高校時代からバンド活動を始め、23歳のとき、
堀内孝雄氏、矢沢透氏とアリスを結成。
一時代を築く一方で、ソロ活動や楽曲提供でも
数多くのヒットを放ってきた。
高いところに行くだろうと、なぜか確信していた
音楽を教えている上海音楽学院で、「先生はどうして音楽を始められたんですか」と聞かれることがあるんです。答えは簡単で、女の子にモテたかったから(笑)。女の子を振り向かせる手段はこれしかない、と信じ込んでいましたから。
確かにモテることも嬉しかったんですが、自分たちが作った歌で感動する人がいる、ということに感動しましてね。そこから何かが動き出していったんです。
僕は、ミュージシャンになろうと思っていたわけではありません。音楽をやっているうちにたくさんの人との出会いがあって、「ちょっとラジオでしゃべってみないか」「レコードを出してみないか」と声をかけてもらえた。気がついたらプロになっていたんですね。
アリス結成もやはり出会いでした。音楽をやっている連中とは、それこそたくさん出会ってたんですが、あの2人との出会いは特別なものだと感じましたね。
一緒にやったらうまくいく、とかじゃなくて、やらないといけない、と思った。直感です。今でもひたすら直感で生きているんですけどね。出会った瞬間、感じる。感じないときは、ずっといても感じませんから。
でも、あの2人には強く感じたんですね。だからあの2人だった。彼らがどう思っていたかはわかりませんけど(笑)。
もうひとつ、僕らは高いところに行く、という確信めいた直感もありました。デビュー後、ヒット曲がなかなか出なかった時期も、僕たちは助走期間だと思っていました。高く跳ぶには助走がいる。ヒットが出ないんじゃなくて、まだその時期じゃないんだ、と(笑)。
しかも、あのころはステージで忙しくてね。年間300回くらいやっていましたから。文化祭シーズンには一日5ステージこなしたこともある。もちろん全部、女子大でね(笑)。さらに深夜放送の生番組が2本、それから曲作り。もちろん休みなんてないですよ。
今の若い人は、「週にどれくらい休めますか」と平気で聞くそうですね。正直、僕には驚きです。条件を言う前に、自分自身にそれが言えるだけの価値があるのか、と自問をしないといけないでしょう。そうじゃないと、物事をわかっている人に対しては通用しないですよ。
どうやってアリスという山を下りるかを考えていた
僕らはヒットが出始めても、全く変わりませんでした。周りは変わっても、僕らはむしろ超クール。今は流行っているけれどね、って、さめて自分たちを見ていました。
アリスは10年で活動を停止します。周りからは「どうしてそんなに早く?」という声も多かった。でも違うんです。僕らはずいぶん前から、どうやってアリスという山を下りるか、そしてどうやって次の山に移るか、それを考えていたんです。
子どものころから、僕はいつも自分を上から見ているような意識がありました。鳥の目線です。いつも空を見上げる子どもでね。鳥の目で見ていると、自分たちの姿って、よく見えるものなんですよ。
「音楽以外のことにも、
たくさん興味を持ってきた」と語る谷村氏。
そんな彼が、さらなる挑戦に踏み出した。
それが、小説『昴』の刊行だ。
大切なものをたくさん見落としてしまう時代
以前から書こうとは思っていました。これも、やっぱり出会いなんですよ。思いを真正面からぶつけてくれる編集者と出会えて。そういう人と出会わされたんだから、やるんだ、と。実際、編集者の名前は覚えていても、どこの出版社だったか知らなかったくらいで(笑)。こういう人と出会わなかったら、書いても意味はないと思った。今回、ついにタイミングが来たと思ったんです。
伝えたいことはたくさんありました。特に若い人にね。例えば今は、大切なものをたくさん見落としてしまう時代なんです。大人たちがそうしてきたから。でも、そろそろ誰かが言わなくちゃいけない。だから、そのヒントを小説に散りばめました。
生きるために大切なものがわからないで何をするんだろう、と僕は思うんです。わからなくても生きてはいけます。食って、寝て、排泄してね。でも、それじゃ動物と変わらない。
例えばひとつ、シンプルにヒントを教えましょう。心臓を止めてごらん。自分の意思でそれができますか。できないんですよ。実はわれわれは生きているんじゃない。生かされているんです。それがわかってくれば、生きる姿勢は変わります。
出し惜しみはしない。常にベストを出してきた
物事はすべてつながっています。例えば僕は1981年に中国で歌った。日本人の音楽家からは言われました。行っても儲からないのに、って。でも僕はお金のために歌っていたわけじゃない。どういうわけだか、僕は不思議と海外と縁があった。それに気づいて、思ったんです。たぶん国と国とをつなぐような何かをするんだろうな、と。だから、そういう機会があったら、やってみたいな、と思っていると、やっぱり出会いがあるんです。そして、そんな僕を支えてくれる人もいて。いろんな経験や、人が、ジグソーパズルのように組み合わさって、いつも何かをしてきたんです。
だから僕は、そのときそのときにやりたいと思ったことを大事にしたし、そのときそのとき、自分のベストを尽してきた。出し惜しみは決してしなかった。
そして、外からの評価も気にしない。それは僕がすることじゃないから。まわりが判断することだから。僕自身が「これだ」と思えるものをひたすら出すだけ。それこそが大事なんです。
何も浮かばないなら、自分を空っぽにしてみる
ブレイクできたアーチストとそうでないアーチストの違いは何か。それは意志なんです。目指すものを心から信じ切れるか。信じ切れない人は、あっちフラフラ、こっちフラフラしてしまう。それこそ鳥の目で見れば、よくわかるんです。
皆さんもそうですよ。何がしたいのか。どうなりたいのか。自分にとって仕事の成功とは何を意味するのか。何が自分の幸せなのか…。まずは、はっきりさせることです。神社に行って、ぼんやりとしたお願いをしても、神様だって困りますよ(笑)。何をどうしたいのか、はっきりとイメージしないと。そしてそこに自分の意志を持つ。そしてそれを信じ続けることです。
信じられるほどのものが描けない、という人もいるかもしれない。でも、それは違います。自分を信じるから、絵にたどりつけるんです。
それでも何も浮かばないなら、自分を空っぽにしてみるのもいい。深呼吸をしなさいというと、みんないきなり吸い始めるけど、違うんです。まずは吐いてからじゃないと、いい空気を思いっきり吸い込むことはできません。捨てる勇気を持つ。そうやって吐き出すことで、新しい可能性が入ってくる。本当に大切なこともわかってくるんです。
僕は2003年に一度、すべての活動を休止しました。怖さはありませんでした。過去の実績なんて、しょせん過去のこと。むしろ一度空っぽにしたら、大興奮でね。新しい可能性がたくさん入ってきたから。上海音楽学院から教授の話が来たのは、実はこのときでした。活動休止をしていなかったら話を受けられなかったでしょう。スケジュールはいつも一年先まで埋まっていた。空っぽにしたから、イエスと言えたんです。
こういうことって、起こるんですよ。自分を信じて動いてみる。天命と感じたものに、素直に従う。それは、とても大切なことなんです。
谷村新司著
初の書き下ろし文芸作品は、7つの物語からなる。家族ドラマ、時代劇、神話、ファンタジー、恋愛物語など、異なる時代軸と世界観で描かれているが、読み進めるうちに不思議な感覚に包まれる。実は春に出される続編の6つの物語と合わせ、13のストーリーが重なり合ってひとつの世界を形作っているという。「本当に大切なもの」が紡ぎ出された小説集。世の中に生きづらさを感じたら、手にとって欲しい1冊だ。
「昴」へのアンサーソングとして制作された「マカリイ」が、「十三夜」との両A面シングルとして発売された。「マカリイ」はハワイ語で「星の航海師」を意味する言葉。28年という歳月を経て、谷村氏は「昴」にどんな答えを出したのか。大注目の1曲だ。(avex io 1260円)
- EDIT
- 高嶋千帆子
- WRITING
- 上阪徹
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 刑部友康
自分の「こだわり」を活かせる企業に出会うために、
リクナビNEXTスカウトを活用しよう
リクナビNEXTスカウトのレジュメに、仕事へのこだわりやそのこだわりを貫いた仕事の実績を記載しておくことで、これまで意識して探さなかった思いがけない企業や転職エージェントからオファーが届くこともある。スカウトを活用することであなたの想いに共感してくれる企業に出会える可能性も高まるはずだ。まだ始めていないという人はぜひ登録しておこう。