相手のことを考え、言葉を超えてつながる力が大事
あなたの言うコミュニケーションには、2つあると思うんです。ひとつは対顧客とのビジネストーク。これは要件を箇条書きにしてみると大事なことは何かが整理されて明確になる。しかもその要点は、2つか3つしかないことがわかって、やりやすくなる。あとは慣れていくうちに場の空気が自然と読めるようになってきますよ。単に緊張して話せないのだったら、整理してから話す訓練をすればいいと思います。
もうひとつのコミュニケーションは、普段の行いが説得力を持ったり、相手とつながる力になるというもので、実はこれがどんな仕事でも大事なことだと思うんです。僕もあなたの年頃はそうだったけど、自分中心の価値観で、相手の求めていることを考えながら話をするというのは難しいんだよね。でも、それができるようになってくると、信頼や信用を得て、言葉を超えたコミュニケーションとなって、だんだん営業成績もあがってくるんです。
自分のテリトリーで感情や損得とかだけで生きていると、住む世界が狭くなっちゃう。だけど、周囲には先輩や上司もいて、それぞれが違う得意分野を持っているのだから、そういう回りの人たちの力に助けられつつ頑張ると、うまくいくようになる。それが組織だし、企業だしね。一人でやらなくていいと思えると、気持ちがラクになります。「ここで自分が契約取らないと、今月の成績が悪いし上司に怒られる」なんて悪い方に考えると、頭の中が真っ白になっちゃうでしょ。
助けてもらうことに対して素直になれれば大丈夫
そう言う僕だって、今だから偉そうに言えるけど、F1時代はひどかったですよ。チームで仕事してるなんて感覚はなかった。人の足を引っ張って、蹴落として一番になることが仕事みたいなものでね。若い頃、そうやって意固地になって遠回りしたと思うからこそ、僕を反面教師にしろって言いたい。僕もそうだったけど、あなたの年頃は、女の子にモテたいとか、お金がほしいとか、仕事がうまくいかないとかって悩んだりして、みんな同じ事を考えるんだよ。
例えば、僕の場合はレーサーとしてたくさんお金をもらって、モナコに住んで、好きな車や欲しい物をすべて手に入れても幸せじゃなかった。それより、ヒマラヤに登ってマイナス50度の中を3歩進める行為のほうが、ずっと充実感を得られたわけです。自分は達成感がほしかったんだと求めていたものの違いに気づいた。それはいろんな人に会っていく中で、心の中の引き出しが増えていって、物事を広い視野で見られるようになったから。若い時ではできないことだったんです。
だから、絶対に大丈夫。誰もがみんな通る道だから。ただ、その時にカッコつけないことだね。「わからないんです」と素直になればいいんです。助けてもらったことに対してお礼が言えたり、付き合いで酒を飲みに行っても、本当にこの人たちに助けてもらって売り上げが伸びてよかった、という気持ちを持てるようになればいい。みんな一人で闘っている訳じゃないからね。後方支援の仲間がいないと、仕事もできなければ、レースもできないし、山も登れない。みんな同じなんだよ。