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ライフネット生命・岩瀬社長「同性パートナーも異性パートナーも何ら変わりない」~生命保険の受取人を同性パートナーも指定可能に

ライフネット生命保険では、死亡保険金の受取人に「同性のパートナー」も指定できるよう範囲を拡大。11月4日より取り扱いを開始した。

日本の保険会社は、死亡保険金の受取人の指定範囲を原則として「戸籍上の配偶者」もしくは「2、3親等以内の血族」に限定している。異性間の事実婚は「条件により指定可能」とするところが多いが、今般、同性のパートナーにまで対象を広げた。手続きも、同社所定の確認書と同居の事実を確認するための住民票の提出と、簡便なものだ。

「フェアさを尊重する当社においては極めて自然なこと」という岩瀬大輔社長に、今後の取り組みのきっかけや背景、今後の展望などについて詳しく伺った。

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岩瀬大輔さん
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長兼COO
1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストンコンサルティンググループなどを経てハーバード大学経営大学院に留学。2006年に副社長としてライフネット生命保険立ち上げに参画、2013年6月より現職。

 

同性パートナーを死亡保険金の受取人に。「性的マイノリティ」にも同一の権利を

 ライフネット生命では従来、死亡保険金の受取人は原則として「戸籍上の配偶者または2親等内の血族」とし、「異性の事実婚関係」にあるパートナーは一定条件のもとで指定可能としていた。

「受取人指定を同性パートナーにも広げられないか?」との検討が始まったのは、約2年前のこと。社内の有志が声を挙げ、始めは非公式に検討プロジェクトが発足した。

「それまでに、少数ではありますが『同性パートナーは受取人に指定できないのか』という問い合わせが寄せられていました。そのような声もきっかけとなり、社内で自然発生的にプロジェクトが生まれたのです。ただ、初めはとてもいい試みだと応援していたのですが、本格的に検討が進むにつれ、解決すべき課題がいくつもあることに気付かされました」

 生命保険の契約は、契約者の命や健康に係るものだ。今まで死亡保険受取人が血族等に限定されてきたのは、モラルリスク(詐取や故殺など)回避の目的もあり、法的な家族以外、中でもまだ認知の薄い同性パートナーにまで広げることは難しいとの業界認識があった。また、同性カップルを認めることによる非当事者の反応も、懸念材料ではあった。

 主要な課題の1つは、保険金の請求に必要となる「死亡診断書」などの書類がスムーズに取得できない可能性がある点。同性パートナーが死亡診断書を取得しようとした場合に、法律上の親族が拒んだり、前例が少ないだけに医療機関が手続きに難色を示したりするケースがあると想定された。

「想定される課題については、社内で一つひとつ洗い出し、法律家や医療関係者と話し合いを重ねたほか、専門家と共同でLGBT(レズビアン:女性同性愛者、ゲイ:男性同性愛者、バイセクシュアル:両性愛者、トランスジェンダー:心と体の性の不一致、などといった性的マイノリティ)層への調査を行ってニーズを探るなど、多方面から検討した結果、当社が従来から条件付きで指定可能としてきた『異性間の事実婚』とほとんど変わらないと評価しました。つまり、パートナーとの関係性の確認を踏まえれば、モラルリスクは『異性間の事実婚』などとほぼ同様であると整理できたのです。医療機関との話し合いを通じて、もしも死亡診断書の取得が難航した場合も、契約時の確認書をもとに当社が間に入ってサポートすることで解消可能であるとの見通しも立ちました。課題だと思っていたものは、どれも実は“同性だから”に限った課題ではなかったのです

同性パートナーも異性パートナーも、何ら変わりない。その姿勢が当事者から高く支持される

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 ライフネット生命の顧客は20~40代が多くを占めるが、同世代の日本人においては約70~80%が「同性愛」について許容を示しているという調査結果があり、同性パートナーに対象を広げることへの批判も限定的であると判断できた。これらのことから、「同性パートナーを受取人として指定すべき相当の理由があるし、実際に可能である」と判断、検討開始から2年を経て、対象拡大に踏み切ることができた。

「渋谷区が同性カップルに対して『パートナーシップ証明書』を交付するなど、ここ最近急速に、LGBTの社会的認知が高まりつつあります。タイミングよく今回の取り組みを発表できたことで、より多くのLGBT当事者に当社の存在を知っていただけたのではないかと思っています」

 実際、LGBT当事者から「ニュースで知って嬉しく思った」「これまで無保険だったが、加入を検討したい」などたくさんの反響があったほか、「どれぐらい同居していれば該当するのか」など詳細の問い合わせも多く集まった。また、当事者以外からも「共感を覚える」と評価する声が寄せられた。批判的な意見は、ごくわずかだったという。

 ある20代の男性からは「同性パートナーを持つ契約者の一人ですが、とても感動しています。いずれパートナーを受取人にしたいと思う時が来ると思っていたので、ライフネットを選んで本当に良かったと思っています」とのメールがあった。「対応できてよかった!と心から感動させられた」という。

「寄せられた意見には一つひとつ目を通していますが、反響の大きさに驚かされています。社会生活のさまざまな場面で平等に扱われてこなかったことに対する、LGBTの方々の不安、不満の大きさを再認識させられました。今回の取り組みは、今すぐ役立つものではないかもしれませんが、異性のパートナーと何ら変わらないという姿勢を示すことが大切であり、喜んでいただけるものなのだと、改めて実感させられました。ただ、今回の取り組みは決して特別なことではなく、誰もが対応できたものをたまたま当社が早く取り組んだだけのこと。当社の小さな“一歩”を機に、業界内外でLGBT当事者の方々の不安、不満を解消する動きがどんどん広がれば…と願っています」

多様性こそ、会社の力――採用においても「性的指向」「性自認」「性表現」を不問に

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 なお、同社では今回の発表を機に、「採用活動においても多様性を重視する」ことを明言した。従来も「多様性を重視する」を採用マニフェストとして掲げ、性別、国籍、学歴不問の採用を行ってきたが、「性的指向」「性自認」「性表現」も不問にすると新たに明示した。

「多様性こそが当社の力。人と違う経験をしてきた人や、ユニークな視点を持っている人にこそ来てほしい。もともとLGBTの方々も当社としてはスーパーウェルカムでしたが、それをアピールする場がありませんでした。今回、敢えて声高く明言することで、LGBT当事者を含め、より多くの才能あふれる方々が当社に興味を示してくれるのではないかと期待しています」

 同社は業界慣習に縛られない自由な発想でサービスを拡大し、急成長を遂げてきた。「営業担当者を置かずインターネットでの申し込みに特化することで、コストを抑え、保険料を下げる」というビジネスモデルが支持されているほか、保険金や給付金を請求する際に必要とされていた医師の診断書も不要とするなど、「当たり前だと思われていたものを見直し、より便利にする」取り組みを続けてきた。

 これらの発想は、保険業界経験者には難易度が高いかもしれない。実際、同社では社員の約半数が異業界出身者だという。「多様なバックグラウンドを持つ人が切磋琢磨して新しいアイディアを生み出し、そして保険業界経験者が専門知識を活かし、皆でアイディアをブラッシュアップする」という体制が整っているのだ。

「LGBTの方も含め、これからもさまざまなバックグラウンドを持つ人に集まってもらうことで、当社ならではの多様性を活かし、業界慣習にとらわれない発想力を磨き続けたい。それにより、保険におけるさまざまな“不便”を見つけ、簡略化して、“便利”なものに変えていきたいと思っています」

 

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭