




初めての著書となった『もし高校野球の
女子マネージャーがドラッカーの
「マネジメント」を読んだら』が、
100万部を超える大ベストセラーに。
キャリアのスタートは、
秋元康氏に師事する放送作家だった。

舞台を見て違和感が。袖にいたいと思った
僕は子どものころから、「面白い」という概念そのものに興味を持っていたんです。ただ、育ったのがアカデミックな家庭だったので、与えられていたのは、芸術的なものばかりでした。
大衆的なものが欠落する中、高校2年のときに修学旅行先で『夕やけニャンニャン』を見るんです。これに衝撃を受けてしまって。自分に最も欠けていて、しかも関心のあるものがすべてここに詰まっているとすぐに思いました。でも、その後、コンサートを見に行っても、面白さを感じない。なぜか。客席にいたからです。僕は、舞台の袖にいたいとそのとき強く思ったんです。制作の世界に入るべきなんだ、と。
その後、雑誌のハガキ投稿のイベントで、『夕やけニャンニャン』の制作者だった秋元さんに会う機会があり、「秋元さんのもとで働かせてください」とお願いしました。でも、僕はまだ高校生。「せめて大学くらいは出てからいらっしゃい」と言われてしまって。それで絵が得意でしたから、東京芸術大学に進みました。
その後、大学で4年間過ごしてもまったく考えは変わらなかったので、改めて卒業後に秋元さんに申し入れをしたら、「そこまで言うなら」と放送作家として事務所に所属させてもらえたんです。
ただ、僕はマジメで勉強ばかりしていた子でした。想像はしていたものの、遊び慣れた空気や業界のノリにはなかなかついていけませんでした。先輩のパシリをごく自然にやることにも慣れていなかったし、はっきりいって苦手でした。でも、修業と割り切ろうと考えて。つらいとは思ったものの、これを乗り越えた先にしか自分の未来はないと思っていたんです。
当時は社員ではなく、得た仕事の数割を事務所におさめる形の個人事業主でしたから、金銭的にも厳しかったですね。先輩からおこぼれのような仕事を頂戴して食いつなぐ生活が2年に及びました。先輩と一緒にいるとメシだけはおごってもらえるので、夕方にはなるべく事務所にいるようにして。先輩の、「腹が減ったな」の言葉を待つんです。
2年間、一本の企画も通らなかった
そうするうちに、人気番組「とんねるずのみなさんのおかげです」に関わることができて。日本一のコントの制作現場を、少額ですがお金をいただいて見させてもらえたのは、得難い経験でした。でも、2年間で一本も企画は通りませんでした。出しても出してもダメ出しされて。人を笑わすことの大変さ、難しさを知りました。笑いとは何かを煩悶し、暗中模索。最もつらい時期でしたね。
そんななか、3年目になって深夜番組でたまたま任されたコーナーが好評を得て、次の番組にも声を掛けてもらえるようになって。その番組を契機に、3年くらいは順調に行くんです。
ところが、27歳くらいで「自我」が芽生えてくるんですね。自分がやりたいことを無性にやりたくなったんです。自分がやりたいこととは、「新しいもの」であり、「変わったもの」であり、「イノベーティブなもの」でした。でも、テレビというのは視聴率が絶対。景気の悪化も手伝って、保守的な番組が増えていた時期でした。いつしか僕は、そんなスタッフの姿勢が耐えられなくなり、周囲とケンカが絶えなくなりました。
当然、仕事は減っていきます。つらい時期がまた来たんです。そして29歳になって出した結論が、「生きるべきはテレビの世界ではない」ということ。このときに浮かんだのが、小説家になることでした。
必死に書いた小説はすべて落選
小説なら、テレビの企画のようにいろんな人からたくさんの判子をもらう必要はない。編集者と上司のOKさえあれば出せるんじゃないかと。それで小説を書き始めました。
会心作ができたのは2作目。ところが、懸賞に応募するもことごとく落ちるんです。2年間、必死に書いたものすべてが日の目を見なかった。それで職業小説家になることはあきらめました。
ただ、考えてみたら、僕が求めていたのは「小説で食うこと」ではなく、「小説を書くこと」だったんです。それなら、他の仕事をしながら時間を見つけて小説を書けばいいと、そう思ったんです。
それで、僕のことを気にかけてくれていた秋元さんの好意で事務所のアシスタントプロデューサーとして働かせてもらいました。でも、24時間臨戦態勢という職場ですから、超人的に忙しくて小説を書く時間がなかった。
それで、ツテを頼ってIT企業に転職するんです。ちょうとITの勉強をしたかったこともあって、ブログを書くことにしました。そのとき思い出したのが、昔出した映画の企画だったんです。



その企画こそが、「もしドラ」だった。
たちまち人気記事となったコンテンツに、
出版社からオファーが入る。その時点で
岩崎氏は「200万部売れる本になる」と
編集者に話していたのだという。

「AKB48の峯岸みなみ」だけが想定読者だった
女子高生が主人公の青春映画の企画、と言われて僕が提出したのは、ドラッカーを使って、女子高生が野球部を強くする話でした。
でも、映画の企画としてはボツになってしまって。この企画書がパソコンの奥深くに眠っていたんですね。これをブログで書いたところ、数万ものアクセスが来る人気記事になりました。その読者のひとりだったのが現在の担当編集者だったんです。
あれほど出したかった小説を、出版社の側から書いてほしいと言う。こんなことがあるのか、と運命を感じました。あふれる思いを我慢できず、僕は母に電話して「不退転の決意で書く。これまで小説を出せなかった恨み辛みをすべてここではらす」と話したのを覚えています。そして編集者にも「200万部売れるものを書きます」と。編集者は夢物語だと思っておられたようですが、僕は本気でした。
IT企業の仕事を終えた夜8時頃から毎日4時間くらいパソコンの前で粘り、4カ月かけて書きました。意識したのは、「世の中にないもの」を作ること。そして「感動する話であること」。テレビでお笑いブームが席巻する中、むしろ僕は感動できる話が欠落していると感じていました。世の中が暗いからと、明るい話、笑える話ばかりを広げようというのはあまりに短絡的。人々は感動できる話を求めているはずだ、と。
200万部を売る方法論として考えていたのは、「ターゲットを一人に定めること」でした。一人に向けて書くことで、メッセージは深いものになります。最大公約数的なものだと、誰でも理解できるようなものになる一方、刺激も少ないんです。エッジが立っていながら、多くの人に受け入れられる。そんな作品の成功例は少なからずありました。メッセージが深いからこそ、多くの人にも刺さるんです。「不思議な国のアリス」はまさにそうです。
「もしドラ」の場合は、スタッフとして一緒に仕事をしたAKB48の峯岸みなみでした。彼女を読者に想定し、どうすれば彼女に喜んで読んでもらえるかを考えた。そして、モデルを彼女にし、彼女が楽しめる話を書いたんです。
感度のいいセンサーが、汚れてしまっている
どうしてベストセラーにすることができたのか。これはどんな仕事でもそうですが、僕は最終的には、「私心を捨てられたかどうか」が左右すると思っています。僕自身、この本を売って、みんなからチヤホヤされたり、お金を稼ぎたいという思いはゼロだった。読者に喜んでもらうことだけを考えました。
実はこれは、まさに秋元康さんの方法論なんです。秋元さんは作詞をするとき、「ファンは何を喜ぶか」「アーチストは何を歌いたいか」だけしか考えません。自分の思いやメッセージを込めることはない。だから強いんです。そして、だからアイディアは枯れない。自分のアイディアで書いているわけではないからです。
人は生まれつき、正しいセンサーを持っていると僕は思っています。何がヒットするのか。何が人に受け入れられるのか。何が優れた企画か。それに反応できるセンサーを持っている。ところが、生きているうちにそのセンサーが汚れていくんです。社会から、人から、間違った情報を受けて。また、自分自身がセンサーを鈍らせる環境を作ってしまって。部屋を掃除したり、人間関係を少なくするだけでも、センサーは昔の感度を取り戻してくれます。ぜひ、やってみてください。
もっといえば、自分というものを捨ててしまうのがいいんです。個性なんて言葉は、僕は大嫌いです。自分を捨てれば、すべての仕事が自分に合った仕事になります。向いた仕事を考えるよりも、奉仕し、捧げる心を持つことです。それが、すべての基本であることに、気づけるようになります。なぜなら、人間は、自分を捨てることからしか何かを始めることはできないからです。


『マネジメント』を読んだら』
岩崎夏海 著
高校野球部の新人マネージャー「みなみ」と野球部の仲間たちが、ドラッカーを読んで甲子園を目指す感動の青春小説。「これはドラッカーを勉強する本ではなく、ドラッカーの読み方を知るのに最適な本です。とある方の書評で、『主人公のみなみほど、正しい本の読み方をしている人はいない』と評価いただきました。勉強の仕方が学べる本として、読んでみてほしいと思います」(岩崎氏)。部下とのかかわり方に悩んだ時、ビジネスの基本を知りたい時、読んでおきたい一冊だ。
ダイヤモンド社刊。
- EDIT
- 高嶋ちほ子
- WRITING
- 上阪徹
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己


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