プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

一番大事なのは、お客様に「恥をかかせないこと」なんです

山崎達郎さん(日本最高齢バーテンダー)
やまざき・たつろう●1920年、東京都生まれ。高等小学校卒業後、染物屋に就職。戦時中は衛生兵として陸軍病院で働く。終戦後は、駐留軍のハウスマンを経て東京會舘のバーテンダーに。三井倶楽部などさまざまなバーで修業を積み、33歳のときススキノに移住。38歳で独立し「BAR やまざき」をオープンさせる。以来50年続くその店は、有名無名を問わず多くの人々から愛され、ススキノの名店として全国的に知られるようになった。また、この店で修業し成功したバーテンダーも数多い。
2009年4月08日

50年続くススキノの名店「BARやまざき」。
店主は89歳。
日本最高齢のバーテンダーである。
戦後間もなく進駐軍のバーで働き、
以来65年、現役を貫いてきた。

お酒も飲めないし、バーにも興味がなかった

私は昔から、お酒がほとんど飲めませんし、バーにも何の興味もなかったんです。ですから、まさか自分がバーテンダーになるなんて、思ってもみませんでした。

小さいころの夢は、画家になること。でも画家では食べていけないと親に反対されましてね。高等小学校を出た後は、染物屋に就職しました。

その後、戦争が始まって、衛生兵として陸軍病院で働くようになり、医者を目指しました。当時は満州に渡れば官費で医者になれたんです。そのために勤務時間外も勉強を続けたのですが、終戦によりその夢も消滅。焼け野原の東京で、親もいないし家もない。これからどうやって生きていこうか、食べていくことだけで精いっぱいの日々が続きました。

そんなとき、陸軍病院時代の知り合いから、「東京會舘で駐留軍要員を募集している」と声をかけられて。実は私は、小さいころから英語に興味を持っていたんです。戦時中も、人目を忍んで勉強を続けていましてね。日本を負かした国がどんな国なのか見てみたいという思いもあり、将校クラブで働くことにしたんです。

最初の仕事はハウスマン(雑用係)。そのうちに大きなパーティの手伝いをする機会もあり、その働きぶりを見てくれたのでしょうか。バーの責任者の方が、「うちで働いてみないか」と誘ってくださったんです。興味はなかったものの、ハウスマンよりはましかと、バーテンダーの仕事に就くことになりました。

このような経緯でしたから、バー勤めは、ほんの一時しのぎだと思っていたんです。それが65年も続く私の天職になっていくのだから、人生とは本当に不思議なものです。

私は今年で89歳になります。「高齢になっても打ち込める仕事が持てて、お幸せですね」と言ってくださる方がおられるのですが、私はバーテンダーの仕事に限らず、どの仕事も懸命に取り組んできたんですね。最初に働いた染物屋の店員でもそうだし、陸軍病院でもそう。ハウスマンの便所掃除だってそうです。どんな仕事でも懸命にやってきた。だからこそ、人が助けてくれたし、道も開けていったのではないかと思うんですよ。

もし、自分に合った仕事がなかなか見つからないと思う人がいたら、まずは今の仕事をおろそかにしないで懸命に取り組んでみることです。その仕事が天職かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、それは真剣にやってみないとわからないんです。もし違っていても、真摯な姿勢で目の前の仕事に向かっていれば、いつか必ず、天職に出会うと思いますよ。

2回のピンチがあったから、今がある

65年のバーテンダー人生の中で、大きなピンチは2回ありました。1回目は37歳のとき。東京からススキノに移って5年、まだ「モンタナ」という店に雇われていたときのことです。ある女性から独立の話を持ちかけられ、騙されて全財産を持っていかれてしまったんです。

当時のお金で20万円。50年前ですから大金です。コツコツと必死で貯めたお金でしたから途方に暮れました。ですが、その話を聞いて「何かの足しに」とそっと現金を手渡してくれる方や、私の絵を買ってくださる方などに助けられ、借金はしたものの、なんとか自分の店を持つことができました。そうして開いたのが「BAR やまざき」なんです。騙されたのは悲しいことですが、そんなことでもないと、独立を思い切れなかったかもしれない。ですから、今ではよかったと思っています。

ただ最初のころの「BARやまざき」は、接待する女性がいる店でしてね。当時はバーに女性がいないと繁盛しないというのが通説だったんです。今のようなバーテンダーだけの店になったのは、実は2回目のピンチがきっかけでした。

それは私が55歳のときです。隣のビルのもらい火で、店が全焼しましてね。普段から従業員には、「火事の際には人命が第一。何も持ち出すな」と言っていたこともあり、従業員全員が身ひとつで表に出ました。焼けてしまったもののなかには、今から思っても惜しい宝物がたくさんありました。でも、不思議と落ち込みはしませんでしたね。もともと私はひどい心配性なのですが、いろんな経験を通じて胆力がついていたのでしょうか。焼け跡を見て、「絶対、なんとかなる」と、逆に力が湧いてきましてね。再建に向けて店を探し始めたんです。

そんなとき、ある実業家の方と偶然道で会いまして。「君ほどの腕があったら、女性なしの店にしたほうがいい」とアドバイスを受けたんです。その方はかなりのアイディアマン。あの人が言うなら間違いないと、今のようなバーテンダーだけの店にしました。昔と違って、恋人同士でバーにいらっしゃるお客様も増え始めたときで、時流に乗れたんですね。再建した店は大繁盛したんです。


「BAR やまざき」は、
作家の故・吉村昭氏をはじめとする
多くの著名人をも虜にした。
その究極の接客術とは。

物事はすべて、原因と結果で成り立っている

バーテンダーにとって一番大切なこと。一般的には、カクテルがうまく作れることだと思われていますね。でも、本当は違うんです。一番大切なのは、「お客様に恥をかかせないこと」なんです。そのためにバーテンダーが恥をかけばいい。お客様がいい気持ちになって帰ってもらうことが、バーテンダーにとって一番の喜びですから、私たちが恥をかくことは何でもないことです。そして、それさえできていれば、店は必ず繁盛します。

これは、バーテンダーだけに通じることではないと思います。私の店にいらっしゃる財界人の方々は、「サービス精神」が旺盛です。もっともっと皆さんに喜んでほしいと、お客様のことだけ考えてを仕事している。そこに自分のこだわりなんて、いらないんですね。ひたすら相手の好みだけを考える。そうすれば、結果はおのずとついてくるものです。

私は、「すべての物事は原因と結果で成り立っている」と思っています。現在の自分が辛い状況にあるのは、過去にしてきたことの結果が表れているにすぎないんだと。だから、毎日毎日、「明日はよくなりますように」と考え、今できることを精いっぱいやっていれば、物事は必ずいい方向へ向かっていきます。それこそ、ピンチが訪れても、チャンスに変わっていくんです。

今、未曾有の不景気と言われて不安に感じている方、実際に大変な目に遭われている方もいるかもしれません。しかし、私が生きてきた間を考えても、もっと深刻な状況はいくらでもありました。それでも、世の中に仕事が全くない、ということはありませんでした。今は、大学を出ているのにこんな仕事?と思うようなものしか、ないかもしれない。でも、何でもいいから「明日はよくなる」と思って、必死に働いてごらんなさい。きっと、道は開けていくものですよ。

もし、どうしても仕事に面白みを感じられないなら、特効薬があります。それは「創意工夫」をすることです。私も最初はバーテンダーの仕事に興味がなかったし、面白みを感じられなかった。それが、新たなカクテルを考案したり、接客の仕方を工夫したりしているうちに、楽しくなってきました。切り絵のサービスもそうです。最初は1枚だけ切っていたのですが、2枚重ねて切るようにして、1枚はお店に保存、1枚はお客さんにお渡しするようになったら、お客様がもっと喜んでくださるようになった。そういう思いつきが成功すると、仕事はぐっと楽しくなるんですよ。

店を辞めたいと思ったことは、一度もない

今までお店を辞めたい、なんて思ったことはないですねえ。辞めたら生活に困っちゃいますから(笑)。だって、いくつまで生きるかわからないでしょう。続けられるまで、続けていきたいですね。

ただ、お客さんに飽きられたら、そのときは潮時かなと思っています。だから飽きられないように、今でもいろんな工夫をしているんですよ。お客さんといろんなお話ができるように、経済新聞と地元紙の2紙を毎日読んでいますし、本屋さんにもまめに顔を出して、興味のある本は手当たり次第、読んでいます。よく足を運んでくださる方の本は、ほとんど読みますね。私は昔から、好奇心が旺盛なので、そういうことは苦ではないんです。

だけど、お客さんには深入りしません。若い人によく言うことなんですが、お客様と店で親しくなれても、友達になれたわけではない。大工さんが皇居の奥に入れるのと同じで、お客様と親しくお話しできるのは、仕事上で与えられた立場なのです。

そのことを肝に銘じていれば、人によって態度を変えずにすみますね。私は、お店にいらっしゃるお客様、どの方にも皆、平等に接しています。それこそ言葉遣いも変えない。そのへんは英語流を取り入れているんですよ(笑)。

information
『BAR やまざき』
山崎達郎著

89歳の現役バーテンダー、山崎達郎氏。その数奇な半生と、多くの人々に愛され続けた「BAR やまざき」でのさまざまな出会いをつづった本。常連だった作家・吉本昭さんとのエピソードや、オリジナル・カクテルの誕生秘話、接客業のコツなど、魅力的な人生を送るためのヒントがたくさん詰まっている。

【店DATA】
「BAR やまざき」
住所:札幌市中央区南3条西3丁目 克美ビル(都通り) 4階
☎011-221-7363
地下鉄南北線「すすきの」駅徒歩1分。

※写真中は、この店の名物でもある切り絵。お客から要望があると山崎さんが作ってくれる。2枚同時に切り、1枚は店に保管、もう1枚はおみやげとして渡してくれる。開店以来の切り絵の数は4万3000枚超。

※写真下は、「プロ論。」という名のカクテル。取材中、山崎氏にお願いして作ってもらった。ジンをベースに、ドライベルモット、パーフェクトアムール、グリーンシャトリューズ、レモン汁が少量ずつ入っている。「仕事に疲れた心と体を癒してもらえるように、甘酸っぱい味にしました」と山崎氏。働く人への愛情のこもったカクテルだ。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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