15時~24時勤務…飲食業で「女性」が長く働き続けるためには?2人の社員が立ち上がり、解決に挑む

「竹取御殿」「柚柚~yuyu」などの居酒屋や、江戸割烹、イタリアンなど多彩な業態の店舗展開で、国内トップを走るアンドモワ株式会社。「お客さまも従業員も、ワクワクできる場を作る」ことをモットーに掲げる同社で、女性従業員を中心にした新たな取り組みが始まった。そのスタートが10月23日に開催された『女子店長会』だ。

全国各地から集まったのは、店長や営業事務など、女性ばかり総勢20名。ときには女性ならではの本音も飛び出しつつ、日ごろの店舗運営の悩から、理想のサービス・働き方まで、幅広い内容でディスカッションが繰り広げられた。

同社でなぜこのような女性店長だけの会が企画されたのか。 プロジェクトリーダーである杉谷さんと鎌田さんに立ち上げに至るまでの苦労や想い、アンドモワとして今後目指していく方向性をうかがった。

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▲右:アンドモワ株式会社 社長秘書室 秘書 鎌田さん、左:アンドモワ株式会社 西日本統括本部 人事担当主任 杉谷さん

キッカケは社員の情熱。女性が「ワクワク」できる会社を目指して

最初にこのプロジェクトを発案したのは、大阪勤務で人事担当主任でもある杉谷さん。きっかけは平成27年に成立した「女性活躍推進法」だったという。

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杉谷 私自身、2度の育休を取得し、子育てしながら働いていることもあり、この法律には興味を持っていました。また人事担当としての必要性もあって勉強していくうちに、女性が輝いている会社ほど成績も伸びているというデータがあることを知り、弊社でも女性が働きやすい環境を整備する必要性を感じました。さらに女性が集まって一緒に動いたときの影響力を活かすことで、お店のサービスの面でも向上が期待できるのではないか。そんな発想から、女性店長が集まる場を作りたいと思ったのです。

ちょうど同じ頃、社内で女性店長の交流の場を作ろうという動きもあった。そこでふたつの企画を一体化。さらに社長室秘書という、会社の中枢にもっとも近い場にいる鎌田さんを巻き込み、それぞれが東京と大阪のリーダーという形でプロジェクトがスタートした。

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就業時間が15時~24時…飲食業が好きでも、「女性が働き続けるのは難しい」という現実

そもそもなぜ“女性だけ”なのか。実はアンドモワが展開する全国320店舗のうち、女性が店長を務めるのはわずか20店舗。もちろん女性の登用を避けているわけではないし、女性に飲食業が向かないわけでもない。むしろ女性ならではの気配りやサービスが接客に役立つ場面も少なくない。しかし実際はほとんどの女性が、結婚や出産を機に退職したり、現場から退いてしまう。そこには飲食業ならではの特殊な事情があると鎌田さんは言う。

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鎌田 弊社にも産休や育休の制度はあるのですが、店舗勤務の場合、就業時間が15時~24時ということもあり、結婚・出産後もお店で働くという夢を描きにくいのが実情です。私も以前お店でアルバイトをしていたのでわかるのですが、接客業って本当に楽しい。でも、そんな意欲も能力もある女性が、結婚や出産で現場を離れざるを得ない現状はなんとかしたい。そのためには新しい制度の構築が必要です。幸い、社長からも「どんどんやれ」と応援していただけたので、私たちふたりを中心に、3名のサポートメンバーも加わってプロジェクトチームが発足。月1回のミーティングを重ねながら企画を詰め、今回の実現に至りました。

もちろん、これまでも店長同士の交流の場は定期的に設けられていた。しかし圧倒的に少数派の女性店長にとって、そこで発言するのはかなりハードルが高い。今回の集まりでも、冒頭はなかなか発言が出ず、司会を務めた鎌田さんもひやりとしたそう。しかし、ひとりの店長が本音を漏らしたのをきっかけに議論が白熱。特に議論が盛り上がったテーマの一つが「理想の店舗」について。女性ならではの視点から理想の店舗とは何なのか、より深い議論に繋がっていった。

女性だからこそ、お客様の気持ちがよくわかる…ということは実際にあるように思う。例えばお店が汚いなと感じたら、お客様は二度と来ない。特にトイレ。きちんときれいに保たれているかは女性の方がやっぱり気づく場面が多い気がする」

「それは確かにある!汚いお店にならないよう、いい状態を保つためにクルーにどう気持ちよく働いてもらうか…それが今私の課題です。なかなか通じないこともあって困ってます」

「それ、わかります!特に若い男性クルーに対してどう伝えればいいのか、いつも苦労したりします」

理想の店舗を作るために、どう働く人を巻き込んでいけるのか…女性だけで忌憚ない意見が交わされた今回の女性店長会は本当に参加者にとって貴重な場となったようだった。

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鎌田 最初のぎこちなさを見ていて、女性の中にも「声を上げてもどうせ届かない」という思い込みがあるのかもしれないと感じました。

杉谷 ふだん現場の人たちがどんなことを感じながら仕事をしているか、本音に近い声を聞くことができ、本部にいる私たちにとっても貴重な体験でした。

最後に、九州から参加していた大川エリアマネージャーが「飲食店のサービスには男女は関係ない。会社としてまだまだ形が定まってないからこそ女性ならではの目配りと接客で、より良いサービスを提供したり、クルーを育てたり新しいことができる。きっと今が一番楽しいとき!みんな悩まないでポジティブに!」と挨拶し、締めくくりとなった。

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「飲食業でも、アンドモワなら仕事と家庭を両立できる」が理想

今回の議論の成果を社に持ち帰り、今後の施策につなげると同時に、この会を定例化していきたいと意気込むふたり。その先にはどんな目標があるのだろうか。

杉谷 女性目線での気づきや気配りを、お店のサービス面でも活かしていくのが最終的な目標です。男性はもちろん、女性も生き生きと働ける環境になることで、お客さまにもより良いサービスが提供できるようになり、満足度にもつながる。そういういい影響が生まれていけばうれしいですね。

鎌田 実は今、女性店長で初めて産休を取っている人がいて、彼女は産休後も現場に復帰したいと言ってくれていています。その女性店長が復帰したら私たちもバックアップしていきたいし、彼女の体験を活かしながら、他の若い女性たちが後に続くことができる環境を作りたい。すべての女性が、「アンドモワなら、子育ても現場の仕事も両立できる」と思ってもらえる会社にするのが理想です。

厚生労働省の調査によれば、女性の育休後の復職率は83%(平成25年度雇用均等基本調査)。しかしこれには退職後に出産した女性は含まれないため、実際に出産後も同じ会社で継続して仕事を続けている女性は4割程度ともいわれている(国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」)。まして深夜勤務が当たり前の飲食業界で、女性の働き方をどのように支えていくのか。女性による、女性のためのプロジェクトの今後に注目したい。

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取材・文/小野千賀子 撮影/石山慎治

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