




武道家の父のもと、
とにかく厳しく育てられた。
芸能事務所に入ったのも、
行儀見習いのためだったという

うまい下手ではなく、一生懸命やることが大切なんだ
僕に楽しい青春時代なんてなかったんですよ。何しろ親父(もとキックボクシング東洋ミドル級チャンピオンで武道家の風間健氏)が厳しい人でしたから。
高校の進路指導ってありますよね。普通の仕事がしたかった僕は、「デパートの店員になろうと思います」と言ったんです。そしたら帰宅するなり親父が、「まあ、ちょっとここに座れ」と。「お前みたいに普通のこともできない人間が、普通の仕事なんてできるわけがないだろう。もう一度、やりたいことを考えてみろ」って言い出して。一応考えてみたけど、何も出てこない。そしたら親父が、「知り合いが芸能事務所をやっていて、礼儀に厳しいからそこで修行してこい」と。あとは「自衛隊に入れ」っていう選択肢もありましたけど。
もともと僕は、人前に出るのが好きなわけでもない。芸能界って、チャラチャラしたイメージがあったから、最初は嫌だったんです。だけど、いちばん初めに出演させてもらった映画(『バタアシ金魚』)の松岡(錠司)監督がものすごく厳しい人で。想像していた世界とは全然違っていたんです。
何より驚いたのは、松岡監督の作品にかける情熱です。現場には、いつも監督のどなり声が響いていた。最初の仕事で教わったのは、「うまい下手ではない。大切なのは、とにかく一生懸命やることなんだ」ということ。それは、今でも僕のベースとなって残っています。
今から考えても、最初に厳しい監督と出会えたことは本当によかったと思っています。なんせ、小さいころから父親に「何事も命をかけてやれ」と言われて育ったもので、そういう現場は僕に合っていた。だから最初からずっと、命をかけるくらいの意気込みだったし、それは現在に至るまでずっと変わっていません。
拍子ぬけすることもありましたよ。こっちは生きるか死ぬかみたいな覚悟で臨んでるでしょ。でも、みんながみんな、そういう人ばかりではないから。「あれ? 意外とみんな、ラクにやってんだなあ」って、思ったりして(笑)。育ってきた環境と世間とのギャップに、何年間も苦しみましたよ。
転機となったのは、24歳のときに出演した三谷幸喜さん脚本のドラマ『王様のレストラン』です。僕はそれまで、人生を楽しむってことをせずに生きてきた。でも、西村雅彦さんをはじめとする共演者の方々は、みんな楽しんで仕事をしているんですよ。これには驚きましたね。ちょうど、自分を追い込んで仕事をすることに限界を感じていた時期でもあったんです。そんなときに、この作品に出合って、「人を笑わせる」という戦い方もあるんだと知った。そこから僕は変わりました。追い込んで仕事をする自分に、人を楽しませながら仕事をする自分がミックスされたというんでしょうか。この作品で、やっと自分の中に落とし所を見つけることができたんです。



デビュー18年目を迎える筒井さん。
この秋には『十二人の怒れる男』という
名作舞台に出演。中井貴一氏をはじめ、
全員がベテラン俳優というなかで、
どのように役作りをしていくのか。

どんな仕事を選んでも、自分の力で正解にすればいい
僕には、好きな瞬間があるんです。それは、役者同志でセリフを言い合って決まったとき。どうやってセリフを言うか、僕自身も必死で考えていくんですけど、相手も同じようにものすごく考えてきていると、とても楽しいんですよ。「そうきたか、こっちも負けないぞ」と(笑)。セリフの言い合いが、ある種の戦いみたいになって、高いレベルで芝居が成立する。そういうときは役者をやっていてよかった、とつくづく思いますね。
準備ってすごく大切なんですよ。僕は緊張するほうなんですけど、やれるだけやって臨めば、「これだけやったんだから、楽しもう」と思える。そのレベルまで行きついてないと、絶対いい演技なんてできない。そういう不安って、お客さんにも伝わっちゃいますから。そんなの、お金出して劇場に足を運んでくださる方に失礼でしょう。
どんな仕事でもそうだと思うけど、「料金以上に価値があった」と、お金を出してくれる人に思ってもらわないとダメですよね。アルバイトだからとか、そんなの関係ないですよ。お金をもらっている以上は皆同じです。
僕は最初から「この仕事が終わったら、死んでもいい」っていうくらいの気持ちでやってきた。それくらいの覚悟で臨めば、どんな仕事でもやっていけるんじゃないかと思うんです。はじめからうまくできる人なんて、どこにもいないんですから。
どんな仕事でも、何年か続けていくうちに、好きになっていくっていうこと、あると思う。僕も俳優の仕事をすごくしたかったわけじゃないけど、やってみたらよさがわかって、徐々に面白くなっていった。向いていたとは思わないけど、何年か経ったら経験が助けてくれるようにもなった。
だから、どの仕事を選べば正解っていうのはないんじゃないかと。大切なのは、どんな仕事を選んでも自分の力で正解にしていくことなんじゃないかと思いますよ。


一人の少年が父親殺しの罪に問われ、裁判にかけられる。有罪か無罪かの判決を下すのは、無作為に選ばれた十二人の陪審員たち。法廷に提出された証拠は圧倒的に少年に不利なものが多く、ほとんどの陪審員が少年の有罪を確信する。そんななか、異論を唱えた陪審員がいた。「もしわれわれが間違っていたら…」。その発言をきっかけに、陪審員たちの激論が始まる…。映画史上に残る名作を蜷川幸雄演出で舞台化。ベテラン俳優陣12人の白熱した演技に注目したい。
出演:中井貴一、筒井道隆、辻 萬長、田中要次、斎藤洋介、石井愃一、大石継太、柳 憂怜、岡田 正、新川將人、大門伍朗、品川 徹、西岡徳馬
作:レジナルド・ローズ、演出:蜷川幸雄、主催・企画・製作:Bunkamura
公演日程:2009年11月17日(火)〜12月6日(日)
Bunkamuraシアターコクーン
- EDIT/WRITING
- 高嶋千帆子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己


自分の「こだわり」を活かせる企業に出会うために、
リクナビNEXTスカウトを活用しよう
リクナビNEXTスカウトのレジュメに、仕事へのこだわりやそのこだわりを貫いた仕事の実績を記載しておくことで、これまで意識して探さなかった思いがけない企業や転職エージェントからオファーが届くこともある。スカウトを活用することであなたの想いに共感してくれる企業に出会える可能性も高まるはずだ。まだ始めていないという人はぜひ登録しておこう。