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給与は? 情報機密は? 人間関係は? エンジニアの競合会社転職はおいしいか? エンジニアの競合会社転職はおいしいか?
エンジニアの競合会社転職はおいしいか?
エンジニアの競合会社転職はおいしいか?
エンジニア転職は業界シェアを巡り、熾烈に争う競合会社への転職もまれではない。自分の技術や経験が生かせるからだ。だが、入社前後の人間関係、守秘義務など、いざ活動段階となると悩むことも多い。そこで、おいしい競合会社転職がどうすれば円満に実現できるかを探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー))作成日:04.06.30
Part1 私はこうして競合会社へ転職した
 競合会社への転職では、退職時に上司や同僚にそれを報告できなかったり、転職後も新旧の職場の違いに悩むという例を聞く。そこでまずは、実際に競合会社に転職したエンジニア2人に登場いただいて、彼らが転職時に何に注意を払ったかを語ってもらうことにしよう。
ケース1 転職先の社名は絶対に出すなと言われた
T・Yさん
プロフィール
大手自動車メーカー
エンジン開発 T・Yさん(32歳)
「辞め方」マニュアルのある会社
 転職先、つまり今の職場のB社には同業他社からの転職の場合の「辞め方マニュアル」のようなものがありました。内定が出た時点でその内容を説明されました。いわく、「退職にあたって、転職先の社名は絶対に言うな」「場所も言うな」「しつこく聞かれたら、職業選択の自由は憲法にも明記されていると答えよ」「辞表を受け取らないと言われても、そのまま出してしまえばOK」……。実際に同業他社からの転職は多いし、妨害されて辞めづらくなることがあるからなんでしょうね。

 そこで私の場合は最後まで「家業を継ぐ」と言い張りました。そのころ会社はリストラを進めている最中でしたが、20代後半の技術者の流出は防ぎたかったんだと思います。もし本当のことを話せば、かなり引き止められたはずです。それでなくても、退職の意向を告げたときは直属上司ではラチがあかず、結局役員と直談判して納得してもらったということがありましたから。

 B社からの採用の正式通知は書面で届きましたが、当時、A社の社宅に住んでいたということもあり、会社名でなく個人名で届きました。これもひとつの配慮だと思います。

どこまで話して、どこからは黙るか
 B社の面接では、職務上知り得た秘密については言わなくてもいいと言われましたが、やはり自分の仕事をアピールしたいですから、かなり率直に仕事の中身を話したと思います。ただ、B社が当時進めていた他社との提携話やどこからどういう部品を入れているかといったサプライヤーとの関係については、営業上の秘密ですので、最後まで話しませんでした。法的なことはよくわかりませんが、このあたりは会社員としての最低限のモラルじゃないかと思います。

転職前後の変化
ケース2 外資系なら契約あり、でも転職は当たり前
F・Tさん
プロフィール

外資系ソフトウェアメーカー
サービス担当 F・Tさん(30歳)

守秘義務の対象はどこまでか
 前職C社での4年間はほんとにいい勉強をさせてもらいました。ただ最後のころは体がもうボロボロで、そのうえマネジャーにならないかというオファーがあって、それを受けて死んじゃうか、いっそのこと転職するかという瀬戸際にあったんです。私は転職を選びました。

 C社とD社は共に同種のソフトでつばぜり合いを演じている世界的なソフト会社。とくにUSでは一方を買収するしないとかで、その関係は泥仕合みたいになっている。ただ、グローバルでみると、結構の数の人がC社からD社に転職しています。

 C社入社時に守秘義務について契約書を交わしたこともあり、転職にあたってはいくつかの点を注意しました。守るべき秘密の内容は契約書では明確に定義されていなかったんですが、私が考えるに、製品の価格政策の詳細、新製品開発状況、製品の不具合情報、組織内部の人事情報──つまりこの部長は社長に嫌われているとか──などは、みだりにしゃべらないほうがいいだろうと思っていました。転職後も3カ月間はあえて自分のほうから、新しい職場の営業部門との接触を断っていました。私は前職で営業上の秘密事項を知っていましたから、聞かれればポロっと漏らすことがあるかもしれないと心配だったのです。

 ただ、それ以外の、調べればだれでもすぐにわかるような話は、ぜんぜん秘密でもなんでもないと思いますね。むしろ、競合会社間転職で元の職場が心配するのは、人材の引き抜きじゃないでしょうか。C社にも「転職後3カ月は引き抜きをするな」というような書類にサインさせられました。そういう問題が過去にきっとあったんでしょうね。

将来のためにも、円満退社のすすめ
 狭い業界で、かつ外資系ですから、いつどこで前職の人に会うかわかりません。ようやく転職していやな上司と別れたと思ったら、会社の合併でまた一緒になっちゃったなんていう笑い話もありますからね。だから、基本は円満退社すべき。引き継ぎをしっかりして、段階的に自分の仕事を減らしていく、転職の決意が固いことを示して上司にも納得してあきらめてもらう、ということが大事です。

転職前後の変化
Part2 弁護士に聞く「競合会社への転職、これだけは気をつけたい」
キョウゴウヒシの義務ってなんだ?
 人はだれでもいつでもどんな職業にでも就くことができる。職業選択の自由は憲法にも明記されている基本的人権である。しかしながら、企業にとっては人材とともに自社の機密事項や特殊な技術、知的財産などがライバル企業に流出してしまうことは、大きな問題だ。営業職が顧客ごとごっそりもって行ってしまったり、転職した元従業員が元の部下などに働きかけて、いわゆる引き抜きをするのも、なんとか阻止したい。そのために、就業規則や特別な契約書で、同業他社への転職を禁止したり、一定の制限をかける場合がある。これを人事用語では「退職後の競合避止義務」と呼んでいる。
 
要は程度問題。若手技術者での訴訟例はまれ
鮫島正洋弁護士
プロフィール
弁護士・弁理士 鮫島正洋氏
東京工業大学工学部金属工学科卒。藤倉電線(現フジクラ)、日本アイ・ビー・エムなどを経て、現在、松尾綜合法律事務所勤務。
 もしも、転職避止義務違反で会社が甚大な損害を被った場合には、退職金の返還を求めたり、それがこじれれば裁判に訴えることもできる。実際にいくつかの判例があるが、裁判所の判断は一定の要件が整えばその訴えを認める、逆にいえば、要件が十分でなければ認めないということで、「要は程度問題」というのは、エンジニア出身で弁理士の資格ももつ鮫島正洋弁護士だ。

「競合避止に関するなんらかのルールをもつのは、大企業なら常識。退職時に契約書を交わしたり、競合他社に行かない見返りという意味で一定額の報酬を退職金に上乗せしている場合などは、契約の有効性は認められるでしょう。しかし、未来永劫にわたって競合他社への転職を認めないというのは論外で、その期間は明示され、かつ短期間でなければなりません。また競合他社とは何かを定義しておく必要もあります。契約書にサインしてしまえばその契約には合理性があるということになりますが、サインする義務は必ずしもありません。サインしなかったからといって不利益を受けることも法的にはあってはなりません」

「また、契約違反で実際に裁判を起こすかどうかは、損害の程度、従業員の職位の程度、職務上得た秘密の程度によると思います。よくあるのはかなり上位の役職者の転職の場合で、30代半ばぐらいまでのエンジニアが訴えられるケースというのは非常にまれだと思いますよ」

守秘義務違反にも厳格な規定が
 この競合避止契約とは別に、従業員の守秘義務に反した場合は、不正競争防止法という法律で処罰されることがある。秘密をバラした本人だけでなく、それと知りつつ秘密を聞き出した人も罪に問われる。ただし、「ここでいう秘密とは外部にいては知り得ない秘密ということですが、その要件は厳しく限定されています。例えば電子媒体や書面の持ち出しは守秘義務違反に該当しますが、頭の中の知識や抽象的・一般的と考えられるスキルは該当しません」(鮫島弁護士)

このように主に知的財産保護や不正競争防止の観点から手だてが講じられているわけだが、この人材流動化の時代に、競合会社への転職を禁じる取り決めが実際どれだけ有効性をもつかは疑問だ。鮫島弁護士も「知財を外部に漏洩させないいちばんの方法は、人に転職する気を起こさせないということ。たんに給与や報酬だけでなく、研究開発環境の整備や研究テーマについての裁量権、あるいは留学制度など自己啓発の機会を豊富に設けるなど、企業には人材管理における多面的な対策が求められている」と語っている。
Part3 ヘッドハンターに聞く「競合転職をスムースに進めるためのノウハウ」
競合他社こそ最大の“顧客”だ

清野義則人材事業部長
プロフィール
株式会社アイテック
人事事業部
部長 清野義則氏
 
森屋隆介代表
プロフィール
キャリアリサーチコンサルティング
森屋隆介氏
 
「企業が欲しいのはたんに車の運転ができる人ではなく、わき道をよく知っているドライバー。技術+業務知識は必須条件だからこそ、競合他社の人材はのどから手が出るほど欲しいもの」というのは、人材紹介のアイテック・清野義則人材事業部長だ。技術者の転職では競合他社が対象になるのは当たり前のこと。即戦力を期待すればするほど、競合関係も近接する。ときには「あの会社のこういう人」というようにスカウト対象を具体的に明示されることもまれではない。

「業界内で提携関係にある企業では互いに人材のスカウトをしないとか、いったん別の会社に転職してもらってあらためて採用すればOKとか、巧妙な方法を使うところもありますが、そういうしばりが無効であるほど、競合間の人材移動は活発です」と実態をもらす。

 エンジニアのなかには、自分の良心が許さないのか、相談時に「コンペティター(競合)はいやだ」という人もいるというが、「転職では自分のキャリアを売るしかないのだから、競合を対象から外してはいい仕事も見つからない」と清野氏。つまり、転職者にとってコンペティター(競合)は「最大の顧客」でもあるのだ。

競合転職は勝ち組に残るチャンス

 ひとつのマーケットに何社もが参入し、平和的に共存できる時代は終わった。競争が激しければ激しいほど、他社に負けると企業はその技術や事業そのものから速やかに撤退、ということがよくある。となると、その技術でメシを食っていた技術者は、社内的にも立場が悪くなる。もしそのとき他社への転職という誘いの手が伸びてきたら……。

「他社から誘われるだけの技術をもっていることが前提ですが、もしその技術で生きたいと思うのなら迷うことなく転職すべきでしょう。競合転職では、業績の悪い会社からよい会社への移動が、その逆よりは圧倒的に多い。従って一般に給与はアップするもの。競合転職はいわば“勝ち組”に残るチャンスでもあるのです」
 というのは、同じく人材紹介のキャリアリサーチコンサルティング・森屋隆介代表だ。

人の悪口や内情暴露は禁物

 それでは、競合会社転職をスムーズに運ぶためにはどんなノウハウが必要なのだろうか。まずは面接だ。自分の仕事内容は細かく知ってほしいが、守秘義務違反を気にしてどこまで話していいか、迷う人もいるだろう。 「前職での特定の人に対する悪口や、内情を暴露するような態度は慎んだほうがいいですね。回り回ってだれの耳に入るかわかりません。なにより秘密を簡単に漏らす人間だと思われては、その人の信用性にもかかわります」(清野氏)

 しかし、自分がどんな仕事をしてきたかというキャリア面については率直に話す必要がある。
「ある程度のところまで話せば、技術に明るい人なら、応募者がどんな仕事をやってきたのかイメージができます。ですから相手がイメージできる材料を示すことが重要。それさえできれば、あえて秘密事項を漏らす必要はありません」(森屋氏)

 森屋氏は、ガードが堅すぎて、聞かれたことに十分答えず、結果的に面接に失敗した例も見てきている。「どこまで話し、どこから沈黙するかを見極めるためには、想定問答集をつくり事前の面接リハーサルを重ねることも重要」という。  前出・鮫島弁護士は、自分が前職で取得した特許や学界論文などの一覧を示し、「それ以上は話せません」と面接で先手を打った研究者の例を挙げてくれた。「コンプライアンス(法令遵守)がしっかりしていて、情報管理もできるエンジニアという評価を得ることができた」例だ。

同業だからこそ文化の違いが気になる

 面接をクリアしていざ転職し、新しい職場に通うようになっても、同業だからうまくいくとは限らない。むしろ同業だからこそ、細かい違いが気になることもある。
「社風、仕事の進め方など、いわゆる職場のDNAはそれぞれ違うもの。前職ではこうだったと前例にこだわらず、まずは新しい職場のやり方に慣れることが不可欠です」と、森屋氏。郷にいれば郷に従え、なのである。

 同業の場合、技術的なミスマッチというのは少なく、むしろ多いのはこうした文化的なギャップだ。それが突然訪れると対応に時間がかかるもの。そのためにも転職では、事前のリサーチが欠かせない。
「保守的か自由闊達か、仕事の仕方は受け身的か積極的かなどの抽象的な違いも、友人、知人、転職エージェントなどを使ってよく調べればある程度見当がつくようになります。それぞれの社風に自分がフィットしているかどうかは、やはり転職前に考えておきたい。それができていれば、ギャップに戸惑うことは少なくなるはずです」(森屋氏)

エンジニアのネットワークこそ永遠なれ
 ライバル企業に転職したからといって、かつての職場の知人・友人たちと疎遠になるのは、いかにももったいない。
「今でもよく一緒に飲みますよ。でもそこではあんまり仕事の話はしないかな。ただ、会社は変わっても同じような仕事をしている仲間がいるということは、自分にとっての励みにはなりますね」と、前出の転職者F・Tさんは語っていた。

 競合していた会社がいついかなるとき、提携・合併するかわからない時代。業界内のコンソーシアムづくりなども活発で、前職の仲間とそういう場で再会することもよくあることだ。たとえ競合相手に会社が変わっても、エンジニア同士のネットワークは保持し続け、お互いを高め合いたい。それこそが、競合会社転職で最も「おいしい」部分なのではないだろうか。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
会社転職だからこそ円満転職したい。そんなエンジニアの皆さんの代弁する気合いで取材したのですが、ライバル会社への転職など、すでに日常茶飯事な時代になってきている今、転職前後の会社で、エンジニアの横の輪を広げていくことのほうにメリットを感じました。皆さんの周りにもライバル会社に転職した人、増えていませんか?

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