機能性化粧品／バイオサイエンスの新成長分野

世界的な巨大産業である化粧品。そのなかで注目度が急上昇しているのが、生体に作用して体の劣化を
積極的に防ぐ、機能性化粧品だ。開発は急務であり、開発要員のニーズも上昇中。
医薬品、化学、食品などのバイオサイエンスに関心のある人は要チェックだ。

（取材・文／伊藤憲二　総研スタッフ／高橋マサシ）　作成日:04.08.25

　従来は女性の美しさを演出するための手段だった化粧品の役割が今、大きく変わろうとしている。体の老化や劣化を防ぐ機能を重視した機能性化粧品（コスメシューティカル）が、破竹の勢いで売り上げを伸ばしているのだ。

　機能性化粧品はもともと、大学医学部などの研究者が肌荒れの研究のさい、スキンケアも含めた従来型の化粧品にきわめて皮膚によくない成分が入っているケースがあることに驚き、体の老化を防ぐという予防保守的化粧品の研究を始めたことで誕生した。
　当初はもっぱら、医学・薬学者や製薬メーカーによって研究されていたが、その後化粧品メーカーが潜在ニーズの大きさに気づき、次々に参入した。現在では、美容用具としての化粧品にも機能性をある程度盛り込まないと、ヒット商品につながらないほどの認知度を得ている。

　矢野経済研究所はスキンケア市場について、2006年に1兆円近くまで成長するとの予測を発表している。その中で機能性化粧品の占める割合は、今後ますます伸びていくと考えられている。
　そもそも化粧品は、ブランドとノウハウに価格が付けられるという色合いが濃く、利益率の高さはかなりのものといわれている。バイオケミカルや医薬品分野の企業にとって、機能性化粧品は新たな高収益事業として魅力のあるものだ。
　ステップアップを狙う化学系エンジニアには、医学・薬学系分野に転身する格好の機会である。

　機能性化粧品は、既にさまざまな分野の企業が開発を手がけている。業種としては化粧品、医薬品、食品、化学のほか、医学者の独立系ラボラトリーのなかにも一大勢力に成長したところがある。リクナビＮＥＸＴでは「化粧品」をキーワードに、開発職で検索するといいだろう。

　エンジニアの募集については、以前は医学、薬学系が中心だったが、現在では化粧品メーカー、トイレタリーメーカーなど非医薬系の企業まで広がっている。エンジニアの専門分野も、バイオテクノロジーを含む農学、動物学、化学と幅広い。
　医学や薬学の知識がないので敷居が高いと感じていたエンジニアにとっては、機能性化粧品を通じて望む業界に参入が容易になったことは朗報だろう。

　要求されるスキルはかなり広い。化粧品本体の開発では糖質解析、グリコクラスター、各種栄養分誘導体といった食品分野のスキルは歓迎される。一方、化粧品に使う新材料の創出では化学系にチャンスがある。ナノバイオマテリアル、界面活性、コロイド、ナノ・ハイブリッド粉体などの経験があれば有利だ。
　そのほか、レーザーを使用した高度な皮膚解析、脂質メタポローム分析などの実験系、それらの結果から新材料の必要な分野を明確にする統計手法の開発など、幅広い分野のエンジニアにニーズがある。

　機能性化粧品は、いつまでも若くありたいと願う女性が一生にわたって使用する製品。今後は男性にもユーザー層が広がるという期待もある。バイオサイエンスに関心のあるエンジニアは、ぜひ転職の対象として頭に置いておきたい分野だ。