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仕事の裁量、出勤時間、服装、独立支援etc エンジニアが創ったベンチャーの働き心地

こんな制度・環境があれば、もっとすごい製品を開発できるのに、会社は現場の気持ちをわかっていない──。多くのエンジニアが抱くこんな気持ちを、エンジニア出身の社長なら、解消できるのか。彼らが創ったベンチャー企業の働き心地を探ってみた。
(総研スタッフ/関洋子 イラスト/大寺聡) 作成日:04.09.01
エンジニアはこんな制度・環境をほしがっている
 厳しい納期への対応はもちろん、めまぐるしく進化する最新技術への追随など、エンジニアが抱えるストレスは非常に高い。そんな中で、新しい製品やサービスを開発する意欲を保つためには、エンジニアが抱えるこれらのストレスを解消できるような制度・取り組みが必要なはず。

 そこでTech総研では、読者721人に「もしあなたが社長であれば、エンジニアの能力を生かすためにどんな制度・環境を整えますか?」というアンケートを行った。右がその結果だ(10位までを掲載)。気分をリフレッシュするための空間や時間、気分転換を図るためのジムやスパ、温泉施設、時間に縛られない勤務体系、作業に集中できる環境を求めていることがわかる。

 もちろん、公正な評価やある程度の報酬は必要だが、それ以上に能力が発揮できるための自由にできる時間や空間を必要としているのだろう。

 では、実際にエンジニアが創ったベンチャー企業では、エンジニアの能力を生かすために、どんな環境が用意されており、現場のエンジニアはどう活用しているのだろうか。
もし社長だったら、どんな環境・仕組みを用意しますか?
エンジニアの能力を生かす環境・仕組み 3つのケース
Case 1 約3畳半もの広い作業スペースで、仕事に集中
今年は屋久島にでかけてリフレッシュ
デスクスペース
約3畳半もある快適なデスクスペース
マシンのスペックも高い
 アルモニコスの代表取締役・秋山雅弘氏は元ヤマハ発動機で小型船の研究開発に携わっていたエンジニア。「エンジニアが仕事に打ち込め能力を発揮し、しかも正当に評価される会社」という理想を目指して創られたのが、同社である。

 複数の製造業支援のCADソフト開発プロジェクトでマネジャーを務める宮崎さんは、「当社はエンジニアにとって、さまざまないい環境が用意されていると思います。私がいちばんうれしいのは、一人当たりのブースが広いことですね」と語る。

 同社では一人当たりの作業スペースは約3畳半。
「パーティションで区切られているので、仕事に集中しやすい。机にA0の図面を置くことだってできます。マシンもスペックの高いものを用意してもらっています」(宮崎さん)

 もちろんそれだけではない。同社ではエンジニアが自主的に勉強会を行っている。「私も最近まで、UMLの勉強会に参加していました。お仕着せではなく興味のもったことに時間を費やせる風土がうれしいですね」と宮崎さん。
今年は屋久島にでかけてリフレッシュ
 「また年1回、補助金(約10万円)がでて、旅行を支援してくれる制度もあります。自由に行くところを企画できるため、今年は屋久島で縄文杉を見て、リフレッシュする予定です」(宮崎さん)

 同社では時間や服装など、エンジニアの自主性に任されているので、特に勤務時間は決められていないという。また純然たる「営業職」もいない。役員を含めて、すべてが「開発者の気持ちをもっているので、他社にはありがちな営業とのコミュニケーションストレスはない」という。

 もちろん、顧客との交渉からすべて、エンジニアが行うことになるので、仕事の範囲も広く責任も伴う。

 そんなエンジニアにはうれしい環境で仕事をしている宮崎さんが望むのは「業務の効率化・標準化を進める部署」の創設。
「どうしても目の前の仕事に追われてしまって、なかなかそこまで手が回らないんです。でも本当は、私たちがつくっていくことなんですけどね」
宮崎篤司さん
プロジェクトマネージャ
宮崎篤司さん(32歳)
97年、大手電気会社に就職。
火力発電の機械設計に携わる。2年半勤めた後、より面白い仕事に携わりたいという思いから、アルモニコスに転職。
Case 2 PD(プロジェクトドライブ)制度で、エンジニアにアントレプレナー精神を
自分のやりたいことができる環境
 イーディーコントライブの創業者、川合アユム氏は、コンピュータ機器の商社で営業に携わっていた人物。同氏は営業とはいえ、ソフトウェアの違法コピーを防ぐプロテクション技術を開発するなど、エンジニアとしても活躍。そんな川合氏が会社に導入したシステムが、「PD(プロジェクトドライブ)制度」。「会社は個々の自己実現を支援する場にすぎない」というコンセプトのもとに、つくられた制度である。

 そんな同社で不動産業向けのWebシステムの開発や教育ソフトの開発など複数の案件に携わっている田畑さんは「自分のやりたいことが見つかれば、本当にそれを実現できる環境だと思います」と語る。

 あるアイデアを思いつき、それをプロジェクトとして立ち上げたいと思えば、構想と予算を役員会に提出し、過半数の賛成が得られれば、プロジェクトを立ち上げられるという仕組みだ。つまりアイデアがあれば、会社という組織を使って、起業する精神を養うことができるというわけだ。
 
PD制度の概要
PD制度では評価・査定という過去の時点での判断基準を撤廃。
個人には現在から未来への変化量を主低的に宣言し、成功への人間的支援を行う。
自立型人間がこの会社には合う
田畑有里さん
システム開発プロジェクト
システムエンジニア
田畑有里さん(29歳)
短期大学卒業後、化粧品の販売に2年半携わった後、資格スクールの営業を経験。その後、ソフトハウスに転職し、通信業のシステム開発に携わる。2003年、同社に転職。
 「でも、みんながみんな、やりたいことをもっているわけではありません。自分にすべてが任されている環境は、好奇心旺盛で常に前向きなエンジニアであればうれしいはず。しかし管理されたがるエンジニアにとっては、『やらなくても何もいわれないのならいいや』と甘いほうへと流されてしまう環境ともいえます。だから自立型人間でないと、損をすることもあるかもしれません」(田畑さん)

 やれることができる環境、任される範囲が大きいことはエンジニアにとって理想だが、その自由は自己責任のうえに成り立っているということだろう。
「いったん、やるとなると動きが非常に早いのも当社の特徴。また通常のSI会社とは違い、ソフトウェアの著作権保護技術の開発からコンテンツ事業というように、幅広い事業を行っているのも、勉強になっていいですね」
Case 3 エンジニアのストレス度は自社ソフトでチェック
担当者に権限委譲できる組織に
光畑信明さん
光畑信明さん(34歳)
高校卒業後、ソフトハウスに入社。2年後に転職してすぐに、中堅SI企業に派遣、ホテル向け業務システムの設計、開発に携わる。さらにスキルアップをするため、2001年、同社に転職。
 リアルビジョンを設立した山田浩雅氏は、商社での経歴をもつ。しかしそこで携わった仕事は大型コンピュータのオペレータ。その後、メーカー系のソフト会社に出向して、SEになることに目覚めたという。そして「この業界で自分の力を試したい」という思いから起業した。そんな同社でサーバーの設定などネットワークの構築に携わっている光畑信明さんは、「今、当社は会社をつくっている段階なんです」と語る。

 同社は設立されて10年目だが、5年前まで従業員を特に雇用せず、社長一人で運営していた。その後、仕事の幅が広がるのに伴い、社員を雇用し、現在11人となっている。

「私自身、会社を創っていく立場にありますが、担当者にもっと責任意識をもたせる仕組みにしたいと思っています」
 と光畑さん。というのも上司が責任を取ってしまうと、担当者がどうしても甘えてしまい、その範囲内で仕事をしてしまうことになるからだ。だから、できる範囲でなるべく、権限を委譲するようにしているという。
自社開発システムで健康管理
 「当社が力を入れている業務のひとつであるASPサービスでは、自社開発したメンタルヘルス統合管理システム「MENTOSS」を提供しています。これを受ければ現在のストレスや精神状態を認識でき、状態改善のためのアドバイスも行ってくれるという。

「もちろん、社員はこれを無料で受け、自分のストレス度をチェックすることができます。私たちエンジニアは、納期前など、どうしても多大なストレスがかかる職種です。心の健康を保つことは大切ですからね」(光畑さん)

 同社には客先常駐しているSEも多い。
「客先に常駐していると、会社はお金をもらうところという意識に陥ってしまいやすいと思うんです。それを防ぐためにも、毎月1回、会社負担の飲み会を開催しています。社員の結束を固めるコミュニケーションの場にもなる。社員もみんな、楽しみにしているんです」
「MENTOSS」の診断書
同社が開発したストレス対策を
総合的に支援する
メンタルヘルス統合管理システム
「MENTOSS」の診断書。
エンジニアがモチベーションがあがる組織や仕組みとは?
 では、エンジニアがモチベーション高く仕事ができる環境とは何か、『ホンネで動かす組織論』や『個力を活かせる組織』などの著者、同志社大学政策学部教授の太田肇氏に伺った。
「エンジニアのモチベーションをアップさせるためには、お金よりもむしろ『自律性』や『承認』が得られる組織でなければなりません。『自律性』とは、仕事の目標や研究テーマなどを自分自身で設定し、自分のペースで仕事ができることであり、『承認』とは自分の名前で仕事をして社会的に評価されることです。例えば勤務時間や服装などに拘束されないというのも、エンジニアが求める『自律性』のひとつ。お金は『承認』のシンボルでしかありません。たとえ給与が高くても、『自律』と『承認』、この2つがなければ、エンジニアは満足しないのです」
 ではこういう企業をどうやって探せばいいのか?
「大企業では先のような組織がよいとわかっていても、なかなか取り入れることができません。やはりベンチャー企業ですね。それもエンジニアが若いうちに創った会社。同じエンジニア出身でも定年間近の人が起業した会社は、もともといた会社の制度をそのまま導入してしまう傾向が強いようなので、注意が必要です」

 もちろん、若手エンジニアが起業した会社なら「すべてがいい会社」というわけでは決してない。しかし、元エンジニアだけにエンジニアの気持ちがよくわかっているのも事実。「自律性」と「承認」──。エンジニアにとって重要な鍵を握るこのキーワードを求めるなら、エンジニアが創ったベンチャー企業に転職する、そんな選択肢を考えてもいいかもしれない。
太田氏が挙げる エンジニアにとっていい会社の条件
太田肇氏
太田肇氏
同志社大学政策学部教授。
経済学博士。専門分野は組織論。
特に関心を抱いている研究テーマは「個人を生かす組織・社会、働き方」について。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
今回、3社のベンチャー企業を訪ねました。共通していえることは、エンジニア社長だからこそ、エンジニアの気持ちがわかるということ。
会社選びの際は、エンジニアの気持ちがどれだけわかっている会社か、そしてそれをうまく組織として運用できているかどうかという点で判断してみてはいかがでしょうか?

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