「勝手に地方創生」――京都で働きながら地方にも居場所をつくる

こんにちは。私は京都で「いろいろデザイン」というデザイン事務所を営んでいるnagayamaといいます。

私たちは現在、和歌山県の熊野地方に建つ古いビルを改修して、もうひとつの生活の拠点を置く「フルサトをつくる」というプロジェクトに取り組んでいます。中心メンバーは、自力で仕事や生活をつくる「ナリワイ」の主宰者で書籍『ナリワイをつくる』の著者でもある伊藤洋志、岡山で衣類のデザインやブランドディレクションをする「イワサキケイコキカク」を営む岩崎恵子、そして私の3人です。

私のメインの生活拠点は京都ですが、田舎にも行動の拠点を持ちたいと考えているのと、過疎が進む地域の空き家や使われていない施設を再利用して面白い事をしてみたいと思っており、ここ何年か京都と熊野地方を行き来しながらプロジェクトを進めています。

「フルサトをつくる」のきっかけ

そもそものきっかけは、2012年。私が会社を辞め、自立して生計を立てられないだろうかと考えていたころです。そこで目に入ったのが、前述の伊藤洋志が講師を務める「田舎で仕事をつくるワークショップ」というイベントでした。田舎での暮らしにも、それまでの伊藤の活動にも興味があったので、ワークショップへ参加を申し込みました。そして訪れたのが熊野地方です。

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そこは美しい山と川に恵まれた場所。近くに温泉もたくさんあります。そして、すでに移住をして素敵な生活を始めている若い先輩たちがいました。

このワークショップの主催者で、現在NPO法人「山の学校」の代表を務める柴田哲弥さんも、大学卒業後この地方に移り住んでいた一人。彼は取り壊す予定だった小学校の管理を譲り受けてブックカフェに改装しようとしていたり、一軒家を買って改修したりしていました。

自分の生きる場所を自らの手でつくっている彼の姿に感銘を受け、その後も折に触れては一軒家の改修を手伝いに行きました。ほかにも転職や独立を考えている人、田舎への移住を考えている人、将来を憂う学生やニートなど、入れ替わりたちかわり色々な人がやってきては作業を手伝いました。

そうしているうちに、次々と空き家や空き施設の情報が集まってきました。一軒家はもちろん、山奥にある廃校、使われていないキャンプ場なんていうものもありました。

「こんな場所に、もうひとつ生活拠点を持ってもいいな……」と考えていたところに、元々農協の施設として使われていた地上2階地下1階建てのビルがあるので何かに活用できないか、という話が舞い込んできました。

かなり古いビルですが建物の構造はしっかりしています。かつては林業でにぎわい、農協もバリバリと営業していた黄金の時代があったそうで、なかなか贅沢な造りです。近くにはきれいな川が流れ、鮎釣りの格好のスポット。世界遺産「熊野古道」の中間地点でもあります。

ここならきっと面白いことができる。伊藤が中心となり、岡山にいる岩崎にも声をかけ、アイデアを出し合い企画をまとめ、農協の組合員の方々に施設を利用する許可を頂きました。

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熊野の古ビルで私たちがやりたいこと

そんなきっかけからはじまったこの「フルサトをつくる」プロジェクトで、私たちがやりたい事はふたつ。

まずひとつ目はビルを宿泊滞在できる施設にするということです。地方に行動の拠点を持つということは、生活をする場所を持つということ。ビルの中には和室や宿直室があるので、そこを改装して滞在できる場所にしていきます。

ふたつ目は「アーティスト・イン・レジデンス」。国内外の芸術家が、ある地域に一定期間滞在し、地域住民と交流しながら創作を行うことです。都会の喧騒を離れた、というよりも、ほぼ陸の孤島のように静かな場所なので、制作活動をしたい方にはうってつけの場所です。ビルの管理などを手伝っていただきながら、生活費を抑えつつ制作に打ち込んでもらえる場所にもしていきます。

私たち3人ではできることに限界があるので、多くの友人や知人に手を貸してもらったり、先日はクラウドファンディングでも多くの方々に応援してもらったりと、いろいろな人を巻き込みながら着々とプロジェクトを進めています。

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なぜ田舎なのか

なぜわざわざ田舎の不便なところに拠点をつくる必要があるのでしょうか。

都会での生活は便利、かつ刺激的で楽しいものです。私も東京に10年ほど住んでいた経験があり、都会的な楽しさや便利さを享受していたのですが、京都に移り住んでから山や川が身近にある生活にも魅力を感じ始めました。

確かに田舎の生活で都会と同等レベルのサービスを受けるのは難しいでしょう。24時間営業しているお店も電話1本で届けてくれる宅配ピザもありませんし、アマゾンのお急ぎ便も対象外です。お金をかけてサービスを受けるという意味では田舎暮らしは不便なことが多いのです。しかし、逆に都会では景色のいい温泉にもつかれなければ鮎釣りもできない、焚き火も養蜂もやりにくい。自分で生きる楽しみを自給するという観点では、都会よりも田舎のほうが便利です。

ちょっと欲張りですが、都会と田舎の両方に生活や仕事の拠点があったら、それぞれのよいところを活かして生活ができるんじゃないかと思っていて、それをどうにか実現したいのです。

いま住んでいる京都市の中心部にマンションを買おうと思うと、中古でも2,000万円前後、新築だと3,000万円以上になります。一軒家となるともっとお金がかかるでしょう。こういった物件を購入して拠点をたくさんつくろうとすると、まずは億万長者を目指さないといけません。

一方で、田舎の空き家を買った周囲の人に話を聞いたところ、取得にかかった費用は数十万から多くて100万円前半。家の状態にもよりますが、自分の手で改修ができれば200万円程度の予算で家が持てるわけで、ちょっとがんばれば複数の拠点もつくれそうです。

自分で改修するというとハードルが高いように感じますが、物件の基礎や構造をいじるわけではなく、床や壁をつくり変えるだけでも雰囲気が十分変わります。唯一トイレだけはプロに頼んできれいにしてもらった方が幸せになれますが、それも必須というわけではありません。

また、こういった活動を自分一人だけでしていると、かなづちで手を打ってしまう、ペンキをこぼしてしまうなど何かうまくいかない事があっても、誰にも言えずにさみしい思いをしますが、人を集めてみんなで作業すれば、そんな困難も笑い話にできたりするものです。

同じように自分で家を改修してみたいと考えている人は意外に多いので、声をあげてみると想像以上にたくさんの人が集まります。熊野にはたくさんの温泉という魅力もあるので人を巻き込むにはうってつけでした。以前パーマカルチャーのワークショップで聞いた話によると、そういった魅力的な資源がない場合にはレンガで簡単なピザ釜と小さなサウナを用意しておいて、「改修の合間にピザを焼いて食べたり、自然の中でサウナに入ってサッパリできるよ!」という具合に場所の魅力をアピールするといいそうです。

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田舎では他所からきた人が家を借りたり買ったりするのは難しいという話も聞きます。しかし、どんどん空き家が増加していくなかで、田舎の人の考え方も少しずつ変わってきているように感じています。

生活の拠点をスムーズに得るためには、すでに移住して生活されている方を探し、実際に訪ねて話を聞きます。そこで自分が生活するイメージをつかめたら、その土地との縁を深めていくのが近道です。

雇用がないからこそ、自分の手で仕事をつくる

この地方でお会いした方は、ブックカフェやパン屋さん、猟師の方など自らの手で自分の仕事をつくって生活をしています。それぞれの仕事は大規模なものではないですし、たくさん儲かるような仕事でもないかもしれません。企業による雇用という意味では田舎にほとんど仕事はありません。しかし、みなさんそれぞれに工夫を凝らしながら自分の仕事をされていました。

ブックカフェをつくった柴田さんは、地方に移住した若い人がみな口をそろえて「おもしろい本屋がない」と言っているのに耳を傾け、本も読めるカフェ「bookcafe kuju」を開きました。新規に本屋を始めるにはそこそこ資金が必要ですが、京都にあるガケ書房(現ホホホ座)と提携する事でその問題を解決し、現在ではわざわざ遠くからも足を運んでくるお客さんが後を断たないそうです。

ブックカフェの隣で営業されているパン屋の「むぎとし」さんは、酵母も麦も自家栽培のものをつかい、パン釜も自分でレンガを積んで作ったそうです。最近は地元の方の協力も得て自家栽培の麦の割合を増やしているそうです。

狩猟によって野生の鳥獣を食材(ジビエ)として得ることはもともと地元で普通にされていましたが、私がお会いした猟師さんは、それを対外向けに精肉することで地域の産業にしていこうと、「ジビエ本宮」というを活動をされています。

みなさんそうやって、地元の縁や資源を上手に活用しながら、いきいきと日々をすごしています。

雇用がないからこそ、自分の頭で自分の生業を考えて生きていく。会社員として生活をしているときは仕事は与えられるものだと思っていたところもあったのですが、本来仕事というのは自分の生き方のなかにあるべきで、それは自分自身でつくっていけるものだということを、先輩たちの姿から感じました。

仕事の都合などもあって完全な移住をするのはいまのところ難しいのですが、熊野地方のそういった方々の暮らしを参考にしつつ、普段は都会で仕事をし、時にはしばらく田舎に滞在して、暑い夏にはきれいな川で水遊びをしたり、寒い冬には星空を眺めながら温泉につかったりするような生活。

そんな都会と田舎を上手に活かした暮らし方を、このプロジェクトを通して探していきたいと思っています。

著者:nagayama (id:nagayama)

nagayama

様々な領域のデザイン活動を行う京都のデザイン事務所「いろいろデザイン」のテクニカルディレクター。Webのエンジニアリングやデザインを中心に企業のサイト制作を多数手掛けるほか、地域の「町づくり」プロジェクトにも参加。趣味は料理と仕事。

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