その日本地図を見ると何かおかしいことに気づく。いや、気づかぬわけがない。
　神奈川県がまるごと「横浜」となり、千葉の北半分が「ディズニーランド」になっている。宮城県が「仙台」、愛知県が「名古屋」という誤解はいかにもありそうだが、福島県一帯などは「謎」となんともいい加減な表記もある。
　ひどいのは北海道で、「函館」が著しく拡大して長万部の上まで広がっているばかりか、襟裳岬を突端とした苫小牧、帯広の三角地帯はなぜか「ムツゴロウ王国」になっている。ありえない地図だ。

　このばかばかしい地図──その名も「バカ日本地図」は、基本的に読者からの投稿をもとに構成されたものだ。第1回目の“黎明編”は2167件もの投稿で完成している。

「『おそらくバカはこう思っているに違いない！』という（カン違いした）日本地図の構成を投稿してもらう。その投稿の内容や反応を見ながら、地図を構成していくわけです」
「バカ日本地図」をメインコンテンツとするサイト「借力」を運営する谷口一刀さんは、にんまり顔でそう語る。

「借力」のコンテンツは、どれも「バカ日本地図」並みの失笑ものだ。「バカ日本地図」の世界版である「超世界地図」、東京版の「超東京地図」。現在はグラビアアイドルの「微乳・巨乳」の勢力を争う「おっぱい戦争」が展開中だ（その中にはなぜか曙の名も）。何のことかといえば、巨乳がよいという風潮が世の中にあるが、本当かどうかを検証すべく、支持投稿をもとに図表化で指し示すというものだ。

　バカなことと思われますが、と言いつつ、谷口さんは続ける。
「要は、どれもインフォメーション・アーキテクチャー、情報デザインの実験なんです。無数かつ匿名のネットからの情報が累積されるとどういうものができるかという実験。そういう実験は不完全で敷居が低いほうがいい」

　こうした「実験」に谷口さんが取り組んでいるのも、実は本業に関係している。谷口さんの本職はインフォメーション・アーキテクト。Webサイト制作に際し、コンセプトからサイト構造までを設計するのが仕事だ。人がWebを閲覧したとき、そこに示される情報をどのように認知し、何をクリックしていくかというのは情報デザインの問題だ。そこで、Webサイトのプロデューサーとエンジニアの間に立ち、コンセプトを生かす形で要求仕様を取りまとめる。谷口さんはこれまで、多くの企業のサイト設計を手がけている。

「例えば商用サイトで、できる限りユーザーを有効にナビゲートしていくにはどういう情報やデザインが必要かを考える。非常にわかりにくい仕事なんです」
　たしかにおっぱいやバカ地図からはあまり一致しない話だ。だが、そう言われてみるとそんな気もしないでもない。