンジニアの醍醐味だとすれば、その最高峰が宇宙開発なのかもしれません。自分の技術が宇宙で使われるなんて、想像するだけでドキドキしませんか? 簡単なことではないけれど、やってみたくはありませんか? このレポートを終えて、大学で文系学部に進んだことを後悔しました。

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