僕らの報酬はどう動く？「業界別」転職時決定年収

「自分の給与が適正なのかどうか」「今、転職したら給与相場はどのくらいなのか」
エンジニアの報酬に対する数々の疑問に対してデータで答えるこの企画。前回に引き続きリクルートエイブリックがもつ転職時決定年収データから、今回は、業界別のエンジニア給与トレンドを探る。

（取材・文／須田忠博　総研スタッフ／宮みゆき）　作成日：03.10.08

僕らの“報酬”はどう動く？　「業界別」転職時決定年収　編

　前回も述べたとおり、転職の決定年収相場の変動は、エンジニアとしての市場価値を相対化する一つの指標と見ることができる。第2回は「業界」間の転職時決定年収から、企業の人材ニーズ（需要）と個人（供給）の需給バランスの変動を見てみよう。

転職時決定年収には業界間格差と業界ごとの波がある

　まず（グラフ１）を見てほしい。これは、人材バンク・リクルートエイブリックを通じて2003年７月に転職したエンジニアの主要６業界の転職時決定平均年収を年齢別に集計した結果からピックアップしたもの。業界によってかなり開きがあることがわかる。

グラフ１　「業界別」転職時決定年収（2003年7月）

　28歳で化学・素材業界と半導体業界を比べると、80.5万円の差。33歳で化学・素材業界と通信業界では、106.3万円も隔たる。賃金の業界間格差は周知の事実だが、転職時の年収においてもそれは如実に表れている。

　となれば、転職にあたって、自分の得意とする専門技術が他業界でも通用するのであればという限定付きだが、賃金水準の低い業界から高い業界へ移れるものなら移ったほうが得をする。たとえば、組込みソフト技術であれば次世代デジタル家電業界、生産技術であれば自動車業界など、汎用性の高い技術の持ち主であれば、異業界への転職も視野に入れることができる。

　しかしながら、業界内転職しか道がないという技術分野も少なくない。その場合には、同じくリクルートエイブリックのデータ（グラフ２）に注目してほしい。28歳、30歳のエンジニアが転職したときの決定年収の推移を業界別に18カ月間追ったもの。業界ごとに変動の波のあることがわかる。

　半導体、機械・輸送機器、化学・素材の各業界は大きく上下するのに対し、通信と電気・電子は上下動が少ない。特に電気・電子業界の上下動の幅は28歳で15万円程度、30歳で27万円程度とかなり安定的だ。一方、IT業界は明らかな下降が続いている。

　こうした変動を起こす要因は、求人数の増減よりもむしろ各業界の半年から１年前の景況だといわれる。業界全体の景気が上向くと、その半年から１年後には転職時決定年収も上向くというわけだ。同じ業界内で転職しようとするときには、この法則をもとに転職のタイミングを計ってみるのも、ひとつの目安としては有効だ。

　ただし、同業界においても年齢によって、異なった波を描くことがある。たとえば、機械・輸送業界では、28歳のデータでは2002年4月から7月に上昇し、30歳のデータでは、9月から12月にかけて上昇傾向を見せている。同様に半導体業界を見ると、ここ5ヶ月間の波は対象的だ。

　このように、スポットで細分化された求人ニーズが発生するケースもあるため、転職時決定年収が下降曲線に入っている業界（つまり不景気な業界）であっても、求人の状況変化をきめ細かく、またいち早くキャッチすることが重要となってくる。向かい風が吹いている業界だからといって、転職に消極的になる必要はない。

グラフ２　「業界別」転職時決定年収データ　（2002年2月～2003年7月までを集計）