プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「フルマラソンの後に、100メートル全力疾走させられるか。この粘りが「宇宙兄弟」大ヒットを生んだ」佐渡島庸平さん(株式会社コルク代表取締役社長)
さどしま・ようへい●1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごした後、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社。モーニング編集部に配属になり『バガボンド』(井上雄彦著)、『さくらん』(安野モヨコ著)のサブ担当に。その後担当した『ドラゴン桜』(三田紀房著)は600万部のヒットとなる。『宇宙兄弟』(小山宙哉著)は、累計1300万部を超えるヒットに。『モダンタイムス』(伊坂幸太郎著)、『空白を満たしなさい』(平野啓一郎著)など小説も担当。12年10月、講談社を退職し、クリエイターエージェント会社、コルクを設立。
2013年7月17日

2012年に講談社から独立し、
クリエイターエージェント会社「コルク」を設立。
『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』など、数多くの大ヒット漫画を生み出した敏腕編集者だ。
小山宙哉氏や安野モヨコ氏といった
人気作家から絶大な信頼を受ける彼に、
ヒット作を生み出すコツを聞いた。

作家がどんなに苦しい立場にいても、「事情を汲まない」のがプロ

いい作品を作るうえで大切にしているのが、「事情を汲まない」ということです。編集者は、作家に寄り添って一緒に作品を作っていきますから、作家がどんな状況で作品を作っているか、ほぼ全部把握しているわけです。その事情をいかに考慮せずに、一人の読者として客観的に作品を見ることができるか。それがヒットするかしないかの境界線になります。

例えば、何か個人的な問題を抱えている漫画家がいたとします。そもそも漫画家は過酷なスケジュールで仕事をしていますから、精神的な悩みを抱えているなかで作品を仕上げることは、非常に苦しい作業になると思います。でも、そこで事情を汲まない。客観的に読んで「最高にいい」と思わなければ、何度でも書き直しをしてもらいます。「いいな」くらいではダメ。「最高にいい」と思うまで直してもらうんです。

マラソンで例えると、42.195キロを走りきって、ゴールでヘロヘロになっている人に「あと100メートル全力疾走しましょう」と言うようなものです。苦しい事情を知っているだけに言う方もつらいのですが、名前を出して仕事をしている以上、いい作品を常に世の中に送り出さなくては仕事がこなくなってしまいます。結局、事情を汲まずに客観的に言うことが作家のためになるんです。

自分から「新入社員なんで」と言う人は伸びない

「事情を差し引いて考えない」。これがプロとして働く上で非常に重要だと感じるようになったのは、学生時代のアルバイトがきっかけです。当時、レストランでキッチンスタッフとして働いていたのですが、忙しいときに味見をせず、料理を出してしまったことがあるんです。その料理を食べたお客さんから、「塩辛くて食べられない」とクレームがきてしまった。それを聞いた先輩に、「アルバイトが作っているので」とお客さんに言い訳できるのか、と言われて。確かにそうです。お客さんは作り手の事情は汲まないんです。どんな立場であろうと、相手が満足するものじゃないとお金はもらえない。それが仕事をするということだと知りました。

よく、「新入社員なので、ご不便をおかけするかもしれません」と言う人がいますよね。そういう人は伸びないなと思います。一流になる作家は、新人であっても覚悟があります。どんな状況でも「絶対いい作品にするぞ」という信念を持って仕事をしているんです。

成功する人の共通点って、「最後の粘りが強い」ことなんですよ。90点は努力すれば誰でも取れる。でも、さらに粘って粘って、100点まで持っていけるか。苦しみながらゴールを迎えて、さらに1歩か2歩、作品を磨くために歩けるか。

ヒットするかしないかは、ほんのちょっとの違いでしかないんです。この最後の粘りをするかどうかで、100万部になるか1万部になるかが決まってくる。

こう考えるようになったのは、過去に後悔した経験があるからです。例えば小山宙哉さんの『ハルジャン』や『ジジジイ-GGG』。僕自身も小山さんも良い作品だと思って世に出したのに、売れなかった。90点のまま出してしまったからです。最後のほんのちょっとの粘りが足りなかったんです。

モヤモヤを言語化すると、不安を解決できる

では、その「最後の粘り」というのは何か。それは「違和感を潰す」ということです。違和感というのは、例えば作品を読んだ時に、「こんなとき、こんなセリフは言わないんじゃないかな」と、心に生じたほんの些細なモヤモヤ感。それを見逃さずに徹底的に潰していく。これがヒット作を生み出すうえで、すごく重要なことなんです。

注意深く自分を観察していれば、誰でもそのモヤモヤに気づくと思うのですが、うまく取り出せない場合は、「言語化」してみるといい。そして、「なぜ自分はそう考えたのか」と、どんどん細分化していきます。

不安には2種類あるんです。根拠のない不安と根拠がある不安。僕は不安を感じたら、この2種類の不安のうち、どちらの不安なのかをまず考えます。

根拠がない不安は、妄想です。それは自分の心の弱さからきているわけですから、自分で頑張って鎮めていくしかない。でも、原因がないことがわかれば、逆に安心できたりもする。「ああ、これはただの妄想だ。理由なく不安を感じているだけなんだ」と認識することで、ある程度抑えることができます。

もう一つの根拠がある不安。これは、自分の心の中で原因を分析して1つ1つ潰していくしかない。そのために有効なのが、不安を「言語化」することなんですね。漠然としているモヤモヤ感を言語化することで、原因は明確になります。そしてそれを1つ1つ解決していけば、不安はなくなるんです。

漠然としたモヤモヤを見逃さず自分に問いかける。僕はずっとこれを繰り返してきました。作品を作るうえでもそうだし、会社経営でもそうです。例えば社員を雇うときに不安を感じていたら、何で不安なのかを考える。その人の才能に不安を感じているのか、固定費を払うことに不安を感じているのか。固定費なら財務状況を見直すし、才能ならその人の才能のどの部分に不安を感じているのかを考えていく。自分の中の不安をそのままにしない。これが仕事をする上で、すごく重要なんですよ。


独立を機に、メディアから注目される
存在となった佐渡島氏。
彼のようになりたいと憧れる人も多い。
若いビジネスパーソンは、
何から始めたらいいのだろうか。

誰もやりたがらない仕事を率先してやると、気づきが多い

若い人だったら、「必要なんだけど、誰もやりたがらない仕事」を率先してやることをお勧めします。

例えば、整理整とんされていない場所を片づけてみるとか、先輩の打ち合わせにお茶を出すとか、かかってきた電話を真っ先にとるとか、そんなことです。それを率先してやっていると、会社や仕事に対する気づきが増えてくる。たとえば、電話を取りまくっていると、誰がどんな仕事をしていて、どんな人とつながりがあるかが見えてきます。お茶くみだってそうです。先輩がどんな人と会って、どんな風に打ち合わせを進めているかが、自然とわかってくる。

雑用って誰もやりたがらないけど、実は気づきが多いんですよ。もちろんやらされ感からいやいややっていても、何も身に付きません。でも、何かを得ようとして前のめりになってやっていると、気づくことが本当に多いんです。

そのためには、やはり「好き」ということがすごく重要なファクターになると思います。仕事って一日の大半を占めることだから、苦しくては続かない。楽しいことだから量もこなせるわけだし、雑用も前のめりでできる。些細な違和感をすべて潰していくという最後の粘りも、好きだからやれるわけです。

ヘロヘロになっている作家に「もう少しだけ頑張ろうよ」と言えるのも、好きな相手だからなんですよね。僕は、好きじゃない作家とは仕事はしません。相手の才能へのリスペクトがあるから、相手の才能を信じているからこそ、無理が言えるんです。

もし、自分の仕事にこだわりを持てないと感じるなら、それは好きな仕事を好きな相手としていないからではないでしょうか。人って、自分のことをなまけものだと思っているけど、好きなことはすぐ行動に移すものなんです。なかなか行動に移せないのは、行動を阻害している要因が必ずあるはずです。自分自身を観察して心の中のモヤモヤを見つけることが、自分の力を最大限に活かす仕事を見つけることにつながっていくのだと思います。

自分の好きな人となかなか仕事ができないと言う人がいますが、仕事も恋愛と一緒だと考えればいいのではないでしょうか。初めてのデートで相手を誘おうと思ったら、相手のことをすごく考えますよね。好きなものは何だろうと。映画が好きな相手だったら、じゃあ、どんな映画が好きなのかなと。相手を観察して、喜ぶツボを見つけようとするわけです。

クライアントも同じで、自分の好きなことを相手がよく知っていてくれたら嬉しいし、安心できます。そういう人の頼みは、まず断りません。「じゃあ、何か一緒にやってみましょうか」と言ってもらえます。そうやって一緒に面白がれる仲間ができて、いい仕事につながっていくんですよ。

information
『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』
三田紀房著。

龍山高校で英語教師をしていた井野真々子。彼女は優秀な教師でありながらも、今の仕事でいいのかと疑問を持ち、転職を考えるようになる。そんなある日、ビジネスセミナーの会場で、「転職代理人・海老沢康生」と出会う。「人の価値は相場で決まる」といった転職のカリスマ・海老沢の話に感銘を受け、海老沢の会社である人材コンサルタント会社・ライフパートナーへの転職を決意する。仕事やキャリアに悩むビジネスパーソン必読の書だ。
講談社刊。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

自分の「こだわり」を活かせる企業に出会うために、
リクナビNEXTスカウトを活用しよう

リクナビNEXTスカウトのレジュメに、仕事へのこだわりやそのこだわりを貫いた仕事の実績を記載しておくことで、これまで意識して探さなかった思いがけない企業や転職エージェントからオファーが届くこともある。スカウトを活用することであなたの想いに共感してくれる企業に出会える可能性も高まるはずだ。まだ始めていないという人はぜひ登録しておこう。

スカウトに登録する

会員登録がまだの方

会員登録(無料)

会員登録がお済みの方

「今すぐ転職」にも「いつかは転職」にも即・お役立ち!リクナビNEXTの会員限定サービスに今すぐ登録しておこう!

1転職に役立つノウハウ、年収・給与相場、有望業界などの市場動向レポートがメールで届きます

2転職活動をスムーズにする会員限定の便利な機能

・新着求人をメールでお届け

・希望の検索条件を保存

・企業とのやりとりを一元管理など

3匿名レジュメを登録しておくとあなたのスキル・経験を評価した企業からスカウトオファーが届きます

会員登録し、限定サービスを利用する

※このページへのリンクは、原則として自由です。(営利・勧誘目的やフレームつきなどの場合はリンクをお断りすることがあります)