ものづくりの未来を支え、技能の日本一を決める!「技能五輪全国大会」に行ってみた

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 「技能五輪全国大会」をご存知ですか?

 「技能五輪全国大会」とは、各都道府県から選抜された、原則23歳以下の若者たちが “技能の日本一”を競う大会のこと。厚生労働省と中央職業能力開発協会が主催し、年に一度開催されています。選手は企業に所属している従業員と、高校・大学・各種専門学校の生徒たちです。

 では、この「技能五輪全国大会」、どのような技能を競技しているのでしょうか。競技職種は6区分41職種で構成されており、「電気溶接」「曲げ板金」などの金属系、「メカトロニクス」「工場電気設備」などの電子技術系、「抜き型」「機械製図」などの機械系、「ウェブデザイン」などの情報通信系、「タイル張り」「とび」などの建設・建築系、「美容」「日本料理」などのサービス・ファッション系に分けられています。

<競技職種>

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国際大会もある「技能五輪」

 実はこの大会、二年に一度開催されている「技能五輪国際大会」の派遣選手の選考会も兼ねているんです。2015年8月に国際大会が開催されたばかりなので、残念ながら今年ではなく、来年の全国大会で派遣選手の選考も行われる予定です。ちなみに、2015年に開催された「第43回技能五輪国際大会」はブラジルのサンパウロで行われ、世界59カ国・地域から選手が参加、国内の大会より少し多い50の技能で競技します。2015年の日本選手の成績はというと――

<技能五輪国際大会の日本人選手の成績>

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 自動車板金や移動式ロボットで金を獲得しています。若者の技能大会でも、メカトロニクスの分野では日本は世界トップレベルを維持しているようです。しかし国・地域別の金メダル獲得数を見てみると2007年の日本で行われた国際大会で16の金メダルを獲得し圧勝したのを最後に、その後4回の大会では1位を逃しています。代わりにトップを独走しているのは韓国。2009年の大会から、金メダル獲得数トップの座を譲っていません。2015年も韓国が1位、2位はブラジル、3位が日本、オーストリア、中国、南チロル・イタリア、チャイニーズタイペイという結果でした。技能大会は、ものづくり立国としての日本の威信をかけた戦いなのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

参加選手が多い“人気の競技”は?

 それでは、41の職種(参加者1,183名)のなかでも、選手が多いのはどの職種なのでしょうか?参加選手が多い順に上位10職種を見てみると――

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 選手数ではメカトロニクスの82名がトップです。ただし、メカトロニクスは2名で1チームとして行う競技なので、実質は41組。メカトロニクスは技術系の学校の生徒だけでなく、キヤノン、トヨタ自動車、デンソーなど日本を代表する大手メーカーの若手社員が名を連ねています。続いて多い建築大工は、全国の工業・建築技術系の学校の生徒と工務店、建築会社の従業員が参加。日本料理は調理系の専門学校の生徒とホテルや旅館、日本料理店から選出されています。

 学校や企業を代表して参加するこの大会、選手のプレッシャーはいかばかり…。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

大会概要

 全国大会は13会場で行われますが、2015年のメイン会場は幕張メッセ。写真の左上にひときわ多くの人が集まっていますが、ここが「メカトロニクス」です。そう、日本が世界でトップレベルの技術を誇るメカトロニクス分野は、技能大会でも参加選手が多く、かつ所属している企業の先輩たちの熱い期待が集中する大会のホットスポットなのです!

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▲左上のギューギューにご注目ください

 もちろん、熱く見守られているのはメカトロニクスだけではありません。ほかの競技でも、所属企業の先輩たちの期待を一身に受けた各選手の周りには、思いの詰まった寄せ書きがかけられていました。

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▲超高精度の0.001mm(1ミクロン)単位の加工技術を求められる機械組立て

 大会の競技課題の進行は、各技能によってさまざま。「フラワー装飾」のように1日で終わる技能もあれば、「電子機器組立て」のように準備含めて3日間、競技も複数行われるものもあります。また、競技によっては当日に課題が発表されるため、迅速な対応力も問われます。与えられた時間の中で課題を完成させ、その時間と内容によって判定されるのです。

競技ダイジェスト

 それでは、大会の様子をダイジェストでご紹介します。

タイル張り

【競技のポイント】
あらかじめ決められた課題通りに、壁と床を想定した下地にタイルを張り、目地詰めを行います。正方形のタイルを、課題に合わせて切断して作成しますが、加工が1mmでもずれると出来映えに影響します。その名の通り、タイル張りの速さと美しさを競う競技です。

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▲競技課題。幕張で開催なので、チーバくん登場

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▲耳の鉛筆がいいですね!正確に、タイルをカッティングしていきます

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▲最後まで念入りに正確さをチェック。今回の優勝作品です。

電子機器組立て

【競技のポイント】
スマートフォンやテレビなど、ほとんどの工業製品に組み込まれている電子機器。「組立て」といっても、実際はCADを用いて「回路図の設計」を行い、回路を「組み立て」、電子機器を動かすための「プログラミング」を行い、また、動作不良の電子機器を「診断」し「修理」するといった幅広い知識・スキルが問われます。1日目は電子機器の製作、2日目は動かない電子機器を修理するという課題が与えられました。

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▲機器の点灯部分がさいころの目と同じになるように設計します(課題の一部です)

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▲まるで我が子を見守るかのような先輩技術者のみなさん

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▲ハードとソフトのどちらの知識も必要とされ、国際大会でも常に上位入賞している競技です

建築大工

【競技のポイント】
課題図に示された複雑な形状の「五角形小屋組」を製作し、その技術・技能や出来映えを競います。作業は「原寸図」→「部材の木削り」→「墨付け」→「加工仕上げ」→「組立て」の順。加工技術の高さと速さを問われる競技です。

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▲こちらが課題。最初に与えられるのは課題図のみです。完成品は最後に展示されていました。

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▲1日目はほぼ「切って、削って、切って、削って…」という作業

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▲正確に加工しないと組み上がりません

電工

【競技のポイント】
「電工」とは、ビルや工場、一般家庭の電気設備の工事のこと。スイッチやコンセントの取り付け、機械や照明への配線、電線保護のための配管が主な仕事です。電気設備は建物とともに長く確実に機能することを求められており、もし設置不良個所があった場合、漏電や感電、火災などの重大事故につながることも。そのため、課題には安全で確実な電気設備の構築を目指し、代表的な工事の組み合わせと、制御機器を用いた施工で競技します。

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▲競技課題の一部。こちらもチーバくんをイメージしています

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▲標準時間5時間30分、打ち切り時間6時間20分。スピードが求められる競技です

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▲着々とチーバくんが現れてきました。「終わりました!」という選手の声に観客から拍手が起こります

左官

【競技のポイント】
11時間30分で行われる左官競技。事前に公表された課題図を基に、石膏の造形美と塗り壁の美しさを競うだけでなく、軽量鉄骨組み立てと石膏ボード取り付けを追加した競技です。「速く、きれいに、正確な」塗りの技能とともに、素材の性質を熟知した工法、塗りの表現力など、無駄のない動きと集中力が求められます。

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▲こちらが課題です

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▲大会の開催は12月ということで、クリスマスをイメージ!

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▲スタッフの方の背中の「左官」ロゴにもこだわりが表れています(写真左奥)

とび

【競技のポイント】
図面に示された各部材を順序よく、正確に組み立てることにより、その技能と小屋組の出来映えを競います。単管パイプによる足場組立の作業を基本として、基準柱を割り出し、その他の柱の位置を決めることがひとつのポイント。段取りを考えながら、いかに安全に速く組み立てることができるかが重要です。

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▲見通しのいい会場なので、速さの違いが一目瞭然です

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▲体力も重要な要素。単管を素早く組んでいく姿に目を奪われます

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▲2日目は「解体」。こちらも手際の良さが評価されます

情報ネットワーク施工

【競技のポイント】
光ファイバやLANケーブルなど、情報通信の施工技術を競います。課題は6種類と幅広く、住宅内を想定した配線施工や光ファイバを配線図に従って正確に接続する作業、あらかじめ不良個所が含まれているケーブル線路を発見し、故障診断を行う作業など。いかに速く、正確に、そして美しく施工されているかどうかを判断されます。

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▲「情報ネットワーク施工」も、2015年の国際大会で日本は金メダルを取りました

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▲丁寧に、そして素早く。

理容・美容

【競技のポイント】
ヘアカットとカラー、パーマネントなどの技術を通じ、美しさと確かな技能を競います。どちらも4種類の課題が出されます。

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▲理容課題4「クラシカルバック バリエーションヘア」

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▲理容の作品。カラフルでアバンギャルドな作品が並びます

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▲こちらは美容の作品群。蘭の花のような佇まい

メカトロニクス

【競技のポイント】
生産工場の現場では、メカトロニクス技術を応用した自動化や生産管理によって、危険性の高い作業現場の無人化や製品の高度な品質管理などを実現しています。メカトロニクス技術とは、センサ、モータ、空気圧回路、制御装置、制御プログラムなどを用いて、機械システムを自在に電子制御する技術のこと。この競技は、工場の自動生産ラインを模擬し、ベルトコンベア、機械装置、産業用ロボットなどを自動制御して製品を決められた手順に従って搬送します。1チーム2名の選手が連携して装置の設計、組み立て、調整、プログラミングや保守を行い、作業の速さと正確さを競います。メカトロニクス技術は、日本が得意としている領域だけに、会場の熱意もただ事ではありません。

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▲支給された部品と図面をもとに、ここに生産設備を構築します

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▲食い入るように見つめる先輩たち…

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▲チームワークも重要な要素。課題は設備構築だけでなく、不具合の特定と修復も含まれます

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▲チェック中。真ん中のアームが動いているのが分かりますか?

最後に

 各競技、それぞれ盛り上がっていた技能五輪全国大会。競技によっては、振り返りに使用するため会社の先輩が競技の一部始終を動画撮影し、チェックシートに進行状況を書き入れている場面も。

 ひたむきに技能競技に取り組む若者と、日本一のみならず世界一を目指す技術力を育てる現場の情熱と意気込みを感じることができる技能五輪、入場は無料なので機会があれば覗いてみては。なお、2016年は山形県、2017年は栃木県、2018年は沖縄で開催予定です。

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▲2019年・2020年は愛知が連続して立候補

文:タニー只野 イラスト:見ル野栄司

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