プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「毎日必ず定時に帰る。しかし、時間あたりの生産性は最大にする。残業続きは、プロ失格です」小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス)
こむろ・よしえ●1999年、株式会社資生堂に入社。2001年、女性が働きやすい社会の実現のため、育児休業者の職場復帰支援サービスを立ち上げる。2004年、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2004・キャリアクリエイト部門受賞。2006年7月、株式会社ワーク・ライフバランスを設立。残業を削減し、売り上げは向上させる「働き方の見直しコンサルティング」が好評で900社以上の組織をコンサルティングした実績を持つ。また育児休業者職場復帰支援プログラムarmo(アルモ)を400社以上に導入。現在は2児の母。
2013年7月31日

ワークライフバランスを普及するために
出産わずか3週間後に起業。
彼女自身、残業ゼロ、
毎日8時間労働を厳守し、
仕事と子育てを両立する。
限られた時間内で高い成果を
挙げるコツを聞いた。

時間あたり生産性を最大にするのがプロの務め

日中8時間で最高のアウトプットを実現し、残業を一切せずさっと帰る。「時間あたり生産性を最大にする」働き方が、私のモットーです。育児に時間を割くためという個人的事情もありますが、第一に、プロとしての務めではないかと。日本人の人件費は中国人の8倍、インド人の9倍。だらだら残業する働き方は許されない。

働く時間を減らしたらアウトプットの質や量が落ちるんじゃないかと思われるかもしれません。でも私自身の経験からいうと、これが落ちないんです。

例えば、昔の私なら原稿のアイディアが浮かばないといって夜までうなっていた。でも18時までに絶対終わらせると覚悟を決めたら、うなっているヒマはない。日中に移動時間が30分あれば、その間に原稿の筋書きをぜんぶ考える。思いついたネタは忘れないうちにiPhoneにぜんぶ吹き込んでおく。あとは机に座って文字にするだけにしたら、18時までに書き上げられるんです。

ただ、こうも言えると思うんです。何のために時間あたり生産性を高め定時で帰るかといえば、自分の人生を能動的にコントロールするため。18時に仕事から上がれたら大好きな子どもと接する時間を増やせますし、仕事力を高めるためのインプットにもあてられます。自分の能力が高まるほど生産性が上がって、自分が好きに使える時間が増えていきます。つまり、もっと自由に生きられるようになる。人生を能動的にコントロールするというのは、そういうことなんです。

「残業しない」ことで失うものは一つもない

ワークライフバランスが大切だと気づいたのは、資生堂で働いていたころです。当時の私は、毎日残業続きで悲壮感たっぷり。そうしたら、あるとき上司に激怒されたんです。「こんなことやってるから、お前は空っぽになっちゃうんだよ」。翌朝からは顔を合わせるたびに「おはよう、今日は19時に帰れよ」。

それがもうすごく屈辱で。「私だって残業したくてしてるんじゃないのに!」と納得できませんでした。それで翌日から、定時を過ぎると外に仕事を持ち出すようになったんです。例えば、友人と一緒に夕食をとるまでの待ち時間にカフェで仕事して、食事が済んだらまた仕事。でも、そのうちに仕事をしない日も出てきて、ふと気づいたんです。残業をしないことで私が何か失ったかというと、何も失っていない。

むしろ、インプットのおかげで仕事の生産性は上がったぐらい。女性の復職支援プログラムを販売していたんですが、それまでは朝から営業電話を50本かけて1社もアポを取れないことがざらにありました。それが、前の晩に友人と食事をして「うちの会社の人事部が女性活用を考えてるよ」「あの会社の人事担当を教えてあげる」などと情報をもらってから電話をかけると、朝一番でアポがとれたりする。不思議でなりませんでした。インプットといっても私は友人と遊んでいただけ。その私の生産性が高いのはどうして?と。でも、これがワークライフバランスの効果なんです。

とはいえ、資生堂時代は時間あたり生産性を徹底するまでは至りませんでした。決定的に考え方を変えたのは、出産し、起業してからです。私は育児があるという事情で毎日18時に帰ります。でも創業当初、ほかの社員はみな残業していた。私はそれでもいいと思っていました。残業は彼らのやる気の表れ、邪魔をしてはいけないと。

でも、じきに考え方を改めました。きっかけは当時の右腕だった女性が妊娠したことです。私は自分一人だけ時間に制約のある働きをするのがすごく心苦しかった。それは日本人の多くに染みついている古い価値観です。私は彼女に同じような心苦しさを感じてもらいたくなかった。肩身の狭い思いをして彼女が会社を辞めるようなことがあっては大損失ですしね。そう思って、全社員に対して残業禁止を命じ、時間あたり生産性を評価する制度にしたんです。最初は「もっと残業したいのに」と反発する社員もいました。でも、残業を評価しない制度のなかで働いていれば、そうした価値観も変わってくる。創業以来8年、ずっと増収増益が続いているのは、社員全員に時間あたり生産性が根付いたことの証しだと思います。


未だ日本企業は「残業やむなし」の風潮が強いが、
小室さんは残業しない努力こそ徹底し、
誰もが定時に帰るべきと語る。
ビジネスパーソンはまず何をするべきか。

「問題は自分にある」能動的な人生はそこから始まる

時間あたり生産性を高めるために必要なのは、何よりインプットです。何か求められたときにすぐ出せるように、スキルや経験、知識、人脈等を日頃から吸収しないといけない。とはいえ、時間が限られていると自然とアンテナが立つようになります。オフタイムの何気ないママ友トークが事業のアイディアをくれることもある。そうやって自分の引き出しを満タンにして出社して、初めてこの働き方は成り立つんです。

若い人が成長するにはハードワークが欠かせないと主張する人もいますが、だから残業しろというのはおかしい。私なら「もちろん死ぬ気で働くべきですよ、ただし8時間以内で」といいたいです。そうしてインプットする時間を作るんです。

インプットは自分のウィークポイントを克服するためのものであれば最高ですね。それにはまずウィークポイントを探さないといけない。1つ方法があります。朝、その日1日の仕事をどんな時間割で進めるのか15分〜30分単位で詳細に予定を立てる。そして夜、朝立てた予定が実行できたかどうか振り返る。そのとき、朝には1時間と見込んでいた作業が3時間かかっていたとか、ズレが生じていたら、そのズレの要因を探ります。

最初は外部要因を挙げたくなるはずです。例えば「クライアントから突然のオーダーがあった」とか「上司が無理な指示をしてきた」とか。でも、5回ぐらい「なぜズレが生じたのか」深掘りして考えてみてください。すると、自分のなかにも要因があると気づくんです。もしかしたら事前にクライアントと交渉しておけば、突然のオーダーを防ぐことができたかもしれない。そうなると、ズレの要因は自分の交渉力のなさや、タイムマネジメント能力のなさかもしれないわけです。こんなふうに、ズレが生じた内部要因をひとつずつ潰していくようインプットを続けていけば、誰でも時間あたり生産性を高めることができる。

私の経験則だと、ズレの6割は内的要因から生じています。というと、最初は「自分が悪いのか…」とがっくりするかもしれませんが、そんな必要ないんです。だって内部要因は努力で変えられるんですよ。外的要因のせいにしているうちは「どうせ自分には変えられない」と思って気分がどんよりする。でも、6割が内部要因だとすれば、問題の6割は自分の力でコントロールできることになる。人生を能動的に生きるには、まず「自分のなかに課題がある」と捉えることが大切なんです。

仕事がつまらなければ、昼と夜の2本柱で働いてみる

「仕事がつまらない」という気持ちだってコントロールできるんですよ。私のところにも「実は転職したくて…」と相談しにくる若い人がたくさんいるんですが、彼らにはいつもこんな話をするんです。辞めようと思った仕事なんだから明日から定時で帰ってごらん。それで余った時間を使って、本当にやりたいことをボランティアでやってみるといい。実はこれだけで今の仕事が楽しくなることがあります。

つまり、柱を2本にする。柱が1本だと、嫌なことがあったとき気持ちがそこだけに集中してしまうんです。上司に言われた言葉が夜中頭の中をぐるぐる回ったりしませんか。でも柱が2本あると大して気になりません。ボランティアをしているうちに「昼間上司がいったことはこんな意味があったのか」と気づくこともあります。そうやって気持ちをリセットすると、次の日の朝「今日はこんなふうに仕事をしてみよう」と前向きな気持ちで仕事にいけるようになるんです。

私自身、育児と仕事の2本柱の効果をすごく感じています。いくら時間あたり生産性を最大にしても、18時に帰るときには「やり残し感」で一杯です。客観的には十分仕事をしているように見えるかもしれませんが、私自身が仕事をやり切ったと思える日は1日もありません。でもだからこそ、翌朝は仕事がしたくてたまらなくなる。子どもを保育園に送っていくときは、後ろ髪を引かれる思いです。でも、そのおかげで夕方迎えにいくときは早く子どもに会いたくてたまりません。週末ずっと一緒にいると育児疲れでうんざりすることもあるのに(笑)。

こういう、ちょっとした「飢餓感」みたいなものがあると、仕事を嫌いにならなくてすむんです。よく仕事があるから育児が中途半端だとか、育児があるから仕事に集中できないとか、どちらかを悪者みたいに言いますけど、そうじゃないんです。両方あるからこそ、両方うまくいく。ワークとライフ、どちらもあるから充実する。私たちはどんな状況でも、自分の人生を前向きに生きることができるんですよ。

information
『最大のチャンスと最高の評価を手に入れる!小室淑恵の人生プレゼン術』
小室淑恵著

入社3年目の若手社員が、著者の指導を受けながらプレゼンスキルを向上させていくという物語形式。TEDxTOKYOや国会やNHKなどでのプレゼンが話題となった著者のテクニックを実践的に学べるが、プレゼンスキルに留まらず、人生を切り開く術を同時に磨くことができる。キャリアに悩む若手ビジネスパーソンが読みたい一冊だ。
学研パブリシティ刊。

WRITING
東雄介
EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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