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空飛ぶ店員?“ドローン”が靴を運ぶ「空中ストア」

“ドローン”をご存じだろうか。昨年末のNHK『紅白歌合戦』で、Perfumeが歌う周囲を自在に飛びまわり、時にぴたりと静止してみせたアレである。この時はライトを仕込んだ「ちょうちん型」であったこともあり、「動く照明」という説明も一部でなされたが、一般には遠隔操作が可能な無人飛行機全般を指す。

 

このドローン、最近は小型化と低価格化の実現によりさまざまなジャンルでの活用に向けて各企業が開発に乗り出している。米Amazonでは商品の配達に使用する「Amazon Prime Air」なる計画があるという話も。

http://www.amazon.com/b?ie=UTF8&node=803772001

 

クロックスのシューズ新発売イベント「空中ストア」にドローン登場

去る3月5日から8日にかけて、シューズブランドのクロックスが、このドローンを使用したイベントを開催した。その名も「空中ストア」。

 ■クロックス「空中ストア」http://crocs-norlin.com/

 

人の手では到底届かない高い場所にクロックスの新製品「norlin(ノーリン)」がディスプレイされている。客が手元のiPadで好みの色を選ぶと、ドローンがシューズのもとに飛んでいき、選ばれた色の商品を掴んで戻ってくるというもの。これをすべて自動制御で行う。

イベント初日には集まった報道陣のみならず、たまたまそこに居合わせた人々もドローンの動きを固唾を飲んで見守り、無事シューズを掴んだドローンが戻ってくると感嘆の声と拍手が起こっていた。

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六本木ミッドタウンにて開催されたクロックスのイベント「空中ストア」の様子

 

クロックス・ジャパン合同会社代表の藤田守哉さんは「我々が発表したノーリンの軽さを、いま話題のテクノロジーによって表現するというのはとても面白い組み合わせだと思いました。日本上陸10年目という節目により多くの方にクロックスの存在を知っていただくには、とてもいい機会だったと思います」と笑顔で語った。

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クロックス・ジャパン合同会社代表 藤田守哉さん

 

新作シューズの発表イベントにドローンを採用した経緯や開発の苦労についてこのイベントを手掛けた株式会社猿人クリエイティブディレクターの野村志郎さんに話を聞いた。

 

「うわっ、軽っ!」を伝えるために、部品からつくった

――イベントにドローンを使おうと発想したきっかけは?

「最初にクロックスさんから新製品のノーリンについて説明をいただいて、『これがサンプルです』と渡されたシューズを手に取ったとき、『あ、軽いですねー』じゃなくて『うわっ、軽っ!』と驚いたんです。後からじっくり考えたら、見た目がすごくベーシックなのにすごく軽い。そこに自分はびっくりしたんだなとわかった。基本はシューズの履き心地と軽さを伝えるというテーマなんですが、その見た目とのギャップに驚いた体験ごと伝えたいと思った。そこでイベントにもこれまでにない“驚き”の要素を入れようと、様々な案を考えました。その中で、ドローンを使った前代未聞の『空中ストア』を思いついたんです」

――クロックス社側の反応は?

「かなり突拍子もない、とんがった提案のはずなんですが、すぐにOKをいただきました。このプロジェクトは2014年7月にスタートして、本番を迎えるまでおよそ8か月かかっているのですが、この長大なチャレンジを実現するために、クロックスさんには任せていただくというより、一緒になって走っていただきました」

――既存のドローンではなく、今回のために一から作ったとか。

「そうですね。ただ飛ばすだけのものならすでにあります。でも大前提として安全を踏まえたうえで、『シューズに向けて飛び立つ』『お客さんのオーダーに沿ってシューズをキャッチする』『それを手元まで届けて切り離す』『元の位置に戻る』といういくつもの要素があって、それをすべて自動制御でやる。そのどれもが『空中ストア』というコンセプト上、必要だった。それは過去に例のないことでした」

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株式会社猿人クリエイティブディレクター 野村志郎さん

 

子どもが成長するかのように、日々できるようになっていく

――開発にあたって、いちばん大変だったところは?

「まず、シューズを掴んで離すという動きをどう実現するか。フックに引っかけたり、シューズを滑り落としたりという方法も検討したなかで、磁石式のアームを開発することになりました。ドローンができあがってからの実証実験も大変でしたね。本番環境を再現する必要があったため、高さ10mを越える巨大な倉庫を1カ月借り切って、毎日実験を重ねました。やればやるほどテクニカルな課題が見つかっていくんです。その原因を突き止めては、翌日には解消する。しかも一度成功すれば終わりではなく、何度も成功を繰り返すことができなくてはいけない。子どもが成長するかのように、できないことがひとつずつ着実にできるようになっていく、ということの繰り返しでした」

――実際、報道陣向けのデモンストレーションでは一度つかんだシューズが離れるという緊迫の場面もありましたね。仕切り直して無事成功しましたが。

「ドキドキしました(笑)。この場所は出入り口の近くなので、風の影響を受けやすいんですよね。制御上完璧でも、シューズを運ぶためにはたった3㎝煽られるだけでもダメなので」

――今後、恒久的なドローンの実用化を考えた時にいちばんのハードルはなんでしょう?

「人前でやることです。人がいないところであればかなり制御の精度は高く動かせるんですよ。でも実際に今回のような状況でドローンを動かすということは、不特定多数の人がいる場所でどこまで安全にできるかにかかっている。クロックスさんのイベントとしては今回がひとまずのゴールですが、我々のチャレンジによって見つかった“できること”が今後に繋がればうれしいですね」

 

今回のイベントが、国内でのドローン活躍の大きな一歩になるかもしれない。

 取材・文/釣木文恵 撮影/平山諭