すらすらスラング★エンジニア的社内語講座・IT編

IT業界で使用される専門用語のみならず、職場独自で交わされる独自の社内用語やスラング。これらは使う側にとっては便利なものだが、使われる側にとっては混乱を招く元凶にもなりうる。今回はそんな社内語とトラブル事例をエンジニア500人のアンケートを基にご紹介する。

（取材・文／藤井康宏　総研スタッフ／宮みゆき＆タニー只野　イラスト／柏原昇店）作成日:06.03.22

　スラングによるトラブルは、主に新入社員や転職組、海外赴任組、そして社外の顧客や取引先、他業界と交わる場で発生しやすいもの。そんな困ったシーンを「ＣＡＳＥ１　社内ですら混乱する用語編」「ＣＡＳＥ２　社外で使うと争いを招く用語編」「ＣＡＳＥ３　便利だけど恥ずかしい用語編」の三つにまとめ、トラブル事例とともにお伝えする。



	なる早は「なるたけ早く」、カリチューは「カリカリチューニング＝かなり力を入れたチューニング」の略なのですが、新入りの実務担当者に言ったら、「で、何をすればいいんですか？」とポカンとした顔をされました。（テクニカルサポート　男性　34歳）



	ホワイトボードに「月曜日、市川ＧＭ、必参加」とあったので、市川市にある別の事業所でＧＭ（グループミーティング）があるのだな、と思い込んでいたら、「市川というＧＭ（ゼネラルマネジャー）が来るので必ず参加するように」という意味だった。当日朝の確認電話で知り、大目玉……。（システム開発　　男性　35歳）



	営業からのメールに「明日はＭＴＧなので、今日はＧＨＱ」と書かれていた。ＭＴＧはミーティング、ＧＨQはゴーホームクイックリー（早く家に帰る）の略だと後で知りましたが、そのときは戦後ＧＨＱ（駐留米軍）のヘルメットをかぶった彼の姿が頭に浮かんで、笑っちゃいました。（システム開発　女性　36歳）



	オンサイトは「客先での開発や稼働」、リソルブは「問題解決」、エスカは「エスカレーション＝上に情報をあげる」の意味。先輩社員に「客先で問題が解決しなかったら報告してくれ」の意味で言われたのだが、日本語で言ったほうが早いと思った。（テクニカルサポート　男性　30歳）



	前の会社では、仕様どおりに完成していないソフトを現場で直接、担当者と話しながら作り込むことを「現調＝現場調整」と言っていましたが、今の会社では、ハードウェアの設置状況を担当エンジニアに確認してもらうことを「現調＝現地調査」と言っています。最初、リーダーに「現調を頼め」と指示され、「そこまでは無理でしょう」とまじめに答えて怒られました。（テクニカルサポート　男性　28歳）

新人のころ、開発予定表に「竹中Ｓ」とあったので、「竹中工務店のシステム開発ですか？」と上司に質問して会議で大笑いされた。「Ｓ＝主任」の略語だった。僕の友人は、「Ｍ＝マネジャー」と思い込んで軽々しく「山田Ｍ」と連呼していたら、客先では「Ｍ＝社長・取締役」だったらしく、お客さんに嫌な顔をされたらしい。
（システム開発　男性　31歳）



	わが社では、システムの試験用環境を「ラボ環＝ラボラトリー環境」、システムリリース日を「Ｓ日」と言います。覚えたてのころ、取引先で「ラボ環で２週間流しますから、Ｓ日は来月20日になります」と言ったら、「ラボカンシステムの説明は別の席でしてください。われわれはシステム試験の日程について聞きに来たのですから」と怒られ、同じ説明を繰り返すハメになった。（テクニカルサポート　男性　30歳）



	初めてシステム開発を行う他業界のお客さんの所へ、スケジュール会議に出かけたとき、「オンスケ＝オンスケジュール（予定どおり）」「リスケ＝リスケジュール（予定の引き直し）」とふつうに使っていたら、「それって何かのソフトか装置の愛称ですか？」と若い担当者に質問された。一般用語と思っていたのに、自分が格好つけてるみたいで気恥ずかしかった。（システム開発　男性　32歳）



	ＣＲＭといえばカスタマーリレーションマネジメントの略。私の会社でカスタマーといえば消費者を指すことが多いので、ＣＲＭをマーケティング系システムのつもりで話していたが、金融系のお客さんは信用リスク管理のシステムと捉えていて、説明に四苦八苦した。また、金融系のお客さんで、リスケ（リスケジュール）を、銀行借り入れ軽減の意味で使っている会社もあった。（コンサルタント　男性　25歳）



	仮発注前の内諾をもらった状態で、強引に作業を開始することを「仮仮発注」と称しています。現在の職場に移って間もないころ、営業から「カリカリ発注です」と言われ、急ぎの発注なのだな、と勘違いして懸命に作業していました。あとで失注したときにはショックでした。（コンサルタント　男性　29歳）



	お客さんから電話で「プロジェクトがマルになりました」と言われ、本格的に決ったのだと思ってプロジェクトを続行しようとした。あとで上司から「マル＝中止」の意味だと聞かされて焦りました。サービス開始日のことを「マルＳ」と言ったりするので紛らわしいです。（システム開発　女性　31歳）



	機械制御系のソフト開発の仕事をしているのですが、初期段階で大まかに描いた設計図のことを「マンガ」と称しています。以前、得意先の営業さんから「とりあえず図面を描いてきました」と渡されたのを見て、「このマンガを参考にして図面をあげますね」と言ったら、「マンガとは失礼な！」と怒られたことがあります。（システム開発　男性　31歳）

デフォルトといえば基準値のこと。わが社では、飲み会の場所が変わったとき、「デフォルト近江屋でしたが、寺田屋に変わりました」と使うなど、日常的な用語になっています。しかし、先日、ビルの空調温度が高かったので、ビル管理室に「温度をデフォルトに戻して」と言ったら通じませんでした。これって業界用語なんですかね。
（システム開発　男性　34歳）



	以前、ICチップの不良解析の仕事をしていて、薬品を使って層をはぐときにはウェットエッチ、レーザーを使ってはぐときにはドライエッチすると言っていました。職場の人たちはもうまひしていて、「これエッチしてきて」と普通に使っていたのですが、私は抵抗があって、そのたびに微妙な気持ちになりました。（テクニカルサポート　女性　33歳）



	私の職場では、めちゃくちゃな入力操作を試すときの簡単な打鍵テストのことを「モンキーテスト」と呼んでいます。「モンキーテストやっといて」と言われたりすると、自分が実験台のサルになったような気分で何だか悲しくなります。ほかの職場では同じことを「いじめ試験」と呼ぶこともありますが、こちらも聞きようによっては怖いですよね。（システム開発　女性　31歳）



	非常に忙しくて納期に間に合わない仕事（火のついた仕事）に収拾をつける人を「火消し」と言います。そういう切れ者は、火事場から火事場を渡り歩き、「彼は火消しだからね」と尊敬のまなざしで見られています。ただ火事場つづきの会社はどうかと思いますが。（ネットワーク設計・構築　男性　31歳）



	うちの会社には、横文字をやたらと使いたがる人がいて、会議などで「その場合はエスカレーショントスよろしく（報告を頼む）」とか「マストドゥで（必須で）」などと怪しい英語を連発します。その人は陰で「ミスター（長嶋茂雄）」と呼ばれています。（ネットワーク設計・構築　男性　33歳）



	しんにやむをえない対応のことを「シンヤム対応」と言い、「お客様からのクレームでシンヤム対応しました」というふうに使います。最初、この言葉を耳にしたときは、何だかトムヤムクンみたいな感じの語感で、顔は真剣だけれど「真にやむをえない」という感じがしなかったのを覚えています。（ネットワーク設計・構築　男性　33歳）

印刷された書類などを用途別に仕分けることを「リストカット」と言います。私は「リストカットしといて！」という言葉を耳にするたびにドキリとしますが、職場の人はまひしてしまっているようです。あと、エラーの起きたジョブを消去することを「切りジョブ」と使いますが、こちらも何となくすさんだ感じの気持ちになる言葉ですね～。
（テクニカルサポート　男性　39歳）

■スラング社内語にエンジニアたちはどう対処しているのか

　Part1と同じ調査によれば、社内・社外の会議中に知らない用語を使われたとき、エンジニアの6割が「その場で聞く」と回答。未知の用語に対しては、すぐにその場で解決し、早急にコミュニケーションギャップを埋める努力をしていることがうかがえる。

　理由の多くは「その場で聞かないと、後で恥ずかしい思いをする。（社内情報システム　女性　31歳）」、「やはり疑問や勘違いが怖いので、そのつど聞く（システム開発（Web・オープン系　男性　39歳）」など、リスク回避への高い意識である。

　しかし、人間関係やその場の雰囲気から、なかなか切り出せないシーンも多いようで、「雰囲気に合わせしまう優柔不断派（11.5%）」、「あとで調べ直すまじめ派（9.7%）」、「分かったふりで聞き流す無とんちゃく派（7.5%）」、「笑ってごまかす陽気派（1.2%）」と続く。

　また、ソフト・ハード業界別で見ると、「その場で聞く」と回答した割合は、IT・ソフト業界（62.0%）、ハード業界（73.2%）とハード業界のほうがやや高い。理由を見ると「設計用語では他社も自社もいろんな単語があるので、聞くのはそんなに苦痛ではない。（半導体設計　男性　33歳）」、「わからない場合に知ったかぶりして事を進めると、へたをすると億円単位での欠損が出る業種ですので……。（品質管理、生産管理　男性　38歳）」など、ハード業界のほうがリスク回避以外にもより独特の意識をもっているようだ。

　だれもが初めは戸惑う社内用語・スラング。多少なら笑ってすませられることも、大きく意味を取り違えたとき大変なリスクも背負う。今回のアンケートでは、いざというとき困らないように、日々疑問を解消するエンジニアの努力が感じられた。

次回は、さらなる苦悩が待ち受ける！？
すらすらスラング★エンジニア的社内語講座・ハード編です！

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タニー只野(総研スタッフ)からのメッセージ

アンケートでは、「独自の用語を社外の人には使わないようにしている」というコメントが大半を占めました。社内外にまん延する独自用語のみならず、日々増え続けるIT用語も覚えていかなければならないエンジニアの皆さんの、業務に対する真摯な姿勢を垣間見ることができた気がします。つい楽なので使ってしまう「リスケ」「サク飯」「レイ変」なくの社内用語たち…、以後気をつけます（反省）。