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【今、気になるビジネス書の要約】『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』

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DragonImages/iStock/Thinkstock

 

 「ほめない、叱らない、教えない」で部下を育てる方法があると聞いて、どんな印象を持つだろうか。人材育成の基本と考えられてきた三原則をことごとく覆して、代わりに一体どんな方法を使うのか、と不思議に感じるかもしれない。

 本書の考え方の基調となるアドラー心理学は、これまで、主に子育てや学校教育の分野で活用され、企業の人材育成には適さないと考えられてきた。なぜなら、企業組織においては「短期的な結果を出すこと」が必須だからだ。

 だが、著者は言う。「目先の業績と中長期的な人材育成の両立は十分に可能」、「『ほめない、叱らない、教えない』教育法は、企業の人材育成においても効果を上げることができる」と。

 オーストリアの精神科医、アルフレッド・アドラーによって提唱されたアドラー心理学は、「自己啓発の源流」とも呼ばれ、その考え方は、コーチングなどにも応用されている。日本でも、最近関連書籍が相次いで出版されベストセラーになっているので、聞き覚えのある方も多いだろう。

 本書では、組織人事コンサルタントとしての著者の豊富な経験に基づき、実際のビジネスの場面を想定したケーススタディが豊富に紹介されている。アドラー心理学に初めて接する読者でも、具体的なイメージを持ちやすいだろう。

 「ほめる、叱る、教える」従来型の人材育成に限界を感じている管理職の方はもちろん、後輩の成長をサポートしたい若手ビジネスマンにも、ぜひ一読してほしい良著である。(髙橋三保子)

 

ほめてはいけない

「横から目線」の「勇気づけ」

 部下が難易度の高い目標を達成したとする。上司もしくは先輩として、あなたはその部下にどんな言葉をかけるだろうか。

 ①「よくやった!」とほめる

 ②「すごいなあ」と感心する

 ③「チームのためにありがとう」と感謝する

 一般的には①の「ほめる」が正解と考えられている。しかし、アドラー心理学ではほめることを否定する。ほめることは「上から目線」の行動であり、「相手の自律心を阻害し、依存型の人間を作る」と考えるからだ。

 アドラー心理学では②や③を、①の「ほめる」と明確に区別して、「横から目線」の「勇気づけ」と呼ぶ。

 

上から目線のコントロールは即刻やめよう

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Sergey Nivens/iStock/Thinkstock

 

 自分の会社の社長に「社長、なかなかよく頑張っていますね」などと言うビジネスパーソンはいない。立場が下の者が、上の者をほめることはない。つまり、ほめるということは上下関係をすり込むことにつながっている。「あなたはよく頑張っているね」という言葉の裏側には、「私が上、あなたは下」というメッセージが含まれているのだ。

 野菜が大嫌いな子どもがハンバーガーだけを食べ続けていたとしよう。あなたがその子の親ならば、叱ることはあっても、ほめることはないだろう。では、野菜嫌いの子どもがサラダをもりもり食べていたらどうか。きっと、あなたは子どもをほめるだろう。これは、親が子どもを自分が思う通りにコントロールしようとしていることの、ひとつの例だ。いくら、野菜を食べることが健康によくても、子どもは大人のコントロールを嫌がる。親でさえ子どもをコントロールできないのだから、上司が赤の他人である部下をコントロールできないのは当然だ。

 成果が上がればほめ、上がらなければ無視する、もしくは叱るといった態度をとる上司は、部下からの信頼を失ってしまう。このようなコントロールは即刻やめよう。上司は部下を常に勇気づけなければならない。

 

相手が自分の力で課題を解決できるよう支援する

 ほめていけないならば、どうすれば勇気づけになるのか。先の野菜が嫌いな子どもの例でいえば、子どもが野菜を食べているのを見た時、親がかけるべきなのは、以下のような言葉だ。「ずいぶん、もりもり食べているね」「おいしそうだね」「私もサラダが食べたくなった」。上から目線で子どもを評価せず、代わりに、横から目線で主観や感想を伝えることが、「勇気づけ」である。

 勇気づけとは、「相手が自分の力で課題を解決できるように支援すること」だ。上記の事例は上司と部下の関係にもそのまま適用することができる。業績を上げた部下に対して「偉いぞ! よくやった!」とほめるのではなく、「生き生きと仕事をしているね」「チームを助けてくれてありがとう」のように、横から目線で主観や感想、感謝を伝えるのだ。

 

叱ってはいけない

常識をくつがえす「叱らない」人材育成

 部下が、目標を60%しか達成できなかったとしよう。部下の日ごろの行動には、残念ながらあまり頑張りが見えなかった。そんなとき、上司や先輩として、あなたはどんなふうに声をかけるだろうか。

 ①「60%じゃだめだ。やり方を変えなくてはならないぞ」と叱る

 ②叱るとモチベーションが下がるので、あきらめて黙っておく

 ③「成果は出なかったけれど、あのやり方は良かったね」とプロセスに注目する 

 ④「60%はできたね」とできたところに注目する

 

 アドラー心理学の「勇気づけ」にあたる声かけは、③と④だ。部下が調子に乗って勘違いするのではないか……と思うかもしれないが、そうはならない。①や②の方法をとるよりも、はるかに部下のその後に効果的である。

 

勇気づけの基本形は「主観伝達」と「質問」、「誘い水」

 仕事は困難の連続だ。仕事から逃げ出そうとする部下がいるとすれば、その原因は、勇気すなわち「困難を克服する活力」が欠乏していることにある。ここで上司や先輩が叱りつければ、それはますます「勇気くじき」になってしまう。そんなときこそダメ出しではなく、良い点を見つけて認め、ポジティブな感想を伝えて勇気づけるべきである。

 では、具体的にどうすればいいのか。たとえば、あなたの部下の鈴木さんが不適切な方法で仕事をしているのを発見したとしよう。いつものあなたなら「ああ、ダメダメ! このやり方でやり直して!」と叱るところだ。

 叱らずに勇気づけながら部下を指導する基本形の1つは「主観伝達」と「質問」だ。「鈴木さん、この仕事を進める際にはこんな観点に気をつけるといいかもしれませんね。そうすると、どのようなやり方が考えられますか?」というふうに主観と質問を伝えることで、部下に自分の頭で考えることを促すのだ。それでも部下の反応が今ひとつ薄い時には2つめの基本形「誘い水」も有効だ。「たとえば、こんなやり方があるかもしれませんね」というふうに促すような言い方で、部下自身の意見を誘い出す。

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Szepy/iStock/Thinkstock

 

原因分析をやめ、解決策にフォーカスする

 職場で問題が起きた時、多くのビジネスパーソンは「原因分析をしっかりやれ」と教わっているはずだ。しかし、原因分析は思わぬ「勇気くじき」を引き起こしてしまうことがある。「担当は誰だ? なぜ見落としたんだ?」と追及されたとき、担当者は「責められている」と感じる。原因分析は「犯人捜し」と「吊し上げ」になりがちなのだ。

 勇気くじきをなくすために最もいい方法は、原因分析をやめてしまうことだ。「さあ、今回と同じ問題を起こさないためには、どのような対策を取ればいいでしょうか。どんどんアイデアを出してください」と宣言して、いきなり解決策の立案にみんなを集中させるのだ。ソリューションにフォーカスすると職場が活気づき、明るくなる。叱るべき場面でさえ、部下を勇気づけることができるようになるのだ。

 

教えてはいけない

上司が命令しすぎると、部下が指示待ちになる

 「部下が指示待ちで困る」という会社の会議を見せてもらうと、多くの場合、経営者が会議の場を独占している。社長がほとんどの時間をしゃべっていれば、部下が口出しできなくなるのは当たり前だ。「部下の主体性が低くて困ります」「責任感がありません」「後輩の指導をしようとしません」といった問題も、上司がしゃべりすぎる、命令しすぎることが根本的な原因であることも多い。

 自分の頭で考え、自分の意思で行動する社員を育成したいと思うなら、指示、命令を通じて課題の答えを言ってしまってはいけない。教えずに空白を作り出し、部下たちの手でその空白を埋めさせることが人材育成の本質なのだ。

 

求められて初めて応じる「支援応需」

 「教えないで育てる」とは、具体的にどのようにすればいいのか。まずは「何を」成し遂げるのかというゴールを一緒に設定することから始まる。それを「どのように」成し遂げるのかは部下に委ねる。教えない部下育成の基本は、「支援応需」にある。部下から「教えてください」「手伝ってください」と要請があったときに、初めて上司がそれに応えるということだ。

 では、部下から「どうしたらいいですか?」と正解を求められた場合はどう対処すべきだろうか。質問されたら正解を教えればいいというほど、支援応需は単純なものではない。「どうしたらいいですか?」と部下に問われたら、まずはオウム返しで応じることだ。「あなたはどうしたいの?」と。上司が「答えを言った方が早い」という誘惑に耐え、質問には質問で応じることで、部下は自分の頭で考える力をつけることができる。

 

【必読ポイント!】 「自然の結末」を体験させる

教えずに、あえて失敗を経験させる

 人は体験からしか学べない。特に大きく成長するのは「失敗したとき」である。失敗して痛い目に遭い、死にものぐるいで試行錯誤し、考える。そして、失敗を乗り越え成功をつかんだ瞬間に大きく成長できる。しかし、指示や命令に基づく作業だけを体験させても人は成長しない。自分の意思で決めた中での体験だからこそ深い学びがある。

 たとえば、子どもが学校へ行くとき、いつも忘れ物をして先生に叱られているとする。親が「忘れ物ばかりして! もうするんじゃない!」ときつく叱るのが「勇気くじき」になることはもうお分かりだろう。アドラー心理学のアプローチでは、忘れ物をする子どもに「何も言わない」。忘れ物をして困るのも、叱られて嫌な思いをするのも子ども自身。小さな失敗であるならば、放っておいてどんどん体験させる。この「自然の結末を体験させる」という考え方は、子育てのみならず、部下の育成に応用することができる。

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cacaroot/iStock/Thinkstock

 

周囲は淡々と普段通りにしていればよい

 そうは言っても、たとえば毎回会議に遅刻する部下を放っておいたら、他のメンバーに迷惑がかかるのでは……という疑問を持つ方もいるかもしれない。しかし、こうした、周囲に迷惑がかかる場合の対応は簡単だ。会議に遅刻するのなら、その部下を待つことなく、定刻通りに始めればいい。遅れることで大事な話を聞きそびれ、同僚から信用をなくして困るのは本人だ。自然の結末を体験させるために、周囲が我慢をする必要はない。周囲の人は淡々と普段通りに仕事を進めることが肝心だ。

 

無条件に相手を信頼する

 自然の結末を体験させる上でもう一つ、「事前告知」と「信頼関係」の大切さに触れておきたい。自然の結末を体験させるということは、本来「信頼」と「尊敬」の証だ。しかし、それまで散々嫌味を言い、おせっかいをしてきた上司が突然、何も言わなくなると、部下は不安を感じ、「見捨てられたのではないか…」と誤解しがちだ。

 そこでたとえば、部下に、「鈴木さん、私はこれまでおせっかいを焼きすぎました。そのことによって、鈴木さんが自ら気づく機会を奪ってきたと反省しているんです。私はあなたが自分の力で課題を解決できると信じています。だから、これからは余計な口出しをしないようにします」などというように、事前に告げておくことが重要なのである。

 加えて、日頃から部下との間に信頼関係を築いておくことが肝要だ。特に上司から部下に対しては、裏付けがなくても、裏切られる可能性があっても無条件に相手を信じる姿勢が求められる。「ほめない」「叱らない」「教えない」部下育成の基本は、人を信頼するということにある。たとえ期待外れに終わっても、「あなたなら、きっとやり遂げられる」と信頼し続ければ、やがて、部下がそれに応えようと努力を始める。そしてある時、部下が見事に期待に応える日がやってくるはずだ。

今回紹介した本

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『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』

著者:小倉 広

定価:1,512 円

単行本: 200 ページ

出版社:日経BP社(2014/08/18)

著者情報

小倉 広
株式会社小倉広事務所代表取締役。組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。日経BIZアカデミー、日経ビジネス課長塾、SMBCコンサルティング講師。
大学卒業後、リクルート入社。その後、ソースネクスト常務などを経て現職。大企業の中間管理職、ベンチャー企業役員、自ら興した会社の社長と、様々な立場で組織を牽引してきた。
コンサルタントとしての20年の経験を基に、対立を合意に導く「コンセンサスビルディング」の技術を確立し、普及に力を注ぐ。また。悩める30代のビジネスパーソンを救うメンターとしても知られる。
『任せる技術』『やりきる技術』(日本経済新聞出版社)、『自分でやった方が早い病』(星海社新書)など著書多数。2014年2月に上梓した『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)はベストセラーに。

※本記事は、本の要約サイトflierより転載しております。

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