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高エネルギー物理学の研究者からLSI設計・開発エンジニアへ

技術者のキャリア採用を積極化させた沖電気工業へ応募

沖電気工業は今年度、即戦力技術者の採用を急速に活発化させている。募集職種は多岐にわたる。今回の面接現場リポートは、同社が一段と注力するLSIデバイス分野の中でもRF-CMOSの設計・開発者を取り上げる。応募者は物理系の研究者。開発実務の経験不足をカバーするアピールの仕方にも注目してほしい。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:04.08.18
沖電気工業
応募したエンジニア 企業の面接担当者
山下さん
山下太郎さん
(当時30歳)
太矢さん
シリコンソリューションカンパニー
デザイン本部 RF商品開発部 部長
太矢隆士氏
当時の職種
ポストドクター研究員
募集職種
RF-CMOS LSI設計・開発エンジニア
業務内容
国際宇宙ステーションに搭載予定の素粒子検出器の実現に向けた要素技術の研究・開発。
仕事内容
ZigBeeやDCP、GPSなど、各種無線用送受信CMOSの設計・開発。
職務経歴
東京大学で理学博士号を取得後、特殊法人の有期雇用研究員として2年間、素粒子検出器の基本試験、読み出し回路・データ取得システムの設計・開発を行う。
応募資格
無線方式の知識・設計経験、LSI化の開発経験、新規開発への意欲があること。
志望動機
人々の暮らしに直接役立つ電子機器、とりわけ無線分野のLSI開発設計に携わりたい。
募集背景
RF-CMOS商品の種類が増加していくのに合わせて社内開発力を強化したいため。
面接の流れ
初めに本社人事部が大枠で選考。次にカンパニーの総務部が選考。最後に、人材を募集する部の部長が選考する。
募集部門の部長と課長の計2人で面接する。面接時間は約1時間。

総務部の部長と課長が面接する。面接時間は約1時間。
面接官は3人。時間は40分〜1時間。カンパニー採用制をとっている関係上、よほどの問題が生じなければほぼ全員が通過。
採否をEメールで通知する。合格者には追って処遇など詳細を郵便による書面で知らせる。
【通過率:1〜2割】
【通過率:4〜5割】
【通過率:9割以上】
【通過率:ほぼ全員】
※上記の選考プロセスはシリコンソリューションカンパニーの場合
Part1
職務経歴と転職の動機
ポストドクターとして素粒子検出を2年間研究開発
太矢:
 はじめまして。シリコンソリューションカンパニーでRF商品開発部の部長を務める太矢と申します。部署名が示すとおり、いろいろなRF(無線高周波回路)のCMOSを設計・開発しています。本日の面接はこういった業務を前提とするものです。よろしくお願いします。
山下:
 山下太郎と申します。こちらこそ、よろしくお願いします。
太矢:
【Point1】山下さんの経歴については、提出してもらったキャリアシートに詳しく記載されていて承知していますが、改めて簡単に説明してもらえますか?
山下:
 私は、大学院のときから現在のポストドクターの2年間を含め、ずっと高エネルギー物理学の研究と、そのための実験装置、読み出し回路やデータ取得システムなどの開発を行ってきました。
 目的は素粒子物理学を実験的に研究するという理学研究なのですが、【Point2】実際の仕事では検出器の開発という形になり、アナログやデジタルの回路開発、ソフト開発という工学の部分に多くの時間と労力を費やしてきました。また、素粒子検出器の読み出し回路に用いられる各種増幅器の回路も設計してきました。
 これらの経験を通じて身につけた技術スキル、【Point3】理学の知識ではなく工学のスキルと知識を生かして転職したいと思っています。
理学研究を捨てて暮らしに役立つ商品開発がしたい
太矢:
 どうして理学から工学へ転換したいのですか?
山下:
 これまで取り組んできた高エネルギー分野の研究は、人の暮らしに直接役立つものではないのですが、研究を続けるうちに、より実際的な、技術や商品の開発に携わりたいという欲求が高まってきたからです。回路開発自体に感じる面白さが強まったことも影響しています。
太矢:
 当社へ応募したのはどこに着目したからですか?
山下:
 募集職種がRF-CMOSの設計・開発職だからです。私は無線にも興味があり、独学で勉強してきました。デジタル無線の通信方式や多重化方式に関する基本的知識もあります。
Point1
[面接官]応募者の方は書類に多くのことを書いてきますので、正真正銘のコアキャリアが把握しにくい人もいます。そのため、自己紹介を兼ねた経歴説明では、どこがキャリアの中心なのかに注意して耳を傾けます。この後で尋ねる質問の材料にもなります。
[応募者]私は事前に面接官の質問を想定し、答えを用意していました。実際に返答する練習もしていました。ただ、沖電気工業は2社目の技術面接だったこともあり、冷静に話せました。
Point2
[面接官]彼が素粒子検出器のために開発してきた回路は、素粒子検出素子からきた微弱信号を電気で受け、増幅させてデジタル化し、コンピュータに取り込むというもの。RFの場合はアンテナから微弱信号がくるので、回路の構造は極論すると同じなのです。従って、彼の採否を分けるポイントは、アナログ回路・デジタル回路の設計開発の実務経験。この深さとRFへの興味の度合いにあると判断して選考面接に入りました。
Point3
[応募者]理学出身の私がLSI設計・開発エンジニアとして採用されるためには、入社後に少しの訓練を受けるだけで、回路設計の即戦力になり得る経験や技術スキルがあることを印象づける必要がありました。客観的に見れば、不利な条件での応募ですから。
 また、もはや理学に未練がないことも知ってもらわねばなりませんでした。そのために経歴説明では、素粒子検出のメカニズムや、検出した素粒子の意味づけといった事柄には一切触れなかったのです。これは事前に練った作戦でした。
Part2
習得技術・実際の開発で苦労した点

試行錯誤しながら自分の手で回路を設計
太矢:
 習得技術について少し具体的にうかがいます。開発した素粒子検出器のためにLSIを起こしたことはありますか?
山下:
 LSIそのものを設計した経験はありませんが、VHDLでのデジタル回路設計、デジタル信号処理は行ってきました。読み出し回路の設計にはASICとFPGAを用いています。また、ディスクリート部品を使ったアナログ回路の設計も数多く経験しています。基本的な回路要素や回路設計技術はひと通り理解しているつもりです。
太矢:
 実際に開発した検出器の、アナログ回路の構成を教えてください。
山下:
 ざっと説明しますと、まず検出素子から出た電荷をプリアンプで電圧に変え、次にシェーピングアンプでシェープしてからA/D変換して取り込みます。初段のFETからアンプ、出力段、A/D変換モジュールまで、ディスクリートで購入して基板に組み込みました。
太矢:
 その回路の設計で苦労した点、または注意した点はどこですか?
山下:
 【Point4】ノイズとひずみが問題でした。ノイズ対策として、初段のFETの選択に注意し、かつ、FETにどれだけ電流を流すかを検討しました。そのうえで、ひずみを考慮して、出力段にどれだけの電流を流したらいいのかをシミュレーターで調べました。その結果をもとに基板を組み立てたのです。
扱ったスピード自体は評価に影響しない
太矢:
 【Point5】検出器のデータ部分はどのくらいのスピードですか?
山下:
 検出器のスピードはRFほど速くはありません。読み出し回路の検出器に近い部分は最大数10MHzで動きます。トリガーがかかると、第1段階、第2段階と落としていって、最終的には10Hz程度になります。
太矢:
 これまでの開発は何人くらいのチームで行ってきたのですか?
山下:
 大学院時代は非常に多人数でした。何百人もいる中で一つのコンポーネントを担当してつくるという形でした。しかし、研究員になってからの2年間は2人あるいはひとりで行うことが多かったです。
基本的な事項としてのツールの確認
太矢:
 ところで、CADやワークステーションは使い込んでいるんですね?
山下:
 はい、自信があります。
太矢:
 CADはアプリケーションをそのまま使っているのではない?
山下:
 はい。いろいろとスクリプトを作ったりしています。
太矢:
 OSは何ですか?
山下:
 Linuxが多いです。検出器のデータ取得システムもLinux上に構築しました。
Point4
[面接官]この答えには感動しました。実は、CADとシミュレーターでしかLSIの回路設計をしたことがないという応募者が、最近は増えているのです。しかし、RF回路やアナログ回路はシミュレーターとは異なる動きをしやすく、開発者にセンスや勘が必要です。彼のように、全体の性能を達成するために自分の手で部品を組み合わせながら、電流を変えながらと、苦労して回路を作ってきた人なら、CADとシミュレーターで作るにしてもセンスや勘が働きやすいのです。
Point5
[面接官]この質問の本意は、スピード自体を評価しようというのではありません。すぐに数字を返答してくれればいい。本人が本当に開発したことを念のために確かめたいだけなのです。
[応募者]この質問をされたとき、やはり高周波の経験が必要とされるのかと思いましたが、質問の狙いはそうではなかったのですね。こうして解説してもらって初めてわかりました。
Part3
担当業務への意欲と志向性

経験不足は技術への貪欲さと適応能力でカバーする
太矢:
 【Point6】無線に興味があり、RF-CMOSの設計・開発エンジニアだから応募したとのことですが、高周波を扱うことについてはどう思っていますか?
山下:
 残念ながら、これまでに高周波回路を設計した経験はありません。しかし、高周波ということは、それだけデバイスに近いところで回路設計をすることになります。【Point7】デバイスの物性工学的性格を理解している点で、微細度の高いシリコンでの回路設計に生きるのではないかと思います。
太矢:
 私の部が扱うRF商品は、下が40KHz、上は数GHzです。山下さんには2〜5GHzの商品を担当してもらいたいと考えています。率直なところ、やってみる気はありますか?
山下:
 それらのCMOSの用途は何ですか?
太矢:
 ワイヤレスLANや家電用リモコン、電波時計、ZigBee、GPSといったものです。
山下:
  先ほども申し上げましたが、私は物理を専攻したにもかかわらず、無線には昔から興味があって独学で学んできました。無線に関係するLSIの設計には、ぜひとも取り組んでみたいと思っています。
 【Point8】私はこの2年間、少人数で開発を行ってきました。必要な知識や技術はその場で学び、吸収して活用せざるを得ない環境にありました。もともと知識や技術を学ぶことには貪欲ですし、新しい開発業務への適応能力には長けていると自負しています。
他社への応募状況から見る志向の一貫性
太矢:
 山下さんは他社へも応募されているのでしょうか?
山下:
 はい。ほかに3社へ応募しています。
太矢:
 【Point9】それはどういう分野の仕事ですか?
山下:
 RF-CMOS関連で2社、システムLSIで1社です。どちらも設計・開発職です。
太矢:
 システムLSIですと、最初はアナログ回路の担当から入りたいと?
山下:
 そうですね。その会社も即戦力採用のようですから。
太矢:
 大学や国の研究機関へ就職する考えはないのですね?
山下:
 それはありません。3月末で研究員契約の期限が切れ、更新が可能ではあるのですが、更新はしないと決めて転職活動をしています。

(このあと、太矢氏は希望年収など雇用条件の希望を尋ね、山下さんのほうからの質問を促した)
Point6
[面接官]RF-CMOSの設計・開発経験があれば、この質問はする必要がないわけです。しかし、RF-CMOSどころか高周波回路も作ったことがないという応募者の場合には、この質問を抜きにはできません。高周波を扱ってみたいという意欲がどの程度なのかを探ります。
Point7
[面接官]物理出身の彼がこういうアピールをしたのはうなずけます。確かに、シリコンの物性を理解していて回路設計ができるというのは有意義。しかし、選考の評価としてはさほど加点にはなりません。そもそも当社には、シリコンの物性に通暁する専門家がたくさんいます。
Point8
[応募者]今回の選考において不利な条件が多いことを重々承知している身としては、何かにつけてアピールをしたいと考えていました。ここでも、実務経験の少なさをカバーすべく、こんなふうに長所を訴えたわけです。
[面接官]このアピールはストレートに受け止めました。客観的に見て、彼ならこのとおりのことができるだろうと思いました。
Point9
[面接官]これから先の志望に、一貫性があるのかどうかを確かめるための質問です。志向性にブレがあるようだと困りますから、不安になる答えが返ってきたら再度突っ込んだ質問をします
[応募者]この質問の狙いはピンときました。私は偽らずに答えるだけでした。
面接官はここを見た!
●LSI商品を作り出せる高度な回路開発力があるか。
●得意な要素技術は何か。要素技術を組み合わせる力があるか。
●入社後担当するLSI商品の特性や用途に興味を抱いているか。
 まずは、CADとシミュレーターによる設計経験を尋ねる。ポイントは、目的とする電気・電子機器と回路動作に関する、深い理解に基づいて回路設計をしてきたかどうか。LSIの設計経験はあればベターだが必須ではない。次に、得意な要素技術は何かを探る。特に目立つものがない場合には、必要に応じて各種要素技術を組み合わせ、目的の性能を達成できる能力を見る。担当するLSI商品に対する興味も重要。今回の面接ではRFへの関心度をチェックした。
山下さんはコレで決めた!
「希望する『生活者に役立つ』と『無線関連のLSI設計・開発』。
この2つが入社後に満たされることを確認でき、
とてもうれしく思いました」
 普通の生活者に役立つ製品に組み込まれる、LSIの設計や開発をしたい。そのLSIが無線に関係するものであればベストという考えでした。面接を通じて、この2点の希望がかなう職場であることが確かめられたのです。また、KHzからGHzのRF-CMOSを扱うことができ、用途も幅広い。入社後にさまざまな技術に触れられると思いました。新たに獲得する知識も広く、深くなりそうで、入社への意気込みが増しました。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
面接ではアピールが大事。不利な応募条件である場合はなおさらです。それを自覚していた山下さんは、自分を理解してもらうための「説明作戦」に出ました。結果は上記のとおり。せっかくの熱意も、相手に伝わらなければ意味がないわけです。あなたの望む「面接現場」は何ですか?

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