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鉄腕アトムを作りたい人、この指とまれ!
世界に冠たるロボット先進国、日本。開発ブームに沸く現在、「自分の技術を活かして参加したい」というエンジニアが急増中だ。特に今回は「自律型ロボット」を中心に調査した。エンジニアならやっぱり、好きなモノを創りたい。
(取材・文/川畑英毅 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:03.04.02

THANKS! 2003年4月7日は「鉄腕アトム」の誕生日。故・手塚治虫氏が描いたアトムは多くの子供たちに夢を与え、成長した彼らが今、ロボット開発の最前線で活躍しています。彼らの合言葉は、「自分でアトムを作りたい!」でした。
Part1 || ロボットは日本の産業の花形になる
Part2 || 最先端のロボットはここから生まれる!
Part3 || 今後も世界をリードする日本のロボット開発技術
Part1 ロボットは日本の産業の花形になる

「僕らのロボット」の時代がやってきた

 ホンダのASIMO、ソニーのAIBOなど、僕らが昔から思い描いていたような「ロボット」が、次々に「本物」として登場してくる時代になった。

 世界有数のロボット先進国である日本。いわゆる産業用ロボットの分野でも国内生産高は約6600億円、世界でもトップの座にあるが、最近の注目は、やはりなんといってもASIMOなどに代表される「パーソナルロボット」や「業務用ロボット」など、非製造分野のロボットだ。

 富士キメラ総研の岩渕弘充主任研究員によれば、この2つの市場は2006年に現在の3倍になり、その後ますます拡大するという。逆に、設備投資減などで厳しい状況にある産業用ロボットは横ばい傾向。非製造分野のロボットが、市場成長の牽引役を果たすことは間違いない。
今後本格化する個人用と業務用のロボット市場

今後本格化する個人用と業務用のロボット市場

 そんなロボットの活躍が期待されるのは、介護や警備、工事、あるいは家事の支援から、ペットとしての役割までと幅広い。それだけに、研究開発は機械やコンピュータのメーカーだけでなく、家電、おもちゃ、医療、教育、住宅産業まで、多くの分野を巻き込んで進んでいる。それでは、ロボット開発の魅力とは何か。生かせる技術力や資質などはどんな点か? 先端企業への取材を通して、その実情を探ってみよう。

■分野別に見るロボット市場の短期的推移予測

分野別に見るロボット市場の短期的推移予測

出典:「2002 コミュニケーションロボットの将来展望」(株式会社富士キメラ総研調べ)
Part2 最先端のロボットはここから生まれる!

Part 2.1

なお進化を続けるASIMO - 株式会社本田技術研究所

認識機能を搭載した今度のASIMOはスゴイ!

 日本のヒューマノイド型ロボット開発の最先端を象徴する存在として、知らない人はいないホンダのASIMO。そのなめらかな動きに驚かされた人は多いはずだ。しかし、そのASIMOが、今また大変なことになっている!

 昨年12月、ホンダは新型ASIMOを発表。外見こそ今までと特に変わりはないが、これまでのASIMOが基本的にはプログラム通り、あるいは人の操作通りに動くものだったのが、新型は知能化技術を大幅に強化。自分で人の姿勢やしぐさ、声を読みとり、人の動きを追ったり、挨拶を返したり、あるいは人が指さした方向に移動したりと、自律的に行動できる機能を搭載したのである。

 「特に画像処理の機能を統合し、自分で判断する能力を付けました。従来のASIMOでは、『眼』のカメラ2つのうち1つはオペレーターの視野を確保するものでしたが、新型では2つの眼でステレオ式にASIMO自身がものの形や距離を把握し、周囲の状況を内部にマッピング。5mくらいの範囲で、動体を把握することができます」
 と、画像処理系の開発を担当した主任研究員の坂上義秋氏。
新型ASIMO
自ら人の動きを追い、行動することができる新型ASIMO。人の姿勢や顔、しぐさの意味を理解して自律的に行動する、世界初の知能化技術を搭載した。

ASIMO、2010年には家庭に入る?

 将来的にホンダが目指すのは、一家に一台使えるロボット。人の意志を理解し、人のよきパートナーとして行動できる存在だ。
 「しかし、まだまだ『できること』のレベルは高くない。また、ただそこにロボットがあっても、人はそれが『何ができるものなのか』はわからない。ロボット自身が自分をアピールし、人の注意を自分の側に引き込めるようにならないと」

 そんなロボットの開発に必要な資質について、坂上氏はこう語る。
 「ロボットは総合技術ですが、ソフトウェアは今後ますます重視される分野のひとつ。現在のロボット開発にパッケージはないので、C++などを使って自分で一からプログラムを作り、デバッグを続ける地道なトライ・アンド・エラーが重要です。単に応用でなく、きっちりと基礎ができているエンジニア。そんな人が理想的ですね」

 目標は、2010年には「プロトタイプでいいから、家庭に入れるロボットを」。ASIMOの進化はなおも続く。


坂上義秋氏 和光基礎技術研究センター 第5研究室主任研究員
坂上義秋氏

(略歴)
1957年東京都生まれ。大学数理科学部卒。ソフトウェア開発会社を経て、1986年に本田技術研究所入社。自動運転技術の開発研究に従事。99年より、ロボットの研究開発に移り、認識関連技術の開発を手掛ける。

Part 2.2

「楽しい」と「好奇心」でロボット開発 - 株式会社バンダイ

2010年、本当のドラえもんを創る

 アトムと並ぶ「身近なロボット」のスーパースターといえばドラえもんだが、2010年を目標に、そのドラえもんを本当に作ってしまおうという「リアルドリーム ドラえもん プロジェクト」を立ち上げているのが、株式会社バンダイ。おもちゃメーカーの雄であるとともに、90年代半ば以降、「友達としてのロボット」をテーマにロボット開発に取り組み、自律型昆虫ロボット「WonderBorg」や、ペットロボット「BN-1わがままカプリロ」など、さまざまなロボットを発売してきた先進的な会社でもある。

 「バンダイのロボット作りのテーマは、大きく分けて3つあります。1つは、BN-1に代表されるコミュニケーション型――つまり一緒にいて楽しい、面白いロボットを作ること。2つ目は、WonderBorgのような、『工学で遊ぶ』ことができるものを作る。3つ目に、ロボット作りで得られた技術をほかのおもちゃ作りに生かしていくこと」
 と語るのはバンダイロボット研究所所長・芳賀義典氏。
バンダイ「ロボ研」
バンダイ「ロボ研」が生み出した主なロボット。左から、自律型昆虫ロボット「WonderBorg」、小型昆虫ロボット「今虫採集/クワガリオン」、自律型ペットロボット「BN-1わがままカプリロ」

「あらゆることに好奇心」が不可欠

 「携わるスタッフ全員が、ロボット作りのすべてに興味を持ち、その過程や完成した姿を思い描けること。それがなければ、ロボットのような総合的な技術は培えないと思う。大切なことは、あらゆることに首を突っ込む好奇心。どこにロボットに使える技術が転がっているかわからない。もうひとつは粘り。今の時点ではロボットは生活上必要不可欠のものではないので、需要そのものから開拓していく必要がある。単に『ロボットを作る』のではなくて、ロボットビジネス自体を開発していくんだという気概と、それを進める粘り強さが重要になります」

 ドラえもんプロジェクトの目標である2010年も、その計画の大きさに比べれば、もう目前といっていい。ロボットが外界を認識するスマートセンシングの技術、あるいはエネルギー効率のいい駆動系の開発など、解決すべきテーマも数多い。「自分がやらなければ、できない」――そんな積極的なエンジニアこそが必要だという。


芳賀義典氏 バンダイロボット研究所所長
芳賀義典氏

(略歴)
1957年福島県生まれ。工学院大学電子工学科卒。「楽しい」自律型ロボット開発を目指し、あえて既存のロボットメーカーではなくバンダイに入社。1997年よりバンダイロボット研究所所長。
Part3 今後も世界をリードする日本のロボット開発技術

ダントツ1位の日本、2位はアメリカ、脅威は中国?

 「鉄腕アトムのようなロボットを作りたい」と研究者の道を選び、現在はRoboCupの日本委員会会長を兼務する松原教授。氏に日本のロボット開発の展望を聞いた。

 日本の科学技術は現在厳しい状況にありますが、産業用含め、ロボット分野では単独首位、最も悲観的な見方をしてさえアメリカと同率首位といったところ。ことヒューマノイド・タイプのロボットでは、やはりアトムなどの影響か、日本がダントツといっていい。この21世紀前半、ロボットは日本の大きな産業分野として育っていくと思います。

 欧米ではサイボーグ的な、人間を機械的に補助する研究や、部屋にインテリジェントな機能を組み込むロボットルームの研究は進んでいて、ある程度のすみ分けができている気がします。むしろ日本のライバルは宗教・思想的に近い中国やシンガポールあたり。「先行者」は日本ではギャグのネタにされてしまったけれど、ロボットに対する中国の力の入れようはスゴイ。日本を100として点数をつければ、アメリカは90、ヨーロッパは80,中国は50だけれど成長率は高く末恐ろしい、という感じでしょうか。
RoboCup
2002年福岡大会でPK戦をするロボットたち。RoboCupのロボット工学と人工知能の融合と発展のために発足。自律移動ロボットによるサッカー、レスキューなどの世界大会が開催されている。

20年後、ロボットは「家電」になる

 しかし、日本が首位にいるとはいえ、自律型・ヒューマノイド型ロボットの技術は、まだまだ創世期。普通の人はASIMOを見て「アトムができるのももうすぐ!」と思うかもしれないけれど、今はようやく、赤ちゃんが初めて自分の足で立ったくらいの段階であって、解決すべき技術的課題は、ありすぎるくらいにある。例えば今の大型のヒューマノイド型ロボットは、単独で動けるのはせいぜい数十分。本格的に使うには、バッテリーの問題が解決されなければいけない。運動性を高めるには素材も制御ももっと高度にならなければいけない。人と一緒に活動するには、視覚・聴覚・触覚など、感覚器も今より格段に多く備わっている必要もある。
 でも、それだけエンジニアにとっては、活躍できる場所がまだたくさんあるということだと思います。

 今後順調に技術が発展していけば、20年後には各家庭にロボットが入るような世の中になる。ロボットの動き自体は知らなくても、「何をさせるか」というアプリケーションを開発する需要ももっと増えるはずです。今後はますます、一部の限られた「ロボット技術者」ではなく、さまざまな分野のエンジニアがかかわるべき仕事も増えてくるでしょう。


松原仁氏 ロボカップ日本委員会会長
公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科教授
松原仁氏

(略歴)
1959年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。通産省工業技術院電子技術総合研究所勤務を経て、2000年より現職。著書に『鉄腕アトムは実現できるか』(河出書房新社)などがある。

■ロボット開発で今後重要となる技術分野と主な職種

ロボット開発で今後重要となる技術分野と主な職種

 ますます裾野が広がりつつある、日本のロボット開発。「え? ここの企業も?」という会社も開発に参入している。一方で、受付・警備用のロボットを開発した北九州の株式会社テムザック、小さなヒューマノイドロボット「PINO」を開発した株式会社ゼットエムピーなど、ロボット開発のベンチャー企業も登場している。

 松原教授いわく、「今後ロボットが家庭に入るようになると、そのアプリケーション作りが重要に。既存のソフトウェア業界の何割かは、通常の業務としてロボットに関わるような世の中になるかもしれない」ということだ。

 ますますロボットが身近になってくる時代。それだけ、さまざまなエンジニアが関わり、活躍できるフィールドがあるのだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
 今回は「自律型ロボット・総合版」とも言える記事を紹介しました。もしかしたら、物足りない? ページの制約から、取材話の細部までお伝えできなかったのは私も残念。でも、それ以上に、「あなたの技術分野」「あなたの職種」に突っ込んでほしいのではありませんか? ご要望があれば、「プログラマーが“ビンビン”くるロボットコンピューティング開発」や「メカトロ技術者がハマる今どき二足歩行ロボット」など、分野別、職種別のレポートも調査しちゃいます。あなたの希望、感想をメールで知らせてください。ロボットを創るって、やっぱり熱いですよ。

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