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懐かしの“アレ”がエンジニアの原点だ!Vol.5  乗ることへの憧れと技術的発見!“国鉄型車両”の魅力とは?(前編)
1987年に分割民営化されてJRになるまで、110年以上もわたって日本の鉄道を支えてきた日本国有鉄道(国鉄)。その主役的存在の国鉄型車両と、エンジニアのかかわりについて今回は深く探ってみたい。
(取材・文/大類隆司 総研スタッフ/山田モーキン) 作成日:05.09.21
座談会テーマ:「エンジニアと国鉄型車両 両者の関係は?」
 今回の座談会には、少年時代から鉄道に興味を抱き続けてきた3人のエンジニアが参加。
87年にJRが誕生するまでの、およそ110年以上にわたって日本の鉄道を支えてきた「国鉄型車両」をテーマに、深く熱い討論が交わされた。
国鉄型車両
「国鉄型車両」とは?
日本国有鉄道、いわゆる国鉄があった時代に開発・運営された車両の総称。 昭和62年4月、国鉄はJR7社に分割民営化されたが、民営化後は多くの国鉄車両が老朽化を理由とし廃車。現在では姿を見られなくなった車両も数多く存在する。しかし、廃車となった国鉄型車両を、模型や写真などで形状を記録し、後世に伝えようとするファンも多い。国鉄は一貫して車両の標準化を推し進めてきたため、特に近郊型車両などは形状が全国でほぼ同一であるが、カラーリングや細かいディテールが車両を見分ける基準となる。
* 
注釈:本文中に登場する国鉄型車両の形式名や鉄道用語については注釈をつけているので、そちらを参照していただきたい。また、今回記事上で掲載されている鉄道写真は、すべて座談会参加者が撮影したものをお借りした。
国鉄型車両に熱い情熱を注いだエンジニア3人のプロフィール
田川さん 山内さん 佐谷さん
田川さん(仮名・37歳)
業務系ソフトウェアオペレータ
山内さん(仮名・32歳)
デジカメ設計
佐谷さん(仮名・40歳)
生産管理
 
まず、どんなきっかけで鉄道を好きになったか、お聞かせください
佐谷:
いちばん直接的な理由は、親が板金で車両を製作する、鉄道関連の仕事に就いていたことだと思います。子供のころから鉄道にかかわる機会が多かったから、鉄道に対して自然に興味や関心をもてました。あと、鉄道は自分で何もしなくても、勝手に進んでくれるところも好きでしたね。何もしなくていいから、窓の景色を見ながらいろいろなことを考えられる。そんなところも、好きになった理由のひとつです。
山内:
私も子供のころ、鉄道を近場で見られたことが、好きになるきっかけでした。出身が北海道で、5歳のころに線路の近くに引っ越してきました。室蘭本線(※1)の通っている苫小牧という所だったんですが、当時は図鑑もよく見ていましたけれど、目の前に本物がありましたので自然と興味を抱きました。眺めたり、家からコンパクトカメラを持ち出して踏み切りわきから撮ったりしていました。
田川:
はっきりと鉄道が好きになった瞬間は、6歳のころ、九州へ旅行に行ったときです。九州特急「はやぶさ」(※2)に乗ったのですが、ここで初めてナロネ21(※3)という寝台車の存在を知り、カルチャーショックを受けまして。とにかく、電車の中にベッドがあることが新鮮に感じられました。狭い車両の中に幅のある寝台がある構造、普通の車両と比べて高い天井、上段ベッドにあるだ円形の小窓から見る風景、何もかも魅力的でした。特に小窓から見る風景は何とも言えないよさがあります。この風景を体験できる車両は、583系(※4)かナロネ21のどちらかでしょうね。今のJR車両なんかだと、小窓がついている車両がほとんどないし……
 
国鉄時代の車両の中で、好きな車両とその魅力を教えてください
佐谷:
国鉄の車両に興味をもつきっかけは、117系(※5)の登場ですね。当時、国鉄の通勤用車両といえばすべてボックスシートだったのですが、117系はシートのすべてに転換式クロスシート(※6)を採用していました。しかも、国鉄時代は全国で同じような車両を投入することが一般的だったのに、関西地区限定で投入された特殊性にも惹かれましたね。
田川:
6歳のときに乗ったナロネ21はもちろん大好きですが、117系にも思い入れはあります。実は、12歳のときに関西旅行も兼ねて乗りに行ったんですよ。まず大垣夜行(※7)に乗って、そこからさらに京都・大阪へ行きました。117系と、京阪電鉄の3000系(※8)には、京都と大阪を移動する際に乗りました。117系も3000系も、乗り心地が素晴らしかった。ただ個人的に言えば、3000系の天井が高い点がお気に入りでした(笑)。117系は天井がフラットでちょっと低いんですよね。あとは阪急電鉄の6300系(※9)にも乗りました。この3両は全部転換式クロスシートを採用した車両だったけど、関東の通勤車両にはそういう車両がないんですよ。
佐谷:
インテリアに重点を置く考え方が、当時の国鉄にはあまりなかったですよね。
田川:
そんな中、117系には転換式クロスシートが採用されていた。さらには台車に空気バネ(※10)が採用されていたり、スピードのアップが図られていたりと、車両のつくりすべてが「お客さまのための設計」という感じを受けました。
佐谷:
内装の面で考えると、先ほど話題に上ったナロネ21もすごくいいですよね。冷暖房完備、寝台車完備など、今までの夜行列車とはけた違いの設備。集中電源方式(※11)もそうだし、個室寝台という考え方もすごかったですよね。
山内:
イスの座り心地や内装の居住性とは離れてしまいますが、私は気動車が出す独特の振動に惹かれてしまいますね。電車のようにスムーズな加速ではなく、車のマニュアル車のように変速の振動が気動車の醍醐味なんです。気動車の変速機が変速から直結に切り替わる瞬間の振動が、もうたまらないんですよ。変速機の切り替えタイミングは運転手によって違うのですが、伝わる振動の激しさとかで、運転手の腕のよし悪しがわかったりしますね。北海道には気動車が多く走っていましたから、その影響でより深い思い入れが生まれたのかもしれません。ちなみに、私が好きな車両はキハ183系100番台(※12)で、やっぱり気動車です。今でも走っていますが4両しかない貴重な車両なんです。
 
スラントノーズタイプのキハ183系0番台
スラントノーズタイプのキハ183系0番台
改造型の100番台
改造型の100番台
車両の内側から感じる魅力以外に、車両から降りて、外から感じる魅力についてもお聞かせください
山内:
外から見える部分となると、ディーゼルエンジンもさることながら気動車がはき出す煙の揺らめきが好きでしたね。ディーゼルエンジンから出る煙は、SLの出す煙とは異なる独特な動きをするんですよ。煙もそこから漂うにおいも好きでした。煙とかにおいとか、モーターで走る車両ではまず出ないじゃないですか。電車に比べれば性能も劣るし効率も悪い。でも、そういうところに気動車ならではの温かみ、人間味のようなものを感じられるので、好きでしたね。
佐谷:
私はもっと機械的な部分で、車両の台車に興味がありましたね。台車は露出している部分が多いじゃないですか。よく見えるから、そこから鉄道のメカ的な部分に興味をもち始めました。
田川:
台車は私も興味がありましたね。座席などの内装と違い、乗り心地に直接は関係しないけど、間接的には大きく関係するわけですし。例えば、乗り心地を考えるなら、やっぱりコイルバネより空気バネのほうがいいんですよ。
佐谷:
空気バネとコイルバネとでは、乗り心地が圧倒的に異なりますよね。コイルバネは、独特の激しい振動があるのに比べ、空気バネは、波に乗っているような緩やかな衝撃です。あと、音が静かですね。コイルバネは、コイルのきしむ音や、激しく揺れたときの車体と接触する音などが伝わり、どうしてもうるさい。空気バネは、空気をクッションとしているので接触している部分が少なくなり、揺れも抑えられるので静かです。
田川:
でも、国鉄の通勤用車両は、ほとんどコイルバネを採用していましたよね。空気バネを採用した通勤用車両は、ほとんど私鉄でした。ただ私鉄は、通勤時に込んでいるときと空いているときの重量差を克服するために空気バネを採用しましたが、国鉄の場合、バネを固くしてある程度沈み込んでもいいようにする設計(※13)だったらしいです。
佐谷:
私は、乗り心地という点を一切省いて、台車を外から眺めて楽しむこともあります。空気バネかコイルバネかという点にも着目するけど、例えば車輪の軸周辺、軸受けなどの違い、個性にも着目して眺めますね。
新幹線 0系(※14)ミンデンドイツ式台車(※15)とかは、特徴的で非常に面白い。最初は軸の両側にバネが出ていたものが、板バネを二分したり、台車を軽くするタイプが出たりと、台車の変遷も見てとれますし。
田川:
国鉄ではありませんが、営団地下鉄のミンデンドイツとか、美しく感じましたね。台車からすっと流れる、長い長方形をかたどったような形がよかった。車輪から大きく出て、かぶるような感じがいい。
佐谷:
台車ってやっぱり個性が出ますし、車両の好き嫌いに直結する要素だと思ます。
室蘭本線(※1)
長万部から東室蘭、苫小牧などを経由し岩見沢までを結ぶ総延長209.3kmの路線に、東室蘭から室蘭の7.0kmを加えた、北海道の主要路線の一つである。

「はやぶさ」(※2)
国鉄時代には、東京と鹿児島を結んでいた寝台特急。最初は一般車両で編成されていたが、1960年には国鉄20系客車を採用し、いわゆる「ブルートレイン」となった。その後、使用客車や機関車を幾度か変更しながらも、現在でも運行されている。

ナロネ21(20系)(※3)
青一色で統一された美しい外観をもち、「ブルートレイン」と呼ばれるきっかけとなった客車が、20系シリーズ。空調や空気バネ台車を全車両に装備した国鉄初の車両であり、その居住性の高さから「走るホテル」と賞されていた。ちなみにナロネ21は全車開放室のA寝台である。

583系(※4)
本格的な寝台電車だった581系を改良して作られた車両。昼も通常の特急として運用される昼夜兼行の寝台兼用電車である。寝台車として運用される際は、3段ベッドのB寝台となる。3段ベッドの中段と上段には、小窓が設置されている。

117系(※5)
私鉄に対抗するために投入した近郊型電車。この車両は、国鉄の方針である車両の標準化からは外れ、私鉄との激戦を勝ち抜くために独自の車両設計を施された。シートは全席に転換クロスシートを配置し居住性をアップ。台車には国鉄の通勤型車両初となる空気バネを採用した。

転換クロスシート(※6)
シートの向きが変更可能なクロスシートのうち、座布団部分を固定して、背もたれ部分を前後に動かして座席の向きを変更するタイプのシート。

大垣夜行(※7)

1968年、東京〜大阪間を結ぶ夜行が東海道本線最後の客車列車となっていたが、合理化のために廃止が検討されていた。しかし、各所からの存続要望が出たため、急行型車両を利用することで存続。その際、区間を大垣〜東京間に短縮したことにより、大垣夜行と呼ばれる夜行が登場した。
3000系(※8)
京阪電気鉄道の特急型車両。1971年に登場したこの車両は、テレビを設置した車両があることから「テレビカー」の愛称で親しまれた。また、クロスシートの向きを自動で転換する装置が搭載された、世界で最初の車両でもある。

6300(※9)
阪急電鉄の6300系電車のことである。1975年から生産が開始された6300系は、京阪の3000系に対抗すべく、転換クロスシートや空気バネ型の台車を採用している。

空気バネ(※10)

ゴム製の容器内に圧縮した空気を流し込み、空気の圧力をバネとして利用する仕組み。金属コイルを利用したバネより衝撃の吸収能力に優れているため、空気バネを採用した車両はコイルバネの車両より乗り心地がよい。

集中電源方式(※11)
電源車と呼ばれる車両から、列車内で使う電力を一括で供給する方式。車両ごとにディーゼル発電機を搭載する分散電源方式は、ディーゼルの動作音のため、静粛性がいまひとつであったが、集中電源方式は客車に発電機を積まなくてすむので、客車の静粛性が保たれる。

キハ183系100番台(※12)
国鉄が北海道向けに投入した、特急型の気動車がキハ183系であるが、その中でも100番台は、電源装置付きの中間車を先頭車両として改造したタイプである。ちなみに、あらかじめ先頭車両として生産された183系0番台などは、雪対策のため、スラントノーズと呼ばれる直線的かつ独特な外観をもつ。
バネを固くしてある程度沈み込んでもいいようにする設計(※13 )
空気バネであれば圧力の調整で車体の沈み込みを調整し、一定の車高を保つことができる。しかし、コイルバネの場合、運行の途中でバネの固さを変えることは不可能である。そこで、あらかじめ固めのコイルバネを採用し、車両内部がある程度の重さになって、車体が沈み込んでもきちんと復元するように設計したのだった。人が乗り込まず、車両内部が軽いときの乗り心地は……言うまでもないだろう。

0系(※14)
1964年10月1日の東海道新幹線開業とともに登場した、初代新幹線。最大時速210km/hで走行する、当時としては正に夢の超特急だった。また、青と白のツートンカラーや丸みを帯びた流線形の車体は人々から親しまれ、新幹線のイメージ確立に一役買った。

ミンデンドイツ式台車(※15 )
ドイツ国鉄のミンデン研究所が発明した軸箱支持装置を搭載する台車。軸バネのほかに水平を維持するために支持板バネを使う点が特徴。板バネを使うシステムの先駆けとなった。ちなみに、0系の台車は、従来のミンデンドイツ式が支持板バネをボルトで留めていたのに対し、支持板バネをゴムブッシュで固定し、左右からのストレスに強い構造とした改良タイプ。
この後、国鉄型車両に関する趣味の話で座談会はますますヒートアップ!
後編(10/5掲載)では、いよいよ国鉄型車両とエンジニアとの“深い”関係が明らかに
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ  
山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
今回からスタートした鉄道編。実は何を隠そう、私も20年来の「鉄道ファン(マニアではありません)」で、長年の念願がかない、晴れて企画が実現して感無量といった心境です。次回後編では、さらなる国鉄型車両、そして鉄道の魅力とエンジニアとの“深く濃い”きずなが明らかになりますので、ご期待ください。

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