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若手SEは見た! 顧客の心をワシづかみにした瞬間 ケンカ上手な上司☆伝説の顧客交渉シーン
受注競争、コスト競争が熾烈を極め、顧客の要求水準も高くなる一方。顧客と対等に渡り合える交渉術は、ますますSEの必須能力になってきた。そこで、顧客とうまくネゴシエーションできる極意をケンカ上手な上司たちに学ぼう。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/きたみりゅうじ)作成日:04.09.15
 

part1 トラブったときにこそ発揮される、プロマネ極意の顧客交渉術
 SEの顧客交渉力。それがいかんなく発揮されるのは、商談、技術的トラブル、スケジュールの遅延、コスト交渉などのクリティカルな事態のときだ。そのとき、上司たるプロマネたちはいかに対処し、若手SEはそこから何を学んだのか。
シーン1 システムが止まった! 障害は根深いところに・・・
障害報告でウソは禁物。原因と対策はセットで報告
 新サービス稼働から2週間目。それは「Webブラウザが遅くて使えない」とのB社の報告から始まった。そして、システムが完全にストップ。わずか数分だが、Web上でビジネス展開するB社にとっては、大損害をもたらす致命的な事態。なんとか応急措置で切り抜けたものの、問題の根は案外深かった。
 
どこまで譲れて、どこからは譲れないかを把握して顧客折衝
チーム:大手SIのA社。法人ビジネスのプロジェクトチーム 顧客:大手情報サービス会社B社
 
 サーバー系インフラの設定ミスが発端だったが、その影響はアプリケーションやその上層のサービスレベルにも波及していた。完全に復旧するためには、全体の設計の見直しが必要。「それは当方だけでは手に負えず、顧客側の運用体制の変更をも必要とするものでした」と、A社に常駐するアカウントSEのSさん(32歳)。

  トラブルの報告は瞬時に、インフラ、アプリケーション、サービスといった各レベルを担当するエンジニアたちに伝わった。むろんSさんの上司M氏(36歳)にも刻々と報告は上がってきた。障害情報をまとめ、顧客に報告するのは彼の役目。トラブル時の基本方策として「顧客への報告は正確を旨とする。ここで隠し立てすると後でつじつまが合わなくなる。かつ原因分析と対処法はセットで伝えること」を心がけていた。その「報・連・相」の基本は日ごろから口を酸っぱくいっていたものだった。
顧客と同じ土俵に立って、協力を求めていく
 翌日、顧客のシステム部門との障害対策会議に臨んだM氏は原因が自社側にあることを認めた。だが、「自分でミスをかぶり、顧客にチームメンバーのせいにするようなことはしなかった」ことに、同席したSさんは感激。むろんM氏は謝るだけではなかった。今後、設計を見直してより強固なシステムを構築するためには、顧客側の協力が欠かせない。日程も限られるため、タスクリストを顧客と共有し、そのなかで優先順位をつける作業を共同で行うことを、顧客に求めていったのだ。

「むろん作業リストの全部を出したわけではありませんが、これだけやらなければならないと納得してもらったうえで、個々の作業時間とリスクをくどいほど説明し、日程のツメを行いました。当然、ここは譲れないという話が席上、お客さんから出てきます」
オフィシャルな場を離れ、相手の腹を探る
 押し問答しているうちに会議はこう着していった。「もとはといえば全部、君らのミスじゃないか!」といらつく客もなかには出てくる。場の空気も険悪一歩手前だ。そんなとき、M氏は顧客側のカウンターパートナーを会議室の外に呼び出し、「実際、どこまで詰められますか」と腹を割った話をもちかけた。
 会議の場では、スタッフの手前、公式発言に終始していた相手も、本音のところでは別のヨミをしている。それをすり合わせることで、難航していた会議は新たな展開を見せ始めた。

「こういう表と裏の使い分けができるのも、それまで培った相互の信頼関係があればこそ。さらにチーム全体で情報を共有し、それを顧客にも報告することで、同じ土俵に立っての会話が成り立っていることが前提条件」と、M氏は日常的な顧客との信頼関係の重要性を強調する。
「どこまでは譲れて、どこからは譲れないかを把握したうえでの顧客折衝。その判断基準は長年の経験で培ったものでしょうが、こうしたいくつものトラブルを越えることでその判断力が向上する」――Sさんは、M氏が見せた土壇場での交渉シーンをそう振り返った。
シーン2 新規プロダクトの商談。何を高く売り、何を安く売るか
負けるケンカは最初からしない
「負けるケンカはするな。ケンカは外堀を埋めてからしろ」――は、フォー・リンク・システムズの中村和夫氏(38歳)が20代のときに上司に言われて今でも記憶している名言。“外堀を埋める”とは例えばこういうこと。
 
まずは外堀を埋めてから顧客折衝する
チーム:(株)フォー・リンク・システムズ 新規事業開発部 顧客:携帯向けコンテンツサービスプロバイダー
 
「客は百のことを言っているつもりで、実は肝心なことを言っていない。客自身にそれがわからないから。だからこそ、客の真のニーズを引き出すことがSEの役目になる。客自身に真のニーズを理解してもらうために、商談に臨むときは必ず客を説得するだけの資料を携えていくべきだ」
 何度話してもそこがあいまいな客は、早い段階で仕事を断る。この部分がクリアにならないまま仕事に突入すると、泣きを見るのは末端のエンジニア。そのことをバブル崩壊期の業界で、中村氏は痛いほど経験してきた。“負けるケンカをしない”とはそういうことを意味する。
自分たちのコア技術を安売りするな
「開発でも商談でも提案でも、客の側にどれだけ立てるかがカギ。結局、客は現状で何らかのトラブルや課題を抱えているわけですから、ほかのベンダーが提供するソリューションまで含めて、その課題を調べ、問題を解消することが私たちの仕事です」と、中村氏は言う。
 同社は3D-GISや組み込み系ミドルウェアなど4つの事業領域をもつシステム開発ベンチャー。新規事業として中村氏は、携帯電話コンテンツのためのクロスプラットフォームGUIを販売し、コンテンツ、アプリケーションの開発を行う。従業員20人のベンチャー企業なだけに、担当部長は技術開発からマーケティング、営業まで全部こなさなければならない。

 エンジニアは単にモノを作るだけの人という狭い考えは彼にはない。営業シーンにおいては、「自分たちのコア技術をけっして安売りはしない」。そこのところは徹底してエンジニアの側に立つ。
「得意なスキルの部分を値引きしてしまったら、社内の開発チームのモチベーションが下がり、結果的にプロジェクトは失敗します。値引きに応じるのなら、コアスキル以外のコストを徹底して省く。相手がどういう費目で予算を取っているかまでわかると、交渉もしやすくなります」
顧客を仲間に引き入れろ
 中村氏と一緒に仕事をして3年目になる井山さんが感心するのは、中村氏の幅広い“人脈”だ。
「中村さんは、工場の製造ラインシステムの障害時に呼び出され、ラインがあと何分で完全に停止してしまうという切迫した状況下で、一人、ベルトコンベアのわきでバグを潰した経験がある人らしい。だが、『一人のスーパーエンジニアより、百人のエンジニアの知り合いがいる人間のほうが強い』というのも口癖。何かあったときに無償で助けてくれる人脈をつくれ、とよく言われます」

 顧客と一人対峙するとき、姿こそ見せないが、背後に信頼できる知恵や情報を寄せてくれるエンジニア仲間がいれば、これほど心強いものはない。こうしたブレーンづくりに定石はない。仕事の場はもちろん、バーで知り合う、ネットで知り合う、あらゆる機会をとらえて人脈を広げる。
「私たちの場合、顧客もたいていはエンジニア。だから、仕事の客だと思わないで、仲間だと思えば、どんな要求やクレームも楽しく感じる。もちろん前提は、客と最低限同じレベルで技術の話ができるということですが、顧客を仲間に引き入れちゃう、というのも、ケンカ上手になる秘訣の一つですね」と、中村氏は不敵な笑みをもらした。
Part2 若手SEでもできる顧客交渉テクニック
 顧客交渉を手際よく実行できるようになるまでには、かなりの経験と試行錯誤が必要だ。そこで、まだプロジェクト・マネジメント経験のない20代の若手エンジニアでも身につけられる、顧客交渉術の初歩について、株式会社豆蔵の取締役・萩本順三氏に話を聞いた。
豆蔵の荻本氏が伝授─5つの顧客交渉テクニック
1.相手の目を見て話せ
 萩本さんが強調するのは、若手エンジニアは「相手は機械ではなく人間だ」という当たり前の認識からスタートすべしということ。ともすると、若手は技術志向が強く、優れた技術や部品があれば顧客の問題はすべて解決すると思いがち。しかし、その前提として顧客との人間的な信頼関係がなければ、ソリューションもリスク分析も何もあったものではない。
「技術やビジネスの話の前に、自分の思いを、相手の目を見ながら率直に訴える。それが信頼関係を勝ちうるための、すべての交渉の基本だと思います」
2.客の話を完全に否定するな
 とかく技術志向が強すぎると、顧客の知識不足や思い込みを否定して、完璧なソリューションを提案したがるもの。しかし、最初からそれでは客のプライドは傷つき、心は離れる一方、「最初は、『おっしゃるとおりですね』と話を受けて気持ちをつかみながら、徐々に、『でも、こういう方法がもしかしたらあるのでは』と、自分の提案を持ち出していく。その順番を間違えるととんでもないことになります」
3.客の言葉でまとめよ
 すべての交渉は合意形成のためのプロセス。優れた提案者というのは、相手が決して押しつけられたと感じず、あたかも自身が発想したかのようにその合意内容をまとめることができる人だ。
「交渉を繰り返す中で、自分たちの提案を顧客があたかも自分の発想のように語り出す瞬間があります。それをとらえて、『そうですね。それで行きましょう』と言えば、顧客も気持ちよく合意できます」
4.ときにはプロジェクトから身を引け
 障害対策のように泥沼になりがちな交渉シーンでは、お互い頭を冷やす時間が必要だ。
「会社対会社という構図からいったん離れて、ときには第三者的な視点で問題を語ってみることが必要です。あたかもお互いがプロジェクトから身を引いたようにして、『ところで、客観的に見たら、これどうなりますかね』というふうに……。案外、意外な解決法が出てくるものです」
5.失敗しないプロジェクトを作れ
 こちら側の問題で納期遅れが発生したとき、それをどう顧客に伝えて納得してもらうか。
「妙手があるわけではありません。問題を正直ベースで語り、打開策を示し、二度とそれを繰り返さないというまっとうな方法しかないでしょう」と萩本さん。
 究極の方法は、遅延・失敗のないプロジェクトをいかに作り出すか。 「そのプロジェクトに顧客も主体的な意識をもって参加してもらう、そういう合意形成が最初からできていれば、プロジェクト成功の確率は高まります」
株式会社豆蔵 取締役萩本 順三氏
株式会社豆蔵 取締役
萩本 順三氏
オブジェクト指向言語を独学で学んだ経験をもつ。http://www.mamezou.com/
Plan─Do─Seの基本サイクルを繰り返し、交渉スキルを上げる
 今でこそオブジェクト指向技術のカリスマエンジニアといわれ、業界のオピニオンリーダーの一人と目される萩本氏だが、若いころは顧客とぶつかってばかりいたという。「“なんであんなヤツをよこすんだ”と、顧客から上司にお怒りの電話がかかってきたこともあります。顧客の前でシステム開発の正当性をめぐってさんざん議論をふっかけた後でした」。しかし、そのときの議論は顧客のためを思っての、誠心誠意のもの。そうしたクレームを経て、最後はその顧客と心の底から通じ合うことができたという。
「問題が解決したらそこで安心せずに、たえず課題を整理する習慣をつければ、若い人でも少ない経験から多くの教訓を得ることができます」と萩本さん。Plan―Do―Seeの基本サイクルをいかに繰り返すか、ということだ。

 今SEに求められるビジネススキルとは、こうした交渉の各プロセスを積み重ねて、顧客の心をつかむことである。これはけっしてSEが一人で努力しただけで身につくものではない。やはり組織活動を通して鍛えられるものだ。チーム全体での首尾一貫した顧客アプローチ、チーム内での迅速な情報共有、目的と期限を明確にした共同作業などがポイントで、そのためにはチーム全体をひっぱるリーダーの役割が重要になる。そうしたリーダーの存在と、若手SEの学ぶ姿勢によって交渉スキルは引き上げられるともいえるだろう。
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
転職に成功したエンジニアの方の取材でよく出てくるのが「上司」の話。技術面接で面接官として現れる現場の上司に感銘を受けて、入社を決める人って結構多いようです。何度か無理を言ってその上司の方に会わせてもらったことがあるのですが、確かに魅力的。「早くああなりたい」。そんな自己成長の投影モデルがそばにいたら、仕事モチベーションもぐんと上がりますよね。皆さんの上司はどうですか?

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