プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

笑われることなんか気にしない。縛られて生きてても、面白くないでしょ

中江裕司さん(映画監督)
なかえ・ゆうじ●1960年、京都府生まれ。琉球大学進学をきっかけに沖縄に移住。在学中から映画の自主制作を始め、92年、オムニバス映画『パイナップル・ツアーズ』の第2話「春子とヒデヨシ」で日本映画監督協会新人賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受ける。99年公開の『ナビィの恋』は、沖縄県内でタイタニックを超える観客動員数を記録した。代表作はほかに『ホテルハイビスカス』『白百合クラブ東京へ行く』『恋しくて』など。那覇市内の閉館になった映画館を『桜坂劇場』として復活させ、映画上映のみならず、ワークショップやライブ、市民講座も企画。沖縄文化の発信地として話題になっている。
2009年7月8日

沖縄に移住して30年。
『ナビィの恋』『ホテルハイビスカス』など、
沖縄を舞台に映画を撮り続け、
海外からも高い評価を得ている。

彼女を忘れるために、映画三昧の日々を過ごす

沖縄に住んだのは、大学進学がきっかけです。それまでは一度も訪れたことがないですね。どうして沖縄を選んだのかというと、兄が北海道の大学に行ったものだから、沖縄くらい行かないとウケないんじゃないかという、そんなくだらない理由なんですよ。

映画を撮り始めたのは…。実は彼女にふられたのがきっかけなんです。沖縄の大学に進学した後、地元に残してきた彼女に好きな人ができたと言われてしまって。もう、ショックで本を読んでも全然頭に入らないし、何をやってもダメ。本当にダメダメの日々を過ごしていたんです。

でも唯一、映画館にいるときだけは、彼女を忘れることができた。それからは来る日も来る日も映画ばっかり観ていましたね。

そのうちに、自分でも撮りたくなって自主制作を始めました。最初は、自分を題材にして撮っていたんだけど、ある日、僕の作品を見た友人から「かんだ鼻水を人に見せて嬉しいか」って、言われてね。いやあ、もっともです。それで自分のことではなく、周りにいる沖縄の人たちを題材にするようになりました。自分のことは直接題材にしなくとも、本質として映画の中に残りますからね。それくらいでちょうどいいんです。

ダメな時期は、いろんなことを仕込む時期

僕はね、目標を立てたことがないんですよ。これまで映画監督になりたいと思ったこともないし、沖縄に永住しようと思って行動してきたわけでもない。目標なんて持つもんじゃないですよ。今やっていることを精一杯続けて、その結果が目標になっていけばいいんです。

これは、どんな仕事でもそうだと思いますよ。映画監督だったら、映画監督でいられることを考えるんじゃなくて、今撮っている映画をどうするかを真剣に考える。花屋さんだったら、仕入れてきた花をどうしたらお客さんが喜んでくれるか。それだけに集中する。それが大切なんですよ。

僕は、自分の仕事をサービス業だと思っているんです。面白いことをみんなに提供するためには、自分自身も面白くなくてはならない。いろんなことを知ってなきゃならないし、反応力もいる。そういうものを培うのに役に立ったのが「ダメな時期」なんです。

人生には、ダメな時期が必ずあるでしょ。そういうときに悶々としてないで、どれだけいろんなものを仕込めるか。たくさん本を読むとか、映画を観るとか。興味のあるもの、好きなものをとことん追っかけてみる。ダメな時期はチャンスなんです。「地下潜伏期」だと思って、どんどん仕込めばいい。


中江監督の最新作が『真夏の夜の夢』。
妖精が登場するシェイクスピアの名作を
モチーフにして、沖縄の離島で制作された。
なぜ今、妖精なのか。

暗い顔してたら、みんなが心配するよ

都会では、みんな物欲にとらわれてしまっているでしょ。目に見えるものだけを大切にして、合理性を追い求めたりしてね。でも、人間は目に見えないものとも共存しているんですよ。わかりやすく言うと、空気だって目に見えないけど存在しているし、すごく大切でしょ。同じように、ご先祖様とか人の気持ちとかね。目に見えなくとも大切なものはたくさんある。妖精もそのひとつなんですよ。

沖縄では、妖精のことをキジムンと言うんだけど、昔からみんなのことを守ってくれているのね。住んでいる人たちもみんなそのことを知っていて、キジムンを大切にしてきた。映画の中に出てくるキジムンは「弥勒世果報」を願うんだけど、これは「幸せは、一人でなるものじゃなくて、あらゆるものたちと一緒にならないといけない」という意味なんです。確かにその通りですよね。一人で幸せになれるなんてこと、あり得ないんですよ。採れたものを独り占めしたって、幸せにはなれませんよね。みんなで分け合うから幸せなんです。豊かさっていうのは、そういうところにあるんですから。

僕が映画を撮っているのもそのためなんです。映画を見て、みんなが機嫌よくなってくれたらいいなと。僕の映画、くだらないでしょ。頭にタコをのせて出てきたりね。それを見て笑ってくれたらいいの。喜んでくれたらいいの。機嫌悪いのはうつるからね。都会の人は、しかめっつらして道を歩いてるでしょ。沖縄でそんな顔して歩いてたら、近所のおばあが寄ってきて言いますよ。「暗い顔してたら、みんなが心配するよ」って。

僕は都会にも「弥勒世果報」といった考え方は残っていると思っています。キジムンもいる。みんな忘れてしまってるだけなんですよ。だって、僕たちの小さいころはよく「誰も見ていなくても、お天道さまは見ているよ」って、言ったでしょ。こういう感覚って、すごく大事だと思う。

自分のために仕事をすると行き詰まる

仕事って、自分のためにするものじゃないんです。自分のためだけだと、苦しくなって、結局、行き詰まる。人のためにやるから、頑張れるんです。仕事は社会貢献だと思えばいいのね。どれだけ社会やみんなに貢献できたか。お金は、その対価としてもらえるんです。もちろん、お金も大切ですよ。僕だってお金、欲しいですから。でも、お金は貢献に対してもらえるものだということを忘れちゃいけない。

誰でも社会のためにやれることは必ずあるんです。それがわからない人は、何でもいいから、目の前にある仕事をしてみればいい。アルバイトでも何でもいいの。一生懸命やると、お客さんにその気持ちが必ず伝わる。それでもっとやりたい仕事が出てきたら、職場を替わればいいじゃない。そのときは、自分に正直に生きればいい。

今回の映画では、平良とみさん(注:沖縄在住の女優)に妖精役で出てもらってるんだけど、すごく魅力的なんですよ。自分の欲望に正直でね。これはわがままとは違うんです。「みんなが幸せにならないといけない」という考えが根底にあった上で、欲望に忠実なんです。難しいけど、これができるとすごくいい人生を送れると思う。人に笑われることなんか気にしない。やりたいことをやる。縛られて生きてたって面白くないですからね。

information
『真夏の夜の夢』
中江裕司監督作品

東京での恋に疲れ、故郷である沖縄の世嘉富島に戻ってきた百合子。世嘉富島は、昔からキジムンと呼ばれる精霊たちが、「弥勒世果報」「豊年満作」「子孫繁栄」を願い、人々を守ってきた島だった。皆から忘れ去られようとしているキジムンは、唯一自分たちの姿を見ることができる百合子の帰りを待ちわびていた…。シェイクスピア原作の『真夏の夜の夢』をモチーフに、「みんなが忘れてしまっている大切なもの」を問いかけた感動作。脚本:中江素子、中江裕司 原作:W・シェイクスピア 出演:柴本幸、蔵下穂波、平良とみ、平良進ほか 配給:オフィス・シロウズ、シネカノン、パナリ本舗 7月25日よりシネカノン有楽町2丁目、シネマート新宿、川崎市アートセンター、シネマックス千葉ほかでロードショー
http://www.natsu-yume.com/

©2009「真夏の夜の夢」パートナーズ

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
刑部友康

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