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やっぱりエンジニアはオモシロイ!
技術未来人インタビュー
エンジニアの“仮の自発性”が
日本浮上のカギになる
株式会社ACCESS
取締役副社長(研究開発担当)理学博士
鎌田富久氏
日本のデジタル家電がブラウザ搭載など世界の先端を走れるのも、鎌田富久氏がいるからこそともいえる。企業家、エンジニアとしてワールドワイドで活躍する鎌田氏にエンジニアに託された未来について語ってもらった。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/関洋子)
作成日:03.04.09
鎌田富久氏
[PROFILE]
●カマ ダトミヒサ
1961年生まれ。88年、東京大学理学部情報科学科大学院博士課程修了。理学博士。「研究室で培った最先端の技術を実際のフィールドで生かしたい」との思いから、84年に社長の荒川氏とアクセス社を設立。インターネット家電ブラウザのデファクトスタンダード「NetFront」の生みの親として、世界を駆け回る日々が続いている。
新たな日本の企業モデルはグローバル市場が舞台

鎌田富久氏
──ACCESSを率いておられる立場の鎌田さんには現在のITシーンがどう映っていますか。
鎌田:失われた10年とかいわれていますが、やはりその原因のひとつとしてITバブル、ネットバブルという現象が挙げられます。「簡単に儲かる」という幻想に、エンジニアたちも踊らされた。もちろん手っ取り早くネットビジネスで儲けることができた時期は確かにありました。それが終わった今は、本物でなければ生き残れない時代だといえるでしょう。

 そうした本物のテクノロジーが日本から消えたわけではないのです。日本のエンジニアのレベルは依然として高いし、バブル期においてもコツコツとテクノロジーにフォーカスした取り組みを行い、世界に打って出た企業は現在も第一線で活躍している。当社もその一社ではないでしょうか。

──世界市場に進出することは、企業の生き残りに不可欠なのでしょうか。
鎌田:ITに限らずビジネスのグローバリズムはこの10年で急速に進んでいます。ところが日本企業は国内に世界でも有数のマーケットサイズがあるので、外に出るのが遅れてしまう傾向があるようです。90年代前半までの、作ればモノが売れる時代はそれでよかったかもしれません。十分な国内消費があり、企業とそこに属するエンジニアは国内市場を見ていればビジネスが成り立ちました。でも、最低限必要なものが手に入った今は欲しいモノがない時代です。

 国内市場という限られたパイの中で競合するだけでは、収益など上げられない。しかも欧米からはグローバルスタンダードを掲げて最新プロダクトが入ってくるし、中国なども半歩遅れではありますが、低コストのプロダクトを出してきます。日本に残された道は、知力とアイデアで売れるモノを新たにつくり、いち早くグローバル市場に出ていくことしかないのです。それが新たな日本の企業モデルとも言い換えられるでしょう。ゲーム業界などはソフトもハードも、これができている企業を持つ数少ない分野ですね。
開発という仕事はエンジニアの夢、そして自己実現

鎌田富久氏
──では鎌田さんから見て、世界で通用するために必要なことは何だと思いますか。
鎌田:まずは企業経営者のみならず、国内のエンジニアがいよいよグローバルな視点を持たないと生き残れなくなってきたことを強く感じます。エンジニア個人のレベルで世界市場を相手にしていくには、海外のすごいエンジニアと闘わなければならない。そこでは、甘い考えは通用しません。仕事で努力できない人、やり遂げる気持ちの薄い人は落ちこぼれていくはずです。

 コーディングなどの工程は、いくらでもコストが安い外国にアウトソーシングできる体制が整ってきました。もはや日本にいるエンジニアはだれ一人として例外なく、プロダクトのコンセプト企画、仕様を決めていく技術、あるいは要素技術の追究といった工程に移行しなければ生き残れないでしょう。

──エンジニアにとっては厳しい時代ということですか。
鎌田:いや、そうではありません。エンジニアという仕事を選んだからには、モノづくりの面白さをわかっているはずです。エンジニアとして自ら企画や開発のプロセスにかかわったプロダクトが多くの人に使ってもらえたり、マスコミなどで取り上げられたりしたらうれしいものです。それがワールドワイドな領域に広がるのですから、少々の努力など苦にならないはず。開発の仕事は夢であり、やりがいであり、自己実現であり得るのです。私なんかは趣味の延長上だと思っていますよ。
企業側にも人材開発の工夫が求められる

──だれもがやりたいことを明確に持つべきなのでしょうか。
鎌田:みんなおぼろげながらに何かやりたいと思っているはずです。当社でも入社当初はそれほど明確なビジョンを持っていなかったけれど、チームに触発されて伸びた人が何人もいます。

 企業側もエンジニアの意欲や自発性を引き出す環境づくりがもっと必要なのでしょうね。手前味噌になりますが、当社はそうした社員の意欲をカタチにしていったケースが少なくありません。エンジニアの方から「ぜひ、やりたい」と言ってきた企画が成功した例がいくつもあります。


鎌田富久氏
 例えば世界的に売れている某ゲーム機で利用できる「NetFront」を開発したいとある若手エンジニアから提案され、ぜひやってみようということにしました。そしてその評価版の無償ダウンロードを弊社のホームページで開始し、掲示板を運営したところ反響がたくさんあって、そのうちに某ゲーム機メーカーからの正式な搭載オファーがあったのです。開発したエンジニアをくだんのゲーム機メーカーの技術トップとのミーティングに連れていきました。

 こういうことなんかも、「やりたいことができる環境」があるというだけではなく、ビジネスの場にも立ち会うことで、より大きなやりがいが得られ、次への意欲が高まる。そのほか、PocketPC版の「NetFront」の開発も、若手エンジニアの「やらせてほしい」という声が発端になっています。

──エンジニアのみんながみんな、そのように意欲を表に出せるのでしょうか。
鎌田:確かに日本のエンジニアには「俺が、俺が……」といったタイプは少ないですね。「この仕事をやってくれ」と言えばするけれど、「好きなことをやっていいよ」と言っても、困る人が多いのですから、企業側としては個人の意欲を引き出す工夫が必要です。上が「だれにやってもらおうか」という迷いをチラつかせて、「それなら自分がやります」というコミットメントを引き出す“仮の自発性”でも構わないと思います。最終的に自分の意思で仕事をやり遂げた達成感を持てるはずです。

 それが制度化されたのが公募制ですね。だれかをアサインしなければならないときに、同じ人を想定して“やらせる”よりも“手を挙げてもらう”ほうがよりよい結果を期待できます。面白いことに、多くの場合で「この人に手を挙げてもらいたいなあ」と思った人が手を挙げるものですよ。意外な人が手を挙げて、成功の可能性を精査したうえでやらせてみるのもよいでしょう。


──日本のエンジニアに、そんなにチャンスがあるのでしょうか。
鎌田:日本のエンジニアには、海外と比べてもまだまだ大きなメリットがあるはずです。まず日本国内にはハイテク家電を買ってくれる購買層があります。しかも比較的高いモノを買ってくれる。日本の消費者はいまだに最も進んだ感覚を持っていますから、技術や商売のネタも転がっています。エンジニアが起業する環境も、当社がスタートした20年前よりよっぽど整っていますし、やり方次第では、まだまだグローバル市場で挽回できる企業もたくさんありますよ。当社も企業としてゴールしたわけではありません。私の感覚では地区予選で勝ち残れた段階だと位置づけています。これからいよいよ世界の決勝リーグで戦おうというところなんです。

 当社に限らず多くの企業がグローバルで戦わなくてはならないのですから、チャンスなんてたくさんありますよ。前に言ったように日本のエンジニアは技術レベルもまだまだ高いことをさまざまな場面で実感しています。だからこそ皆さんの活躍に期待したいですね。

インタビューを終えて
「難しそうな話になるのかな」──。一見、学者のように見える鎌田氏。しかし、話し始めると難しいどころか、身近なスポーツの例を取り上げるなど、本当に楽しいインタビュー内容になりました。「穏やかな中に本物の強さ」を秘めた鎌田さんの人柄が、にじみ出るような語り口。そんなイメージが少しでも、この記事で伝わるといいのですが……。
またこのインタビュー後、しばらくしてまた海外に出張中されたとのこと。この記事の中の言葉どおり、活躍の舞台はグローバルな方でした。(総研スタッフ/関洋子)

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