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堀潤さん | ファミコンが多様性を認め合うゆるやかな「コミュニティ」を示してくれた

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さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、青春時代に親しんだTVゲームの思い出をうかがっていく本連載「思い出のファミコン - The Human Side -」。今回ご登場いただくのは、報道番組のキャスターをはじめ、ジャーナリストとしてメディアを横断して発信を続けている堀 潤 (@8bit_HORIJUN) さん。市民投稿型ニュースサイト『8bitNews』のネーミング由来にもなるなど、現在の活動のルーツはファミコンと深い関わりがあるようだ――

親からのクリスマスプレゼント
ファミコンと思って開けたら…コレジャナイやつが!

――ファミコンとの出会いについてきかせてください。

任天堂の『ゲーム&ウォッチ』っていうのがファミコンの前に流行りましたよね。僕があれを親戚の家で夢中になってやり続けているのを親が見ていたから、「この子にゲームなんて与えたらダメ」というスタンスだったんです。
ところがうちは転勤族で、転校が続いて僕は寂しがり屋だったし、病弱だったこともあって、その境遇を汲んでくれたのか、「友だちづくりのためにもファミコンを買ってあげるか」という空気に変わったんです。
そしてたしか10歳のクリスマスの朝、目が覚めたら枕元に箱が置いてあったんです。「これは……!」と思って箱を開けてみたら、なんと中身が『セガのSC-3000』だったんですよ(笑)。

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――当時のあるあるですね!

本体と一緒にゲームは『ロードランナー』を買ってくれていました。「うわ、ロードランナーじゃん!」と思って、本体にカートリッジを差してスイッチをオンしたら……。ファミコンの『ロードランナー』はカラフルで可愛らしいドットのキャラクターですが、セガの『ロードランナー』は違ったんです。なんか白い影のようなキャラで、業務用みたいでデザイン性がまったくなし。

さすがに「これじゃない!」って文句を言ったんですけど、父親は「いや、セガはみんなが持ってないものだし、これでプログラミングだってできるから、すごいものなんだよ」って言われて。
「そっか……」って思いながら遊んでいたんですけど、周りの友人とはカセットの互換性がないから、友だちを家に呼んで一緒にセガで遊んでも、みんなの反応が鈍い……「何これ?」みたいな(笑)。ただちょっとだけ気持ちの片隅に、「俺は違うものをやってるぞ」っていう優越感はありましたね。たしかその後3年くらいはファミコンを買ってもらえなくて、セガで凌いだんです。

親の目を盗んで深夜の「ファミ活」

――思い出深いエピソードについてきかせてください。

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ようやくファミコンを買ってもらえて、だんだんカセットも増えてきて、親が最初に懸念していたように、僕はどっぷりのめり込み、ファミコン中毒少年になりました。そしてついに親から「ファミコン制限令」が制定されてしまったんです。だから、うちでは学校から帰って、宿題をやった後から晩御飯までの1時間程度だけ遊べる、みたいなルールになったんです。

わずか1時間じゃ満足できない僕は、ファミコンをやるために深夜に起きて……午前3時半くらいかな?親が寝静まった頃、二階から一階へ忍び足で降り、テレビに静か~にファミコンを接続して遊んでましたね(苦笑)。プレイ中もずっと無音で。朝6時には、父親が起きてくるので、その前にはそっとしまって、二階の自室に戻るっていうプレイスタイルでした。

――親バレしなかったんですか?

それがね、やっぱりバレてたんですよ。部屋って人の体温で温まるんです。ファミコン本体も熱を発するし。親もきっとなんか気配を感じてたと思うんですね。ただ、「やってないよね?」って言われると、「やってないよ」ってゴマかしてました(笑)。

――思い出深いゲームはありますか?

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夜中によく遊んでいた『銀河の三人』ですね。深夜にこっそりプレーする後ろめたさが、あのゲームの神秘的な世界観にも合いまって、ハマりました。RPGなので、音声がなくても文字面でゲーム展開がわかるところも都合がよかったんです。

――マニアックなセレクトですね。

そうですね。僕の友だちにも「『銀河の三人』ってかっこいいゲームがあるんだ!」って紹介していたんですけど、僕の熱量と世界観は伝えきれませんでした……。でも、『銀河の三人』は登場するメカがカッコいいし、敵のキャラクターデザインもすごくよかった。今このゲームをVRで再現したらめちゃくちゃ面白いんじゃないかな。

8bit機のファミコンが改めて教えてくれたこと

――堀さんが主宰の『8bitNews』は、ファミコンからインスパイアされたと伺いました。

ファミコンブームが去ってバブル経済が弾けた後、世の中はリストラが始まって、自殺者が増えて、その後はどんどん不況の波で格差が広がっていき、日本は不幸なグレー色……。僕はまさに就職氷河期世代なのですが、社会に対しての不信感がすごく強かったんです。そんななか、分断社会であるとか、個人主義みたいなものが台頭していって、さらに東日本大震災が起きて……。

そんなどん底からようやく最近、コミュニティの再構築とか、個人じゃなくて弱くてもいい結びつきをシェアして、お互いに力を差し出しあって生きていこう、っていう風潮になってきました。僕の周りで、そういうことを声に出して行動している人たちを見てみたら、みんな1970年代から80年代半ばの生まれ、つまりファミコン世代だとふと気づいたんです。

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僕たちの子ども時代の明るい話題といえば、テレビの前にファミコンっていう8bit機があって、みんなが集まってワイワイやり合うっていう団らん。テレビの前で子どもたちが熱狂して、ファミコンを通じたコミュニティを自然と作っていたことを思い出しました。

8bitはコンピュータの基本単位ですから、それぞれが集まって発信するようなメディアが生まれれば面白いな、と。今までのメディアといえば、いわゆるマスコミ、そういうイメージで語られがちだったものが、一人ひとりが発信できるようになればいい。それは主婦の方でもいい、おじいちゃんでもいい、会社員でもいい、誰もが発信していい。「これが私の直面しているニュースなんです」っていうのを結集させるメディアを作りたかった。そういう思いで『8bitNews』っていう名のメディアを立ち上げたんです。

今の世の中を見渡してみると、ようやく社会の中核を担う、自分たちの裁量で社会に発言力・発信力を持つようになった人たちが、みんな実はファミコンに親しんできた世代なんですよね。コミュニティの分断から個人へ、個人が再びコミュニティへ、みたいに戻っていくときに、ひとつのスローガンが、基本単位である8bit。そういうイメージです。

――ファミコンが現在の社会に示唆を与えてくれているようですね。

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ファミコンが実はすごく今っぽいなと思うのが、プラットフォーム的な思想で成り立っているところ。つまり、任天堂が自前主義で独占的にゲームソフトを作るのではなくて、たくさんのメーカーがいろんなジャンルのゲームを作っていたところです。今でいうスマホのアプリと一緒ですよね。

あとファミコンを取り巻く人間関係には、まさにダイバーシティの原点があったと思うんです。どんなゲームが好きか、という多様性をゆるやかに認め合えることができた。「君はスポーツゲームが好きなんだね」って否定はしないし、「ぼくはロールプレイングゲームが好きなんだ、いいよひとりで遊べる」って。それってすごく重要ですよね。ファミコンっていうプラットフォームが共通言語で、みんなが共存していたわけなんですから。

「こうあるべきだ」という価値観を一方的に押し付けると、あっというまに破綻するけど、「あなたはそれでいいです」となると共存できる。ファミコンってやっぱりそうだったなって思います。「シューティングゲームが好きなのか、アクションゲームが好きなのか、それは別にいいと思うよ」っていう。強制もさせられないわけですし、自分の趣味嗜好は尊重される。そして、それがじつは感性を育むものだってことも。違いはすごくわかるけど、それぞれがそこで得意な能力を発揮すれば良い。ファミコンは多様性の象徴でしたね。

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取材・文:深田洋介
1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。
http://famicom.memorial/

撮影・編集:鈴木健介