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やりたい技術が“地方”だったら転職する?「勤務地食わず嫌い」のデメリット やりたい技術が“地方”だったら転職する?「勤務地食わず嫌い」のデメリット
やりたい技術が“地方”だったら転職する?「勤務地食わず嫌い」のデメリット

エンジニアの転職には地域間移動を伴う場合が少なくない。住み慣れた土地を離れて見知らぬ土地へ行くのはだれだって不安。田舎暮らしを求めてならよいが、「技術や仕事志向で転職先を選んだ結果が地方勤務だった」ケースは、特に悩みが深刻だ。今回はエンジニアと勤務地の問題を取り上げる。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/栗原克己) 作成日:04.01.14
Part1:「都心へ転職」vs「地方へ転職」エンジニアの実態!
 遠距離にある勤務地に転職したエンジニアは、どんな悩みをもち、どのように決断したのか。都心から地方、地方から都心に転職した2人を紹介する。都会と地方都市の両方を知る彼らの転職経験は、きっと参考になるはずだ。
都心から地方へ転職

数十ミクロンが数十ナノへ、1/1000の精度差が決め手 半導体製造装置機械設計エンジニア

勤務地の経緯 神奈川県 半導体製造装置メーカー →栃木県 キヤノン株式会社
半導体機器開発センター
佐藤仁至氏
1974年、東京都生まれ。大学院修了後、半導体製造装置メーカーで、ICやトランジスタなどの半導体製造装置(ダイボンダー)の機械設計を担当。
初めての一人暮らしで宇都宮に転職

 佐藤さんの転職動機は「モノづくりでスキルアップしたい」という気持ち。前職では仕事自体は面白く、人間関係にも恵まれていたという。
「ただ、製造装置の対象は、ICやトランジスタなど『ディスクリート』と呼ばれる部品でした。精度は数十ミクロン。より高い精度が求められる設計を、最高レベルの環境で挑戦したい。そんな気持ちを抑えられませんでした」
佐藤さんの設計した半導体製造装置を運ぶコンテナ

佐藤さんの設計した半導体製造装置を運ぶコンテナ
 希望を満たす企業は自然と絞られた。CPUやメモリーの半導体製造装置を手掛けるキヤノンだ。半導体をつくるうえで重要な半導体露光装置であるため、キヤノンを含めて世界で3社しか製造していない。その開発・設計・製造は宇都宮の事業所で行っているため、神奈川県に住む佐藤さんは引っ越しを伴うことになる。
「大学も前社も自宅から通っていたので、初の一人暮らしは当然不安はありました。ただ、精度1/1000にチャレンジできるのですから、エンジニアとしてこれ以上のやりがいはありません」
数十ナノの世界にカルチャーショック

 現在要求される単位は数十ナノ。前職と比べると1/1000、すなわち精度は1000倍だ。半導体製造装置の設計はどう違うのか。
「全く違います(笑)。数十ミクロンなら機構学で対応できますが、数十ナノでは温度や振動も影響しますし、シミュレーション技術、専用の制御技術、位置を測るレーザーの知識も必要になる。単なる設計技術の移行では対応できません。それに追いつくのは大変でしたし、今でも苦労はありますね。でも、だからこそ楽しいんです」

 現在は次世代の装置を担当中で、組み入れる新技術に取り組んでいる佐藤さん。勤務地で悩んだ自分を振り返ってもらった。
「わがままに考えてよいと思います。私は『最良の環境』にいちばんウエートを置きました。だから、結果的に悩みが解決できたと思います」
佐藤さんが見た都心→地方転職

メリット
・最先端技術と最高の環境がある
・研究所などが集合していて便利

デメリット
・友人との付き合いが遠のく
・レジャー系の遊びが難しい
地方から都心へ転職

技術と情報の最先端を吸収したソフト・ハード開発 デバイスドライバ開発エンジニア

勤務地の経緯 広島県 完成車メーカー →東京都 日本テクノ・ラボ株式会社
開発部
中野滝也氏
1971年、山口県生まれ。独身。大学卒業後、大手完成車メーカーで、試作車の実験・評価、検証業務などを担当。
ハードとソフトの両方に携わりたくて東京へ

 中野さんの転職動機は「自分が望んだ仕事がしたい」。入社後に配属された部署と希望する技術分野が大きく異なり、そのギャップが埋められずにいたという。
「大学の専攻は電気通信の情報工学。それもあってソフトウェア開発を希望したのですが、業務はドアなどいわゆる『フタもの』と呼ばれる部分の実験・評価でした」

 希望職種はソフト開発だが、ハードに携わりたい気持ちも強かった。そこで探したのがデバイスドライバ開発の仕事。先端的な企業は、受注先であるハードウェアメーカーに近い場所に多く、勤務地は大都市部が中心となった。その中で、各種展示会場が多く秋葉原のある東京は魅力的に映った。
「コンピューター系の最新情報は、Webやパンフレットだけでは不十分。展示会やフェアのブースでの質問や、参加者との交歓が必須だと思います。また、広島には秋葉原のような街はなかったですね」
現在、このDVD-RAMジュークボックスを利用したファイルサーバーを開発中

現在、このDVD-RAMジュークボックスを利用したファイルサーバーを開発中
「好き」ができるのがエンジニアの喜び
 大手メーカー系技術研究所からの受託開発が多いため、ソフトや無線などの先端技術習得はむしろ義務。大手メーカーの退社を「もったいない」という人もいるが、本人は「好きな仕事がいちばん」と笑う。現在は主に制御ソフト開発が多いそうだ。
 そんな中野さんは山口県の出身。大学時代を東京で過ごし、広島県に勤務し、東京都へ転職した。もともと勤務地にこだわりはないという。

「大学時代も感じましたが、東京には人、物、情報があふれている。それをネガティブに考えず、自分から吸収して選べばいいと思います。」
 通勤ラッシュにはフレックスタイムで対応し、出勤時間は6時30分前後。早いですねと尋ねると、「メーカー出身ですから平気ですよ」。
中野さんが見た都心→地方転職

メリット
・コンピューター関連の展示会が多い
・技術を含めた多くの情報が集まる

デメリット
・通勤時間の長さ、通勤ラッシュの苦痛
・人が多くて家賃など生活費が高い
Part2:森永卓郎氏が語る地方勤務食わず嫌いのデメリット
 エンジニアにとってより不安が大きいのは、都心から地方へ転職する場合だろう。そこで、地方勤務の経験もあり、都心と地方の両方をよく知る、経済アナリストの森永卓郎氏にお話をうかがった。ちなみに氏は東京都の出身である。
デメリット1 将来の自由度を狭めてしまう

 地方勤務で悩む気持ちはよくわかります。私は日本専売公社(当時)に入社して、最初の配属先が長野県の上田市だったんですよ。はっきり言うと、乗り気ではなかったですね。でもね、すぐに食わず嫌いとわかった。水はきれいで、空気はおいしい、何より生活コストが安い。

 地方勤務の最大のメリットは、固定費である家賃の革命的な安さ。加えて物価も安いから、確実にお金がたまる。つまり、45歳、50歳からの自由度が大きくなる。別の転職や仕事をする余裕ができるし、地方にもリストラはあるからその際には資産が大きく役立つ。それに、企業だってあまりに不便な場所には施設を作らないですから、車で少し走れば都市機能をもつ街があるでしょう。

経済アナリスト 森永卓郎氏

経済アナリスト 森永卓郎氏

東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現日本たばこ産業)入社。1991年に三和総合研究所(現UFJ総合研究所)入社。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済、教育計画。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)など著書多数


地方に転職した場合のデメリット
多種多様な最新の都市文化に
触れられない
良くも悪くも人づき合いが
密になる
徹夜での夜遊びが難しくなる
デメリット2 都心、地方、郊外の事情に疎くなる

 別のメリットは、都心と地方の両方を経験できること。そこで改めて先のことを考えてもよいし、両方の中間地点にある「郊外」も見えてくるんですね。新幹線を使えば1時間程度で行けるこの郊外にも、研究所や工場が多い。都心、地方、郊外のどこが好きかは、体験しないとわからないですよ。

 そもそもエンジニアは地方の研究所や工場勤務が多く、転勤を繰り返してきたわけです。つまり、地域間移動は転職に限った話ではない。転職を家族に反対される場合もあるでしょうが、転勤と思えばどうでしょうか。ただし、家族は一度、転職先の土地に連れてくるべきでしょうね。そして、住宅や病院、学校などの生活環境を見せておく。いくら忙しくても大事なことです。
デメリット3 エンジニアの特権を行使できない

 エンジニアは恵まれているんです。なぜって、ほかの職種なら地方に雇用はありませんよ。探せばあるでしょうが、物価に応じて年収が低いし、先端的な仕事は少ないものです。つまり、地方や田舎へは、行きたくても行けないのが現実です。
 その点エンジニアは、都心並みの年収を保証されて、好きな技術に囲まれた環境が用意されている。これは技術職の特権。どろどろした人間関係を嫌う人が多く、じっくりとひとつのことに打ち込む職業という意味でも、田舎のほうが向いているのではないですか。結論を言うと、「悩まないで、行ってみりゃいいじゃん」と思いますよ。
Part3:「食わず嫌い」の最大のデメリットはチャンスの消滅
やはり転職意向の低い地方勤務への転職
 やりたい仕事やそれを実現できる企業が見つかっても、「生まれ育った○○から離れたくない」や「家族のことを考えると××には行けない」と板挟みになるのは、技術職の特徴。だから、募集要項の「勤務地」だけを見て断念したり、面接から内定へと進んでも最終的に辞退するなどが生じている。

 同じ地方でも顕著な差がある。エンジニアのみを対象とした調査ではないが、右のグラフで意識の傾向は伝わると思う。「出身地への転職」は約30%の人が希望しているのに比べて、それ以外の地方では15%。つまり、地方への転職に難色を示す人が多いということだ。
首都圏から地方への転職意向
大手・先端企業が欲しがるエンジニア売り手市場
 地域間異動は、実は採用側の企業も悩みでもある。グラフが示すように、地方都市に来てくれないのだ。これは大手企業の地方研究所や地方工場、地方に基盤を置く先端企業などでも同じこと。納得して入社しても、数カ月で再び転職してしまうケースもあるという。
 だから、実は大きなチャンスだ。エンジニアが本気で望む技術や業務など、めったに見つかるものではない。犠牲を払ってまで転職する必要はないだろうが、勤務地とトレード・オフすることで、それが手に入れやすくなるのは事実。

 森永氏が語るように、預貯金や生活様態、将来的な視野や経験を考えれば決して損な選択ではないし、先端技術と安定した年収が得られるのはエンジニアの特権だ。実際に、紹介した2人のエンジニアは、「勤務地の壁」など軽く飛び越えている。「勤務地食わず嫌い」の最大のデメリットとは、目の前のチャンスを自分で潰してしまうことかもしれない。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
 勤務地で転職を悩むエンジニアは本当に多いと思います。しかし、企業も同じです、取材で人事部の方とお話する機会がありますが、「うちも苦しいです」と語る人の多いこと。地域への理解を高めようと、見学ツアーの企画を考えている方もいました。
 皆さんは勤務地の問題をどう考えますか? 地方や遠距離に転職を考えている方、その経験者の方、ぜひご意見を聞かせてください。

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