やりたいことだけやって生きていきたいなら、人の言うことは、一切、聞くな【ロボット工学者 石黒浩さんの仕事論】

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自分そっくりのアンドロイドが、自分に代わって講演をする。
そんな漫画のような世界を現実のものにしてしまった科学者。
それが、大阪大学の石黒浩教授だ。
世界中から注目を集めるロボット研究の第一人者だが、
研究を始めたきっかけは、実に意外なことだった

大人になるということは、思考停止になるということ

ロボット研究を始めたのは、人間を知りたいと思ったからです。きっかけは、小学校5年生のとき。先生から「人の気持ちを考えなさい」と言われて、ものすごく驚いたんですよ。人の気持ちなんてそう簡単にわかるわけない。それなのに、大人ってすごいこと言うなあと。

“人の気持ちを考える”ためには、少なくとも3つことがわかっていなくてはなりません。「人って何か?」「気持ちって何か?」「考えるって何か?」。この答えをいつか教えてくれるんだろうと、僕はずっと待っていた。でも、誰も教えてくれませんでした。

待っていてわかったことは、“大人は何もわかってない”ということです。わからないことをわかったように言っているだけ。他人の言うことをうのみにして、うそばっかり言っている。まさに思考停止状態です。それが大人になるということなんですね。そんなうそつきの集まりである“大人の社会”に出ていくことに、僕は抵抗を感じました。だから社会に出ないでそのまま大学に残り、研究者になりました.言ってみれば研究者は、消去法で選んだ道です。

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提供:大阪大学

「人の言うことを聞かないこと」が一番大事

変に思うかもしれないけど、僕はいろんなことにすごく敏感で、人の言うこと、ひとつひとつに疑問を持っていた。何でも疑ってきたんです。今思えば、これは研究者になるために非常によかったことだと思っています。研究者にとって一番大事なことは、“人の言うことを聞かないこと”ですからね。人のマネなんかしていても、大したことはできません。僕の周りで成功している人は、そんな人ばっかりですよ。

それから、自分の中の疑問を大事にすること。適当に折り合いをつけてごまかしてはダメ。人が言っていることは、すべて疑ってかからなくちゃならないんです。

例えば、人間の命は尊いと言いますよね? 何事にも代えがたいって言いますよね? 小さいころから言われてきたことですが、本当に人間に価値があるかどうか、考えたことはありますか? 価値というのは、時代によっても場所によっても変わるんです。絶対的な価値なんて存在しない。だから、人が決めた価値をうのみにするんじゃなくて、自分で考えなくてはならないんです。そのために大きな脳があるし、もっと言うと、人はそのために生きているんです。

一度、“自分たちは、子どものころからうそばっかり教えられてきた”という前提で物事を考えてみるといい。親の言うことは信用するな。先生の言うことは信用するな。全部自分で考え直せ。僕はいつも先生を質問攻めにしてましたよ。授業を止めてでも質問してましたから、先生は僕の顔を見ると逃げてましたね。

でもね、そこまでやるには相当の準備がいる。だって先生の意見に対してちゃんと反論できないと許してもらえませんから。人の言うことを聞かない人生を送るには、かなりの能力と運と覚悟が必要なんですよ。

石黒氏はこれまで、“やりたいことだけをやってきた”という。
なんともうらやましい人生だが、そこには、死ぬ気で研究に取り組んだ
壮絶な日々があった

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本当に死ぬ気で頑張っているときは、体の震えが止まらなくなる

大阪大学の博士課程にいたとき、博士号をとれなかったら死のうと決めていました。だから死ぬ気で頑張ったんです。ただ、みんなよく、死ぬ気で頑張るって言うでしょう? でも本当に死ぬ気でやっている人は少ない。死ぬ気で頑張っているときは、体の震えが止まらないんですよ。極度の緊張状態です。そういう状態まで自分を持って行って、初めて死ぬ気で頑張っていると言えるんです。

僕はバイクで2、3回生死の境をさまよったので、頑張る境界線が人より高かったのかもしれませんね。とにかく、ずっと死ぬ気でやってきたことだけは事実です。

もちろん、能力が高い人はそんなことをしなくていいですよ。ある大学の学長に、生まれてから一度もノートをとったことがないという人がいるんです。その人は、授業を一度聞いただけですべて覚えてしまうとか。東大に入ったときも、一切勉強しなかったそうです。世の中には、そういう人もいるんです。そんな人は、死ぬ気でやらなくともいいかもしれないけど、そうじゃなかったら、死ぬ気でやらなくては、人の言うことを聞かない人生は送れません。

死ぬ気でやってきてよかったことは他にもありますよ。例えばアイディア。研究者にとってアイディアが出せることは生命線なんですが、死ぬ気でやった結果、一切アイディアに困らなくなりました。そのおかげで、普通にやっていれば間違いなく教授になれるだろうと思われるくらい大量の論文を書くことができたんです。

そんなとき、助教授を務めていた研究室の教授が「そろそろ世の中を変える研究をしてみたら」と声をかけてくれました。それで、小学校5年生の時に抱いた「人間ってなんだろう」という疑問を解明するために、アンドロイドを作ることにしたんです。僕は人間のこともわかりませんが、自分自身もわからないんです。だからまずは自分自身を知ろうと、自分そっくりのアンドロイドを作った。やってみてどうだったか? ますます人間がわからなくなりましたね(笑)

見込みのある人はほめない。あきらめた人はほめる。

あまり人の言うことを聞かずに生きてきましたが、僕を大阪大学や京都大学に引っ張ってくれた教授は、僕のそういうところを評価してくれたのだと思います。

もちろん、ほめられたことなんかありませんよ。僕の指導教官だった人はむちゃくちゃ厳しい人でしてね。月に30分しかミーティングの時間がもらえなかったのですが、その時間に僕が研究報告をすると、「頭悪い。顔見たくない」と言われるんです。世界一難しいところに論文が通って報告に行ったときも、「通ることはわかっていた。それで?」で終わり。一切ほめてもらえません。

あるとき、その先生に「どうしてほめないんですか?」と聞いたら、「僕がほめるのはあきらめた奴だけだ」と。この世界はそれが普通なんだと思ってきたので、僕もあきらめてない学生には、「ゴミみたいな結果を持ってくるな」と言います。逆にダメなやつは適当にほめておきます。「頑張ったねえ」って(笑)。

厳しい世界と思うかもしれませんが、僕にとっては誰かが決めたことに素直に従わなくてはならない世界にいるより、この世界にいるほうがずっと楽なんです。嫌だと思ったこともない。お金をもらっていても、仕事だという感覚はありません。趣味と仕事が一緒になっているんです。

趣味のような仕事で食べていけていいですね、とよく言われますが、もしそうなりたいなら、僕が言ったことはすべて忘れることです。同じことをしていても、同じようにはなりません。人のマネでは成功できない。やっぱり自分の頭で考えるしかないんですよ。

【Profile

いしぐろ・ひろし●1991年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。その後,京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授等を経て,2009年より大阪大学基礎工学研究科教授に就任。2013年大阪大学特別教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。専門はロボット学、アンドロイドサイエンス、センサネットワーク等。2011年大阪文化賞受賞。

『どうすれば「人」を創れるか アンドロイドになった私』 石黒浩著

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自分そっくりのアンドロイドがいたら、人は何を感じるか。実際に自分自身がモデルとなり、アンドロイドを開発した石黒氏の体験が克明に書かれている。開発秘話もさることながら、アンドロイドと実際に触れ合った時の人々の反応や感じ方がとても興味深い。また、アンドロイド研究を通じて石黒氏が考えた「人とは何か」という疑問に対しての仮説は非常に説得力があり、その仮説を自分自身の行動に置き換えてみることで、自分を知るきっかけにもなる。今後、さまざまな形で日常に関わってくる人間型ロボットをビジネスに活用する場合のヒントとしても非常に有益な本だ。
新潮文庫

※リクナビNEXT 2015年2月11日「プロ論」記事より転載

EDIT/WRITING:高嶋ちほ子 PHOTO:有本ヒデヲ

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