「人」に「良い」ものが「食」です
「食」という字は「人」に「良」と書きます。つまり、人にとって良いものが食で、悪いものは食ではないんです。ジャンクな食生活を平気で続けているというあなたもそうですが、現代人はそういう意味で「食」をしているとはとても言えません。18世紀にフランスのブリア・サヴァランという人は、「あなたが食べているものを言えば、どんな職業かを当てましょう」と言ったんですが、それくらい、人というのは食習慣と密接に関係しているということが、古くからわかっていたんです。
だから、おたくの社長が言っていることは間違いではないんです。あなたも食生活を見直したほうがいい。今は営業成績も悪くないから食べ物は関係ないと思ってるようだけど、高脂肪、高たんぱくの食生活を続けていたら、あるとき突然、体に支障が出ますよ。男性は40歳から74歳までで約5割がメタボリックシンドロームになるからね。32歳でメタボだなんて、早すぎるんじゃないかな?食を管理することは人生を管理すること。それくらいの気持ちでいることです。
ただ、社長が社員に今さら言っても遅いという気もします。厳しく注意するばかりで、何をどう食べればいいかを指導しないんでしょう。そういうことは、子どものうちに親が言わなきゃダメなんですよ。私は「食育」というのを17年前から推進して政府に10年前に提案し、2005年には食育基本法が施行されるようになったんですが、私の持論では、食を通しての人間教育というのが最も大事で、それは家庭でやるものなんですね。
人の幸せは健康で長生きできること
人は365日に3食、1年で1095食を食べる。そのうち家族と一緒に食べるのは、せいぜい300食でしょう。私たちが子どものころは800食くらい一緒に食べていたけどね。それだけ減っているのに、食事のときにテレビをつけていたり、家族といても、それぞれが好き勝手に違うものを食べる「孤食」をしている。テレビを見ながらそんな状態じゃあ、食育どころか、食卓を囲んだ家族の会話だって、まともにできません。
近年、親の力がなくなってきている。アフリカのライオンは、子どものときに母親から狩りを教えてもらうと、できるようになるまで何回も何回も自分よりでかい体のシマウマなどを狙うんですが、母親ライオンはその様子をちゃんと見ていて、狩りが上手くなれば「もう大丈夫だな」と判断し、ひとりで生きていけるとなれば群れから追い出し、独り立ちをさせるんです。どの動物もそうやって自立させるのに、人間だけできないんですね。子どもが幾つになっても甘やかす。だからニートが増えてきた。「生き方、働くこと」を知らせなくてはならないんです。
今の日本人が一人前になる生き方を知らないで育っているから、あなたの会社の社長がやるように、自分で意識的に食事を管理することが必要なんです。結局、人間にとっての幸福は、「健康で長生きができる」ということですからね。社長に反発しないで、心を寄せて食生活をしっかりと改善してみる。それが、あなたの幸せな人生につながるんですよ。