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技術力を武器にして部品メーカーから完成車メーカーへ
トヨタ自動車に応募 駆動系開発のベテラン技術者のケース
CVT(無段変速機)の特定クラッチを一貫して開発してきたエンジニア。そのCVTは国内外の完成車メーカーで採用されたほど技術レベルが高い。同じユニット領域で開発を担う技術面接官との「対話」を見てほしい。
(取材・文/須田忠博 撮影/早川俊昭 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:03.03.26
THANKS! 採用熱が衰えることを知らない自動車業界。ほぼすべての領域で募集は増加していますが、メカトロニクス系技術者からの注目度も高まっています。今回はそんな皆さんの声にこたえて、自動車のメカトロ心臓部を取り上げました。
応募したエンジニア 企業の面接担当者
西幸正明さん(当時34歳)
第4開発センター第2ドライブトレーン
技術部CVT技術室長
安江秀樹氏
現在の職種 CVTのクラッチ開発技術者
募集職種 駆動系の開発設計者
業務の内容 CVTの基幹部品となる○○型クラッチの開発。このCVTは国内外の完成車メーカーが採用。
仕事内容 駆動系
(CVT、AT、MT、デフ、ドライブシャフト、4WDユニット)の設計、実験、CAEなど。
職務経歴 富山大学工学部卒業後、自動車部品メーカーに入社。一貫してクラッチ開発に携わる。
応募資格 大卒以上。駆動系の設計・実験の経験か、油圧制御または各種制御システムの開発経験2年以上。
志望動機 事業再構築により中堅社員の負荷が増大。現状の不満と将来への不安感が募った。
募集背景 「2010年グローバルビジョン」でR&D体制の刷新を表明。挑戦し続ける人の採用が急務。
書類選考
各関連技術部署の室単位レベルで、室長クラスが書類を選考し、面接したい応募者を選ぶ。
1次面接
技術室(技術面)と企画総括室(人事面)の室長クラスの2人が面接。技術面接が中心。所要時間は30分〜1時間。今回は安江氏のみが登場。
2次面接
技術部長、技術管理部の採用担当者、人材開発室担当者の3人が面接。人事面接が中心。時間は30分強。筆記試験も実施。
内定
採用が内定した旨を連絡し、配属部署や勤務地、待遇などについて説明。入社日を相談する。
特定クラッチ開発に10年携わった実績
第4開発センター第2ドライブトレーン技術部CVT技術室長
安江秀樹氏(以下安江):
 私はトヨタ自動車CVT技術室長の安江です。本日は採用選考の第1次面接です。よろしくお願いします。
西幸正明さん(以下西幸):
 こちらこそ、よろしくお願いします。
安江:
 それでは、【Point1】最初に西幸さんの自己紹介をお願いできますか?
西幸:
 私は90年に富山大学工学部生産機械工学科を卒業しました。卒業研究は自動車用ハイポイドギアの歯当たりパターンをコンピュータでシミュレーションするというものでした。
 
 大学を卒業して入社した会社が、現在勤務する△△△(自動車部品メーカー)です。配属先は製品開発部で、私はCVTの開発担当になりました。
【Point2】ただし、弊社のCVTは御社で採用されている油圧式金属ベルトタイプではありません。CVTを構成する部品の中でも、私は○○型クラッチの開発を基本構想から担当し、以来10年間、これを専門としています。○○型クラッチシステムのCVTを搭載した乗用車は、現在までに国内外の完成車メーカーから販売されています。2000年には、このCVTの主開発者として自動車技術会から技術開発賞をいただきました。
 なお現在は、原価低減と品質向上のために新型の○○型クラッチを開発し、その量産準備に着手したところです。
Point 1
[面接官] 応募者が語る内容はおおよそ履歴書と職務経歴書でわかっていますから、この段階ではそれ以上の話が出てこないのが普通。それで構いません。要は、簡潔にまとめてうまく話せるかどうかです。
 
[応募者] 自己紹介を兼ねた職務経歴の説明はある程度準備していました。ですから、転職の面接は初体験でしたが、出だしでドギマギすることはありませんでした。
Point 2
[応募者] 執着はありましたが、方式が違う以上、CVTの開発にかかわれるとは考えていませんでした。これまでの経験や身につけた技術スキルが応用できる開発現場にと、広く考えての応募だったのです。
 
[面接官] △△△のCVTとトヨタ自動車のCVTとでは方式が違います。西幸さんが開発した○○型クラッチも当然、当社では使えません。つまり、専門技術キャリアをそのまま当社で役立てることは無理なのです。
転職の動機とトヨタ自動車を選んだ理由
安江:
 △△△で勤続11年半。短い年月ではありません。また、やりがいのある仕事もしています。それなのに、なぜ転職を考えたのですか?
西幸:
 ご存じのように、△△△は×××(完成車メーカー)傘下の部品メーカーです。
×××の事業再構築に合わせて、弊社でもリストラを余儀なくされました。その結果、残った中堅どころの社員への負荷が高まる一方で、私も「やらされ感」を抱くようになりました。
 こうした現状への不満と同時に、将来に対しては不安感が募っています。私が一生懸命に取り組んできたCVTの技術を会社がどこまで生かし、発展させていけるのか。また、会社自体にその意向があったとしても、親会社の考え方次第でCVTを他社へ譲らねばならない事態もあり得るのではないか。そのとき、自分はどうなるのか。こうした不満と不安から転職を考えています。
安江:
 なるほど。転職の動機はわかりました。それでは、トヨタ自動車を応募先に選んだのはなぜですか?
西幸:
 理由はいくつかあります。開発の士気が高い会社へ移りたいということがひとつ。また、御社ではハイブリッドカーや電気自動車の開発に注力されていますから、【Point3】私が長年手掛けてきた○○型カムクラッチの技術を、駆動系システム部品の開発に活用できるのではないかと考えています。さらに、些細なことかもしれませんが、私は現在名古屋市に住んでおり、そこから通えるというのも理由のひとつです。
安江:
 しかし、それならば、当社でなくてもほかの完成車メーカー、あるいは有力なCVTユニットメーカーもある。【Point4】なぜ、トヨタなんですか?
西幸:
 近畿地方で生まれ育ったせいかもしれませんが、子供のころから、車といえばトヨタ。身近に感じられる存在なのです。
Point 3
[面接官] 問題は、西幸さんが自分の技術力を、当社の駆動系開発のどこで生かすつもりなのかです。私としてはCVT開発の中で生かしてほしいわけですが、その点は後で確認することになります。
 
[応募者] 面接官がCVT技術室長でしたので、CVT開発に携わりたい意向を伝えました。私は○○型クラッチの開発で蓄積した技術力に自信があり、駆動系のメカ系開発のどこででも貢献できると自負していました。
Point 4
[応募者] この質問は答えに窮しました。実際の面接ではしどろもどろになったことを、今でも鮮明に覚えています。
 
[面接官] この質問には、判定に影響するような深い意味はありません。トヨタファン、トヨタ人になっていくベースがあるのかどうかを知りたいだけです。ほとんどの応募者が答えに困るようです。
企画から実験までの全工程を単独で担当
安江:
 △△△のCVTでは、□□氏が大変著名です。私は数年前に□□氏の講演を聴き、大変感銘を受けたひとりなのです。西幸さんは□□氏とどのような関係で仕事をしてきたのですか?
西幸:
 ひと言でいうのは難しいですね。かなり深い関係です(笑)。最初の出会いは私の在学中、□□が大学へ会社紹介に来たときでした。自作の開発ドキュメンタリービデオを上映し、熱っぽくCVTユニットについて語ったのです。その夜は一緒に酒を飲み、エンジニアのあるべき姿を聞きました。それで私は、いっぺんに□□のファンになってしまい、△△△への就職を決めたのです。
 CVT用○○型クラッチの開発担当になってからは、難しいメカニズムですので、直接□□から開発の指示やアドバイスを受けてきました。彼はすでに役員なのですが、私と話さない日はないというほどです。
安江:
 ○○型クラッチの開発には何人くらいのチームであたったのですか? メンバー構成を教えてください。
西幸:
 【Point5】設計は私ひとりです。
安江:
 全くのひとりですか?
西幸:
 はい。基本構想から検討、設計、試作、実験を重ね、基本形状や構造などを決定しました。
安江:
 【Point6】実験も西幸さんひとりで行ったのですか?
西幸:
 はい。○○型クラッチ専任の実験担当者はいませんでした。評価については、○○型クラッチが協力部品メーカーとの共同開発品になっていたので、単品での評価はその部品メーカーが中心となり、ユニットおよび実車搭載での評価も同社で行いました。私は、その部品メーカーが受け持つ、評価の方法について取りまとめをしました。
安江:
 ○○型クラッチに関連して、【Point7】特許は何件くらい出願しましたか?
西幸:
 国内外への特許と実用新案を合計して約20件です。
安江:
 西幸さんが○○型クラッチをひとりで苦労して作り上げたこと、およびCVTについての知識が豊富なことはわかりました。しかし、その技術ノウハウや知識が当社でそのまま使えるわけではありません。優れた技術力をお持ちでも、当社での採用には直結しない。そこのところはおわかりですね?
Point 5
[面接官] ○○型クラッチは△△△のCVTユニットの基幹部品、心臓部に近いもので、非常に難しい技術でできています。機構は複雑極まりなく、メカ系の技術者からするととんでもない発想。ですので、ひとりで開発したと聞き、大変驚いたのです。さらに掘り下げて質問をした結果、ものすごい技術力の持ち主だとわかりました。この人なら、自動車の駆動系メカ部分のどの分野でも任せられると判断したのです。
Point 6
[面接官] この質問をしたのは、当時、CVT開発で実験を担当できるエンジニアが、欲しくて欲しくてたまらなかったからです。ですので、この後、その確認のための質問をすることになります。
Point 7
[面接官] 必ず尋ねるわけではありませんが、特許の出願件数は、応募者の開発能力を測るバロメーターのひとつです。西幸さんの場合、○○型クラッチの開発に携わってから10年弱で20件の出願。1年平均2件なら多いほうです。
直接生かせない開発実績でどう貢献できるか
西幸:
 はい。十二分に理解しています。私は、これまでの開発実績をストレートに生かそうと考えて御社に応募したのではありません。それは意味のないことです。望んでいるのは、○○型クラッチの開発を通じて得た駆動系メカニズムの知識を応用し、困難の多かった開発の実体験をベースにして、新たなステージに挑戦することです。それができる自信もあります。
 また、転職の動機として先ほど申し上げたように、モチベーションやモラールの高い開発現場に身を置きたいと考えています。たとえ開発の対象やテーマが変わっても、その中でやりがいや面白みを自分で見つけ出せるはずです。
安江:
 なるほど。では、うかがいます。先ほどの話からすると、西幸さんは○○型クラッチの開発で設計が主だったようですが、実験もされている。ご自分ではどちらの業務のほうが好きですか?
 あえてどちらかを選ぶとしたら、設計ですか、実験ですか?
西幸:
 経験をより多く生かせるという意味では、設計を希望します。
安江:
 CVT開発部隊のわれわれとしては今、どちらかというと、設計よりも実験のエンジニアが欲しいという事情があります。【Point8】仮に当社へ入社いただけるとして、当面は実験の担当になるという可能性がゼロではありません。そういう条件があっても、トヨタ自動車への入社希望の意思は変わりませんか?
西幸:
 これまでの仕事で実験も行ってきましたし、何かの製品なり部品ユニットなりを完成させるには実験も大きなポジションですから、御社への入社希望を変えるつもりはありません。
(このあと安江氏は、CVT技術室のグループとチームの編成、この室が属する第2ドライブトレーン技術部の開発領域、第1ドライブトレーン技術部との違いについて説明。そして、次の質問へ続けた)
安江:
 西幸さんが△△△を退職した場合、○○型クラッチをひとりで担ってきたという事情から、△△△にはとても大きな痛手になると思われます。その影響は大丈夫ですか?
西幸:
 転職を希望する意向は、直属の上司にすでに伝えてあります。今年の12月いっぱいまでに、すべての引き継ぎを終えるという話もしました。
安江:
 その線で上司の了解がとれているのですね?
西幸:
 はい、そうです。ですから、もし採用していただけるのであれば、入社は来年1月まで待っていただけないでしょうか。これは、私のほうからのお願いです。
安江:
 わかりました。本日はありがとうございました。
Point 8
[面接官] この質問は重要でした。西幸さんの能力は申し分ありませんが、人材採用では必要性が優先する。実験を担当してくれるという返事がもらえれば、私は満点で合格にするつもりでした。
 
[応募者] 正直戸惑いましたが、設計部隊と一体になって開発するのだから面白みがあり、実験の仕方を工夫する楽しさもあると思い直したのです。実際、入社してみたら、そういう形での仕事でした。
面接官はここを見た!
●主たる開発領域での立場や役割から技術力を判定
●応募者が希望する仕事内容と採用ニーズとの合致度
●プレゼンテーション能力とマネジメント能力
職務経歴書で判断できない具体的な部分、特に最も深くかかわっていた部分を見極める。次に、立場や役割を知るために、開発チームの人員構成などを質問。貢献の内容、習得知識やノウハウを推定し、総合的な技術レベルを評価する。その一方で、希望する仕事内容と採用ニーズとの合致度を見る。技術面以外では、プレゼンテーション能力とマネジメント能力を重視する。人物面は転職動機や応募理由、家族や上司との関係などから判断する。
西幸さんはこの言葉に燃えた!
「優れた技術力をお持ちでも、
当社での採用には直結しない。
そこのところはおわかりですね?」
まずは「優れた技術力」と言ってもらえたことがうれしかった。面接全体にいえるのですが、私の技術レベルについては、すぐに想像がついていたようです。○○型クラッチについては頭に大体インプットされていた感じで、今さら技術的なことをわざわざ質問する必要はないといった様子でした。それだけしっかりと私の持つ技術を認めていただいている。面接の場とはいえ、そういうことを実感できることはやっぱりうれしいですね。
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