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止まらない 技術者人性の法則 「100点−99点≠1点」の法則
昔から試験の点数は「0点=すべて不正解」にはじまり「100点=すべて正解」を満点とするのが一般的。かくいう本レポート文末の「Impression」も「100点満点」だが、この尺度自体を問い直すのが今回の「法則」だ。
(文/出川通 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:03.05.28


(イラスト/工藤六助)
THANKS! 専攻・職種・業種を問わず「技術者」に共通する法則とは何か。それを追求する本シリーズもおかげさまで3回目。初めて「数式化」に挑戦してみました。ぜひ検証のうえご意見をお寄せください。もちろん反証も歓迎です。
「100点満点方式」への違和感

 企業などの評価、管理では、100点満点の成果管理指標を適用するのが普通のようです。実際に「65点」「90点」などの点数が書かれた成績表が存在するかはともかく、「評価点は常に0点〜100点の間の何点かである」「目標の立て方として『100点以上』という考え方は存在しない」という枠組みで、学校で使われる0点から100点までのリニアな分割評価と同じ考え方です。
 しかし、価値やポテンシャルを100点以上には表せないが、「この技術のほんとの成果は200点、いや1000点以上はあるぞ」と思ったことはありませんか? そして、それなのに「よくできたね。90点」などと言われて「あいつは技術がわかってない!」などといら立った経験は?
 このいら立ちは、技術者の本能であり気分といってしまえばそれまでですが、少しだけ論理的に考えてみましょう。「100点満点方式」には欠陥があるのではないか。それとは異なる評価の法則は成立しないのか。


100点≠満足

 技術者が、世の中の評価点の上限値である100点で満足しないことや、実際の潜在能力・成果がそれではカバーされていないことは、よく見受けられます。
 たとえば、「画像表示の高速化」のために組んだプログラムが、もし「データベース検索の高速化」にも「通信の高速化」にもほぼそのまま使えるぞ、となれば、画像表示にしか使えないプログラムよりもずっと価値が高い。技術者はそう評価するでしょう。画像表示の高速化という評価基準では同じ100点であるとしてもです。
 これは「技術に広がりがある」例ですが、もうひとつ、「完成度が違う」例を挙げましょう。部品Aの耐用年数が3年なのに対して、組み合わせる部品Bの耐用年数は1年なので、Bの長寿命化が開発課題となった、という場合。耐用年数「3年」の部品B’が完成すれば、その技術の評価は100点。しかし「5年」や「10年」のB”ができたとしても、Aの耐用年数が3年である限りはB”も「3年」以上の力は発揮し得ないのですから、「100点」以上の評価が得られることはないでしょう。「3年のものができればもっと低コストだったはず」などと、かえって評価が低くなることすらあり得ます。


「100点−99点」はどのくらい大きいか

 「100点」と評価されているものの中に、100点にとどまらず、さらなる可能性を含むものがあることがわかりました。このことを図で示します。

図1. 「評価のスコープの違い」と「100点の意味」のイメージ

「評価のスコープの違い」と「100点の意味」のイメージ

 物事を測定・判断するとき、測定可能な全体の範囲を認識したうえで、なんらかの「ものさし」をあてて測っていくものです。100点の意味をイメージ化した図1では、「測定可能な範囲」を「スコープ(視野)」、そこで使う「ものさし」を「スケール」と表しています。
 スコープ(A)の場合、100点を超えたものは測定不能です。視野の外にある「見えない(もしくは、見ないことにしている)領域」といってもいいでしょう。野球にたとえれば、フェンスを越えた打球はすべてホームランで、「ぎりぎり」と「スタンド最上段」、さらには「場外」を区別して評価することはできない(少なくとも公式記録上は)、というわけです。

 「さらなる可能性を含む100点」のイメージを図でとらえたところで、今度は数式で示してみましょう。

 一般には100点と99点の差は、


   100−99=1(点)
………〔1〕

 ですが、「さらなる可能性を含む100点」を100*と表示すると、

   100*=100+α(点)
………〔2〕(α:0〜∞)

 となり、100点と99点の差は〔1〕式ではなく下の〔3〕式で表されることになります。

   100*−99=1+α(点)
………〔3〕

 すなわち、〔1〕式では1点にしかみえない100点と99点の差は、実は300点、いや10000点かもしれない可能性をもった恐ろしい値なのです。
「見かけの平均点」と「真の平均点」

 このことを展開すると、評価の目安によく使われる「平均点」とは何なのか、という疑問がわいてきます。
 ふつう、平均点(V)は、各点数(A1, A2, ……, An)を合計したものを人数(N)で割って算出します。


   (A1+A2+・・・・+An)/N=V
………〔4〕

 100点の人がいない場合はこれでいいのですが、100点満点の獲得者がいる場合には、少々困ったことになりそうです。100点満点は100*点であるため、真の平均点(V*)が不明となるからです。

   (A1+A2+・・・・+100*)/N=V*
………〔5〕(An=100*

   V≦V*
………〔6〕

 たとえば、N=100、V=50(点)とした場合に、仮に実力3000点(評価は100点)の人が1人入っていたら、V*=79(点)となってしまいます。
 実力3000点の人が1人だけなら、「あの人は特別だから」と無視して、平均点Vを目安にしてもいいかもしれません。しかし、100点の人が10人もいたら、もう無視できないでしょう、そのうち半分の5人は実力も100点(α=0)、しかしあとの5人は実力500点だとしたら、V*=70(点)です。
 ここでいいたいのは、実力が100点以上の点はスコープの外にあるため、評価が100点で「飽和」しているということです。こう考えると100点の人の実力は、まさに「測りしれない」のです。


1点−0点≠1点

 今度は「0点と1点の差」の意味を考えてみます。この「1点差」も、99点と100点の差とは違う意味で、技術者としては気になるところです。

 数式で書くと、1点と0点の差は、〔7〕式で表現され、〔8〕式が表すのと同じく1点差でしかありません。


   1−0=1(点)
………〔7〕

   3−2=1(点)
………〔8〕

 しかし、よくいわれることですが、0をいくら重ねてもやはり0です。腕力ゼロの人を何人集めても荷物は運べないし、技術力がゼロの人を何十人集めたところで何の開発成果もあがらない(〔9〕式)。

   0×∞=0
………〔9〕

 数学の教えるところとは異なりますが、実は0と1の間には、無限大の差が存在する(〔10〕式)というのが技術者の実感ではないでしょうか。

   1−0=∞
………〔10〕

 「99点と100点はほぼ同じ、0点と1点もほとんど同じ。どちらも等しく“1点差”」というのが世の中の理屈ですが、技術者は無意識のうちにも、より大きなスコープをもって〔3〕式や〔10〕式を導き出し、「1点と0点は無限の違い、99点と100点は雲泥の差」と考えているのかもしれません(表1参照)。

表1. 100点と99点の差、0点と1点の差とは……

  スコープ 100点と99点の差は? 0点と1点の差は?
スコープ(A)
一般評価
0点から100点
(終端は100点と明確)
1点
(スコープ全体の100分の1)
1点
(スコープ全体の100分の1)
スコープ(B)
技術の視点(?)
0点から∞点
(終端は見えない)
1点から∞点
(測りしれない。ひょっとするとスコープのほとんどを占めるかもしれない)
∞点
(点数は明確でない。ON−OFFと考えると無限大)
100点と100%は大違い

 もうひとつ、「100%〜0%」という、「100点〜0点」と似ているような、似ていないような話をしましょう。
 図1のスコープ(A)の世界においては、100点は100%と同じことであり、また0%は0点と同じです。だからしばしば、100点と100%とは混用されます。しかし、スコープ(B)でみれば、100点と100%は必ずしも一致しません。

 そして、技術者にとっては、100点はあくまで通過点(一里塚)であるのに対し、100%というのは「完全、究極の姿」でもあります。技術の世界での%表示は、歩留まり、稼働率、欠陥率、信頼率などでおなじみでもあり、「100%=完全」は世の中に存在しない(完全に限りなく近づくことはあるが)ととらえられているものです。

 ここまでは「スコープ(視野、認知範囲)」の違いに注目してきましたが、「100%はあり得ない。となると、0%もないぞ」という観点が出てくるに至って、スコープを広くとるだけでなく、スケール(ものさし)も考え直すことが必要だと思えてきます。そこで図2では、リニアスケールを、0点をもたない対数スケールに変えてみたときのイメージを示しました。


図2. リニアスケールを対数スケールにすると見えてくるもの

リニアスケールを対数スケールにすると見えてくるもの

 もちろんこの対数スケールについては今後十分な検証が必要ですが、リニアスケールと違って「0点と1点とは無限の違い」「99点と100点は1点差だが、99点と100*点は雲泥の差」という技術者の実感が、それなりに表現できるのではと思います。

視界を拡げる・「ものさし」を拡げる

 納得のいかない評価を受けても、それがスコープやスケールの違いによるものとなれば、いら立ったり、しょぼくれたりすることはないでしょう。評価者に「スコープ・スケールの違い」を理解してもらうか、あるいは、自分なりのスコープ・スケールを構築するほうが賢いと思います。このスコープは0点から500点まででもよいし、10000点まででもよいのです。さらに将来の無限の拡張性のためには、スケールを対数軸にしてはどうでしょう。

 100点で満足しない技術者たちは、連続した対数スケールの海を、時空を超えてゆうゆうと泳いでいけばいい。両端でターンするよりほかにないプールしか知らないとしたら、もったいない話です。

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根村かやの(総研スタッフ)からのお願い
 「多分、根村さんは、理系じゃないと思った。すくなくても、現場のエンジニアじゃないと思う」とのOpinionが火星人さん(システムエンジニア)から。ご指摘のとおり、私は現場のエンジニアではありません。だからこそ、現場のみなさんからの真理な法則を、心よりお待ちしています。
 前回の「技術者は『○○より××』である」にも、「駄菓子屋より和菓子屋」「大木より雑草」など、多数の興味深い法則が集まりました。今回も、「100−99≠1」か、あるいはその他の数式か、あなたの現場の法則をぜひお寄せください。

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