プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

自分がいかに固定観念に縛られているか。そのことに気づいてほしい

白取春彦さん(作家)
しらとり・はるひこ●1954年、青森県生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。85年に帰国後、著述業に専念。哲学と宗教に関する解説書の明快さには定評がある。著書に『ビジネスマンのための「聖書」入門』『仏教「超」入門』『頭がよくなる思考術』『考えすぎない思考術 成功体質になる24の習慣』ほか多数。
2010年10月13日

「初めの一歩は自分への尊敬から」
「一日の終わりに反省しない」など、
心に残る鮮烈な言葉が散りばめられ、すでに
60万部を超えるベストセラーとなっているのが
『超訳 ニーチェの言葉』。
その編訳者が白取氏だ。
ベストセラーは、どのようにして生まれたのか。

打算や思惑がある。そんな言葉ばかりが溢れている

名言を残している人の本を作りたいのだが、誰かいい人はいないか。そんな相談を受けたのは、2年ほど前でした。それで頭に浮かんだのが、比喩や形容が、他の哲学者とは違っていたニーチェでした。これまでの日本語の翻訳を変えればもっと受け入れられるものになるのでは、という思いは、ずっと感じていたんですね。サルトルやハイデッガーではそうはいきません。解説が必要だからです。難解すぎて文章だけ抜き書きしても理解できない。哲学を知っている人には面白いかもしれませんが、一般の人にはわからないんです。

もうひとつ、今までのニーチェの翻訳には暗い、複雑、うんざり、という印象があった。でも、原文を読めば、そうじゃないところがたくさんある。ニーチェ自身、哲学は芸術だと言っていたりしますからね。そういうところをピックアップできれば、まったく違うニーチェを外に出すことができると思っていたんです。

では、どうしてこれまでそういうニーチェが出てこなかったのか。いろんな理由があるでしょうが、基本的に学者などの専門家というのは、固定概念に縛られますからね。また、学者と言う商売がら、わざと難しく訳すこともあるわけです。

いずれにしても、今までの翻訳ではニーチェの魅力は伝えきれていないと僕は思ったんです。ある程度は脚色しないと。それを、編集者が「超訳」という形にしてくれたというわけです。

面白いのは、『ニーチェの言葉』が出てから、二番煎じの本が続々と出たのに売れないことです。何が違うのかといえば、言葉の選び方が違うんです。

今の若い人は、結果とか目的とか最終目標とか、そういうことを全部、計算してから動き出しますね。でも、実はそれは一番まずい生き方なんです。そんなことはできっこないんだから。ところが、それをよしとしている大人も大勢いる。だから、「××しなければいけない」「将来の××のために」といったニュアンスの話ばかりが出てくる。つまり、言葉の裏側に打算や思惑があるんですよ。何でも手段化しなければ気が済まないような言葉ばかり巷にあふれてしまっている。

ただ、若い人というのは本能では、そういう言葉を求めていないんです。本当に人生に必要な言葉を求めている。僕はそれを、「真水の言葉」と呼んでいます。

アニメでもドラマでも、若い人はフィクションに溺れるでしょう。フィクションというのは、真水の言葉でなければストーリーが成立しない。若い人は、真水の言葉に飢えているのに、真水の言葉が現代社会に欠けている。だから、フィクションにはまるんです。彼らの感性が、フィクションに反応しているんです。計算とか、打算とか、裏に何も張り付いていない言葉。表面的で陳腐で使い古されていない言葉。そういう言葉こそが必要なんです。

『ニーチェの言葉』が売れたのは、僕が真水の言葉を使ったからです。では、どうして僕は真水の言葉を使うことができたのか。それは、僕が本気で遊んできたからです。固定観念を持たずに生きてきたからです。お金のために生きてこなかったし、いつでも自分にウソをつかず、真剣に生きてきたからなんです。


おかしい、と思うことには、
決して迎合しなかった。
ドイツ哲学に興味を持ち、
ゲーテを原文で読みたくてドイツ語を学んだ。
ドイツ留学後も、生き方は変わらなかった。

思えばいつも将来の見えないことばかりやっていた

小学校から先生というものが大嫌いでね。勉強せずに、授業で出てきた本を読みふけっていました。そうすると、ある部分で先生より詳しくなるわけです。扱いづらい子どもですよ。いずれは就職もするんだろうからと大学には進みましたが、中途半端な単位を取るためだけにドイツ語を学ぶのはつまらないと思って、語学学校にも通いました。そこで、本場を経験したくてドイツに行ったんですが、短期間で戻ると「何しにいったんだ」となる。だから、大学を受けたんだけど落ちてしまったという理由にして、日本に帰ろうと思っていたら、試験に受かってしまったんです。それで、博士課程まで進むことになって。

結局ドイツにはその後しばらくいましたが、真面目に勉強すればドイツ語が母国語のように、すべてわかってしまう瞬間が来るものでね。僕はドイツ語で小説も書いていました。担当教授が出版を持ちかけてくれたんですが、外国人作家とのアンソロジー(選集)だというので、断った。当時20代ですから。生意気だったんです。

アルバイトで映画のエキストラをやっていたんですが、そのうちセリフがつくようになって、出演者の一員として名前まで出始めてしまったこともある。でもあるとき、ドイツ政府から俳優年金を払ってくれという通知が来て辞めました。自分は何をしているんだ、それがやりたいことだったのか、と、はたと気がついて。

それで日本に戻って翻訳の仕事を始めたんですが、原稿料は高いものの絶対量がない。しかも面白くない。それで会社を作って、本を作る仕事を始めました。宗教や哲学を学んできましたから、書けることはたくさんあったんです。これは面白かった。だから続いたんですね。

思えばいつも将来の見えないことばかりやっていましたね。世間の常識からいえば、こんな危険なことはない。でも、何か危険を冒さないと、実は何も新しいことはできないんですよ。芸術家もそうですが、リスクを冒さずに何かした人がいますか。そういうことです。

パンツをはかずに、ズボンをはいてみればいい

不安定であることは、僕だって怖いですよ。これだけ本が売れても怖いし不安です。老いた親の介護にも莫大な費用がかかりますしね。でも、実際には何をやったって不安は消えないんです。安定を手に入れたと思っても、今度は違う不安に襲われる可能性がある。こんなつまらないことをすることが自分の人生だったのか、やりたくないことをやり続けていいのか、将来悔やむのではないか、とかね。

だから、やりたいことをやらないことは、実は最も危険なことだと僕は思っています。やりたいことはお金につながらないと考える人は多い。でも、それも固定観念なんです。実際やってみたら、やりたいこととお金はつながるんですよ。最初から打算や思惑で動くから、うまくいかないんです。

何かを選択するときには、難しいほうを選ぶ。なぜなら、そのほうが面白し、快感が大きいから。ラクして快感が味わえますか。簡単そうに見えて、しんどいほうが落ち込みますからね。

この世に天職があって、それを見つければいいなんてことも思っちゃいけない。自分の中にはいろんな種があるんです。それを自分でどうやって育てるかが問われているんです。要するに生き方の問題です。どのくらい欲望をコントロールできるか。自分にべったりせずに、距離感を持って客観的に見つめられるか。そういうことが問われるんです。

1日10分でも15分でもいい。無音の状態で自分の呼吸だけを意識する時間を作ってみてください。瞑想であり、座禅です。これをやると、自分を分離して、客観的に見やすくなる。そしてもうひとつ、自分がいかに固定観念に縛られているか。そのことに気づいてほしい。そのためには、いつもと違うことを意識的にやることです。例えば、違う道を通って駅まで歩くことでもいい。考え方が固定化してしまうことが最も危ないんです。

僕が一番お勧めするのは、パンツをはかずにズボンをはくことです。固定概念の存在を、頭ではなく、身体で感じる。肉体から感度を変えていく。そんなことでも、これからの人生は変わっていくんです。

information
『超訳 ニーチェの言葉』
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ著
白取春彦 編訳

19世紀後半に生きたドイツの哲学者、ニーチェが数多く残した著作のなかから、珠玉の言葉を抜き出し、わかりやすく「超訳」した名言集。232の言葉を、「己について」「生について」「心について」「愛について」など10のテーマに分類。「自分の『なぜ』を知れば道が見える」「友人を求める前に自分自身を愛する」「人を喜ばせると自分も喜べる」など、日常にすぐ使えるニーチェの言葉が満載だ。情熱的で明るく、希望に満ちた言葉に元気づけられ、勇気づけられたという人も多い。白取氏は、ニーチェについてさらに深掘りした本を執筆中だという。
ディスカヴァー・トゥエンティワン刊。

EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
上阪徹
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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