柳澤さんが貝畑さんと2人で「何かやろう」と考えたのは、同級生だった高校時代だ。
「ただ、その“何か”はずっと決まってなかった。ところが、大学に進学したところ、そこにちょうどインターネットの波がきて、とりあえず『これだろう』と」

　大学時代、柳澤さんはニューラルコンピューティングを学び、「馬の運を予想する」という競馬の予想プログラムなどを開発。一方、貝畑さんはウェブを中心にインターネットの技術を習得。各種ウェブサイト制作のバイトなどで腕を磨いた。久場さんも大学生活の中で2人の輪に入り、そんな流れのなかで「何か」の方向性が決まった。

　とはいえ、大卒後すぐにカヤックが動き出したわけではない。柳澤さんは「組織経験も必要だろう」と大手音楽メーカーに就職、貝畑さんは大学院へ進学し、久場さんは渡米して「なぜかニューヨークでカーペットを販売」と三者三様の道を歩むことに。

　しかし、起業の志を忘れないため、柳澤さんと貝畑さんは2人で共同生活を敢行。2年後の1998年3月、柳澤さんが退社したのを機に久場さんも帰国し、今度は3人で共同生活に。日々気持ちを高め、会社のポリシーなどを語り合って決めた。
「当時のポリシーは10カ条。それを忘れないよう、夜みんなでマラソンするときに『ファイト！』みたいに口に出して走ってました」
　部活のような生活を経て同年8月、資本金3万円で合資会社カヤックを設立した。

　現在クーピーの事業も好調だが、カヤックの事業も多方面に拡大中だ。参加型のオリジナルTシャツ販売サイト（T-SELECT）はヤフーと提携しているほか、オリジナルインテリアの販売サイト（COOZEE）は好調なため近々他社に事業譲渡の予定。さらに、
「小説は去年2冊出したし、いまは映画の企画にもかかわっている。で、来年はマンガかなと」
　と、クリエイティブな活動にも挑戦中だ。

　いまはクーピーの業務を中心にしたビジネス的な本拠地を自由が丘に構え、クリエイティブな活動拠点を「電磁波も少なく、眺めもいい」由比ガ浜の事務所に設置。夏には、社員みんなでイタリアで仕事をする「イタリア支局」を臨時に設置することもある。
「まぁ、社員旅行みたいなもので、あまり仕事はしないんですけどね」

　世の中に飛び出すべく、現在はウェブ関係でのユニークさで一点突破を目指しているが、十数年前に心に誓った「何かやろう」の「何か」は、じつのところいまもあいまいだ。
「結局、自分たちが面白く感じて生きることが一番。ネットでもそれ以外でも、よりクリエイティブな方向に行けるといいなと思います」

　悪くいえば節操がないが、よくいえば貪欲な好奇心のかたまり。カヤックの航路はいまだ積極的に迷走中だ。