プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

脳の老化は40歳から。でも、そのスピードは、20代、30代の過ごし方で、変わってくるのです

石浦章一さん(東京大学大学院・総合文化研究科教授)
いしうら・しょういち●1950年、石川県生まれ。東京大学教養学部基礎研究科卒業後、同大学理学系大学院修了。国立精神・神経センター神経研究所、東京大学分子生物細胞生物学研究所を経て、現在東京大学大学院・総合文化研究科教授。理学博士。専門は分子認知科学。アルツハイマーなどの難病の研究、人間の知能や性格、感情の分子レベルの解明をライフワークとしている。著書に『新版 脳内物質が心をつくる』『遺伝子が明かす脳と心のからくり』『生命に仕組まれた遺伝子のいたずら』(羊土社)、『IQ遺伝子』(丸善)、『「頭のよさ」は遺伝子で決まる!?』(PHP新書)、『脳学』(講談社)などがある。
2008年9月8日

アルツハイマー研究の第一人者。
東京大学で教鞭をとる「生命科学」の授業は、
学生から絶大な支持を受けている。
著書も多く、3月に発売された本
『いつまでも「老いない脳」をつくる10の生活習慣』は、15万部のベストセラーとなった。

40歳から、脳細胞は1日約136万個減っていく

人体は20歳から、脳は40歳から老化が始まるといわれています。皆さんのなかにも、できるだけ長生きし、いつまでも若々しくありたいと願う人が多いのではないかと思いますが、残念ながら現在の科学では「不老」は不可能。脳は40歳を境に10年で5%ずつ減っていくといわれています。脳細胞の数は約1000億個ですから、10年で約50億個。1日に換算すると約136万個減ってしまうのです。

数字だけ見ると大変なことのように思えますが、脳の老化の速度はほかの機能に比べて遅く、20代・30代からの「脳を活性化させる生活習慣」により、衰えが始まる40代以降になっても、若い脳を保持することが可能になります。逆に言うと、脳の老化のスピードは同じではないということです。40歳までにどんな生活を営んできたかによって、ほぼ決まってしまうのです。

では、どのように20代・30代を過ごせばいいのか。脳を活性化させる生活習慣といっても、そんなに特別なことではありません。体の健康を維持し、脳が活動しやすい環境づくりをしてあげればいいのです。具体的に言うと「週に2〜3回、30分以上の運動」をすること。定期的に運動をしている人は顔色もよく、つややかで若いでしょう? 統計上も長生きするというデータが出ています。運動は血流をよくするんですね。体内の酸素量が増え、細胞が活性化される。このことが、人体の働きをよくすることは想像しやすいと思いますが、実は脳も同じ。脳細胞は血流がよくなると活性化するんです。

読む、書く、声に出す。脳をフル活動させると記憶は定着する

定期的に運動をすることが大事だといっても、なかなか時間が取れない人もいるでしょう。学生でも時間がなくて運動できない、なんていう人もいますから(笑)。そんな人は日常生活で運動を取り入れるといいと思います。エレベーターでなく階段を使う、1駅手前で降りて歩いてみるなどです。

いくら学生時代に運動をして筋肉をつけていても、継続して鍛えないと、筋力はどんどん落ちていきます。最悪なのは、一日中パソコンに向かいっぱなしで、全然外に出ないこと。そんな生活が肉体だけでなく精神面にも悪影響を及ぼすのは、当たり前ですよね。

忙しいという学生に何でそんなに時間がないのかと聞くと、「インターネットをしている」と言うんです。インターネットというのは便利なものですが、そのせいで勉強や運動をする時間を減らしてしまうのは、脳にとって非常にまずいことなんですね。

老いない脳をつくるために、「本を読む習慣」を持つことは大変有効です。理由は、本を読むと脳の活動の基本となる言語野が動き出すからなんですが、eラーニングでは、その活動を疑問視する声も多い。脳を活性化させたかったら、インターネットで文字を読むのではなく、本を読む習慣をつけることをオススメします。ジャンルは何でもいい。時代小説などのエンターテインメントでも構いません。興味のあるものから読み始めましょう。

講義を受けるのも、なかなかいいんですよ。講義を聴き、その内容に対して質問をする。この双方向性が脳を活性化し、記憶を定着させます。これはビジネスの世界にも通じるのではないでしょうか。本を読んで学んだことを、会議などで発表してディスカッションする。読む、書く、声に出すなど、脳のさまざまな部分をフル活動することで、脳のネットワークが強化され、記憶は定着しやすくなるんです。

記憶に関して補足すると、記憶には2種類あります。1つは意思を持って記憶する「短期記憶」。そしてもう1つが、経験によって獲得される「経験知」。前者は脳の中の海馬によって記憶されます。前述の通り、脳細胞は40歳を境に徐々に減っていきますが、海馬は別です。海馬の神経細胞は記憶が必要だと感じたら増えていきます。しかし、死ぬのも早い。うつ状態やストレスで簡単に死んでしまうのです。記憶力を保持したいなら、ストレスを回避することを心がけましょう。また、海馬は虚血(臓器に血液が行かなくなった状態)にとても弱い。適度な運動をし、バランスの取れた食生活を心がけ、血行障害を防ぐことがいかに大切かということが、ここからもわかりますよね。

40歳を過ぎたら、「経験知」で勝負する

このように40歳を過ぎても、海馬を使った「短期記憶力」を維持させることは、理論上は可能です。しかし、働き盛りの忙しい時期に、細胞を活性化させる理想的な生活を送るのはなかなか難しいのが現実ではないでしょうか。実は、体力の低下とともに、「短期記憶力」だけではなく、好奇心と意欲を必要とする創造力や発想力も衰えていきます。科学者も創造力を必要としますから、45歳が限界と言われているんです。

こんなことを言うと、将来に不安を感じる人がいるかもしれません。でも、心配する必要はありません。40歳を過ぎたら、「経験知」を活かした仕事をすればいいのです。「経験知」とは、経験が積み重なってできる記憶のこと。いくつになっても言葉は話せるでしょう。経験を積み重ねて覚えたことは年をとっても忘れづらいんです。

具体的に言うと、企画、開発、研究など創造力が必要な仕事は40代まで。その後は、人脈が活かせる総務や営業、人を教育する管理職や教師、決断力が必要な経営者など、経験を活かせる仕事に就けばいいのです。

生物学的には、子どもが生まれたら本当は死んでしまっても構わないはず。でも、人は長生きをする。それには意味があるからなんです。人には役割というものがあるんですね。何でもかんでも自分でやらないで、新しいことは若い人に任せればいい。年寄りには「社会を円滑にする、若い人をバックアップする」という役割があるから、人は長生きするようにできているんですよ。


40代で「経験知」を活かした仕事をするためには、20代・30代で情熱をかけられる仕事に就いていることが大前提である。
適職は、どうすれば見つかるのだろうか。

向き不向きはわからない。「やってみる」しかない

仕事の向き不向きは、やってみないとわからないと私は思います。いろんな経験をしてみて、自分で探すしかない。世の中には自分が気づいていないことって、とても多いんですよ。そして、もう1つ覚えておいてほしいのは、「人にはかなりの適応力がある」ということ。ですから、取り組む前から向き不向きを決めてしまわずに、柔軟に挑戦してみればいいんです。

私自身も、生物学者になるとは思っていませんでした。小さいころは物理の分野に進んで、天文学者になりたいと思っていた。それが大学生のとき、たまたま生物の授業を取って興味を持ったわけです。

私が大学を卒業する時分には、脳のことは全然解明されていませんでした。うつ病などの精神疾患について、誰も研究していなかったんですね。だから私は、人間の心を分子レベルで解明することができないかと思ったのです。アルツハイマーが世間で騒がれる十数年前のことでした。

会社の将来性ではなく、自分がトップに立てる分野に行くこと

意外に思われるかもしれませんが、学者の世界は競争社会です。その意味では、誰も手をつけていない分野を専攻したことは追い風になりました。でも、生き残るためにはもう1つの視点が必要です。それは、自分の研究が世の中の役に立つかどうかということ。

好奇心は意欲を生みますから、興味を持てる研究であることは大前提です。しかし、5年10年先を見据え、その研究が人の役に立つかどうかを見極める客観性がなくては淘汰されます。研究にはお金がかかる。誰の役にも立たない研究では資金を集められないでしょう。研究資金をどこから捻出するか、それも学者に必要な能力の一つなんですよ。

人の役に立つということのメリットは、お金だけではありません。仕事の意欲にもつながります。ほめられると脳が活性化するんです。どんどんいい仕事ができるようになる。

これから社会に出る学生には、「自分がトップに立てる分野に行きなさい」と言います。就職ランキングで選ぶのでも、会社の将来性で選ぶのでもない。自分の能力を最大限活かせる場所に行くということです。そしてその能力を社会のために活かそうという気概を持つこと。社会のためにやっていることが、結局、自分のためにもなるんですよ。

information
『いつまでも「老いない脳」をつくる10の生活習慣』
石浦章一著

「たぶん、これが脳を老化から守るための最新かつ最短の方法でしょう」と石浦氏。生物である以上、脳の老化は避けられない。しかし、若いころからのちょっとした気配り、生活習慣の改善で、脳はいつまでも若く活性化し続けるのだ。「週に2〜3回以上、一日30分以上運動する」「バランスの取れた食事をし、食べすぎない」「好奇心を持って新たなことに挑戦する」「意識的に段取りをする」など、この本には「老いない脳をつくる」実践的な方法が書かれている。熟年層はもとより、若いビジネスパーソンも必読の一冊。WAC刊。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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