デザインの学校で学んだわけではない。
20歳で大学を中退、縫製の修業から始めて
独学でスタイル画を学んだ。
貧乏のどん底のなか、26歳のときロンドンで
日本人初のファッションショーを開催、
一躍世界の舞台に躍り出た。
熱くなること。メチャメチャ欲しがること
気持ちが熱いときはね、絶対に夢を叶えるんだという強い気持ちでいるんですよ。昔からおしゃれが大好きでしたから、翌日の服の組み合わせを考えるだけでも楽しくて。考え始めたらもう寝てられない(笑)。それこそデートなんてことになったら、何通りも服装を考えてね。
でも、熱いときばかりではない。気持ちが沈むときもある。デザイナーになれなかったらどうしよう、とものすごく不安になって落ち込むこともあった。今にも死んでしまおうか、くらいにもなる。この振れ幅がものすごく大きいんですね。
まぁ、私の場合、天然で熱いことのほうが多いんだけど、できるだけ熱くいようと自分でも意識しています。これが、大事なんです。欲しいものがあったら、メチャクチャ欲しがる。何が何でも、自分のものにすると思っていましたよ。だから、デビューのきっかけになった「装苑賞」も、取ることができたんだと思っているんです。
同じ時代に生きた人で、冒険家の植村直己さんという私の大好きな人がいます。彼なんかも、欲しがり方はすごいんですよね。北極を横断したいという夢がある。ちょうどその距離が稚内から鹿児島くらいまで。そのために、運動靴ひとつで稚内から鹿児島まで歩いちゃうわけです。かかる費用は靴代くらいだからと。異常だと言っていい。
日本では、異常というと、残念ながらマイナスのイメージのほうが強い。でもね、世界に出て行って評価された日本人って、みんな異常だと思うんですよ。むしろ、正常ではダメなのです。世界クラスは、突き抜けた意識の人たちばかりです。
美しいものを見極めるには、体調管理が大事
今回、江戸東京博物館でこれまでの作品を展示していただけるというので、過去に作ったアーチストの衣装を世界中から集めました。実は、デビッド・ボウイをはじめ、世界のスーパースターたちの衣装をたくさん作っていたんですよ。普段は彼らと仕事をしていることはあまり表に出さないのだけど、今回は特別です。
世界のスーパースターというと、以前、東京公演に来たスティービー・ワンダーから連絡をもらったことがあります。行ってみると、「どうしてもあなたに会いたかったんだ」と言われました。私のデザインを気に入ったのだと。両肩に獅子頭の刺繍がのったセーターだったのですが、目は見えないけど、触るだけで素晴らしさがわかったと言うんです。
今も、美しいものを見極める目は常に磨いておきたいと思っています。そのために重要なのが、体調をよくしておくことなんです。これは実は、暗さと決別して、熱さを取り戻す方法でもある。適度な運動、そして自然と触れ合うこと。私の場合は、早朝の犬の散歩。朝の新鮮な空気と太陽の光、緑や花の鮮やかな色、アスファルトではない土の感触を足の裏で感じながら歩く・・・。仕事で悩み事があっても、これでパッと気持ちが切り替わる。体調が良くなれば、美の感度も高められる。
いつもエンジンがガンガンにかかっている状態だと、直感も鋭くなる。実際、私の場合、何かを買うときも選択は瞬時です。先日も出張に時計を忘れて、駅の上にあるデパートで買ったんですが、選ぶのに1分かからなかった。でも、あとでその時計を見た事務所のスタッフが驚いていました。パイロット用のかなり人気のある時計だったみたいだから。
ファッションデザイナーとして世界で
名前を知られる存在になったにもかかわらず、
寛斎氏は48歳にして新しい挑戦をする。
それが「スーパーショー」だった。
ロシア、ベトナム、インド、そして日本。
今や世界中で熱狂的な支持を得ている。
小さくまとまるな。例えば、旅に出なさい
ファッションデザイナーが映画の衣装を頼まれたとする。サクサクと衣装を仕上げていく。そういう人も多いんです。でも、私は違いました。やるのであれば、脚本も監督も撮影も衣装もやりたい。そうでないとできないんです。だから私のファッションショーは、いつもショー全体のことを考えて衣装も作っていた。
ところが、ファッションビジネスということになると、マーケティング的要素をたくさん入れなければならなくなる。80年代に入ってから、ファッションショーで作品を発表するだけでは、自分の表現したいことが収まらなくなってきたのです。やりたいことと何かが違う。居心地が良くない。そんなときに浮かんだのが、すべてのジャンルを超えた、壮大なショーだったんです。それが私独自の表現「スーパーショー」で、ようやく自分の熱気を生むものに出会うことができた。
だからこそ私が思うのは、常に自分の世界を広げておくことの大切さです。30歳くらいで貯金をしている人がいますね。否定はしないけれど、そんな年齢でお金を貯めてもさほど貯まらないもの。私なら直接、自分に投資します。そうすると、いずれもっと大きな果実が得られるかもしれないから。やっぱりね、小さな世界でまとまっちゃダメなんですよ。
では、投資とは何か。例えば、旅に出ることです。世界を見に行く。日本で通じる世界観と諸外国で通じる世界観は全く違うことがあるからです。全く違う価値観が存在することを知るのは大切なことです。
極意は、ハラが減っていて、材料が新鮮なこと
外に出て行けば、あるいは新しいことをすれば、必ず刺激がある。実際には、プラスだけじゃなく、マイナスもある。でも、私はいろんな分野の人と世界を舞台に他流試合をして良かったと思っています。いい仕事をしている人と出会えたから。また、人の作品も、他流試合の感覚で見られるから。アカデミー賞でもそうですが、世界ではやっぱり作り手の熱意は相当なものです。日本ではそれが感じられることが、どのくらいあるか。そういう現実も認識しておく必要がある。
成果やらテクニックやら、みんないろんなことを考えようとするけれど、あんまり難しく考えないほうがいいんです。大事なのは、まず気持ちです。例えば、うまいものを作る方法だって実はシンプル。ハラが減っていて、材料が新鮮なこと。蛤焼きなんて、塩だけでうまいでしょう。技は3番目なんですよ。
そして何より自分が面白いと思うことをやること。今いるところにそれがない、ほかにそれがありそうだな、と思えるなら、現状を変えたほうがいい。人生1回。無理して嫌なことなんてやる必要はない。
ただし、リスクはありますよ。失うものもあるかもしれない。私だって、そうだった。でも、最終的には自分がノビノビやれていることが、やっぱり大事だと今も思う。転職したからって、宝くじが当たるみたいにうまくいくわけではない。でも、ベターにはなっていくわけでしょう。それを積み重ねていけばいいんですよ。
山本寛斎著
常に熱く。世界中を駆け巡るエネルギーの源はどこにあるのか。山本寛斎を生んだ意外なヒストリーから型破りな発想の原点、さらに夢をガムシャラに追い続けるパワーの源などが、山本寛斎の「熱血語」10カ条からひも解かれていく。「未来に前例などない。迷ったら新しいほうを選ぼう」「必ず道はある。最後まであきらめない人に未来は開かれる」「人生には浮き沈みがある。だから退屈しない」など、何かに挑もうとしたとき、心に火をつける言葉にあふれた一冊。PHP新書。
- EDIT
- 高嶋千帆子
- WRITING
- 上阪徹
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己
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