転職後の給与はいくらアップする？～IT・通信業界編～

転職で年収はいくらアップするのか。Ｔｅｃｈ総研では、ここ最近１年以内に転職した635人のエンジニアに、転職前後の年収についての調査を実施。今回はIT・通信業界にスポットを当てて、その年収増減と転職満足度を紹介する。

（取材・文/広重隆樹総研スタッフ/宮みゆきイラスト/Onsel BEHICH）作成日：04.09.08

ソフト系技術者が平均42.3万円の年収増

データ１

「増えた」が63%！転職前後年収の増減率

　2003年8月から2004年7月の間にIT・通信業界へ転職した25歳から39歳のエンジニア202人のうち、「年収が増加した」と答えた人は全体の63％。反対に「減った」と答えた人は23％いた（データ１）。減収が約４分の１いるわけだが、これには企業規模、地域、残業時間の変化などさまざまな理由が考えられる。

　IT・通信業界内、または異業界から同業界内への転職した際の、その前後の給与変化を、職種別に見たのがデータ２。ここではネットワーク設計、システム開発などのソフト系技術者に職種を限定し、年収の平均増加額の高い順に並べている。
　高い順に「通信インフラ設計・構築」（81.7万円）「ネットワーク設計・構築」（62.1万円）「コンサルタント／アナリスト／プリセールス」（58.2万円）「パッケージ・ミドルウェア開発」（56.4万円）となっている。サンプル数やサンプルの平均年齢にはばらつきがあり、これをもって一概に職種の市場価値と断言することはできないが、それでもおおよその目安にはなるだろう。

　ざっくりいえば、システム開発、社内情報システムなど汎用性の高い職種よりは、通信インフラ、ネットワーク設計など、相対的に技術者の数が少なく、特殊技術が求められる頻度の高い職種のほうが、転職を年収アップにつなげるチャンスはより多いということができよう。しかしながら、システム開発系でも30万～40万円台の年収アップは可能なわけで、ソフト系全体を平均した数字、42.3万円というのは、これから転職を考えるうえでの業界標準値としてとらえられる。

データ２

職種別に見た転職前後の年収増加ランキング（※金額単位：万円）

職種	転職前年収	転職直後年収	平均増減額	回答者平均年齢
通信インフラ設計・構築（キャリア・ISP系）	438.3	520.0	81.7	31歳
ネットワーク設計・構築（LAN・Web系）	432.1	494.2	62.1	31歳
コンサルタント、アナリスト、プリセールス	573.0	631.2	58.2	32歳
パッケージソフト・ミドルウェア開発	362.0	418.4	56.4	29歳
システム開発（マイコン・ファームウェア・制御系）	425.3	473.7	48.4	31歳
社内情報システム、MIS	496.6	534.2	37.6	33歳
システム開発（汎用機系）	444.3	477.8	33.5	30歳
研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理ほか	471.4	501.4	30.0	30歳
運用、監視、テクニカルサポート、保守	437.1	434.3	-2.9	31歳

データ３

転職後の年収増加に対し、意外に低い満足度

　また、転職満足度を見てみると、「とても満足」「やや満足」を合わせると46％。「やや不満」「とても不満」が24％だった（データ３）。
　アンケートでは、「生活基盤を田舎に移したため、年収減は予想の範囲」「給与よりも仕事内容や勤務時間などの職場環境に恵まれているため、年収減でも転職を決意した」といった感想を述べる人も少なくない。必ずしも、年収減イコール仕事へのモチベーション減とはなっていない。いいかえれば、年収が増えた人のなかにも、必ずしもそれに満足しない人がいるということ。たとえ年収100万円アップでも、自分の実力が正当に評価されていないと感じれば満足度は低くなる。

ＥＣ、金融、携帯、Ｗｅｂ関連がねらい目

　こうした調査結果をリクルートエイブリックのキャリアアドバイザーに分析してもらった。「調査データの平均年齢が30.8歳というのを勘案すれば、私たちの紹介実績での実感値と近い数字」というのは、同社ITCAグループ１（IT業界担当）の酒井美和さんだ。
「IT業界は昨年中途採用が伸び悩んだ。今年はそれが回復基調にあるが、必ずしも大幅な年収アップにはつながっていない。ただ、ソフトハウスからSIerやコンサルファーム、SIerから通信キャリアへなど“上流”への移動では、一般に後者の年収ベースが高いため、年収が大幅に増える傾向がある」
　今年下半期は景気回復の影響がより広い業種に及ぶという観測がある。酒井さんが有望なビジネス領域として注目しているのは、ECビジネスや金融業界。その活況が、こうした業務システム開発を担当するIT企業にも波及してくると見ているのだ。
「携帯コンテンツ、Webコンテンツの仕事もますます増えてくるはず。オブジェクト指向、IP系の技術に実務経験、さらに30歳を過ぎれば深い業務知識とマネジメント経験などを武器に好条件を探る人々で、転職市場はより活況に向かう」という見解だ。

20代後半の年収増加率が最も高い

　ただ、ここで気をつけたいのは転職時の年齢。「年収アップで考えると、20代前半は増減幅が小さいが、20代後半になると500万円が550万円などと10％の年収増を実現できている人もいる。しかし、増加率は30歳前後がピークで、30代半ば近くになるとなかには大幅な減少になる人も出てくる」
　と指摘するのは、同じくITCA３グループの内田敦子さん（通信業界担当）。その傾向は今回調査の年代別増減率（データ４）にもうかがえる。

データ４

年代別に見た転職後の年収増加状況

　それでも、通信ネットワーク業界では、転職による年収変化は、今年上半期は昨年同期に比べ上向き傾向にある、と内田さん。
「なにより、転職希望者からみたときの企業や採用ポジションの選択肢が広がってきたのが好材料。求人数は決して多くはないものの、ネットワーク・セキュリティなど高度な知識を有する人への求人では高額の年収オファーも見られる。これに加えて、外資系の求人が回復すれば、年収が大きく跳ね上がるケースにも期待でき、全体の平均増加率にも反映されることになるだろう」と内田さんは予測している。

　外資系ベンダーや国内キャリアが市場を牽引し、ネットベンチャーが破格の高給与で人材を集めたITバブル期ほどの大幅な年収アップは望めないものの、全体に復調の兆しがうかがえる。