夫が公務員から起業、妻「正直、もう少し○○してほしい」【挑戦者を支えた「家族」の葛藤】角勝さん後編

家族に突然「起業したい」と打ち明けられたら、たとえどんな結論が出るとしても家庭ではさまざまな葛藤や話し合いがあるはずです。この連載では「挑戦したパートナー」を家族がどう支えたのか、ご本人に取材してお話をお聞きしています。

前編では、20年間の大阪市役所勤務から起業を果たした株式会社フィラメント 代表取締役CEOの角勝さんに退職の経緯をお聞きし、妻の志保さんからのアドバイスを紹介しました。後編でも、角さんが経営する株式会社フィラメントと一緒にアイデアワークショップに取り組んでいる、株式会社オムスビ 羽渕彰博(ハブチン)さんをインタビュアーに迎えて、角さんが起業時に立てた戦略についてうかがいました。

志保さんの「ワクワク」と、信頼感の土台

ハブチンさん 角さんが起業するとき、志保さんが「ワクワクするね」と言ってくれたから支えになったという話は僕らもよく聞きますし、いろんなインタビューでも紹介されていますけど。

志保さん 話を聞いた12月ではなくて、もっと具体的になったあとに言ったと思います。たしかいろんなオフィス家具を新しく買ったりするのを見て、一から始めるっていうのは「やっぱりワクワクするなあ」と思って

ハブチンさん そこですか!?

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勝さん いや、家具を買う話ってだいぶあとやで? それより前に言っている。絶対言っている。絶対12月のタイミングで言っていると思うんですよ。

ハブチンさん いやー、面白い(笑) この連載の第一弾だった僕の場合もそうでしたけど、あるんですよね、こういう“羅生門”みたいな真相が見えない話。志保さんとしては大きな心配はしていなかったということですか。

志保さん 昔から企画や事業の立ち上げをしているのを見ているので「良いことを考え出す人だな、考え出したことに価値があるだろうな」とは感じていました。それに人に好かれるタイプなので、味方になってくださる方がたくさん出てきて「放っておかれはしないだろう、誰か助けてくれる人がいるだろう」という信頼もありました。

勝さん Facebook(以下、FB)で「今日退職します」というエントリーを書いたとき、1300くらい「いいね!」がついたんですよ。朝、支度をしながら書いたんですが、コートを着たりする間に「いいね!」がみるみる増えて、電車に乗っている間もいっぱいコメントがつくんです。なんかもう電車の中で泣けてきました。その時点でホッとしたというか、うまくいくんだろうなとは思ったんですよね。

ハブチンさん 人とのつながり、信頼関係というのは退職する前から大切にされているんじゃないですか。今も何か課題解決をするというより、人をつないだりアイデアを出したりする仕事をされていますよね。

勝さん そこは大阪イノベーションハブに携わっていたときから意識していました。お役所のハコモノ行政は建てただけで終わってしまって、どうやって人を集めるか、来てもらうかまで考えているケースは本当に少ない。でもやるんだったら絶対成功させたいと考えて、当時から集客動線や人脈作りのためにFBを活用しました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

FBを使って人とつながり、プレゼンスを上げる方法

ハブチンさん 具体的にはどんなことをされたんですか。

勝さん イノベーションハブやオープンイノベーション、スタートアップ支援という文脈からその分野の著名人をたどって、FBでフォローしたのが始まりです。半年くらい経って「これは実際にイベントも体験したほうがいい」と考えて、皆さんが主催するイベントをフォローしたり参加したり、積極的に関わるようにしました。

あるとき、主催者が設定を間違えて「公開」にしてしまったイベントにエントリーしたことがあります。本当は「非公開」のつもりだったらしいんですが、せっかくだからと行ったところ、のちのちまで一緒に仕事をするようなIT界隈のフットワークが軽い人たちとお会いできました。そこで今度は「ハッカソン」というワードを手に入れて、関わる人やイベントを掘っていく。知り合った人たちにはすぐFBの友達申請をしてつながっていきました。1年続けると1000人くらい増えるんですよ。

退職する頃の友達は2500人ほどです。FBを使って人脈を貯めていたといってもいい。結果としてFBがメディア化するので、集客動線としても使えるようになります。退職前から「ここはキャッシュポイントになり得るのでは」とは考えていました。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

これから起業したい人たちへ向けて

ハブチンさん 角さんのFBはいつもポジティブな話ばかりなので、読んでいても気持ちがいいですよね。そこは意識して書かれているんですか。

勝さん 自分に対して期待と応援をしてくれる人がいるかどうかは、常に意識していました。マネタイズやキャッシュポイントがはっきりしていなくても、多くの人が「こいつと一緒に仕事したい」とか「こいつが世の中に自由になって羽ばたいていくことを望む」と感じてくれたら食べていけるとは思うんです。FBはそのレベルまで深く理解してもらうための強力なツールです。

普通、名刺交換をしたら交換したときが盛り上がりのピークですよね。でもFBでつながりを作れば、あとからじわじわと自分の考えや行動を見せ続けることが最大の営業になります。業界のキーパーソンがコメントを入れてくれたら「こいつは何だろう」と興味を持ってもらえる。FBに書き込んだことすべてが自分を理解してもらうための材料になる。そのラインがあれば困らないだろうと正直思っています。

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ハブチンさん エントリーが共感を生むし、そのつながりで期待値が上がって仕事や相談がどんどん来るんですね。僕も同じメリットを体験しています。

勝さん 期待を受けるようなことを、そもそも前職の在職中からやっていたかですよね。胸を張って「やった」と言えないのであれば、たぶん奥さんを説得できないでしょう。奥さんが一番のステークホルダーなのに理解を得られてないということだから。

ハブチンさん 志保さんから何かアドバイスはありますか。

志保さん 私は、やりたいことがあるなら我慢をするより、好きなことをしてもらったほうがいいと思うんです。ただし、生活の保険はほしい。私の場合は、自分の仕事復帰と、夫は退職金を食いつぶすまでには何とかするだろうという信頼が支えになりました。子どもは私の扶養に入れて、自分一人食べる分を最低限稼いでくれればいいと。でも起業後に仕事の報告を聞いていると良いことばかりなので「まったく無収入じゃないんだ、仕事あるんだな」と少し安心しています。

勝さん 起業して1年くらいは赤字で、ずっと出ていくだけになるかも、とは彼女に伝えました。自分もそれによるストレスは感じないようにしようというマインドセットだったんですよ。でも幸い、退職する前からいろいろな方から「今度一緒にやろう」と声をかけてもらって収入が途切れずにすみました。

ハブチンさん 起業してから生活は変わりましたか。

志保さん 想像以上に忙しいので、家にいなくなっちゃったというのが一番困っています(笑) 今はいわゆるワンオペ育児に近いかもしれません。家にいたらいたで、仕事でスマホに掛かりきりなので、子どもが夫に声をかけても遠くの私が先に気づくこともあります。まだ起業したばかりなので仕方ない部分はありますが、もう少し家のことを考えてくれたらとは思いますね。

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勝さん まだ会社組織というよりは僕個人のスキルで回している状態なので、実際に顔を出したり会ったりしないと進まない話が多いんです。最初は「役所を辞めたらもうちょっと時間ができるから」と話していたのが、まったく守れていないですね……。申し訳ないとしか言えないんですけど。

ハブチンさん 角さんが一人でできることなのに、組織化したというのも僕は興味があるんですよ。

勝さん やっぱり一人でできることって限りがあるじゃないですか。世の中を良くするために最大限の努力をするのが、僕が考える「生きる」ってこと。それはステージが上がるほど可能性や事業領域が広がっていきます。広がったら全部埋めるくらい一生懸命やらないといけないなと思っているんです。ただ、彼女がいうように家庭に無理をさせてしまっているところがあるので、個人の力ではなく組織で業務が回るようにして自分の時間を作るのが今後の課題です。

志保さん 私も「あまり意見を言わないのはいけない」と言われたことがあるんです。言わないと、これでいいと思ってやってしまうからと。これからは見守るだけではなくて、話す時間を作ってもらってちゃんと伝えなければと思っています。

ハブチンさん コミュニケーションを仕事にしていると「人」が一番の価値になるので、ペース配分が難しいですよね。

今日は僕が知らない話もいろいろお聞きできて楽しかったです。お忙しいところどうもありがとうございました!

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インタビュー・文:丘村 奈央子

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【挑戦者を支えた「家族」の葛藤】シリーズ

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