プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 自分自身が「絶対、面白い」と思えなかったら、大ヒットは生まれない 森下 一喜さん(ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社 代表取締役社長兼CEO)
もりした・かずき●1973年新潟県生まれ。ソフトウェア開発会社を経て、2002年にガンホーオンラインエンターテイメント(株)を創業。同時に「ラグナロクオンライン」を日本国内でプロデュース、現在、CEO兼企画開発部門統括 エグゼクティブプロデューサーとして、ゲーム開発の制作総指揮をとり、スマートフォンゲームを2011年「ケリ姫クエスト」、2012年「パズル&ドラゴンズ」と手がけ、家庭用ゲーム機ではプロデューサーとして、「ラグナロクオデッセイ」を手がける。現在は、ガンホーオンラインエンターテイメント株式会社代表取締役社長CEO と、企画開発部門統括エグゼクティブプロデューサーを兼務する一方で、(株)ゲームアーツ 代表取締役社長、(株)アクワイア 取締役、(株)グラヴィティ理事、(株)グラスホッパー・マニファクチュア取締役兼務。
2013年6月19日

2013年5月、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの時価総額は、任天堂を抜いた。
その立役者となったのは、1300万ダウンロードと驚異のヒットとなった「パズル&ドラゴンズ」だ。
そして、その生みの親が森下氏だ。
今では、オンラインゲーム業界をけん引する存在だが、意外にもキャリアのスタートは、芸人だった。

高校を卒業して選んだのは、お笑いの世界

高校を卒業して、お笑いの世界に入りました。漫才師になりたかったんです。もともと人を楽しませるのが大好きな性格だったので、大学に進学するより向いているかと思いまして。でも、相方が辞めてしまったこともあって、数年で断念。

そこからソフトウェア開発の会社に転職するのですが、理由は「スーツを着てみたかった」から。芸人をやっている間、引越の手伝い、バーテンダー、レンタルビデオの店員、工事現場の現場監督など、食べていくためにたくさんのアルバイトをしていました。自分なりに一生懸命その仕事に取り組んではいたのですが、一方で「この仕事が本当にやりたいことなのか」と疑問を感じるようにもなっていって。そんなとき、電車の中で、スーツ姿の会社員がいて、妙にかっこよく思えた。それで、たまたま見た転職情報誌で目に留まったソフトウェア会社に営業職として入社することにしたんです。仕事に興味があったというよりは、どこでもいいからスーツを着て働いてみたいという気持ちで選んだ転職先でした。

ゲーム会社に入れないなら、自分で会社を作ればいい

そんな軽い気持ちで入ったからか、入社してからは、上司から叱られてばかりでしたね。「仕事に対する考え方が甘い、ちゃらちゃらするな」と、ボロクソに言われました。社会で働くことの厳しさを叩き込んでくれた上司には今でも感謝しているのですが、辛い状況の中、「自分が本当にしたいことは、何なんだろう」とますます真剣に考えるようになった。

それで思い出したのが、芸人を目指していたときのことです。「ああ、そうだ、自分は人を楽しませるのが好きだったんだ」と。それでもう一度エンターテインメントの世界で勝負したいと、ゲーム業界に入ることにしたんです。

とは言っても、ゲームは人気業界。未経験の自分が簡単に入れるものではありません。だったら、自分で会社を作っちゃえと、一緒にソフトウェア会社で働いていた仲間2人と、オンラインゲームの開発会社を立ち上げました。26歳の時でした。

道がなかったら、自分で作ってしまえばいい。無謀かもしれませんが、私は思い立ったら、とりあえずやってみるたちなので、周りの意見なんか気になりませんでしたね。

ただ、この会社は2年後に解散しました。2000年ごろですから、まだISDNの時代です。回線速度が遅く、オンラインゲームをやる環境になかったんです。

でも、オンラインゲームへの夢をあきらめたわけではなくて、知人の会社を手伝いながら、もう一度会社を作ろうと設立準備を始めました。今度は絶対失敗しないぞと、心に誓いつつ。

それに際して、大手ゲーム会社に出資してもらう予定だったのですが、その設立前にたまたま知人の紹介で手伝った会社というのが、ソフトバンクの孫正義さんの弟の孫泰蔵さんが社長をしていたオンセールという会社です。当時、オンセールは大変な債務を抱えていました。私はそこでリストラクチャリングを任されました。精神的にも大変な仕事でしたけど、外からきた人間だからできたというのはあったのだと思います。

この仕事を終えた後、孫社長が私にねぎらいの声をかけてくれて、たまたま、自分が会社を設立しようとしている話を雑談したんです。そうしたら、ソフトバンクを紹介させてほしいと言われて、現在、ソフトバンクで専務をやっている宮内さんに会いました。そうしたら、ぜひ出資をしたいが、オンセールを引き継いでそれをやってくれないかと。債務超過のある会社から始めるのはちょっと…、と何度も断ったのですが、結局、断りきれずに引き継いで、今の会社を設立することになりました。その当時、ソフトバンクはYahoo!BBを中心にブロードバンドの普及をする事業を始めており、パートナーとしてはありかなという考えはありました。やろうとしていたのはオンラインゲームの制作でしたが、そもそも、インフラが整備されなくては何も始まりませんですしね。

本当はソフトバンクには設立する予定の新会社のほうに出資してもらって、ゼロの状態から会社を始めたかったんですが、一度立ち上げた会社をつぶしたくないと懇願されまして(笑)、私も一度会社を整理したことがあるから、痛いほど気持ちがわかってしまって。それで、債務超過の会社を引き継ぐ形でガンホーを始めました。決して順風満帆なスタートではなかったんですよ。


その後、森下氏は韓国で大流行していた
「ラグナロクオンライン」を日本国内でプロデュースし、大ヒットさせる。
そして「ケリ姫クエスト」「パズル&ドラゴンズ」と多くのヒット作を出し続けた。
どうしてそんなことが可能だったのか。

ピンときたら、その場で行動、が成功のカギ

2002年にガンホーを立ち上げると同時に、「ラグナロクオンライン」の日本版のプロデュースを手掛けたところ、オンラインゲームでは最大のヒット作と言われるほど大成功しました。よくこんないいコンテンツを見つけられましたね、と言われますが、実は、「ラグナロクオンライン」は、ガンホーを創業する前に、日本で展開できるよう開発元の韓国の会社と交渉を済ましていたものだったんです。

たまたま弟の家に泊まりに行ったら、韓国版の「ラグナロクオンライン」をやっていて、「これはすごいぞ」とピンときまして。それで次の日、開発元の韓国の会社に電話をしました。最初の会社を整理した後でしたから、所属する会社はありません。個人名で電話をかけたから、向こうはずいぶん驚いていたみたいです。「森下といいます」と言ったら、向こうは「モリシタ」という会社名だと思ったと(笑)。しかも、私は英語ができないので、辞書を使って事前に紙に言いたいことを書き出してそのまま棒読みするという、かなりむちゃくちゃな交渉でした。それでも、向こうは話を聞いてくれて、日本での販売権を得ることができたんです。

今でもそうなんですが、私は、自分がいいなと思ったら、即行動します。「思うのではなく、動く」。これが私の仕事の基本姿勢なんです。

自分で率先して動くことしか、現場に思いを伝えることはできない

「ラグナロクオンライン」の大ヒットで会社もどんどん大きくなって、上場も果たしました。しかし、いいことばかりではありません。

会社がどんどん肥大化するにつれて、組織を維持するために、自分は経営者に徹しなくてはならなくなった。会社を始めた目的は、「面白いゲームを作ること」だったのですが、いつしかそれもできなくなり、経営に追われていました。当時は「経営者として一人前にならなくてはならない」、そればかり考えるようになっていましたね。今思えば、経営者としての役割を演じているような感じでした。

いつしか社内の雰囲気も変わり、物事の進め方がいわゆる"お役所仕事"に変わっていました。開発に関する会議も合議制になり、どこかで見たようなローリスク・ローリターンのゲームばかり提案されるようになって。自分自身もそんなゲームは面白くないと思っているのに、みんながそれでいいならいいかなと、反対もせずにそのまま放置してしまっていた。そんな調子で数年たって、創業当時のゲームの作り手としての思想やこだわりが、全く現場に伝わらなくなってしまったんです。

どうしてこんな風になってしまったんだろう。みんなの姿を見て、ひどく悩みましてね。出した答えが、抜本的に制度を変え、自分が現場に復帰することでした。

「やってみせ、いって聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」という山本五十六の言葉じゃないですが、結局、自分で率先して動いて見本を示していくことしか、現場に思いを伝えることはできないんです。それ以来、自分が製作総指揮をとり、社内を抜本的に改革しました。これが、3年前のことです。

自分のこだわりを追求する。そこにヒットがある

ゲーム会社にとって一番大切なことは、「面白いゲームを作ること」。それが本質なんです。お笑い芸人が「笑わせてなんぼ」というのと同じです。お客さんが楽しいと思ってもらえてこそ、会社の存在意義がある。自分が製作総指揮に戻ってからは、すべての企画を最初から見るようにして、面白くないゲームはすべて作り直すよう指示していきました。

よく、面白いゲームはどうやったら作れるんですか、と聞かれますが、最初からダイヤモンドのように光り輝いているゲームの企画なんてありません。どんなゲームも企画段階ではたいしたことがない。でも、1つか2つ光っているところが必ずある。そこを見つけて、どんどんどんどん磨いていく。それで面白いものに変わっていくんです。

一方で忘れてはならないのは、「面白いからヒットするとは限らない」と言うこと。「パズドラ」がヒットするまで、「よくできているのに、惜しかったね」と言われるゲームもいくつかありました。賞をとったものもありましたからね。でも、大したヒットにはならない。悔しい思いを何度もしました。

そんなことを何度か繰り返して、「パズドラ」のヒットにつながるわけですが、つくづく思うのは、「ヒットは運だ」ということ。運というのはタイミングのことです。いくら面白いもの、いい物を作ったとしても、時代に求められていなくてはヒットはしない。だったら、時代を見極めて作れればいいのでしょうが、それはなかなか難しいことですよね。そもそも自分たちが予想できる未来なんて、たかが知れている。そんなところに大きなヒットはないんです。

じゃあ、どうしたらいいか。やっぱり自分が面白いと思うものを作り続けることしかない。ユーザーの意識は十人十色、面白いと思う感覚は人それぞれです。だからこそ、制作者だけでも、ものすごく面白いと思っていることがすごく大事なんです。好みは十人十色だといっても、自分がものすごく面白いと思っていれば、必ず共感してくれる人はいるはずです。だから、自分自身が「これ、ものすごく面白い」と言えるようになるまで、何度も何度も試行錯誤する。妥協は絶対にしない。「パズドラ」だって、何度やり直したか知れません。でも、最後まで妥協をしなかったことが、ヒットにつながったのだと思っています。

徹底したこだわりを持つこと。これが「パズドラ」の最大のヒットの要因です。自分のこだわりは、最後まで曲げずに追求し続ける、これが大事。例えば、私のこだわりの一つに「ストーリーを描けるか」ということがあります。ストーリーを描くというのは、ユーザーが実際にそのゲームで遊んでいる様を思い描けるか、という意味です。「パズドラ」は、ユーザーが電車の中で吊革につかまりながら、片手でゲームをしているというストーリーを考えていた。そのために、横だった画面を縦にしたり、スクロールする感覚を何度も調整したり、さまざまな工夫を凝らしました。全面的に作り直したことも4回ほどあったかな。思い描いたストーリーを実現させるために、みんなで試行錯誤を続けたんです。

試行錯誤って、すごく大事なんですよ。自分なりのこだわりを発見することも、試行錯誤から生まれます。光っている部分を見抜く力もそうです。そういう力を感性というのかもしれませんが、最初から感性が研ぎ澄まされている人は、なかなかいません。試行錯誤して、何度も何度も失敗を繰りかえすことで、感性は養われていくものだと思うんですよ。

information
『ケリ姫スイーツ』

ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社より「iOS」および「Android™」端末向けにサービス中のアクションパズルRPG『ケリ姫クエスト』と『ケリ姫スイーツ』が、シリーズ累計600万ダウンロードを突破した。『ケリ姫クエスト』は、プレイヤーが姫となり、お供の兵士を蹴り飛ばしてモンスターを攻撃するアクションパズルRPGだ。そのゲーム性はそのままに、育成ゲームの要素を加えたのが『ケリ姫スイーツ』だ。普段ゲームをしない人でも楽しめるシンプル操作性と、ゲーム好きな人でも楽しめる「やりこみ要素」がウリ。日本国内の「App Store」で「トップゲーム無料」ランキングで1位も獲得している。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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