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キャリア停滞脱出のための 33歳 新・メンター必要論
新しい技術を身につけ、バリバリ仕事をこなしてきた20代。しかし30代に入り、その成長スピードが失速した感があると悩むエンジニアは多い。そんな「キャリアの踊り場」を乗り越える策として、「メンター」の必要性を考えてみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/木下ミカエル) 作成日:03.09.10

THANKS! 「30代に入り、エンジニアとして伸びてないんじゃないかと焦りを感じています。3年後は大丈夫だろうかと思うと不安です」(kiriiさん・33歳)などの声からこの企画は生まれました。
Part1 「30代に入ってナンか変だ」成功体験者が悩む理由とは?

30代の6割が「キャリアの停滞感」を感じている

20代後半は右肩上がりで自分なりに業績を挙げていると思ってきたが、30代に入った今は、同じことを繰り返している感がある

「勢い」でこなせた20代と違って、30代はもっと頭を使わないといけないと実感しているが、どうも新しい策が出てこなくなった

現在も20代後半と同様、周囲から高い評価を得ているが、この勢いが35歳を過ぎても続くか心配だ

 ……たとえば、そんなことを思うことはないだろうか。Tech総研が30代のエンジニア300人を対象に行ったアンケートでは、20代で自分の成長を実感できたのに、「30代に入って、ナンか変だ?」と悩むエンジニアは、6割もいたのだ。(Q1)

 キャリアの成長スピードが減速し始めたと感じる、これは一種の「踊り場」(成長が一時小休止している段階)状態なのかもしれない。

よき助言者、自己投影モデルを見失ったエンジニアたち

 「成長実感」が得られなくなるというスランプ期は、長い職業生活の中でだれにも訪れるものだろう。
だが最近は、特に20代で成功を収めてきたエンジニアが30代に入り、このような状況に悩んでいるようなのだ。

 このような場合、かつての人は先輩社員に相談した。一緒にデバッグしながら、ソースを一つひとつ点検されたこともあるし、朝まで飲んで議論しながら、技術だけじゃなく、人生の極意を学ぶこともあった。何よりスランプを何度もくぐりぬけた先達の経験談は重要なものだった。
  
 しかし、技術の変革スピードが加速し、個々の技術や業務分野が細分化し、さらに企業組織のあり方が変化する今、状況は変わりつつある。
 もう一段上に引き上げてくれる先輩社員、上司に相談したいと思っても、そんな自己投影モデルが身近にいないことにガクゼンとしてしまうのだ。


メンター=次のステージに導いてくれる助言者的存在

 「メンター」という言葉を聞いたことがあるだろうか。語源は古代ギリシャにさかのぼるが、後継者を指導する人、支援者という意味。さらには人生経験が豊かな人、助言者までも含めることができる。

 先に紹介したアンケートでは、20代で成功体験を持つエンジニアのうち、半数以上(56%)が「メンターはいない」と回答した。(Q2)
さらに、メンターがいないと答えた6割以上(66%)が「30代に入って成長してないと感じることが『ある』」と答えている。
キャリアの停滞感とメンターの不在には、どうやら密接な関係があるようだ。

 今回は、メンターを「本人の新たな可能性に気づかせ、次のステージへと導くよき助言者的存在」と定義したうえで、あらためて、キャリアの伸び悩みの段階にいる30代前半のエンジニアにとっては必要不可欠な存在、として注目してみたい。

エンジニア Voice1
若手管理職も嘆く「メンター不在」

 メンターがいないことの不安感は、管理職として活躍するようになっても根強いものがあるようだ。アンケートでも以下のような声が寄せられた。
自分が誤った方向に進んでいっても忠告してくれる人がいない (31歳・社内情報システム開発・課長代理)
キャリアパスの先が見えにくい (33歳・コンサルタント・部長)
メンターがいないと、個々の能力を伸ばすことができず、才能を埋もれさせてしまうことになる。メンターに相談できる仕組みが企業の中になければ、結果的に会社の業績も伸びない (33歳・サービスエンジニア・プロジェクトリーダー)

 ちなみに、30代管理職クラス(課長代理、主任、プロジェクトリーダー以上)では、53%が「メンターがいない」と答えている。


エンジニア Voice2
メンターによって教えられたこと、助けられたこと

たとえ直接的に相談やアドバイスをもらわなくても、日常のその人の仕事に対する考え方や取り組み方などから得ることは大きい (31歳・回路設計)
人とは違う発想をする先輩がいて、なぜそんなに発想が豊かなのかと思ったら、専門以外の領域をよく勉強していた。自分もそれに見習ったら、仕事に対してこれまでとは違った見方ができるようになった (36歳・半導体素材開発)
前職をクビになったとき、いまの会社に呼んでもらった (37歳・Web系システム開発)
Part2 なぜ、メンターは必要なのか?

 メンター不在が珍しくない今、「自分には助言者など必要ない」と冷めた見方をする人も多いのではないだろうか。
 Part2では、先端ITシステム開発の最前線でアーキテクトとして活躍する30代前半のエンジニアやオブジェクト指向技術のオーソリティーの声から、あらためてメンターの存在価値を探ってみた。


33歳ITアーキテクトが語るメンターの重要性
 僕は、技術的な「経験」の多くは、自分の想像力や知識でカバーできると思っています。
 でも、やはりそれでは足りないときがある。
「経験を汎用性のある“智恵”に昇華している」だれかとぶつかって
化学反応を起こさないと、本質的な「解」は見つからないと思うんです。


株式会社アスケイド 藤原克則氏

「立ち位置」に迷ったときにキャリアの指針を示してくれた

 大手メーカーの研究所やSI企業の技術コンサルティングを行うアスケイド。ここでアーキテクトを務める藤原克則氏(33歳)は同社の創業メンバーの一人。これまでSI企業A社、ITシステム開発会社B社という2つの会社を経験している。アスケイドはかつてSI企業A社の研究開発部長(後に取締役と兼務)だった崎山徹氏(43歳)が代表を務める会社。つまり、この10年近く崎山氏を追いかけるというか、引っ張られる形で、藤原氏はキャリアを積み、会社も変わってきたのだ。
メンターであるアスケイド社長の崎山徹氏(43歳)と。

 「私は新人のころから相当、生意気な社員でしたからね(笑)。そこに目をつけられたんでしょうけれど。実はアスケイドを始めるまでは、崎山と一緒に仕事をしたことはあまりないんです。それでも、実践と理論の両面で優れたエンジニアだとは認識していた。世の中の変化を先取りする先見性の持ち主であると注目していました」

 SI企業A社時代から、ソフトウェアづくりではだれにも負けないという自負をもっていた藤原氏。「“ああいう設計だけはすまい”という反面教師も一種のメンター(笑)」。しかしそんな自信と裏腹に、20代後半、藤原氏にも組織の中での自分の“立ち位置”に迷ったことがあった。


 「30歳過ぎたら、技術屋としてどういう方向に行けばいいか。自分の指向は、コンピュータ・サイエンスの研究者でもなく、プロジェクト管理者でもない、と。そのとき、アーキテクトとして、プロジェクト横断的に技術支援を行うというキャリアパスがあるんだと、崎山は示してくれました。そういった職種もきちんと社内で評価されるような会社じゃないと、エンジニアは幸せにはなれない、そのためには新しい会社を作ろう、と。その“哲学”部分に私も惹かれたんです」

本音勝負が、新たなステージに進むヒントを生む

 もちろん、他人と哲学部分で共鳴し合うためには、前提として濃密な人間関係、コミュニケーションが必要だ。

株式会社アスケイド
アーキテクト 藤原克則氏(33歳)

1995年、SI企業に入社、研究開発部門に配属。97年、ITシステム開発会社を経て、2000年、設立メンバーとしてアスケイドに入社。
 「正直なところ、僕自身は“教えを請う”という感覚じゃないんです。“技術”に関しては、いつも“ガチンコ勝負”だと思っていますから。崎山とも、年齢や役職など関係なしに、自分から遠慮なくぶつかっていきましたね。その結果として、エンジニアとしての方向性が見えてきたという感じです。こっちが“こうありたい、こうなりたい”という本音を見せないと、メンター役の人もメンタリングしようがないですからね」

■コラム■ なぜ、今、国内企業ではメンターが注目されているのか?

国際メンタリング&コーチングセンター 
代表 石川 洋氏

 国内企業でも「メンター」の存在が注目されるようになって久しい。
「国際メンタリング&コーチングセンター」代表の石川洋氏に企業そして個人におけるメンタリングの重要性について聞いた。
――コーチや上司と、メンターの違いは?
 コーチは短期間で成果・実績を挙げるために必要な役割で、上から管理される印象が強い一方、メンターの場合は自分がお手本を示しながら、もっと長期に、対象と一緒になって考える相談役という側面があります。必ずしも上司=メンターとなるわけではありません。
――いま日本企業でメンターが求められる背景は?
 成果主義が強まり、企業は高業績を達成できる人材づくりに腐心しています。そこではたんに技術や知識だけでなく、感性や独創性も求められています。しかしその一方で、世代間のコミュニケーションがうまくいっておらず、人材育成の業務の一環としてメンターを位置づける企業が多く出ています。
――日本でメンタリング・プログラムが効果を挙げている企業は?
 多くのIT関連企業では、新入社員育成用として、効果をあげています。最終的には、一人ひとりの社員が自分で課題を設定して、実行できるようにするために、メンターが目標の達成をサポートしています。
――そういうプログラムのない会社で、メンターを見つけることは可能でしょうか。
 入社する前に、メンタリング・プログラムがあるかどうか確認した方が、よさそうですね。むだに探し続けるよりは、メンターを重視している企業に移ったほうが得策かもしれません。現に、米国ではメンタープログラムが、個人が良い職場を選ぶ際の決め手になっていたりします。


 
オブジェクト指向技術のオーソリティが語るメンターの重要性
 まずは一歩、自分から社外に飛び出してみる。
 一見違う世界観を持つ人物が、
 エンジニアとして狭まりきった視野を広げてくれるかもしれない。


株式会社豆蔵 萩本順三氏

政治家秘書と対話するソフトウェア・エンジニア

 メンターとは必ずしも社内の人間だけとは限らない。萩本氏の場合もそうだった。
 「エンジニアとしての発想を転換するきっかけ――私の場合は、20代のときに出会った、当時30代の政治家秘書というのが、それに当たる人物でした」

 もちろん仕事内容は全く異なるが、教えられる部分は多かったという。
「方法論には通じる部分があるんですよ。ソフトウェア技術は、一つの抽象化された考え方ですが、だからこそ政治力学という別の思考法を知ることで、新しい発想のヒントになる」

社内に閉じこもっているのはもったいない

 異業種であっても、より抽象化された上位概念になってくると共通性は多い。
「“これ”で世の中を動かそうっていう夢や志は人間にとって不可欠。私の場合、“これ”=ソフトウェア技術ですが、本質的な話は、世界が違っても共有できる。私は異業種の人たちと接することが好きなんですが、彼らと話すことで、技術でも、キャリアでも、表面的なものをただ追いかけるのではなく、もっと深いところ、本質的なところを追求したほうがいいと確信するようにもなりました」


 「ソフト開発をしているときって、ときどき”デバッグはかりで仕事がつまらない”とか”モニターの世界だけで自分は閉ざされているなあ”なんて思うことがあるでしょう。そういうときこそ、もっと広い別の世界の人と話して視野を広げる努力をしていると、現在の仕事から社会への接点を見つけ出すことができるようになり、スランプから脱出することができるのではないでしょうか」

株式会社豆蔵 取締役
萩本順三氏

オブジェクト指向言語を独学で学んだ経験を持つ。現在は豆蔵にてコンサルティング、研究開発などに従事。Java、オブジェクト指向方法論、分散オブジェクト技術に関する著書、雑誌記事、講演多数。
 萩本氏は、様々な事象を常にレイアに分けて捉えるようにしているという。
 クラスレイア(専門用語など)レベルで相手を判断せず、より上位の理念レイア(仕事をする上での理念)での共通性に注目する視点が、幅広い世界でメンターたちと出会うことにつながっている。
Part3 メンターを見つけるための4つのヒント

社内人脈に縛られる時代は終わる?

 エンジニアアンケートでは、「メンターがいる」と答えた人に、メンターとの出会い方を尋ねたところ、上位3位まではすべて勤務先(今の会社、前の会社)という結果が出た。(Q3)
つまり現状では、時代が変わっても、ほとんどのエンジニアが、社内、しかも同じ部署の上司や先輩に「メンター的存在」を求めていると見ることができる。


 だが、幸運にも社内で出会えればいいが、技術の変革スピードが速く、業務の細分化が進む今は、助言者や自己投影モデルを社内に求めるのには、限界がある。

 メンターの求め方も、今いる環境にゆだねる「環境依存型」から、たとえば社外の人物にみずから接していく「主体的関係構築型」に移行せざるを得ないのではないだろうか。

 自分から一歩踏み出そうという「攻め」の意識から、キャリア停滞脱出の鍵を握る、あなただけの自己投影モデル、メンターに出会えるかもしれないのだ。


●メンターに出会うきっかけを見出す4つのヒント

□社外のネットワーク一覧を作ってみる
 「うちの職場じゃいないよ」とボヤいても始まらない。自分と付き合いのある顧客先、勉強会などで参加している専門グループや団体、趣味の付き合いに至るまで、試しに書き出してみよう。
 書き出しているうちに、意外な人脈=メンターの「種」が見つかるはずだ。


□「今までどっぷり浸かった場」を思い出してみる
 心理面でも頼れる存在であるメンターが、心の師として認知されるまでには、共有体験の多さや濃さも影響することも多い。
 どっぷりと組織に浸かっている最中には気付かなかった、上司や先輩、PMやPLのありがたみを後で(異動後、転職後などに)気付き、親交が深まることもある。


□ネットの世界に飛び立ってみる
 インターネットは知識と人との出会いの場でもある。ソフトウェアの共同開発、オフラインミーティングでのより濃密な交流、読書会・勉強会の開催などへと展開していくと、さらに面白い関係がつくれるかもしれない

□転職という「リセットタイミング」にかけてみる
 新しい職場では、最初は「面倒見」役がつくはずだ。その人を参照モデルとして、虚心坦懐に自分のこれまでのキャリアを見直してみる。前職では意地もあり、人前でなかなか素直になれなかった自分も、新しい職場、新しい相手ではそれができるかもしれない。また技術力にほれ込んで入社した場合は、メンターに出会える確立は高そうだ。
 
■コラム■ 「モー娘。」成功の秘訣にみるメンターの威力

 アイドルグループという組織としても、またメンバー個人としても成功を収めている「モーニング娘。」。

 彼女たちの成長性の高さや強さは、メンターの存在によって支えられているといっても言い過ぎではないだろう。なぜなら「モーニング娘。」には、メンバーの成長段階に応じ、以下のような「メンターに出会う仕掛け」があるからだ。


@ アイドルとしての原石を磨く時期、つまりデビュー時には、つんくに出会い
【原石期:プロデューサー型メンター】
A アイデンティティを確立する時期には先輩のメンバーに学び 【独自性追求期:先輩型メンター】
B 卒業を考える頃には、卒業したメンバーや、芸能界で知り合ったほかのアイドルに相談する
【次段階への移行期:先行成功モデル型メンター】

 今の自分が、エンジニアとしてどの段階にいるかを考え、出会うべきメンターのタイプを想定するのも面白いかもしれない。
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木下ミカエル(総研スタッフ)の取材を終えて
Part2でご登場いただいた、アスケイドの藤原氏。彼の言う「教えを請う存在というよりは、ぶつかっていく相手」というのが、自分の力で自己投影モデルを見つけ出そうとする、これからのエンジニアのメンター像であるように感じました。
あなたにとって理想のメンター像とは? ぜひTech総研までお寄せください。

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