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止まらない 技術者人性の法則 技術者は「団子より花」である、の法則
どんな仕事であれ、その成果を正当に評価されるのはいいことだ。しかし技術者の仕事には、「目に見える成果」が出しにくい側面もある。技術を仕事として生きていくには、技術者の本能に則した新しい法則が必要なのではないだろうか。
(文/出川通 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:03.05.07


(イラスト/工藤六助)
THANKS! 技術者の皆さん、今年はお花見しましたか? 美しい花には目もくれず、飲みものを手酌して「おっと、表面張力でセーフ!」と理系な酔っ払いになっていた、そんなあなたも「団子より花」の人。ちょっとびっくりの法則です。
団子も大事だが、花はもっと大事?

 最近、成果主義の名のもとに、技術者が「何をつくったか、成果を見せてみろ」と厳しく問われることが増えているようです。成果主義というよりは成果一辺倒主義、あるいは成果拙速主義ではと思われる場面も少なくありません。成果成果と言い立てる経営者や管理職を見ているうちに、「彼らは 『花より団子』主義者なのだ」と思い浮かびました。
 それに対して技術者は「団子より花」主義者。世間の風潮がどう変わろうとも、それが技術者の強みであると私は思います。その場しのぎの言い訳や虚勢としてではなく、技術者の本能に根ざした、もっと本質的な意味で。

 「花より団子」とは「花を眺めて楽しむ風流よりも、団子を食べて食欲を満たす実利を選ぶこと」のたとえですが、団子が成果、もっと露骨にいえば「儲け」であるとすれば、花は何でしょうか。技術者にとっての花とは、「製品に適用できる技術」そのものです。だから技術者は「団子(儲け)より花(技術)」というわけです。
 花が「美しい」とは、その技術が評価に値するということ。「いい」「進んだ」「役に立つ」「エレガントな」……どのように評価し表現するか、議論は分かれるでしょうが、「儲かる」とは別の評価軸があるということでは、見解が一致するはずです。食える−食えないという団子の評価軸で花を評価しても意味がないことは、技術者の目には明らかです。

 「団子より花の方が美しくて価値があるのだ」と言い切れる、その価値が直観的にわかる。「きれいに咲いたなあ」と思うとそれだけで、団子はなくても幸せな気分になってしまう。技術者とはそういうものではないでしょうか。

 それに、技術者の仕事の本質は、商品を仕入れて売る団子屋の仕事よりは、花をつくる園芸家の仕事によく似ていると思うのです。さっそくこの類似性をひもといていきたいと思います。


研究は「芽を出させる作業」

 表1は、園芸作業と技術者の仕事のアナロジーイメージをまとめたものです。前半の研究ステージは、しっかりしたシーズ(種)を確保して芽をたくさん出させ、苗床から移植可能な双葉に育てることにあたります。後半の開発ステージは、若葉の状態から立派な花をたくさん咲かせるまでのいろいろな作業に相当します。

表1. 園芸作業と技術者の仕事のアナロジー

園芸作業と技術者の仕事のアナロジー

 まずは研究ステージを「基礎」「基盤」「支援」と分類し、少し詳しく見てみましょう。
 研究の第1段階、「基礎研究」とは、世の中にないアイデアを考えて、それを実証して新しい学問体系をつくること、また、物理、化学、数学などを駆使した発明、発見という創造的作業です。

 次の「基盤研究」は、事業を継続させるために必要な共通科目とでもいうべき内容が相当します。一般的には材料、伝熱、流体、振動解析、構造、電気、電子、通信、制御、分析などに関する要素技術としての研究などが挙げられます。

 「支援研究」とは、すでに製造している製品の、付加価値増加や競争力向上などを目的とする研究分担をいいます。例えば、エンジンという製品のコストダウンのために新材料の採用を計画し、この材料の潤滑特性のデータを収集して、改良メカニズムを考察する、といった研究です。ほぼ明確に製品ターゲットが決まっているとはいえ、現象の解明には未知の要素もあるので、開発というより研究というのがふさわしいケースです。

 この一連の「研究=芽を出させる作業」を園芸にたとえると、最初に、好みの花が咲きそうな種を探し、あるいは自ら創り出すことに相当するのが基礎研究です。続いて、苗床を設営し、施肥、pHコントロール、粒度調整など、植える植物(の種)に応じた土壌の準備をするのが基盤研究です。ちょうど「土づくり」に対応するでしょう。そしてこのあと、種をまき、水をやり、注意しながら苗床で育成してやるのが支援研究。これでようやく、まず根が生えて、そして芽が出てくるわけです。

開発は「花を咲かせる作業」

 開発ステージも同様に3段階に分けてみます。
 「技術開発」は、製品や事業分野などの技術要素のいくつかが、未完の技術であると認識される場合のものです。

 「製品開発/商品開発」は最終のターゲットが明確になってきた段階の開発です。製造サイドでは「製品開発」、営業サイドでは「商品開発」ということが多いだけで、実体は同じものです。しかし、「作る」立場と「売る」立場で、意見の相違が出ることは多く、営業と製造と開発部門の連携がよいと製品=商品となりますが、連携が悪いと、「売れないものを作った……」「いいものを作ったのに……」となりがちです。

 「事業開発」は、製品(商品)開発を継続して行うことで製品・商品群を作っていき、結果として事業になるような塊をつくる作業です。これまでは主に経営者が行っていた作業なので、技術者にはちょっとなじみが薄いかもしれませんが、技術の高度化に伴い、これも技術者の仕事に入ってきています。

 園芸作業でいうと、双葉から花壇へ移植可能な「ポット苗」までに育てる段階が技術開発です。
 移植に成功したら枝葉が出てきますが、ほっておくと必要な枝以外の枝芽がどんどん出てきてしまいます。ここで余分な枝芽を摘むことで、本当に育つ必要のある芽(花芽)だけを、適宜残して育てるのが「製品開発/商品開発」です。この「芽を摘む」作業をしないでいると、とりとめなく葉っぱだけ茂るか、花が少ししか得られません。この間引き・剪定は、せっかく育てたものの一部を切り捨てる苦しい作業ですが、立派な花がたくさん咲くことをイメージしながら決断していくのは楽しいものでもあります。
 そして、1本ずつの花を育てるだけではなく、各種の花をアレンジして花壇に仕立てるのが事業開発です。個別の花(製品)をまとめて花壇(事業)にすることで、それぞれの花が相互に引き立て合い、全体として美しさ(メリット)のある形になります。


目的は同じ、でも方向が違う?

「研究」と「開発」とはひとつながりのものであり、立派な花をたくさん咲かせるという最終目的は同じです。しかし、図1に示すように、本質的なベクトルは大きく違います。

図1. 研究と開発のベクトルの違いのイメージ

研究と開発のベクトルの違いのイメージ

 開発は、「絞り込む」人為的な意思決定作業が常に入る、「収束型」のプロセスです。研究が「発散型」であり、いろいろ派生させて可能性を広げていくのとは異なるのです。ある意味でリスクを背負いながら、果敢に判断して(捨てて)、最終的な形に仕上げていくマネジメントが必要なのが、開発です。

 これも園芸作業にあてはめると、よりいっそうイメージがわくかもしれません。種まき前後には、1つでも多く「芽が出る」ことが喜ばれますが、その後の段階では、苗の優劣(育ち方、虫のつき方、勢いなど)を見ながらどんどん間引いて、最終的には1本や2本にしてしまうのです。
 このことを、技術者や経営マネジメントの人は、認識したほうがよいでしょう。芽を増やす時期に減らしたり、間引きの時期に多くを温存したりすると、労力の割になかなか美しい花は咲かないということになるからです。

花が咲くことの楽しみ、喜び

 最後に、団子と花の話に戻りましょう。
 最近、技術に加えて経営もわかる人材が必要だということで、米国に20年遅れでMOT(Management of Technology=技術経営)なるコースが主要大学で始動しています。これは、これまで「新しい種を求め」「花を咲かせる」ことに集中してきた技術者の特性に対する、「団子を売ってみろ」という問いかけだと思います。

 しかし、園芸家のキャリアを捨てて団子屋になれというのではありません。花を咲かせる喜びを知る人が、その知識と経験を生かして団子屋を経営してこそ、「花見団子」という付加価値を見出せるはずです。花の美しさなど眼中にない人が技術管理職として団子屋を経営してきたことへのアンチテーゼが、MOTかと思っています。

 花が咲いてこその「花見団子」なのですから、技術経営の基本は(団子のことはひとまず気にせず)よい花をたくさん咲かせることだ、というのも真理でしょう。私は技術者に対しては、まず「花が咲かないと楽しくないだろう?」と問いかけたい。どんな分野の技術者も、花を咲かせる本能を持っています。その本能に素直に、花を咲かせるようにするのが自然と思います。

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根村かやの(総研スタッフ)からのお願い
 前回「理科少年には3つのタイプがある」の法則は、皆さんのご協力により、工作型44.8%、博物型20.8%、計算型23.2%(、そのほか11.2%)と検証されました。一方で「細分化して何かわかったような気がしているだけでは?」(#!さん・システムコンサルタント)との厳しいご指摘を受けての反省を、今回のレポートには反映しました。仮説の立証に向け、「団子より花」か、あるいは「○○より××」か、あなたの法則をぜひ教えてください。
 また、次回以降のレポートで検証したい法則もお寄せください。「『なぜか成功する』より『理論的に失敗が判明する』ほうが落ち着く」から、「“炭酸水素温泉”につかりながら、Na、Ca、Mg、Hなどの記号が頭に浮かぶ」まで、技術者の共感を呼ぶ法則をお待ちしています。

このレポートの連載バックナンバー

技術者人性の法則

技術者なら誰もが認める性(さが)をさまざまな角度から考察する全10回。技術者に共通する法則とは何か。技術者人性は意外な“法則”に満ちています。

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