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SEの新天地となるか?日本−中国連合SIerの仕事
ITバブルの崩壊、IT投資の絞り込みなど、閉塞感漂う日本のSI市場。その打開策のひとつが、中国IT市場への進出だ。これらの企業群はSEにとって魅力的なフィールドになるのか調査した。
(総研スタッフ/関洋子) 作成日:03.05.07


提供:サーチナ&CNSPHOTO
THANKS! 最近、IT業界で話題に上る回数が多い「中国」。「IT業界で中国は脅威論として語られているが、これは事実?」「中国はオフショア拠点という位置づけだけ」「ブリッジSEとはどんな仕事」というさまざまな疑問や関心に答えてみました。
Part1 アジアン・グローバル市場獲得に動き出した日系SIer

大手をはじめ中小SIerも続々中国へ

 80年代から多くの日本の大手製造業は中国へ開発拠点を移した。そして今、そうした企業を追うようにIT業界も中国への進出ラッシュ。富士通、NEC、日立製作所、NTTデータなど大手はもちろん、TISや新日鉄ソリューションズなどの中堅SIer、イーシー・ワンなどの技術特化型SIerが続々と現地法人を設立している。しかし当時の製造業進出との最も大きな違いは、「低賃金の労働力調達」だけを目的とした進出ではないということ。

 中国は下図で見ればわかるとおり、広大な面積(世界の陸地の7%、日本の26倍)に12億5000万弱という人口を抱える。2002年のWTO(世界貿易機構)正式加盟以後、本格的に中国市場を獲得するため、世界のグローバル企業であるトヨタ自動車やIBM、ソニー、モトローラ、インテル、ノキア……が進出し、工場や販売拠点を新設するなど、事業規模を拡大しつつある。この動きに伴い、サプライヤーはもちろん、金融、流通などのグローバル企業も進出を開始している。そしてそれらの企業は間違いなく、事業規模に合わせたIT投資を行っている。
年率30%超で伸びる中国ソフトウェア産業市場

中国ソフトウェア産業市場規模

■日系ITベンダーの中国進出拠点

日系ITベンダーの中国進出拠点

■中国進出年と主な理由


日系ITベンダー

拠点

進出年

進出の背景
コア 北京、上海 1984年 中国でのシステム開発
TIS 香港、広州 1991年 日系企業のSI支援
アクセンチュア 大連、上海、北京、香港 1992年 大連:日本、中国、韓国市場向けソフトウェア開発
NEC 大連、広州、上海、成都 1994年 日系企業のSI支援
富士通 北京、西安、南京 1995年 日系企業のSI支援
CSKシステムズ 上海 1996年 日本向けソフトウェア開発
テイ・アイ・エス 大連 1998年 日本向けソフトウェア開発
NTTデータ 北京 1998年 中国でのシステム開発
富士通システムソリューションズ 上海 2001年 中国や日系現地企業のシステム開発およびサポート
日立製作所 上海 2001年 中国電子政府の技術支援
東洋システム 西安 2001年 中国でのインターネットソフトビジネス拡大
東洋エンジニアリング 深セン 2001年 日系製造企業向けSI支援
オムロン 上海 2001年 日本向けソフトウェア開発、中国でのSI(ERP)
京セラコミュニケーションシステム 上海 2001年 日系企業向けネットワーク及びシステムサポート
新日鉄ソリューションズ 上海 2002年 日系企業のSI支援(ERP構築)
電通国際情報サービス 上海 2002年 日系企業のSI支援
野村総合研究所 北京、上海 2002年 日系企業のSI支援
イーシー・ワン 北京 2002年 日本向けソフトウェア開発
ビジネスブレイン太田昭和 大連 2002年 日系企業の人事システム導入支援、日本向けソフトウェアの提供
エーアイ 上海 2002年 日本向けソフトウェア開発、日系企業のSI支援
日本オラクル 上海 2003年 日系企業向けDB導入支援

ハイテク企業入居のため、建設ラッシュが相次ぐ北京・中関村
提供:サーチナ&CNSPHOTO



日欧米の大企業進出が相次ぐ上海
提供:小倉一郎

 日本のIT産業はITバブル崩壊以後、従来までの勢いが感じられず、ほかの業種同様、景気の閉塞感に悩まされている。一方、中国は、「2005年にはソフト産業の売り上げを2500億元(3兆7500億円)、ソフト人材80万人(現在40〜50万人)にするという国の意向を反映し、年間30%を超える勢いで伸びている」
 と、情報ポータル「中国情報局」運営や中国IT白書発行などを行っているサーチナ・取締役の有田直矢氏。それを象徴するかのように、中国のシリコンバレーといわれる北京・中関村では、ハイテク企業がこの13年間で500社から1万社を超えたという報告もある。中国のソフト人材育成は「英語」で行われる場合も出てきている。これは「CMM(能力成熟度モデル)を取得し、グローバル市場に打って出るため」と有田氏。また都市部ではインターネットなどの通信インフラもほぼ整備されている。
有田直矢氏
株式会社 サーチナ
取締役
有田直矢氏

 日本−中国連合SIerは、広大な中国のSI市場の獲得、またトヨタ、松下電器産業、ソニー、ホンダなど日本から続々進出する企業のSI支援をするため、今、まさにグローバルな戦いを始めようとしている。これらのグローバル企業の中国進出が一般化してくると、日本のSEたちにとって日本−中国連合SIerは新しい活躍の場として浮上してくる。そこで働く魅力は何か、実際に働いているエンジニアの取材を元に探っていこう。
Part2 日本−中国連合SIerで働くITエンジニアの仕事

 日本−中国連合SIerで働いているITエンジニアたちに現在の仕事内容とその魅力について語ってもらった。

EX1 新拠点の立ち上げ、中国エンジニアの育成に注力
−アクセンチュア株式会社

道内康資さん
通信・ハイテク産業グループ
シニアマネジャー
道内康資さん(37歳)

89年、アクセンチュア入社。主に製造業のSCM導入を担当する。96年〜2000年にかけてロンドンオフィスにて、ヨーロッパの日系企業を対象にシェアード・サービスなどに関するコンサルティングも担当。2003年1月から、大連デリバリーセンター立ち上げに参加。
2003年1月から立ち上げに参加

 アクセンチュアがアウトソーシングとシステム・インテグレーション強化のため、今年3月、中国・大連にデリバリーセンターを開設した。その立ち上げに携わったのが同社・シニアマネジャーの道内康資さん。

「今年1月から大連に常駐し、センター立ち上げのための準備と開設後のサポートを担当しています。大連デリバリーセンターは中国のみならず、日本の顧客向けのシステム開発も行います。すでにいくつかの日本の開発案件を抱えており、日本の顧客の要求レベルにこたえられるスキルを中国のエンジニアに身につけさせることが私の目標です」

 中国と日本のエンジニアを個人レベルで比較すると固有技術の知識についてはほとんど変わらないという。
「中国のスタッフは大規模な業務システムを経験していない人が多いので、システム開発の方法論や手順などの知識が十分ではありません。日本からたくさんのシステムインテグレーターがすでに中国に進出していますが、その多くはコーディングから単体テストまでの工程に限られています。しかし弊社では、そういう下流工程にとどまらず、詳細設計の一部まで携わってもらうことを考えています。今は日本のプロジェクトリーダーが中国へ行くこともありますが、今後はできるだけ早く中国のエンジニアを日本に派遣し、直接、顧客と接することで要求レベルを肌で感じてもらえるようにしたいと思っています」

オフショア開発のノウハウは必須になる

 日本の人件費を考えると、オフショア開発のメリットは大きい。
「今後、日本でもオフショア開発は当たり前になります。もちろんすべての開発がオフショアに適しているわけではないので、案件ごとの見極めも必要になります。そのためには経験が必要ですが、弊社は世界各地でオフショア開発の実績があり、そのノウハウがここでも生かされています。また、オフショア開発は文化の違う人たちとシステムをつくり上げるので、相当なコミュニケーション能力も求められます」
アクセンチュア大連デリバリーセンター外観
アクセンチュア大連デリバリーセンター外観

 中国のプログラマーはたとえ「おかしいな」と思っても、仕様書に書いてある通りにコーディングする傾向があるという。仕様書をうのみにするのではなく、考える姿勢を持つように教えていくなど、一つひとつの積み重ねがオフショア開発の成功につながる。
「中国は今、急速に経済が成長しています。現在の閉塞的な日本では感じられないような活気があり、それが私にはよい刺激になっています」


EX2 品質に厳しい日本の顧客の要求にこたえて結果を出す
−NEUソフト・ジャパン株式会社

_磊さん
システム部
ケ磊さん(Deng Ley/31歳)

94年、上海大学卒業後、3年間、中国の通信系機器メーカーで携帯用(GSM)ソフトウェアを開発。98年に広島大学情報工学修士課程に留学し、2000年卒。2001年にNEUソフト・ジャパンに入社し、現在に至る。中国・上海出身。日本語は来日以後に習得
2003年1月から立ち上げに参加

 中国ソフト開発の最大手であり、ソフト企業として初めて上海証券取引所に上場したNEUSOFT。NEUSOFTの更なる国際化を目指して設立されたのがNEUソフト・ジャパンだ。

 そこで携帯電話向けのソフトウェア開発に携わるケ磊(Deng Ley)さんは中国・上海の出身。
 「私は日本の端末メーカー向けの組み込みソフト開発に携わっています。ポジションは技術リーダー。客先に伺い、要望を聞き、仕様書をまとめて中国の開発拠点に展開します。そして中国側で開発されたソフトが顧客の求める基準を満たしているかテストして納品するという仕事です」

 日本での仕事は日本語だ。顧客との打ち合わせはもちろん、中国の開発拠点に展開する仕様書もすべて日本語で作る。現地エンジニアとのやり取りはほとんどが電話やメールだが中国語に翻訳しなければならないという。
 「日本語を翻訳するので、すべてのことがストレートに伝わるというわけにはいきません。やはり直接のコミュニケーションは重要。現在のプロジェクトでも3回ほど、現地に行きました」

文化の異なる人たちをまとめる能力は重要

 ケさんのようなブリッジSEにとって重要なのが、文化の異なる人たちを理解し、まとめる能力だ。
 「日本と中国の大きな違いは品質のとらえ方。日本は非常に厳しいというのが実感です。エラーとなるしきい値も非常に厳しく設定されている。中国のエンジニアはまだまだ品質に関して、細かいところまで注意を払うことができていません。中国は大らか、日本は細かいところまで注意を払う文化の違いともいえます。そういう違いを理解して、いかにうまくまとめていくかが非常に大事ですね」
NEUSOFT大連ソフトウェアパーク外観
NEUSOFT大連ソフトウェアパーク外観

 日本のプロジェクト管理方法についても、
 「CMMなどのプロジェクト品質基準もありますが、日本のプロジェクト管理の方法も優秀。勉強になります」
 と語る。

 もともと、本体を中国に持つ同社。日本企業の中国進出、また中国企業の日本進出におけるシステム開発支援も行っている。日系企業のシステム開発に参加する可能性について聞いてみると「大いにあります。特に、ローカライズに関しては、言語のみならず法制度への適用を考えると、現地とのタイアップが必須になると思います」とのこと。中国と日本を連携するグローバルシステムであれば、双方に人材が必要だ。そういう現場に立ち会える可能性も必ずありそうだ。

Part3 日本−中国連合SIerで働く魅力はどこにある?

日本−中国連合SIerで働く3つの「醍醐味ポイント」

Point1 製造業の基幹システム構築プロジェクトに携われる可能性
 上記の例を見るとやはり多いのがブリッジSEという役割。しかしPart1の各企業の進出背景を見てもわかるとおり、「日系企業のSI支援」が今後、増えてくると思われる。実際、新日鉄ソリューションズはファーストリテイリング(ユニクロ)中国拠点の基幹系システムの構築を行っている。
 さらに日系企業へのサービスを行う中国・外資系企業では、優秀な日本の人材を求める動きがあるというジェトロの報告もあるように、日系企業のシステム構築という場面で、活躍する可能性がありそうだ。

Point2 先進欧米企業がR&Dセンターを設立、先端技術開発の拠点
 欧米系のITベンダーが中国・アジアマーケットを獲得するため、続々とR&Dセンターの設立や人材育成に投資している。アジアにおける先端技術開発拠点を中国に置き始めたのだ。以下はその一例だ。

マイクロソフト:8000万ドルを投資し、98年、中国研究院を設立、(アジア太平洋地域唯一の研究拠点。2001年にアジア研究院に改称)。また2002年には中国のコンピュータ教育推進プロジェクト「長城計画」にも2億元投資。
IBM中国研究センター:投資金額等は未定。95年に設立。また2002年には「天才孵化計画(Extreme Blue)」と称した北京大学、清華大学などの主要大学の優秀な学生に対する英才教育計画をスタートさせた。
オラクル:2002年、「オラクル教育プロジェクト」の開始を中国教育部高等教育司と合意。同社は中国教育部が指定する北京大学、清華大学など35大学にソフトウェア学院を建設し、人材育成を行う予定。億単位の投資が見込まれている。

Point3 グローバルに通用するプロジェクト方法の習得可能性
 現在、中国はCMM取得に本格的に乗り出している。
 「今後、中国でのプロジェクトは英語かつCMMに準拠したものが多くなる可能性があります」(サーチナ・有田氏)
 また今後のSEにとっては必須の知識となるオフショア開発の能力、異なる文化を持つ人たちを束ねるマネジメント能力が身に付く。

 飛行機で約4時間の隣国・中国。ここには大規模プロジェクト、最先端の技術環境、グローバル標準のプロジェクト管理手法など、日本国内ではなかなか味わえない面白さが秘められている。
 「日本−中国連合」というキーワードが、数あるSIerの中から次の転職先を探す際の重要なファクターになると感じられただろうか。


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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
 マスコミを中心に中国脅威論が話題になっています。「日本のエンジニアも頑張らないと中国に負けてしまう」と。本文中でも触れたとおり、中国のITエンジニアには業務システムの企画・設計に携わった人が少ないというのが現状。だからプロジェクト管理やシステムの詳細設計のノウハウに乏しいため、進出した日系SIerでは現地にプロジェクト管理の方法や設計手法などを教えるために日本の優秀なリーダーを派遣しています。欧米ITベンダーによる中国・アジア市場進出が本格化する中で、日本−中国連合SIerの中国・アジアIT市場でのアドバンテージ、みなさんはどんな風に予測しますか。

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